定期投稿でございます、最近やることが…やることが多い!
「殺してやる…よくも皆を…!」
「はははははその意気だ!!殺しに来なさい渚君!!」
「渚…!」
治療薬を爆破し高笑いする鷹岡に、ナイフを持った渚は凄まじい殺気を見に纏う。
普段温厚で、例え虫が相手だろうと争いは好まない渚が目の色を変えて敵意を顕にする姿に全員が困惑する。
「渚…キレてる…」
「俺等だって殺してぇよあのゴミ野郎!けど、渚の奴マジで
「渚君の頭を冷やして下さい、君にしかできません。寺さ…」
殺せんせーが言い切るよりも早く、ヘリポートに立つ渚の後頭部に黒い棒状の物が投げられ見事にヒットした。
投げられたのはスタンバトン、寺坂が投げ込んだようで息を荒くしながら渚に言い聞かせるように声を張り上げる。
「チョーシこいてんじゃねーぞ渚ァ!!薬が爆破された時よォ、テメー俺を哀れむような目で見ただろ。いっちょ前に他人の気遣いしてんじゃねーぞモヤシ野郎!!ウイルスなんざ寝てりゃ余裕で治せんだよ!!」
(やっぱり寺坂も…ガス喰らった烏間先生への責任を感じてだろうな…)
「寺坂……お前!!」
磯貝達も気づいたのだろう、目を見開いて寺坂を見つめるが本人は気にすることなく言葉を続ける。
「そんなクズでも息の根止めりゃ殺人罪だ。テメーはキレるに任せて100億のチャンス手放すのか?」
「渚!!さっきも言ったろ?鷹岡に薬学なんてあるワケない、スモッグ捕まえて吐かせるだけだ。なんなら最初から治療薬も渡すつもりはなかったろうしな。報復するなら……生かしてもっかい敗北味わわせれば今度は一生脳から消えない恥辱になるだろうよ。」
「寺坂君と月乃君の言う通りです渚君。その男を殺しても何の価値も無いし逆上しても不利になるだけ、そして治療薬に関する知識も無い。全て下にいた毒使いの男に聞けばいい、こんな男は気絶程度で充分です。」
寺坂と白利、そして殺せんせーが怒りに燃える渚を落ち着かせるように、或いは諭すように声をかけるが鷹岡は不快そうな顔をする。
「おいおい余計な水差すんじゃねェ、本気で殺しに来させなきゃ意味無ぇんだ。このチビの本気の殺意を屈辱的に返り討ちにして…初めて俺の恥は消し去れる。」
「渚君、寺坂君のスタンガンを拾いなさい。その男の命と先生の命、その男の言葉と寺坂君、月乃君の言葉。それぞれどちらに価値があるのか考えるんです。」
「………」
殺せんせーの問いに何を思っているのか、渚は鷹岡を見据えたまま何も言葉を発することは無い。
行く末を見守ろうと白利は渚の背を見つめるが、瞬間視界がグニャリと歪んだ。
(……目が…ッ!?)
視界が歪み、地面を踏み締める足は平衡感覚を失い浮ついたような感覚が襲う。
そして心臓の硬質の膜が覆ったような不快感が一転、張り裂けるような激痛へと変化して胸を押さえたまま地面に膝をつき痛みを逃すように身体を丸め込む。
「「月乃ッ!!」」
「はッ…はッ…はッ…はッ…」
「お前、なんて熱…!…ッなにが頼れだよ!お前が俺等を頼らなくてどうする!」
「月乃!月乃しっかりして!…さっきよりも熱が酷い……!」
膝をつき呼吸が極端に浅くなっている白利に千葉と速水が駆け寄り身体を支えると、その体温は最上階に突入する前よりもさらに悪化しており『死』を明確に伝えてくるようだった。
(寺坂…は…)
目を動かして見渡すと霞む視界には、倒れ込み吉田と木村に身体を支えられている寺坂が映った。
どうやら寺坂もまたウイルスに侵された身体に限界が来たのだろう、だが寺坂は震える指先を渚に向けて告げる。
「…やれ、渚。死なねぇ範囲でブッ殺せ。」
「そう…だな…渚、俺みたいにはなるな。お前らしく…お前のやり方で殺してやれ。」
「……!!」
2人の声についぞ渚は答えなかったが、なにかを目に宿したままスタンバトンを拾い上げるとズボンとベルトの隙間、帯刀するように挟み込み上着を脱ぎ捨てた。
「殺せんせー…渚、スタンガンしまっちゃったよ…」
「………」
渚の手の中に未だ握られているのは鷹岡が用意していたナイフ、渚が怒りに支配される人間だとも思えないが危機的状況にタガが外れてしまっているのかもしれない。
「ナイフ使う気満々だな、安心したぜ。スタンガンはお友達に義理立てして拾ってやったってところか。」
殺意に満ち満ちている渚に満足そうに頷いて上着を脱ぎ捨てる中、鷹岡の注意が渚に向いている間に座り込む白利を支えていた千葉が動き出す。
「…少し行ってくる。」
「千葉…?」
「流石に渚が危険だ、俺と岡野で今のうちに奇襲する。」
「それなら…俺も…!」
「ダメに決まってるでしょ、そんな身体でどう戦うの?」
千葉の奇襲作戦に参加しようと身を起こそうとするが、白利の肩を抱くように支え続けている速水が少し力を加えるだけで簡単に拘束されてしまう。
「月乃はここで待っとけ、速水の力にも勝てない体調じゃ勝てるもんも勝てないだろ?」
「でも…!ッ痛…!」
「でももだってもない!さっき言ったでしょ『もっと自分の命を大事にして』って!」
ウイルスに侵され激痛に襲われても尚戦おうとする白利を速水が咎めていると、ヘリポートの上では鷹岡が懐から3つのアンプルを取り出してみせた。
「一応言っておくが、薬はここに3回分ほど予備がある。渚クンが本気で殺しに来なかったり、下の奴等が俺の邪魔をしようものならコイツも破壊する。作るのに1ヶ月はかかるそうだ、人数分には足りないが最後の希望だぜ?」
「「くっ…」」
ヘリポートへ上がろうとしていた千葉と岡野が歯噛みしながら戻ってくる。
しかし…こうなるといよいよ状況が宜しくない。
予備は3本、作るのに1ヶ月かかる…すなわち死人が出る可能性が大きくなった。
望みがあるとすれば今回のウイルスが
(だが…それ以上にマズイのは…)
白利の視線の先、ヘリポートにて鷹岡と対峙する渚。
渚の暗殺者としての才能はE組においてトップクラスと言っていい、鷹岡のみならず殺せんせーや烏間先生にもその刃を届かせうる所まで来ているからだ。
しかし…同時に渚は
思い出すのはロヴロの言葉『暗殺者に有利な状況を決して作らず逆にこちらの存在を察知されて『暗殺』から『戦闘』に引き摺り込まれた時』今はまさにこの状況と言える。
殺し屋は戦闘をする職業ではない、戦闘に
故に、E組では戦闘は元より心得のあるカルマと近接を伸ばしていた白利を除いて訓練していない。
先の3人の殺し屋達は
渚が前のように
「あぐッ…!」
腹に蹴りを喰らって大きく後ろに吹き飛ばされてしまう。
「おらどうした?殺すんじゃなかったのか?」
今の鷹岡は最初から戦闘モードで前とは完全に別物、
「くっ!」
素早く突き出された渚の刺突を受け流すと、返す手で渚の顔に裏拳をカウンターで喰らわせる。
心が狂気で満たされていても精鋭軍人、いかなる奇襲も意味を成さない。
いくら渚が暗殺の技を仕掛けようとも、左のフックや肘打ち、回し蹴りなど一方的に行動を潰され痛めつけられてしまう。
体格、技術、経験、こと戦闘において鷹岡を上回ることは渚には至難、遂には膝をつく。
「勝負にならない…」
「このままじゃ渚が………ッぐゥ!?」
「ッ月乃!?」
身を起こそうとするが、再び心臓へ激痛が襲い倒れ込み速水は慌てて支え直す。
身体を巡る麻痺もより一層増して、まだ麻痺が浅かった右腕と両足も満足に動かせなくなりつつある。
「汗も酷い……渚も心配だけどアッチは烏間先生達に任せて『それじゃダメなんだ!』ッ!?」
「もう…見てるだけは…」
『はく…り…わたしの…やさしいこ……ごめん…ね………』
脳裏にフラッシュバックするのは無力だった自分には見ていることしかできなかったあの日のこと。
あんなこともう2度と起こしてはならない、重い頭を上げてヘリポートに視線を向けると、
「な…ぎさ…?」
得体の知れない雰囲気を纏った渚の姿がそこにあった。
ナイフを拾いいよいよ渚を殺そうと鷹岡はナイフを向けるが、渚はひとつ深呼吸をすると
「渚…笑って歩いてく…」
「これって前と同じ…!」
「…いや、どこか違う。」
皆が驚愕の視線を送る、渚がやろうとしていることは前に鷹岡を倒した奇襲。
しかし既にそれは戦闘モードの鷹岡に打ち破られているというのに、渚はなにを思ってか再び
だが…なぜだろうか、
(アレは…)
着実に一歩ずつ、ゆっくりと近づいていく渚のその姿に白利はロヴロの姿が重なって見えた。
その時、暗殺旅行前のことを思い出す。
ロヴロとの模擬戦闘の際、白利が喰らった『暗殺』から『戦闘』へと引き摺り込まれた時逆に『戦闘』から『暗殺』へと戻すことができる技。
あの時は白利に殺意の使い方を教える為の例として使っていたが、殺意の扱いが飛び抜けて上手い渚がロヴロから教えを受けていたのならば…
(できるのか…!?
近づいてくる渚の纏う雰囲気に嫌な予感を感じてか鷹岡は冷や汗を垂らして一挙手一投足を見逃さないように注視し、渚が近づくにつれ視線は握られたナイフに注がれて………この時点で鷹岡は術中にハマっている。
ナイフの間合い一歩僅か外、遂に渚の右手は動いた。
ナイフだけをその場に残して。
パアァァン!!
静かな夜に鳴り響いた、たった一度の乾いた音。
それが鷹岡の意識を真っ白に染め上げた。
「なに…が…起…こっ…!?」
ナイフを捨てるという戦闘の常識の外側の行為、それに見事虚を突かれた鷹岡は何が起きたのか理解すらできず大きくのけ反る。
暗殺者はその数瞬を逃さない、流れるように2本目の刃を抜くが早いか。
脇に叩きつけられたスタンバトンから電流を流されて、鷹岡は力無く膝をついた。
「マジで…やりやがった…!渚の奴…!」
2年も付き合ってきた争いを好まぬ友達が見せた、暗殺者としての比類無き才能。
危機的状況でも笑って、教えられて間もないであろう技を決めて見せる胆力。
(暗殺において
「…トドメ刺せ渚、首あたりにたっぷり流しゃ気絶する。」
寺坂の言葉に無言で従い、スタンバトンで鷹岡の顎を掬って先端を押し付ける。
黒い雲から差し込む月明かりに照らされながら、
「鷹岡先生、ありがとうございました。」
渚は笑顔で、鷹岡は酷い恐怖に染まった顔でこの闘いは幕を閉じた。
「よっしゃああ!!
鷹岡が地面に倒れ、完全に気絶したのを確認すると安堵の息を吐きつつ喜びの雄叫びをあげる。
磯貝達が隙間に落とされた階段梯子を元に戻し、落ちないように縄で手すりに括りつけると渚が照れ臭そうにヘリポートから帰ってきた。
「すげぇじゃねぇか!渚!!」
「うん!いつの間にあんな技覚えたの?すごいじゃん!」
「あはは…暗殺旅行前にロヴロさんに教えてもらって…ね。」
「………」
速水の肩を借りつつ立ち上がり、先ほど鷹岡という強敵を倒したとは思えないいつも通りの笑顔を浮かべる渚とそれを迎え入れる皆を見据える。
喜ぶべきことなのに、白利の心中には何か違和感のようなものが渦巻く。
見えているのに見えていない、矛盾してるのにその矛盾がわからない違和感。
目に映るのは目立つのが苦手故に照れくさそうに皆にもみくちゃにされる…
(…ッ!そうか…
『暗殺』と『日常』で纏う雰囲気を違和感がゼロにも等しいレベルで切り替えられる、相手に警戒させない…否、警戒
多重人格を持って成せるその技を単身で成し遂げられる渚に、
(渚…恐ろしい奴だよ…)
白利は畏怖を抱いた。
自身にとって最初の友達は穏やかな雰囲気を纏う一方で、暗殺おいて天才的な素質を見せるその姿に黙りこくっているとユサユサと身体を揺さぶられる。
「月乃、大丈夫?歩けそう?」
「ん…平気だ。すまんがもう少しだけ肩貸してくれ…」
「うん、渚のところ行く?」
「あぁ…頼む。」
思考を打ち切り速水の肩を借りつつもみくちゃにされている渚の元へ歩いて賛辞を送る。
「すげぇな渚…あの猫騙し、ロヴロさんから習ったんだろ?1発で決めて見せるとはな。」
「アレは使える条件に鷹岡先生が当てはまってたからできただけだよ…」
「いえいえ、よくぞやってくれました渚君。今回ばかりはどうなるかと思いましたが…怪我も軽そうで安心です。」
「………うん、僕は平気だけど…」
白利と殺せんせーの賛辞を受けるも、渚は苦い顔で地面を見つめる。
視線の先にあるのは爆破され、中身を撒き散らした治療薬だった物が散らばっていた。
「…どうしよう、皆への薬が……鷹岡先生から奪った分じゃ全然足りない…」
「「「………」」」
「……とにかくここを脱出する、ヘリを呼んだから君等は待機だ。俺が毒使いの男を連れて来る。」
鷹岡を倒したのは良いものの、結局手に入った治療薬はたったの3本。
全員分の治療薬が無くなってしまったことに沈み込む中、烏間先生は冷静に指示を出すと、
「フン、テメー等に薬なんぞ必要無ぇ。」
聞き覚えのある声が背後から響いた。
「ガキ共、このまま生きて帰れると思ったかい?」
振り返ると頬が腫れたスモッグ、唇が真っ赤なおじさんぬ、そして銃使いの男が立っており、皆がそれぞれ武器を構えて睨み合う。
「お前達の雇い主は既に倒した、戦う理由はもう無いはずだ。俺は充分に回復したし生徒達も充分強い、これ以上互いに被害が出る事はやめにしないか?」
警戒こそしているが、できる限り相手を刺激しないように烏間先生が前に進み出て交渉するが、
「ん、いーよ。」
やはりそう簡単にはいかない……ん?
断られると思っていたが、呆気なくこちらの要求を飲んだ銃使いの男に声に力が抜けてしまう。
「『ボスの敵討ち』は俺等の契約にゃ含まれてねぇ。それに今言ったろ、そもそもお前等に薬なんざ必要ねーって。」
「…どういうことだ?」
白利の呟きに答えるようにスモッグはポケットから一つの小瓶を取り出す。
「お前等に盛ったのはこっち、食中毒菌を改良したものだ。あと3時間位は猛威を振るうが、その後急速に活性を失って無毒となる。そして、ボスが使えと指示したのはこっちだ。これ使えばお前等マジでヤバかったがな。」
今度は懐から1本の試験管を取り出して見せると、おじさんぬがその試験管に収められたウイルスを指差して言葉を続ける。
「使う直前にこの3人で話し合ったぬ。ボスが設定した交渉期限は1時間、だったらわざわざ殺すウイルスじゃなくとも取引はできると。」
「交渉法に合わせて多種多様な毒を持ってるからな、お前等が命の危険を感じるには充分だったろ?」
「…でもそれって、
「アホか、プロが金で動くと思ったら大間違いだ。」
岡野が溢した問いに、銃使いの男が鋭い目つきで返答する。
「もちろん
「………」
やはり、白利達と目の前にいる3人の殺し屋には途轍もない差があるのを再確認する。
実力も経験も、何もかもが段違いでダメージを負っているというのに佇まいには余裕すら感じてしまう。
「プロの殺し屋のプロ意識ってことか…」
「そーいうこった。ま、そんなワケでお前等は残念ながら誰も死なねぇ。この栄養剤を患者に飲ませて寝かしてやんな。『倒れる前より元気になった』って感謝の手紙が届くほどだ。」
(((アフターケアも万全だ!!?)))
「………信用するかは生徒達が回復したのを見てからだ。事情も聞くし、しばらく拘束させてもらうぞ。」
「…まぁ、しゃーねーな。来週には次の仕事が入ってるからそれ以内にな。」
プロペラが空を切る音を響かせながら烏間先生が呼んでいた軍用ヘリがヘリポートへと着陸する。
ヘリから降りて来た多くの軍人達が鷹岡と鷹岡の部下達を拘束して次々と押し込めていく中、カルマがおじさんぬへと突っかかった。
「…なーんだ、リベンジマッチやらないんだおじさんぬ。俺のこと殺したいほど恨んでないの?」
「この期に及んでまーだ煽るのか…お前は…」
悪魔の角を生やしながらからしとわさびを構えるカルマだが、おじさんぬは恨み辛みなど一切顔に出さず、むしろ微笑みながら、
「殺したいのはやまやまだが、俺は私怨で人を殺した事は無いぬ。誰かがお前を殺す依頼をよこす日を待つ、だから狙われる位の人物になるぬ。」
そう言うと、軽くカルマの頭を叩いて軍用ヘリへと乗り込んだ。
「そーいうこったガキ共!!本気で殺しに来て欲しかったら偉くなれ!!そん時ゃ、プロの殺し屋の
去り際に殺し屋達が放った言葉は、きっと彼等なりのエールで。
銃使いの男がばら撒いた弾丸を拾い上げると、先端部はゴム質で本物の弾丸ではないことがわかる。
「ハナっから本気じゃなかった…てか?」
「……なんて言うか…あの3人には勝ったのに勝った気しないね。」
「言い回しがずるいんだよ。まるで俺等があやされてたみたいな感じでまとめやがった。」
「……年季が違うなぁ…」
悪態こそついているが、カルマもこの場にいる全員も3人の殺し屋と自分達の実力差を実感している。
けれど今は、
「死人はゼロ、ホテル側の人間には気づかれず…鷹岡も倒した。ま、大勝利…で良いんじゃねぇか?」
この喜びを噛み締めて良いだろう。
「そうだな、銃撃戦とか肝冷やす場面はあったが乗り越えられたしな。」
「色々と話したいことはあるけど…まずは月乃の説教からね。」
「えっ」
白利が死なないとわかり心の陰りが消えたからなのか、速水はジト目で見据えている。
千葉に助けを求めようと視線を向けるが『自業自得だ』と一瞬で見捨てられた。
「月乃は人の無茶には厳しいのに、自分が無茶する時は何も言わないで1人でなんとかしようとしすぎ。イトナの時も咄嗟とはいえ気絶してるんだし。」
「はい…はい…」
「今回だってそう。不破の推理で自分がウイルスに感染してるのわかってたはずでしょ?なんでその時に言わなかったの?どうせ『まだ発症してなかった』『足手まといになりたくなかった』とか思ってたんだろうけど、熱があるってわかった時とか治療薬爆破された時、本当に月乃が死んじゃうかもって本気で心配したの。わかってる?」
「返す言葉もございません…」
溜め込んだもの全てを吐き出すように不満を爆発させた速水に詰められる白利は見事にシナシナと萎んでおり、速水の心を知る岡野と茅野はその様子を微笑んで傍観している。
「速水っちも容赦ないね〜、気持ち考えたらわからなくもないけどさ。」
「まぁ、月乃の自業自得だからね…今までの積み重ねもあるし、一回ちゃんと叱られた方が良いよ。」
「月乃君は危険な状況で1番に飛び出したり、抱え込んだりしてしまう癖がありますからねぇ。しかし、カルマ君の戦いで託したり速水さん達を頼ったりと彼なりに意識の変化は見て取れますから、これからも私達で成長を支えてあげましょう。」
茅野に抱えられたままの殺せんせーの言葉に頷く2人の脳内には、E組で出会ったばかりの頃の白利が思い浮かぶ。
無表情で無言だった白利はいつしか表情豊かにクラスの輪に加わって、さらには夏休みに遊ぶほどの友達となっていた。
「しかし………なんかあの2人距離感近くないですか!?先生がエベレストに避暑しに行ってる間に一体何が!?」
「あ〜…色々あって…ね?」
「放っておいてもあの2人は近いうちに進展はするんじゃないかな?」
「その色々を教えて欲しいのですが!?ニュヤァ…これは先生も張り切らないとですねぇ…とりあえず皆さん、今日の残りのミッションは栄養剤を倒れている人達に届けてしっかりと休むことです。もうひと踏ん張りですよ!」
「「「はーい!!」」」
殺せんせーの声に元気よく返事をして、迎えのヘリが来るまで皆が思い思いに勝利を分かち合った。
すなわち、油断した。
ズギャンッ!!
「え……?」
静寂の夜も、勝利を分かち合う声も全てを切り裂く炸裂音。
なんの音かは全員わかっていたはずなのに、なぜだか思考が停止し身体を動かすことができなかった。
「な…にが…」
炸裂音と共に白利に襲いかかった鈍い衝撃。
身体が前方に少し揺らいで、ふと視界に入ったのは地面に散らばる赤い斑点だった。
今の衝撃は?
この赤い斑点はなんだ?
こんなもの最初からあっただろうか?
思考を巡らせて赤い斑点を観察すると、それは液体のようでジワジワと地面に赤黒いシミを作り出している。
そして、導かれるように視線をさらに落とす。
自身の足元…否、衝撃が走った腹部へと。
「………あ。」
ただ一言、口から溢れた。
白利が身に纏っていた白いシャツが腹部から赤黒く染まっている。
……違う、左脇腹に空いた風穴から溢れ出す『血液』が白いシャツを真っ赤に染め上げていた。
「…ッ!?」
瞬間、肉体を貫かれたのを自覚し痛みが遅れてやって来る。
「ア…ガァァ…!?」
「月乃ッ!?」
「……ッ!?何者だ!!」
苦痛に悶える声にようやく全員が身体の動かし方を思い出し視線を動かすと、脇腹を右手で抑える白利と素早く炸裂音が鳴り響いた方向に銃を構える烏間先生の姿が。
白利もまた、とめどなく溢れる血液で手を染めながらなんとか振り返る。
「………………お前!」
「黒幕が鷹岡だと察した辺りに『その可能性』も考えたが……いよいよ気でも違ったか!!」
南雲修!!
夜はまだ明けない。
【月乃白利の秘密】
肉体はとうに限界