暗殺教室ー月は何を見るかー   作:TKTK(2K2K)

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憎悪の時間・2時間目

「いよいよ気でも違ったか!!南雲修!!」

 

烏間先生が雄叫びを上げて銃を構える先、銃口から硝煙をあげるリボルバーを握る南雲がニヤニヤと口角を吊り上げてそこに立っていた。

 

「酷い言い草だなぁ烏間ァ…俺は何も変わってねぇよ。なぁ、白利?」

 

「あぁ……変わら…ず、クソ野郎だよ…!」

 

「可哀想だなぁ、痛みでマトモな判断すらできなくなっちまったかぁ?」

 

「どのっ…口が…!ッア"ァ"…!」

 

血の繋がった息子に躊躇いなく銃の引き金を引いたどころか、さらにそれをバカにするような口調。

冷たい殺意を放つ白利だがその殺意はどこか弱々しく、銃傷とウイルスによる身体へのダメージで歩くことが叶わず膝をつく。

 

「動いちゃダメ!血が…こんなに出て……とりあえず止血しなきゃ…!」

 

「速水さんの言う通り、今は動かず止血することに専念してくれ。ただでさえ脇腹に喰らっているんだ…相当痛むだろう?」

 

「……………はい。」

 

銃弾は白利の背中側から侵入しそのまま正面へと比較的真っ直ぐに体内を突き抜けたが、腹部という人間にとって重要な器官が多い部分に撃ち込まれた以上内蔵にダメージがないとは限らない。

下手に動いて傷を悪化させようものなら死に至るのは白利もわかっている。

 

烏間先生は銃を構え南雲から視線を逸らさず問いを投げかけた。

 

「一体何が目的だ南雲修、…また、鷹岡か?」

 

「あ〜?今回はアイツとは別口だよ。俺ただ…白利とお話に来たんだよ。もう一度家族としてやり直したくてなぁ?」

 

「「「は…?」」」

 

全員が困惑の声を漏らす。

南雲が放った言葉が信じられなかったのだ、もはや血だけしか繋がっていないとはいえ息子に凶弾を放っておいて『もう一度家族としてやり直したい』?

言っていることとやっていることの矛盾に絶句していると、

 

「何が家族だ…!」

 

顔を真っ黒にした殺せんせーが呟いた。

 

「月乃君は彼だけの幸せをとっくに見つけている!!彼の人生にアナタは必要無く、アナタに彼の家族を名乗る資格も無い!!これ以上月乃君を愚弄するのは教師(私達)が許さない!!」

 

「奴と全くの同意見だ。これ以上貴様の凶行を見過ごすことはできん!ここで…撃つ!」

 

「殺せんせー…烏間先生…」

 

「大丈夫だ月乃君、すぐに終わらせる。防衛省が抱えている病院に腕の良い医者がいるんだ、そいつにかかれば傷も完璧に塞がるさ。」

 

「申し訳ないのですが、皆さんの上着で月乃君の止血をしてあげて下さい。指示は私が出しますのでその通りに。」

 

殺せんせーと烏間先生が白利の為に怒り、そして白利の為を思って嫌な顔ひとつせず皆は頷いて上着を血で染めていく。

 

「すまん…」

 

「何謝ってるのさ月乃君、謝るくらいなら喋んないほうが痛まないよ。」

 

「月乃が謝る必要ねぇよ…どういう神経してんだ南雲の奴…」

 

「大丈夫だよ月乃、私達がついてるから安心して。」

 

痛みに脂汗を浮かべながらも皆の優しさを噛み締めるが、そんな中南雲はその様子をつまらなそうに見ていて、

 

「何が幸せだ…?お父さんの優しさを踏み躙っておいてよォ!!」

 

まるで癇癪を起こしたように叫び『ズギャンッ!!』と白利の足元へと躊躇いなく発砲した。

 

「やめろ南雲!!」

 

「撃ちたきゃ撃てばいいさ!だが…ガキが数人死ぬ覚悟はしとくんだなァ烏間?」

 

「なッ……!?」

 

すぐさま撃ち返そうとした烏間先生だが南雲の言葉に一瞬動きを硬直させると、その隙に南雲の背後に位置する扉から6人の男が現れる。

全員かなりゴツイ体格をして顔を隠しており、その手には南雲と同じリボルバーが握られていた。

 

「コイツらは俺のお友達でな、もし抵抗しようものなら……まぁ、ガキが何人死ぬかはお前達によるなぁ?」

 

「貴様…どこまで腐って…!」

 

「やめろ…!お前の狙いは俺だけだろうが…!皆には…手を……出すな!」

 

「そうだな白利、だからお前に選択肢をやろう!お父さんとお話をするか、お前だけ生き残ってそれ以外の全員が死ぬか…どっちが良い?」

 

「なに…それ…」

 

満面の笑みを浮かべる南雲が出した2択…だが、明らかに1択しか無い選択肢。

そして全員がわかっている、『お話』は『白利が死ぬ』という意味であると。

 

「月乃君!耳を貸しては『殺せんせー』…ッ!?」

 

殺せんせーの言葉に割り込んだ白利の言葉は悟ったような諦めたような声色をしていて、口元には微笑みを浮かべていた。

 

「殺せんせーも烏間先生もわかってるだろ?今は…どの選択をするのが最善なのか……」

 

「……わかってはいる、わかってはいるが………!!」

 

「…ダメです月乃君、やっと…やっと君は…!」

 

「テメー等の話はどうでも良いんだよ!!どうすんだ白利ィ!!ここで全員ぶっ殺しても良いんだぞコッチはよォ!!」

 

どちらが優先すべき選択肢かは殺せんせーも烏間先生もわかってはいる、わかってはいるがその理不尽を飲み込めずにいると、痺れを切らした南雲が怒号する。

 

もはや一刻の猶予もない、倒れそうになりつつ震える足に力を込めて立ち上がり南雲を見据えた。

 

「わかった…お前と話せば良いんだろ?……だから皆は手を出すな。」

 

「そうかわかってくれたか!素直に言うこと聞いてくれてお父さんは嬉しいぞぉ!そうだなぁ…せっかくの親子水入らずの時間なんだ、ヘリポートで話すとしよう。そっちの方が()()()()()()()だろ?」

 

「…………好きにしろ……」

 

答えを聞いて嬉しそうに笑みを浮かべた南雲は白利に近寄り肩を叩くと、横を通り過ぎてヘリポートへと続く階段梯子を登っていく。

白利もまたその後を追おうと振り返ると、

 

「殺せんせー。」

 

背後で茅野に抱えられたままの殺せんせーに優しい声で語りかけた。

 

「ッ!……どうしました月乃君?」

 

「たった4ヶ月だけだったけどさ……俺、E組で殺せんせーに会えて良かった。殺せんせーが月乃白利を見てくれたから、俺は俺でいられて居場所を見つけられた。………本当に、本当にありがとう。アンタは最高の先生だ。」

 

「…………その言葉は君が卒業式を迎えるまで受け取れません。君の人生はこれから…!」

 

「渚、カルマ、速水、千葉、皆俺と友達になってくれてありがとう。皆のおかげで……失ったもん沢山取り戻せて、本当に楽しかった。」

 

「まだ……まだ全部取り戻せてない……まだこれから…楽しいことが沢山ある……だから…!」

 

まるで今生の別れのような感謝の言葉、白利の顔には悲壮感などは存在せず皆が無事でいてくれるのを祈るように微笑むだけ。

 

故に手を伸ばしてしまった、届いたとして何かが変わるわけでもないけれど『それでも』と。

速水が伸ばした手は白利の左手首を掴み、白利は微笑んだまま振り返ると、

 

「速水、ごめん。」

 

ただ一言告げて、足を引き摺りながら歩み出した。

 

 

 

ゆっくりと一歩ずつ着実に階段を登っていくが、一段上がる度に己の死をヒシヒシと自覚し、まるで断頭台へと向かっているかのような感覚すら覚える。

 

動く度、喋る度、息をする度に酷く痛む銃傷からは血が流れ続けており、傷口を押さえる手は真っ赤に染まって、靴は一歩歩くごとに赤黒い足跡を地面に刻んでいく。

 

時間にして1分ほど、しかし白利の体感時間はそれ以上の時間をかけてヘリポート…己の死に場所へと踏み入れた。

 

「こうして話し合うのなんていつぶりだ?前はお前がいきなり殺しにかかって来たから話す暇なんてなかったしなぁ。」

 

「…今まで話し()()なんてこと…あったか?……いつもいつも…一方的にお前が話すだけだっただろうが…!」

 

「アッハハ!そうだったか!なら、いつも通りお話をする…ッか!!」

 

南雲は息も絶え絶えで今にも倒れそうな身体を踏ん張って耐えている白利に近寄ると、その顔に思い切り右ストレートを振り抜く。

とっくに空挺団を離任しているとはいえその鍛え抜かれた肉体はいまだ健在、自身の体重の半分ほどしかない白利の身体は軽々と吹き飛んだ。

 

「グァッ…!?」

 

「あ〜そうだった、こんなだった…なぁッ!!」

 

「ガッ…!?」

 

地面に転がる白利の髪を掴んで身体を起こし、続けて平手打ちをかますとその威力を乗せた勢いで地面に頭部が衝突する。

ぶつけた拍子に肌を切ったのか、頭部からは血が流れているが白利はいまだ無抵抗。

 

もしも抵抗して機嫌を損ねようものなら、命の危険が白利以外にも及ぶのは明白なので白利は無抵抗を貫いていた。

 

「はぁッ…はぁッ…」

 

「うんうん、反抗せずにお父さんのお話を聞いて偉いなぁ。…………この前は一丁前に反抗しやがったばかりか!!俺に恥をかかせやがって!!出来損ないの失敗作が逆らって良いはずないだろうが!!

 

笑顔から一転、醜悪な憎悪を顕にして白利の髪を掴んだまま、今度は何度も何度も顔に拳を振り抜く。

丸太のような腕から繰り出される拳を受け、やがて唇は切れ鼻血も顎を伝っている。

 

「親の言うことを聞かないガキが!テメェが!!幸せになって良いわけねぇんだよ!!お前は俺の人生の汚点だ!産まれたのが罪だ!だから……その罪を贖え!!」

 

南雲は白利の髪から手を離すと、一切の躊躇無く首を掴むと立たせるように身体を宙に持ち上げて血が流れ続ける左脇腹へ拳を振るった。

 

「ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!」

 

響き渡る白利の絶叫、左脇腹に刻まれた銃傷に南雲の拳が叩き込まれる度に凄惨な悲鳴があがり噴き出した血が拳を赤く染め上げていく。

 

「良い声で鳴くなぁ〜!でも、お父さんについた傷はこんなもんじゃないからよォ!!」

 

「ガァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!」

 

幾度となく叩き込まれる拳と、その度にあがる空気を劈くような悲鳴。

凄惨な公開殺人に目を逸らす者も現れたが咎める者は1人もおらず、速水もまた咎めも目を逸らしもせずに、だが涙を流しながら見ていることしかできなかった。

 

「南雲修…本当に月乃君を殺すつもりなのか…?」

 

「……恐らくは。あの男は月乃君への虐待を、殺しを楽しんでいる……考えろ…!月乃君もこの場にいる全員を救う方法を…!

 

「月乃………」

 

涙を流しながら呟く速水に寄り添うように矢田と岡野が近寄ると、優しく身体を抱きしめる。

身体を震わせる速水に思わず2人も釣られて目尻から涙を溢してしまう。

 

「速水っち…!」

 

「凛香…」

 

(嫌だ…まだ言えてない…好きって言えてないのにお別れなんて…嫌。)

 

かつて『守ってあげる』と言ったのに守れなくて、『隣からいなくならないで』の言ったのに白利は自身の隣からいなくなってしまいそうで。

銃傷を詰られ絶叫する白利の顔からは血の気が引いていて、命は風前の灯だと、いうことがわかってしまう。

 

「月乃ッ……!!」

 

「あ…?おい白利、お友達が呼んでるぞぉ?ちゃんと顔見せてやれよッ!!」

 

「ア"ッ…!」

 

速水の悲痛な叫びに南雲は醜悪な笑みを浮かべると、宙に持ち上げていた白利を地面に乱雑に投げ出す。

投げ出された白利はうつ伏せに倒れ込み、腕にも身体にも力が入らないのか速水達を見ようとするが首が少し動くだけ。

 

「はや…み…」

 

「なんだ、友達に顔を見せてやらなくて良いのかよ?…ッたく仕方ないなぁ、お父さんが手伝ってやろう!」

 

今にも消え入りそうなか細い声で身体を震わせる白利の背に近づくと、南雲は後頭部の髪を掴んで顔を上げさせて速水達の方に向かせる。

そして…速水達は絶句した、向いた白利の顔には血が伝い、青い瞳からは光が失われ虚になっていたのだ。

 

「ひ…どい…」

 

「そこまでやるかよ…普通…」

 

「…………ッ!」

 

それぞれが自然と出た言葉、目の前にいる男が自身の知る『親』であるのかと疑問に思ってしまう。

だが南雲はさして気にも留めず、何かを思いついたのか顔を明るくして白利に語りかけた。

 

「そうだ!どうせならあの頃と同じことをするか!お前のだーいすきなお薬の時間だ!」

 

そう言って懐から取り出したのはオートインジェクター、自動注射器と呼ばれる物で薬液の入ったカートリッジが装填されている。

注射器の先端を白利の首筋に押し当てボタンを押すと、

 

「ぐぅッ……!」

 

格納されていた注射針が穿刺され、針から薬液が体内へと注入されていき白利は苦悶の声をあげる。

カートリッジ内の薬液が全て注入されたのを確認すると、注射器を乱雑に投げ捨て今か今かと何かを待っているようで、

 

「はぁ…はぁ…………ッ!?」

 

その時は来た。

 

「オ"エ"……!コ"ハ"ァ"…!?」

 

白利の口から大量の血液が吐き出され、地面に血の水溜まりを作り出す。

あまりの血の量に白利すらも薄れる意識の中で驚いてしまう、あれほどまで血を流したというのにまだ体内に血液が残っていたとは。

 

何度も何度も腹の底からせり上がってくる血液を吐き出し続け、全身の血が抜け出てしまうのではないかと思ってしまうほど。

血の池を作る白利を見て誰も声を発せずいる中、ただ1人南雲は高笑いをしていた。

 

「アッハハ!!ハハハハハ!!どうだ最ッ高だろぉ!!良かったなぁ白利、お前の死に顔はお友達の脳内に焼きつくだろうよ!!アハハハハ!!」

 

おぞましい笑い声が星の輝きも月明かりも隠された曇り空に響き渡る。

地面に広がる血の池が服に染み込み白いシャツが赤黒いシャツに変わった頃、南雲は髪を掴んだまま白利の頭部を血の池へと叩きつけた。

 

「………………ァ。」

 

白利の頭部を何度も血の池へと叩きつけると、その度に血が舞い上がり白利の白い髪が赤く染まって顔に生傷が次々とできていく。

そして……南雲の暴挙にいよいよ我慢の限界が来た速水の中で何かが千切れる音が鳴り声を荒らげた。

 

「アンタは……アンタは何がしたいの!?月乃を殺して何の利になるの!?」

 

「利になる…?何言ってんだ、何の利にもならねぇよ。」

 

「は………?」

 

「当然のことだろ?ご主人様の指示に従わない白利(道具)に何の価値がある、2度と動かないようにぶっ壊してスクラップにするだけだ。こういう風になッ!!」

 

足元に転がる白利の脇腹を勢い良く蹴ると、白利は車の衝突事故実験の人形が如く吹き飛び、転がり、力無く仰向けに空を見上げる。

白利は呻き声すらあげなくなり、全身に巡っていた麻痺すら感じないほど身体の感覚は消え去っていた。

 

(俺は……死ぬのか………じーちゃんとばーちゃんを…悲しませちまうな…)

 

曇り空を見ながら思う、とうに手足は動かず心臓の痛みも全身が傷つきどこが痛いのかすらわからない。

すぐそこまで来ている死が全身を蝕む中、まるで走馬灯のように記憶がフラッシュバックした。

 

 

 

『月乃!お前一体何をしたのか分かってるのか!!?』

 

今にして思えば、ここが全ての始まりだった。

この時は『E組に落ちても良いや』くらいに思っていたものだ。

 

『初めまして、私が月を()った犯人です。』

 

そして3年になりE組が始まってから歯車が狂い始めた…良い方向に。

地球を破壊する超生物の暗殺、本来ありえない事で多くの縁が生まれ、多くの人と繋がり、多くの友達ができた。

 

『何って…握手だよ握手。友達としてこれからもよろしくな!』

 

『わかった、月乃と友達になる。』

 

『月乃さん、私と友達になって下さい!』

 

今でこそ当たり前のように仲良くしている友達。

自身の裏に抱えたものを知られた時、失ったと思ったのに側にいてくれた大切な人達。

 

『そろそろ中間テストだから教えて欲しいところがあるんだけど。』

 

『こっちの方が動き易いしビッチ先生と被ってるのなんか嫌だったから、結構気に入ってるんだけど…月乃はどう?』

 

『それに、私も月乃がいなきゃヤダなって思うから。』

 

(………速水。)

 

速水凛香、最初に見た時は仲良くなれないと思っていたのにいつからか彼女と一緒に行動することが多くなっていた。

修学旅行や菅谷のメヘンディアート、プールに期末テストに夏休みと気づけばずっと側にいて、それが当然になるほど身体に染み付いて。

 

(あぁ…本当に楽しかったな…)

 

叶うのならば、これからも速水の隣で笑って彼女の横顔を見ていたかった。

 

許されるのならば、一度彼女の名を呼んでみたかった。

 

未来(さき)があるなら、この想いを伝えたかった。

 

(……どうすれば俺は…速水と一緒にいれたんだろうな…)

 

前の自分では生きている中で決して抱くことないと思っていた感情(モノ)、それが死に際になって冷え切った心臓の底から溢れんばかりに湧き上がる。

 

そして何度も何度も思考を巡らせて……今の生き方以外で速水の隣に立てる方法が浮かばない。

もしも母が生きていたなら今の白利は存在しない、もしも復讐に生きていたのならE組にいない、もしも全てを忘れていたのなら速水と今の関係を築けなかった。

 

結局どの道を選んでも速水の隣に立つことはできないし、隣を立つことができたこの生き方も未来(明日)を共に生きることができない。

何ともクソッタレな話、けれどE組で過ごす毎日が幸せだったのもまた事実。

 

いつしか雲が晴れた空には壊れた月が浮かんでいて、幸せな毎日と月を脳に刻み込みながら……

 

 

 

(なんで…?)

 

 

 

己の心が呟いた。

 

過去も母も、未来すらも奪われて何故それを受け入れようとした?

受け入れるのまだいい、何故自分は南雲に対して恨みも憎しみも抱かずに死のうとしている?

何故奴はこの先ものうのうと生きようとしている?

 

(ざッけんな……!!なんで……クソ野郎の思うままに殺されなきゃいけない…!!)

 

これが皆を傷つけない最善なのはわかっている、わかっているけど納得はできない。

胸の内から湧いてくる身を焦がすような熱と共に頭の中に声が響く。

 

《アイツを殺す…殺して…全てを奪う!!》

 

内に響く復讐の声に、働きを止めようとしていた細胞が震え出す。

 

《それをやり遂げる為に、お前は何に成れる?》

 

内に響く問いかける声に、細胞が()()()()に繋がってゆく。

 

(なんだって良い……どうせ最期だ…!!)

 

最期の最後、月乃白利が行き着いた『自分の為』の怒り。

怒りは火花となり、血管を巡って全身へと伝達し消えかけた心臓(エンジン)にイグニッションスパークを巻き起こす。

 

 

 

 

 

 

「さぁて白利、そろそろオネンネの時間だ!」

 

南雲は未だに天を向きながら地面に転がる白利に向かって歩く途中、右脚部に着いたホルスターからリボルバーを引き抜くと銃口を白利の頭部へと向ける。

 

「なにか言い残すことはあるかぁ?お友達とお話しする最期のチャンスだぞ?優しいお父さんに感謝しながら話すんだなぁ!!」

 

倒れる白利の脇腹を何度も踏みつけながら南雲は口角を吊り上げるが、

 

「………………あ?」

 

白利の顔を見た瞬間、醜悪な笑みは瞬く間に消え去った。

踏みつけられている白利の顔には苦悶の表情ではなく、まるで三日月を横に倒したようなニヤニヤとした笑みが浮かんでいたのだ。

 

「テメェなんだその顔は!!?ヘラヘラしやがって!!泣け!!喚け!!ッコイツ…その顔面踏み砕いて2度と笑えねぇようにしてやるッ!!!!」

 

狂乱する南雲は足を振り上げると、一切の躊躇いなく白利の顔めがけて勢い良く振り下ろし、

 

 

 

ズドンッ!!

 

 

 

と轟音を鳴らして()()()踏みつけた。

 

「…………………………………は?」

 

呆けた声が響く。

さっきまで自身の足元には白利がいたはず、だと言うのに今足が踏み締めているのは地面と白利が吐き出した血液のみ。

 

白利()()がいない。

 

(なん…だ…?何が起こった…なんで白利がいない!?)

 

慌てて顔を動かして辺りを見渡す、殺せんせーがマッハで助け出したかと思いヘリポートの下を見やるが殺せんせーは完全防御形態で顔には南雲同様驚愕の表情を浮かべている。

 

殺せんせー(ターゲット)でもない!?なら…アイツはどこ行った!どこへ逃げた!白利は…!!)

 

「今日は空が綺麗だったからな、雲が晴れて良かった。」

 

「ッ!?」

 

背後から聞こえた声に急いで振り返る。

そこには…

 

「今日は死ぬのにちょうど良い日だ、だろ?親父(オヤジ)。」

 

髪を淡く白く輝かせる白利が立っていた。

 

 

 




【月乃白利の秘密】

月乃白利は人では無い
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