暗殺教室ー月は何を見るかー   作:TKTK(2K2K)

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UAお気に入り感想評価などなどありがとうございます!

ウマ娘のライブを楽しみ過ぎて燃え尽き症候群で全然筆…というか指が進んでいませんでした…
コレからはちゃんと指を進めていきたいと思います!

そして本日6月27日は今作品の主人公、白利の誕生日となります!オメデトー



弾丸の時間

「あれ?着替えるの早いな2人とも。」

 

「「う…」」

 

バーフロアを抜けて女装も役割を果たしたので、白利と渚はさっさと元の服に着替えたのを磯貝が視線を向けて問うてくる。

 

「そのまま行きゃよかったのに、暗殺者が女に化けるのは歴史上でもよくあるぞ?」

 

「い、磯貝君まで!!」

 

「この野郎無責任なこと言いやがって!!」

 

「2人とも()()なら早い方が良いらしいよ?ホルモンとかの関係で。」

 

「とらないよ!!大事にするよ!!」

 

「テメェ指を向けるな指を!!」

 

なぜかやたらと女装に肯定的な磯貝と2人の股間に向けて指を向け()()ことを推奨してくるカルマに、尊厳どころか男であることを失いたくない2人は咆哮し、そんな2人を烏間先生は肩越しに見やる。

 

「……その話は後にしてくれるか。」

 

「「…2度としません。」」

 

烏間先生のだいぶやんわりとしたお叱りと困ったような顔に『クソがぁ…』と磯貝とカルマに内心怒りを燃やしていると、

 

『ここからはVIPフロアです。ホテルの者だけに警備を任せず、客が個人で雇った見張りを置けるようです。』

 

階段を登りきり、律のナビゲーションに足を止め物陰から通路のクリアリングを行うと向かうべき階段の前に筋骨隆々のイカつい男が2人立っているのが確認できた。

 

流石のVIPフロアと言うべきか、見るからに『ワル』と分かる見た目をしている私兵にこのホテルの暗さをヒシヒシと感じてしまう。

 

「ははっ……あいつ等の見た目だけでVIPフロアの闇が丸見えだな。」

 

「笑ってる場合かよ…超強そうだぜ…?」

 

「私達を脅してる奴の一味なの?それとも無関係な人が雇った警備?」

 

「どっちでもいーわ、倒さなきゃ通れねーのは一緒だろうが。」

 

寺坂の言う通り、たとえ無関係の警備だとしてもVIPフロアが悪の温床である限り『はいそうですか』と、そう易々と道を開けてくれるわけないだろう。

殺せんせーもそれがわかってか口角を吊り上げている。

 

「その通り寺坂君、そして倒すには君が持っている武器などが最適ですねぇ。」

 

「…ケッ、透視能力でもあんのかテメーは。」

 

殺せんせーの言葉が図星だったのか、寺坂は動揺しながらも背負っていたリュックを地面に下ろすとガサガサと中を漁りだす。

 

「…できるのか?一瞬で2人を仕留めないと連絡されるぞ?」

 

「任せてくれって……おい木村、テメー1人ならすぐに敵とは思われねーだろ。アイツ等をちょっとここまで誘い出して来い。」

 

「俺がァ?……俺よりも月乃の方が良いんじゃないか?カルマほどじゃないけど口回るんだし。」

 

「木村、俺に女装させておいて陽動までやれってか?お前も女装するってんなら考えてやるよ。」

 

少し困ったような表情で木村は白利に視線を向けるが、先ほどの女装に余程怒り心頭だったのか捲し立てるように言葉を紡ぎ木村に睨みを効かせる。

木村は陽動と女装を心の天秤にかけたが、壊れるであろう速度で陽動に傾いた。

 

「わ、悪かったって…でもどーやって?」

 

「知らねーよ、なんか怒らせる事言えばいい。」

 

寺坂のなんとも無責任な発言に『なら尚更月乃でいいんじゃ…』という言葉を飲み込んだ木村は頭を捻るが相手を怒らせる言葉が中々思いつかない様子。

そんな木村に悪魔のような笑みを浮かべたカルマが木村の肩を抱き耳元に顔を寄せる。

 

「じゃあこう言ってみ木村〜」

 

「ノってきたねカルマ君…」

 

「どうせ碌なことじゃねぇよ…」

 

カルマに何かを吹き込まれた木村は冷や汗を流しながら階段前に立つ男達の元へと歩いていき目の前に立つと、

 

「あっれェ〜脳みそ君がいないなァ〜!こいつ等は頭の中まで筋肉だし〜」

 

何かを探すようにキョロキョロと見渡すようなジェスチャーをしつつ、目の前の男達を全力でバカにしたような声色で言葉を言い放つと踵を返し、

 

「………人の形してんじゃねーよ豚肉どもが。」

 

トドメの一言を微かに、しかし男達の耳に届くように言い捨てるとスタスタとコチラに歩いて戻ってくる。

 

「カルマ…お前さっきの一瞬であの悪口思いついたの怖いんだけど…」

 

「やっぱり悪口においてE組でカルマ君の右に出る者はいないね…」

 

「いや〜そんなに褒めてくれるなんで嬉しいねぇ〜ほら、見事に釣れてるよ。」

 

カルマが指差す方向を見ると、木村が言い放った言葉にブチギレて追う男達とその追跡から懸命に走って逃れようとしている木村の姿が確認できる。

流石と言うべきか、白利に次いでトップレベルの俊足を持つ木村に男達は追いつくことができないまま白利達が隠れている場所へと近づくと、

 

「おっし、今だ吉田!!」

 

「おう!!」

 

寺坂の掛け声と共にバテた男達の前に躍り出てタックルをかまし、床に倒れた男達の首元に黒い棒のような物を押し付けると『バチバチッ!』と電撃音が響き意識を堕とした。

 

「ス…スタンガン…!?」

 

「と、言うよりはスタンバトンか…?」

 

「おぅ、タコに電気を試そうと思って買っといたのよ。こんな形でお披露目とは思わなかったがよ。」

 

「買っといた………って、高かったでしょそれ。」

 

「ん………最近ちょっと臨時収入があったもんでよ。」

 

手に持つスタンバトンを指差す片岡に、少々罰が悪そうに答える寺坂の反応で『シロの時か』となんとなく思い当たる。

その表情から本当に反省しているのだろうと、寺坂なりの成長が感じられる様だ。

 

「ま、おかげで簡単に突破できるんだから良いか。しかし…こんなイカつい私兵を雇うなんて雇い主はどんな顔してるのやら……ん?」

 

意識が無くなった男の胸板を興味本位で握り拳で叩いてみると、拳に何やら硬く分厚い感触が伝わってきた。

スマホかと思ったが金属のような硬さとあまりの分厚さに首を捻ってしまう。

 

「なんだ…これ?」

 

「ヌルフフフ、スタンガンも良い武器ですが…月乃君、寺坂君、その2人の胸元を探って下さい。膨らみから察するに…もっと良い武器が手に入るはずですよ。」

 

「「???」」

 

2人は困惑しながらも殺せんせーの言葉に従い上着に手を滑り込ませ探ると、手に『ゴリッ…』と硬い塊が当たり取り出してみると…

 

「コレは…マジかよ…」

 

思わずそう溢れてしまうほどの鈍く黒光する物体…リボルバー銃が姿を現し、全員の表情が恐怖に凍りつく。

白利の手には普段の暗殺で使っているエアガンとは段違いの重さが伝わり冷や汗が流れる。

 

「なんで本物の銃が…?」

 

現代日本で銃を手に入れるなんてそう簡単に出来ることではないだろう。

犯人だろうが他の客の私兵だろうが、なぜコイツらが実銃を所持しているのか疑問が残る。考えられるのは実銃を簡単に手に入れられる立場にいる人間?

 

(…クソッ、思考がまとまらない……)

 

ウイルスに侵された身体も悪化の一途を辿るばかりでいよいよ思考すらもままならなくなり始め、限界を感じる。

だがここで倒れても皆に面倒をかけるだけなのでなんとか足に力を込め、意識を保ちながら殺せんせーに視線を向けた。

 

「千葉君、速水さん、この銃は君達が持ちなさい。」

 

「「……ッ!」」

 

「烏間先生はまだ精密な射撃ができる所まで回復していない。今この中で最も()()を使えるのは君達2人です。」

 

殺せんせーからの突然の指名に2人は息を呑み顔を強張らせる。

烏間先生が動けない以上、このメンバーの中で最も拳銃の扱いが上手く狙いが正確なのは2人で間違いないが…

 

「だ…だからっていきなり…!」

 

「ただし!先生は殺す事を許しません。君達の腕前でそれを使えば、傷つけずに倒す方法はいくらでもあるはずです。」

 

「「………」」

 

(…どう…声をかけたもんかな……)

 

「おい、月乃。」

 

「ん?」 

 

不殺そして期待を殺せんせーに言い渡され、再び顔を強張らせて俯き黙りこくってしまう2人を見つめていると寺坂に声をかけられる。

振り向くと寺坂は手に持っていた銃のグリップを白利に向けていた。

 

「テメーが渡しに行けや、その方がアイツ等にとっても良い影響になんだろ。」

 

「……おぅ、わかった。」

 

差し出されたリボルバーの銃身を握り受け取ると、未だに俯いて思い詰めている2人に一歩ずつゆっくりと近づいていく。

近寄る存在に気が付いたのか2人は顔を上げると、白利がグリップを向けて佇んでいた。

 

「「月乃……」」

 

真っ直ぐと自身を見つめている白利の目と視線を合わせた後、震える手でグリップを握り………受け取ろうとしたが、白利の手は銃身を握り締めたままでリボルバーが離れず困惑してしまう。

 

「本来…」

 

「「…?」」

 

「こんなもん使わない事が1番なんだろうが、コイツ等が犯人の一味だった場合この先使う機会が訪れてしまうかもしれない。まず…その事を謝罪させてくれ。」

 

予想外の謝罪を口にして深々と頭を下げる白利に、銃の恐怖など一時忘れて唖然とした表情をしてしまう。

 

「な、なんで月乃が謝んだよ…!?」

 

「だってそうだろ?…確かに俺達は射撃の訓練を受けて来た、だが実銃を扱う訓練は受けてないのにその引き金を引かせるかもしれない。その恐怖は……少なくとも俺には計り知れない物だ。」

 

そう、白利には2人の背負う物の重さがわからない。

射撃訓練を重ねても上達せず、夏休みでのロヴロとの会話にて近接格闘を磨く道を選んでしまっている。

そんな白利でも…否、そんな白利だからこそ、

 

「でも……俺はお前達の腕前を信じてる。」

 

誰よりも狙撃が優れている2人のことをよく知っているから。

 

「でも私達は…」

 

「さっきエアガンでも外したのに…か?」

 

「……うん。」

 

速水のか細い肯定に千葉も同じく小さく頷く。

2人が顔を強張らせていたのは実銃への恐怖だけでなく、殺せんせーの暗殺に失敗してしまったのも含まれていたようだ。

 

そんな2人に白利は、

 

「………はぁ。」

 

呆れたようにため息を吐いた。

 

「お前達なぁ…アレで外れたとか羨ましいが過ぎるんだが?」

 

「羨ましいって…」

 

「考えてもみろ速水、なんで殺せんせーは完全防御形態なんて奥の手中の奥の手を切ったと思う?簡単なことだ、俺達の作戦が殺せんせーを完璧に追い詰めてお前達の狙撃が『当たる』『殺される』と確信させたからだ。元より当たるはずない弾道なら殺せんせーは完全防御形態になってない、つまりお前達は外してないってことだ。」

 

「それは……」

 

3人の視線はターゲット…殺せんせーの方を向くが、当の本人は何も言わずにただニヤニヤとこちらを見ているだけ。

白利はそれを肯定と捉えて言葉を続ける。

 

「それにあの作戦はE組(俺達)が考えたものだ、責任の所在があるとすればお前達だけじゃなくて俺達全員にある。たった一回の失敗がなんだ、むしろ殺せんせーの手札1枚把握できて成長の余地を感じられたって思え。マイナスに考えるよりプラスに考えた方が気は楽になるぞ?」

 

「……それでも考えちまうんだ、律に記録を取ってもらって『俺の射撃があと0.5秒早いか、速水の射撃があと30cm近ければ』ってさ。いざあの瞬間、プレッシャーで…指が動かなかったんだ……」

 

「自信はあった…リハーサルでもあそこ以上に不安定な足場で練習しても外さなかったのに……」

 

「そうか…なら、それも俺達の責任だ。」

 

「「…は?/…え?」」

 

「俺達は練習と本番を同じモノと仮定して、お前達が背負うプレッシャーの事を1ミリたりとも考えてなかった。腕を信頼して託した、と言えば聞こえは良いが実際はお前達に投げ出しただけなんだよ。」

 

イトナがやって来た時に『自分達の手で殺したい』と決意こそしたものの、きっと白利達は心のどこかで『千葉と速水なら()()()()()当てるだろう』と2人が背負うものを考えようともしていなかった。

 

スポーツなどの本番で練習と同じパフォーマンスができる人間は限りなく少ないというのに。

 

「ほんっと情け無い話だよな。速水と友達になった時『お前に頼りすぎて無いか?』って聞いたのに、結局お前達の腕に頼りきりで心を見ようとしてなかった。…でも、もうそんな事無いよな?」

 

白利は視線を待機している渚達に向けてそう問いを投げかけると、その意図を察したのか渚達は2人に視線を向けて力強く頷いてみせた。

 

「この銃を持つのはお前達だ、でも戦うのなら俺達全員でだ。俺達はお前達を頼る、だからお前達は俺達を頼ってくれ。もし不安だって言うなら、今度は俺達がその不安をサポートして消してやるからさ……存分に弱音を吐いて良いんだよ。」

 

「そっ…か、そうだよな…頼っても良いんだよな。」

 

「うん…私達を見てくれる友達がいるんだもんね。」

 

「あぁ、…ちなみにまだヘコむつもりなら俺は俺を引き合いに出してギャン泣きするところだったぞ。『未だに射撃成績0点の男に対して嫌味か!!』って。」

 

白利の言葉に2人の表情は少し緊張が緩んだようだが、続いて発せられたなんとも情け無い脅しに呆れた表情をする千葉と冷たい視線を送る速水。

だが、白利はそんな2人の表情に満足そうに頷く。

 

「どうだ、多少はほぐれたか?」

 

「はぁ…ちょっとカッコいいと思ったのに、どうして最後に情け無いこと言うの?……でも、ありがとう。」

 

「本当にな…でも、頼られてやるよ。だから…サポート頼むぞ?」

 

「…別にカッコつけたわけじゃ無いんだがな。」

 

カッコつけるつもりは無かったのだが、指摘されると妙に恥ずかしくなってしまい握り続けていた銃身を離して渚の隣まで逃げるように戻っていく。

 

「ヌルフフフ、2人の顔色も良くなったようですし行きましょうか。ホテルの様子を見る限り、敵が大人数で陣取っている気配は無い。雇った殺し屋も残りは精々ひとりふたり!!」

 

「おう!!さっさと行ってブチ殺そうぜ!!こんなクソな計画立てる奴をよ!!」

 

殺せんせーの号令と共に血管を浮かべて怒りの声をあげる寺坂だが、言動の端々にどうにも焦りのようなものが感じ取れる。

もしかすると、寺坂はウイルスの発症が遅れてやって来たのかウイルスに耐えながらここまで来たのもしれない。

 

(だとすると…寺坂も俺と同じで身体の麻痺とか起こってるのか…?)

 

進む列の最後尾、白利は右手で胸元…心臓を抑えながら歩を進めている。

心臓に痛みは無いのだが、まるで硬質の膜に覆われているような圧迫感と不快感が鼓動を打つたびに襲う。

 

もしこれが倒れている皆にも襲いかかっているのなら1秒でも早く治療薬を奪取しなければと焦燥感に駆られるが、今は殺せんせーの言葉を信じて進むしかないのだろう。

 

(速水と千葉にあんなこと言った手前ぶっ倒れるわけにもいかないからな…覚悟決めろよ…俺。)

 

『皆さん、これより上の階もVIP専用の非常階段を使わなければなりません。その為には8階のコンサートホールを通り抜ける必要があります。』

 

未だ身体を侵し続けるウイルスになんとか意識を保ちながら、律のナビゲートに従い次なる階層へと足を踏み入れた。

 

 

 

重い扉を開けて明かりがついていない薄暗いコンサートホールに踏み入れ辺りを見渡すと、真正面に位置する舞台と半円状に囲うように配置された座席、そして小さく輝く非常灯が確認できる。

 

(敵影は無し……非常階段に続く扉もわかりやすいしさっさと突破して……)

 

それぞれ辺りを警戒しつつ非常階段へと近づくと、

 

カツン…カツン…

 

とヒールの音が静かなホール内に響き渡り、急いで近くの座席の後ろに身を隠す。

足音を聞く限りやって来たのは1人だけなのはわかるが……何かをしゃぶっているようなチュパチュパというリップ音も共に響いている。

 

座席と座席の隙間から真正面の舞台を覗き見ると、1人の男が舞台袖から口に銃口を含みながら舞台の中央へと歩いて、

 

「……15、いや16匹か?」

 

(…ッ!?)

 

足を止めたと思いきや纏う雰囲気が冷たいものに変わると、姿を視認していないにも関わらずこちらの人数を的確に当てて来た。

 

「呼吸も若い、ほとんどが十代半ば。驚いたな、動ける全員で乗り込んできたのか。」

 

口から銃を引き抜くと『ズギャンッ!!』と火薬が炸裂する轟音と共に、男は背後に設置されていた照明を破壊してみせる。

……恐らくは見せしめの為。

 

「言っとくが、このホールは完全防音でこの銃は本物だ。お前等全員撃ち殺すまで誰も助けに来ねぇって事だ。お前等人殺しの準備なんてしてねーだろ!!大人しく降伏してボスに頭下げとけ『ズギュンッ!!』…ッ!?」

 

男がガンスピンしながら降伏するように要求している途中、先ほどとは音が違う炸裂音と共に放たれた弾丸は破壊された照明の真横に着弾し別の照明を破壊する。

隙間から音が鳴った方を見ると、どうやら発砲したのは速水のようで銃口からは硝煙が上がっている。

 

(多分相手の銃を狙ったんだろうが…狙いは良かったがガンスピンしてたせいで外しちまったんだろうな…)

 

「いいねぇ……意外と美味ぇ仕事じゃねェか!!」

 

実弾に驚愕したのも束の間、男は興奮気味に手に持ったリモコンを操作すると舞台の照明が全灯しホールを明るく照らし出す。

 

(クッソ…!照明が逆光になって見づらい!!)

 

銃を持った相手、しかもそれを生業とするプロの殺し屋相手に最悪の地形と状況。

こちらは逆光のせいでかろうじて男の影がわかるくらいで、ヘタに動くのは危険だろう。

 

「今日も元気だ銃が美味ぇ!!」

 

「…!速水、顔出すな!!」

 

「え…『ズギャンッ!!』…ッ!?」

 

速水の真後ろの席に隠れていたのが幸いした。

男が銃口を速水の方向に的確に向け速水が顔を覗かせようとしているのを同時に視認することができ、声をあげると速水はこちらに振り向き放たれた銃弾は座席の隙間を縫って速水の顔の真横を通り抜けていった。

 

「ほぉ〜?鋭いのがいるじゃねぇか。だが俺は一度発砲した敵の位置は絶対に忘れねぇ、もうそこの2人は一歩も動かさねぇぜ。」

 

(嘘だろ…?確かに音で大体の位置は把握できるだろうが……的確に位置を当ててあの狭い隙間を通して来やがった…!?)

 

「下で見張ってた2人の殺し屋は暗殺専門だが俺は違う、軍人上がりだ。この程度の一対多戦闘は何度もやってる。幾多の経験の中で敵の位置を把握する術や、銃の調子を味で確認する感覚を身につけた。中坊(ジュニア)ごときに遅れを取るかよ…さぁて、お前等が奪った銃はあと一丁あるはずだが?」

 

やはりこの男もそうだ、白利達と持つ経験値の差が著しく違う。

しかも言っていた通り先に戦った2人と違ってこの舞台すらも相手の独壇場、ヘタに動けば眉間に風穴が空くことは感覚でわかる。

 

だが、ここで足踏みしていたら期限が過ぎて治療薬が手に入らず最悪を迎えてしまうことになる。

思考を巡らせようとするが、頭にモヤがかかったような感覚のせいで所々思考が断絶して歯噛みしてしまう。

 

(クソッ…!なにかないか……速水達が安全に狙撃できるようになる方法は……!考えろ…考え続けろ…!)

 

()()()()に感じる『死』という感覚。

幼い頃に嫌というほど味わって慣れているのでひとりでならば多少無茶はできるが、速水達の命がかかっている以上それもできないので完全に行き詰まり…

 

「速水さんはそのまま待機!!」

 

その時、殺せんせーの声がホールに響いた。

 

「今撃たなかったのは賢明です千葉君!!君はまだ敵に位置を知られていない!先生が敵を見ながら指揮をするので、ここぞという時まで待つんです!!」

 

(敵を見ながら指揮って…一体どこから…)

 

舞台上の男も同じように殺せんせーの声の出どころを探して視線を動かすと、目の前の座席に完全防御形態の殺せんせーが座って(置かれて)いた。

……ニヤニヤと笑いながら。

 

「テメー何かぶりつきで見てやがんだ!!」

 

「ヌルフフフ、無駄ですねぇ。これこそ無敵形態の本領発揮。」

 

堂々と鑑賞している殺せんせーにリボルバーの引き金を引いて弾丸を撃ちまくるが、完全防御形態の外壁には通用せずに全て軽快な音と共に弾かれている。

 

「熟練の銃手に中学生が挑むんです、この位の視覚ハンデは良いでしょう。」

 

「…チッ、その状態でどう指揮を執るつもりだ。」

 

弾倉内の弾丸を撃ち尽くしたのか、疑問を口にしながら空の薬莢を排出して懐からスピードローダーを取り出した瞬間。

 

「では木村君、5列左へダッシュ!!」

 

殺せんせーの指示が飛び、木村はほんの一瞬硬直したがすぐさま指示に従って走り出す。

 

「寺坂君と吉田君はそれぞれ左右に3列!!」

 

(これは…)

 

「死角ができた!!この隙に茅野さんは2列前身!!」

 

(マジかよ殺せんせー…!)

 

「カルマ君と不破さん同時に右8!!」

 

「磯貝君左に5!!」

 

「月乃君は左に2!!」

 

(…!!)

 

的確に指示を飛ばしていく殺せんせーの指示に従い白利も移動するが、驚くべきは殺せんせーの記憶力である。

白利達が隠れている場所を確認する時間などほんの一瞬だけだったろうに、殺せんせーは全員の位置を全て把握した上で誰を動かしたら何処が死角になるのか理解しているのだ。

 

(人間だった頃の殺せんせーは一体何者だったんだ…?)

 

いくら超生物とはいえ元となった人間のスペックが高くなければ宝の持ち腐れというもの、かつてはミサイルの解体などをしていたので殺せんせーはもしかすると人間時代からハイスペックだったのかもしれない。

 

白利が思考している間も殺せんせーの指示は絶え間なく飛ばされているが、最初は戸惑っていた男も白利達の名前を把握したのか顔には少し余裕が戻っているが、

 

「出席番号12番右に1で準備しつつそのまま待機!!」

 

「へ?」

 

呼び方が名前から出席番号へと変化する。

白利達からすれば慣れたモノだが、男は知る由もないので困惑の声をあげると再び顔から余裕がなくなり辺りをキョロキョロと見渡す。

 

「4番と6番は椅子の間から標的(ターゲット)を撮影!!律さんを通して舞台上の様子を千葉君に伝達!!」

 

「ポニーテールは左前列へ前身!!バイク好きも左前に2列進めます!!」

 

「最近竹林君イチオシのメイド喫茶に興味本位で行ったらちょっとハマりそうで怖かった大柄の人!!撹乱のために大きな音を立てる!!吊り目のクール系メイドさんにデレデレして推しになっちゃった人は前3列移動!!」

 

「うるせー!!何で行ったの知ってんだテメー!!」

 

「デレデレしてはねぇよ!!チェキ撮ってもらっただけだ!!」

 

「チェキ以外にもグッズを買ってたでしょう?意外と推し活勢なんですねぇ。」

 

「だからなんで知ってんだこのエロバカタコ!!」

 

なぜか夏休みに竹林の誘いでメイド喫茶に行ったこととグッズを買ってしまったことを知る殺せんせーに突かれ思わずツッコんでしまう。

………横にいる速水の視線が冷たいのは気のせいだと思いたい。

 

「…さて、いよいよ狙撃です千葉君。次の先生の指示の後、君のタイミングで撃ちなさい。速水さんは状況に合わせて彼の後をフォロー、敵の行動を封じる事が目標です。」

 

いよいよ大詰めとなり、殺せんせーの言葉に冷たい視線を送っていた速水の顔に緊張が浮かび手が震えているのがよくわかる。

白利はそれを落ち着かせるように銃を握る速水の手に自分の手を重ねさせた。

 

「…ッ!月乃…!」

 

重ねられた手から伝わる人の体温とは思えない凄まじい熱に速水は口を開こうとするが、

 

「…その前に、表情を表に出す事の少ない仕事人2人にアドバイスです。」

 

殺せんせーの声に遮られてしまう。

 

「先の射撃を外したこともあり君達は酷く緊張しているでしょう。でも大丈夫、君達2人が外した時は人も銃もシャッフルして、クラス全員誰が撃つかもわからない戦術へと切り替えます。ここにいる皆が訓練と失敗を経験しているから出来る戦術です。君達の横には同じ経験を持つ仲間が、そして君達をよく理解し信頼している友達がいる。安心して引き金を引きなさい。」

 

2人はその言葉に無言で顔を見合わせると小さく頷き合い、白利は手を離し速水はグリップを力強く握りしめた。

 

「ではいきますよ…出席番号12番!!立って狙撃!!」

 

「ビンゴォ!!」

 

座席裏から飛び出した人影に男は寸分違わず最速で撃ち抜いたが、やはりわかっていなかった。

出席番号12番は千葉ではなく菅谷の番号、そして撃ち抜いたのは菅谷が作り上げた簡易マネキンだ。 

 

『分析の結果、狙うなら()()一点です。』

 

「オーケー律。」

 

作り出された一瞬の隙、ほんの少しだけ生まれた静寂の中千葉の呟くような声が鮮明に聞こえた後『ズギュンッ!!』と銃声が轟いた。

 

少しの硬直の後、男は自分の身体に傷が無いのを確認すると口角を吊り上げ、

 

「フ…へへ…外したなぁ!これで2人目も場所ガァ!?」

 

銃口を千葉に向けた瞬間、吊り照明が男の背中を捉えぶっ飛ばした。

 

千葉が狙ったのは男ではなく吊り照明の金具。

的の小ささと距離があったが流石E組きっての長距離射撃の鬼、一撃で当ててみせた。

 

「く…そがぁ…」

 

だがそれでも男は倒れず、最後の力を振り絞り銃を構え直すが、

 

『ズギュンッ!!』

 

ともう一つの銃声と共に、男の手から銃が弾き出されると糸が切れたように床へと倒れ伏す。

発砲したのは隣の速水、彼女もまたこの最後の場面で一撃で小さい的を撃ち抜いてみせたのだ。

 

「ふーっ…やぁっと当たった。」

 

(本当…カッコ良すぎだぜお前ら…)

 

「よっしゃ!!ソッコー簀巻きだぜ!!」

 

男が完全に再起不能になったのを確認した寺坂達はガムテープを片手に飛び出して手早く拘束していき、他の生徒達も舞台上へと上がっていく。

白利はその様子を見ながら速水の背を軽く叩いて促すと、だいぶ何かを言いたげにしていたが無言で舞台へと向かっていった。

 

「…………ふぅ〜。」

 

舞台上で話している速水と千葉を姿を見た後、自身の右手を握りしめながらとあることに思考を巡らせる。

 

とあること…それは殺せんせーが言っていた『君達2人が外した時は人も銃もシャッフルして、クラス全員誰が撃つかもわからない戦術へと切り替えます。』という作戦だ。

 

殺せんせーに他意がないのはわかってはいるが、どうしても思ってしまう。

 

(その作戦の中に、俺は含まれてない…んだよな。)

 

そう、白利は銃器をマトモに使えない都合上その作戦の頭数には含まれていない。

 

白利は頭ひとつ抜けた近接戦闘の才能はあるが飛び抜けているわけでない、あくまで中学生の範疇であり結局のところ烏間先生やロヴロなどには通用していないのだ。

 

速水達は狙撃において比類無き才能があるが近接もできるし、奥田や竹林も運動に苦手意識こそあるが射撃で連携を取ることができる。

 

その点において白利は近接という飛び抜けてもいない、連携も取りにくい、秀でた才能のない存在で…

 

(E組で今1番置いてかれてるのは……俺…なのか。)

 

今回の射撃戦で活躍した2人、その姿があまりにも輝いて見えて……酷い自己嫌悪が襲いかかる。

 

《お前は何者にもなれない。》

 

「………」

 

内から発せられるその言葉にも返す言葉が見つからずただ黙ることしかできなかった。

 

「月乃!」

 

「ん?」

 

ひとり立ち尽くしていた白利に舞台上の速水が声をあげて手を振っているのを見て、思考を打ち切り手を振り返そうとした時、気づいた。

 

       左腕が完全に動かない。

 

感覚こそあるが、まるで電流を流されて筋肉が収縮してしまってるかのように固まった状態から動かすことができず、いよいよ末期にまで辿り着いてしまったを実感する。

 

(足手まとい…だな。)

 

己の哀れっぷりにもはや自嘲しかできなくなっていると、速水がいつの間にか舞台から降り目の前に立っていてその顔には心配と怒りのようなものが見てとれた。

 

「速…むにぃぃぃ…?」

 

「はい、確保。」

 

速水は白利の頬に腕を伸ばすといつしかのプールの時のようにモチモチし、突然のことに白利は情けない声をあげて周りの生徒達も驚愕の表情を浮かべている。

だが速水は特に気にする様子もなく、白利にのみ聞こえるように囁いた。

 

「身体、すごく熱い。月乃もあのウイルスに感染してるでしょ?」

 

「……まぁ…な。」

 

「『まぁな』じゃない、熱出たのはいつから?」

 

「おじさんぬを倒した辺りから…」

 

速水が見たこともないくらい眉を顰めるが、全てを飲み込んで大きなため息を吐く姿に居た堪れない気持ちになる。

呆れたような表情をしつつ頬をモチモチし続ける速水の左肩に、まだ動く右手をに置いて口を開く。

 

「大丈夫だ、無茶はしないし迷惑もかけない。それにここまで来ちまったんだ、やり遂げないと…だろ?」

 

「…………………わかった。だけど約束、もし無理だと思ったなら必ず言うこと。…いい?」

 

「あぁ、約束する。」

 

そう告げると、速水は背に回していた腕を解き白利から身体を離すと2人は舞台上で待つ皆の元へと向かった。

 

 

 

心地の良い体温が離れることに名残惜しさを感じたのはきっと気のせいだと言い聞かせながら。




ご覧頂きありがとうございました!

【月乃白利の秘密】

速水と千葉の腕を全面的に信頼している
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