暗殺教室ー月は何を見るかー   作:TKTK(2K2K)

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その後の時間

遊ぶ気満々の殺せんせーはスイカや浮き輪を触手に持ってウネウネとうねらせるが、呆れ気味の杉野が覗き込むように顔を向ける。

 

「…遊ぶったって、明日の朝にはもう帰るだろ?」

 

「何言ってるんですか!?先生はほとんど完全防御形態でしたから遊びたりませんよ!!」

 

「本当…遊ぶことに全力だなアンタは……」

 

暗殺から先程まで完全防御形態で動くことすらままならなかった殺せんせーは迫真の表情で白利達に詰め寄った後、少しでも失った時間を取り戻すように分身しながらスイカ割りや砂山を積んでいく。

 

「せっかくの生徒達との合宿、この夏は一度きりのもの!1秒だって無駄にはできません…にょわぁ!?何するんですか!?」

 

瞬間、殺せんせーの顔が何かを避けるように三日月状に変形する。

犯人がいるであろう方向に顔を向けると、エアガンの銃口を向けたカルマが立っていた。

 

「1秒でも無駄にしないって言ったよねぇ?」

 

「ヌルフフフ…流石はカルマ君、相手が油断した隙……にょわぁぁぁぁぁ!?」

 

カルマを筆頭に殺せんせーを囲んだ皆が一斉に発砲し、弾幕を形成する。

突然のことだったからか、殺せんせーは情けない声をあげながら必死に回避しているのを背にカルマが眺めていた白利達に近づく。

 

「いや〜、今なら殺せると思ったんだけどなぁ。2人も()る?」 

 

「俺は遠慮しとく。抜け目ないよな…お前…」

 

「アハハ…」

 

呆れた目と乾いた笑いを受けてもヘラヘラしているカルマを見据えていると、隣に座っていた速水がスッと立ち上がる。

 

「でも、どうせなら楽しまなきゃでしょ?」

 

「そりゃあ…まぁ、そうだが。」

 

「それじゃあ…」

 

見上げるように見ていると、速水は体操着の裾を掴み一気に捲り上げた。

 

「ちょっ!?何を!!?」

 

急いで目を逸らすと、視界が急に真っ青に染まる。

何かを頭に置かれた感触から、それを引き剥がすように手に取り視界がクリアになった後手に取ったものを見るとそれは体操着だった。

 

そう、体操着。

一目見てわかるのはサイズは女性ものであること、そして状況を考えると………この体操着は速水のであることは確かだ。

 

「ッ!?」

 

反射的に速水の方を向いてしまい、ほんの少しの後悔を胸に感じながら目に飛び込んできたのは…

 

「どう?」

 

青いビキニを見に纏った速水の姿だった。

 

「あ………あぁ、そういうね…下に着てたのか。」

 

「一応、念の為にね?」

 

「えぇ!?私着てない!!」

 

砂浜の方を見渡してみると、片岡を筆頭に茅野以外の女子達全員が水着を下に着ていたようで海に向かって駆け出している。

……変な期待をしたわけではないのは名誉の為に言っておく。

 

「で?」

 

「…『で?』とは?」

 

「ほら、水着の感想。さっき『どう?』って聞いたでしょ?」

 

「ん…」

 

『確かに言ってたな』と思いながら両腕を広げる水着姿の速水の姿を全身を捉えるように眺めるが、ビキニの都合上肌面積が今までより明らかに多い。

 

「(ヘソとか太ももが……)フンッ!!」

 

「月乃!?」

 

「……すまん、少し自分を殴りたい気分になった。」

 

「えぇ…?」

 

邪な考えを追い出す為に自身の頬に拳を放ったが、側から見たら唐突な奇行に渚が声をあげる。

困惑の声を聞き流しながら改めて速水を見ていく。

 

薄い朱色の髪をしているがそれに合わせるのではなく、敢えて反対色を選ぶ事でそれぞれを目立たせ良さを引き立たせているようで。

髪に目を向ければ速水の綺麗な顔が、水着に目を向ければスレンダーだが美しいプロポーションが目に入る。

 

これも調和かと思いながら白利は口を開いて、

 

「似合ってる。」

 

一言だけ告げた。

 

「えぇ〜?ちょっと月乃く〜ん、長考してそれはないんじゃな〜い?」

 

「うっせ、悪ぅございましたね語彙力がなくて。」

 

「脳内じゃもっと色んなこと考えてたんじゃないの〜?」

 

肩を組み絡んでくるカルマをうざがっている様子を見ていた速水は白利の言葉を脳内で反芻して、

 

「そっか。」

 

少し微笑んで背を向けた。

 

「私は泳ぎに行くけど、月乃はどうする?」

 

「ん?俺はいいや、流石に死にかけた後に泳ぐ気にはならん。」

 

「わかった、また後でね。」

 

「私も水着取ってくる!」

 

「俺は殺せんせーか寺坂で遊んでこようかな。渚君は?」

 

「僕は…杉野達とスイカ割りでもして来ようかな。」

 

「じゃ、一旦解散か。皆後でな。」

 

皆がそれぞれ遊びに行き沈みゆく夕陽を1人眺めていると、ふと背後から声をかけられる。

 

「隣、良いか?」

 

「烏間先生、大丈夫ですよ。」

 

「ありがとう、失礼する。」

 

烏間先生は隣に腰を下ろすと、真っ直ぐと夕陽を見つめ暫し無言の時間が流れる。

その様子に少し疑問を覚えながらも白利もまた夕陽の赤光を浴びていると、遂に烏間先生が口を開いた。

 

「身体は平気か?起きてから不調などは?」

 

「起きてからは特に不調とかは………歩く時ちょっとふらつくくらいで痛みとかはないです。」

 

「そうか…本来ならすぐにでも病院に運びたかったが手続きやら後処理やらに追われてな、この島で処置を施したんだが…少しでも違和感や痛みがあったら遠慮なく言ってくれ。」

 

「…わかりました。」

 

鷹岡や南雲が起こした事件の後処理や殺せんせーの件で不眠不休で働き詰めだというのに、わざわざ自分のことまで心配してくれるとは嬉しくもあり、少しばかしの悔しさに歯噛みしながら頷く。

 

「………」

 

烏間先生は白利の横顔をチラリと一瞥した後、視線を夕陽へと戻して再び口を開いた。

 

「……それと南雲修のことだが…」

 

「あぁ…それなら起きた時に速水から拘束されたとは聞きました。」

 

「なるほど、それなら話は早い。…今回の事は表沙汰にはできないが、これは俺の責任として君に伝えさせてもらう。」

 

「………はい。」

 

夕陽に向けられていた目線が白利の瞳に真っ直ぐと向けられる。

やはり、この人はどこまでも誠実で白利が知る大人達の中で最も信頼に足る人物だと確信し、烏間先生の言葉ならばとこちらも視線を返す。

 

「南雲修は速水さんから聞いた通り防衛省が身柄を確保し、警察ではなく防衛省の独房へと送られた。」

 

「防衛省の独房…ですか?」

 

「あぁ、前の鷹岡の一件や今回で恐らく奴は防衛省の情報を持っている事を確信した。それについて追求するのと……月乃君達に行ってきた所業の証拠を少しでも集められないか…とな。」

 

「別に…いいですよ。」

 

飛び出した予想外の言葉に思わず苦笑しながら、茜色に染まる空に手を伸ばして握りしめる。

 

親父(オヤジ)のことを許したわけじゃないですけど…裁くのなら過去じゃなくて今回の…皆の命を危険に晒したことを裁いてください。俺は、この手で終わらせられただけで十分ですから。」

 

「……そうか、だがこちらも奴の余罪などを調べるつもりだ。あぁ、あとそれと…月乃君の身体についても話がある。」

 

「お、俺の身体ですか?」

 

手を下ろして烏間先生に目を向けると、その顔はどこか不安気で申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

珍しい表情に、少し上擦らせながら声を出す。

 

「そうだ、君が昨日の夜に見せた超高速移動…あれは到底普通の人間が出せる速度ではなかった。」

 

「そう…ですね。俺も朧げながらですけど、あの時の俺は思考が全身にまで巡って、何か全く別の存在になったかのような感覚でした。やっぱり俺は…」

 

「月乃君。」

 

白利が口にしようとしたことを察したのか、烏間先生は素早く言葉を遮る。

 

「今回君が見せたことについて、俺は政府には報告しない。旅行が終わった後に防衛省が抱える病院には入ってもらうが、信の置ける者にしか君のことは伝えないつもりだ。」

 

「…いいん…ですか?」

 

「いいもなにも、元より防衛省(ウチ)が招いた事態でもある。何より…俺は君達の教師で、君達の学校生活を保証するのが大前提…同然の事だ。」

 

「………」

 

やはりこの人は素晴らしい人だと思う。

 

人並外れた身体能力の開花、普通ならば速攻研究施設などに押し込めて検査や研究、解剖などが行われていただろう。

けれど烏間先生は白利のことを第一に考え、あまつさえ自身が所属する政府まで欺くと言うのだ。

 

コレほどまで人間ができていて、尊敬できる大人に出会えることはこの先無いであろうと確信できるほどに。

 

「ありがとうございます、烏間先生。烏間先生がE組の担任で良かったです。」

 

「フフッ、礼はいらんさ。ただでさえ防衛省(こちら)は君達に殺せんせー()の暗殺を依頼している身だ、その対価として君達の日常を守るのは当然のことだ。」

 

こういうことをさらりと、嘘など微塵も感じさせずに言い切ってしまう烏間先生はどこまでも格好良いと思う。

当の本人は特段表情を崩すこともなく腰を上げると、肩越しに振り返りながら口を開く。

 

「さて、暗い話はここまでにしよう。君達が手に入れたせっかくの旅行だ、月乃君も無理のない範囲で遊んできたらどうだ?」

 

「そうですね、大人数でこんなところ来ること無いでしょうし楽しみたいと思います。…にしても……」

 

烏間先生から視線を外して、少々呆れ気味の表情で砂浜へと視線を向けるとそこには…

 

「殺せんせー!こっちに来て一緒に海入ろうよ〜!」

 

「ほら早く!そ〜れ!」

 

「アハハ!ウフフ…にゅやぁ!?水がダメなの忘れてました!!?」

 

失った時間を取り戻そうと女子達と海に入ろうとし、自身の弱点を忘れかけて必死に海水を避けている殺せんせー(アホ)がいた。

 

「はぁ…何をやってるんだアイツは……んんっ!ヤツほどとは言わないが、月乃君も楽しむと良い。何かあれば連絡をくれ、またあとでな。」

 

「はい、お疲れ様です。」

 

去って小さくなる背を見届けた後、休んで幾分か回復した身体を持ち上げて海水と対先生BB弾を避け続ける殺せんせーの元へと歩いて行く。

殺せんせーを囲んで射撃していた内の1人、千葉が白利に気づくと銃を下ろし駆け寄ってきた。

 

「月乃もこっち来たのか、ほれ。」

 

「ん?…よっと。」

 

急に何かを投げ渡され反射的に手に取り掴んだ物を見ると、手の中にあったのはいつも暗殺で使っているエアガンだった。

 

「エアガン?これ千葉のだろ、どうしたんだ一体?」

 

「お前昨日銃当ててただろ?南雲が持ってたリボルバーをバーンッて。」

 

「そうだが…あぁ、なるほどな。エアガン(コレ)使って殺せんせービビらせてやれってことか。」

 

「そういうこと。」

 

顔を見合わせて2人してニヤリと笑いながら渡されたエアガンを確認しつつ歩み寄って行くと、件の殺せんせーは避け続けながら白利の姿を視認し嬉しそうに笑う。

 

「おや、月乃君も遊びに……なるほど、エアガンですか。君がそれを使うのを見るのは単独暗殺以来でしょうか。」

 

「おいおい…なんで今更銃なんだよ?月乃射撃成績0点だろぉ…?」

 

「まぁそこで見てな前原、……さて準備は良いな殺せんせー?」

 

「ヌルフフフ、いつでもどこからでも来なさい。エアガンを使えるようになったからといって、殺せるとは限りませんからねぇ?」

 

舐めた緑の横縞と笑みを顔に浮かべながら触手をウネらせる殺せんせーに銃口を向ける。

触手を動かすだけで避けようとする気は感じられない、いつもの事だが警戒されてないだけマシ……のはずなのに、

 

(なんでだ…?)

 

なぜだか、殺意が湧いてこない。

まるで空いた穴から流れ出してしまっているかのように、殺意が器に満たされていかないのだ。

 

「………ッ死ね!」

 

そんな思いを振り払うように一発発砲すると、打ち出された対先生BB弾は真っ直ぐと殺せんせーの眉間を捉えるように吸い込まれ……

 

「あ痛ぁ!!?」

 

ることはなく、BB弾は進行方向を変えて前原の頭部を射抜いた。

 

「………アレェ?」

 

「『アレェ?』じゃねーよ!何が見てろだ!相変わらずのクソエイムじゃねーか!!」

 

「ど、どうしたんでしょうか…?あの時は確かに当てていたはずですが……」

 

白利のいつも通りのクソエイムに感染組は『なんだったんだ?』と言う視線を向けるが、確かに射撃を決めていたのを見ていた潜入組や殺せんせーはクソエイムに戻ってしまった事に首を捻る。

 

「どうしたの月乃?」

 

「いや…なんかさ、また前みたいに弾が当たらなく…てッ!!」

 

髪を肌に張り付かせたままの速水と話しながら、不意打ち気味に再度銃口を向けて3発発砲するがどれも見当違いの方向へと飛んでいってしまった。

当たる弾に敏感な殺せんせーが動いていないあたり、そういうことなのだろう。

 

「はぁ…千葉、コレ返すわ。ちなみにナイフ持ってないか?」

 

「え?持ってるが……あぁ、そういうこと…いや平気なのかよ?」

 

「さんきゅ、無理のない程度には抑えるさ。」

 

考えを察した千葉は対先生ナイフを取り出して差し出すと、白利はそれを受け取るとケースからナイフを引き抜いて構えを取る。

だが、2人が何を言っているのかわからない感染組は首を傾げていた。

 

「えーと…速水さん、月乃君はなにを?」

 

「神崎……口で説明するにしても荒唐無稽だから…見てればわかると思うよ。」

 

「速水っちの言う通りだと思うよ、私だって説明されても信じられないもん…」

 

茅野が賛同するように頷き、奥田が神崎と同じく頭に『?』マークを浮かべながら全員で行く末を見守っている。

 

「………ふぅ〜。」

 

深く息を吐きながら殺せんせーの心臓、その一点を狙う。

呼吸する度に意識が沈み込み、徐々に身体全体へと広がっていくような感覚が満ちて、

 

「ッ!!」

 

意識が足先まで満ちた時、白利がナイフを片手にその場から姿を消すほどのスピードで動き、

 

 

 

 

 

ドーーーン!!

 

殺せんせーの遥か後方で巨大な砂煙が上がった。

 

「「「………えぇ!?」」」

 

「「「月乃ォ!?」」」

 

「つ、月乃くーん!!?」

 

感染組が白利が見せた人並外れた身体能力に驚き、潜入組が遥か後方まですっ飛んでいったことに驚き、殺せんせーは身構えていたら相手が横を凄まじいスピードで通り過ぎて行く様に反応できていなかった。

 

そして砂煙に巻かれている張本人は、

 

「ゲホッ…ゴホッ…あ〜気持ち悪い…視界がグワングワンする……砂といえど高速で転がると痛いな…アイテテテ…」

 

あの夜と同じように高速で動こうと足を踏み出した途端、視界に映ったのは3色ほどにまで削ぎ落とされた景色、そして次の足が地面を捉えることなく気がついたら砂に転がっていたのだ。

 

「イッテテ…クッソ…」

 

「月乃君大丈夫ですか!?痛いところは!?骨とか平気ですか!?」

 

「あ〜……平気だよ、そんなに焦んなくてもいいだろ。」

 

「何を仰いますか!例え擦り傷であろうとウイルスの感染源になり得るのですよ!?先生の手厚い看護を…」

 

「いらんわ!!」

 

いつの間にかナース服に着替えて注射やら絆創膏やらを持って迫ってくる殺せんせーをいなしつつ、立ち上がって皆の元へ戻ると、

 

「お、おい月乃!今のなんだよ!?」

 

「なんか…!すごい速度でぶっ飛んでたよな!?」

 

「落ち着け、順を追って説明するから。」

 

失敗したとはいえ目にも留まらぬ速度で移動をしたことについて詰め寄る前原や杉野達を嗜めつつ、昨日の夜に起こった全てを話し出す。

 

潜入後、鷹岡との決戦の後に南雲が現れたこと。

 

皆を人質に取られ、白利が一対一の闘いに挑んだこと。

 

そして南雲に薬を投与され死にかけたが、死の淵で正体不明の力に目覚め南雲を打ち倒したことを。

 

「薬を打ち込まれて…こうなったと…?」

 

「い…いやいや、どういうことだよ!?」

 

「俺だってわからねぇよ、実際にこうなっただけで俺も詳しいことは知らないんだよ。」

 

「でも、あの高速移動したのに髪の毛光らなかったね。」

 

詰められて肩をすくませていると、速水が側に寄って白利の髪を指先でくりくりと捻りながらヘリポートでのことを回想する。

 

「ん?髪が光るってなんだ?」

 

「あ、気づいてなかったんだ。月乃、あの時髪の毛が光ってたんだよ?淡くふわ〜って。」

 

「え、何それ怖……」

 

自身でも指先で髪を弄りながら、見慣れた白い髪が記憶にない発光をしていた衝撃に我がことながらドン引きしてしまう。

 

「小さい頃から薬打ち込まれてたせい…ではあるんだろうけどな。マジで俺の身体どうなってんだぁ?」

 

「今考えても仕方ないでしょ。とりあえず今は遊んで、帰ったら防衛省の病院で検査しよ?」

 

「ヌルフフフ!ならば、丁度いいスペシャルなイベントを用意してますよ!」

 

怪しい笑い声をあげた殺せんせーに視線を向けると、ナース服を脱ぎ捨てThe幽霊という格好に着替えて触手を持ち上げると、

 

「真夏の夜にやる事は、ひとつですよねぇ。」

 

『納涼!!ヌルヌル暗殺肝試し』とプリントされた看板を掲げて見せた。

 

「「「暗殺…肝試し…?」」」

 

「先生がお化け役を務めます、久々にたっぷり分身して動きますよぉ。もちろん先生(おばけ)は殺してOK!!暗殺旅行の締めくくりにはピッタリでしょう?」

 

「面白そーじゃん!昨日の晩動けなかった分、憂さ晴らしだ!!」

 

「ルールとか場所はどうするんだ?この人数1人1人は時間かかるだろ?」

 

白利が問いかけると、殺せんせーはどこからかパネルを取り出して何かの見取り図を指差しながら説明を始める。

 

「そこはご安心ください月乃君。場所はこの先の海底洞窟、300メートル先の出口まで男女ペアで抜けるだけです。2人組でならそれなりの早さで終わるでしょう?」

 

「それもそうだな。しかし天然の洞窟を使ったお化け屋敷か、殺せんせーにしては真っ当な企画だな。ペア決めは?」

 

「そこは皆さんで自由に決めてもらって構いません。では先生は準備をしてきますので!スタートの合図は磯貝君に送りますので!!」

 

暴風を巻き上げながら洞窟へと飛んでいくのを見届けると肩をトントンと叩かれ振り返ると、

 

「月乃、一緒に行こ?」

 

「ん、良いぞ。…つっても、俺お化け屋敷とか初めてだから良い反応とかできないぞ?」

 

「別に反応とかは求めてない……怖がってるところは見たくはあるんだけど、それはそれとして。私が月乃と一緒に行きたいだけだから。」

 

「そっ…か、じゃあとりあえず殺せんせーの準備が終わるまで待ってるか。」

 

2人で岩に腰掛けて待っている中、片や殺せんせーはと言うと…

 

(ヌルフフフ…君達は本当に強くなった。今回の旅行で痛感しました…が、そんな君達にもたりないものがある。)

 

洞窟に明かりも灯さない暗闇の中、いそいそと準備を進め1人ボヤく。

 

(それは……恋愛(スキャンダル)!!夏頃にはボチボチカップルが誕生していると踏んでいましたが…君達ときたら暗殺に夢中でてんで浮いた話が無い!!ここらで一発、先生が恐怖で君達の背中を押して男女をくっつけ……それをネタに冷やかしたり実録小説を書くのです!!これぞ担任教師の粋な計らい!!)

 

              

 

   殺せんせーの弱点

 

     下世話

              

 

(それに色々ありましたが、月乃君と速水さんはあと一歩……いや、あと半歩踏み出せば間違いなくくっつく!!こんな美味しい場面を逃す先生ではありません!!月乃君がその気になれば……)

 

 

 

『うーん……どうすれば……』

 

『おや、どうしました?君が悩み込むなんて珍しい。』

 

『その言い方だと私が普段悩んでないみたいじゃないですか!?』

 

『フフッ、すみませんでした。それで一体何にお悩みになっていたんですか?』

 

『うぅ……んんっ!次にE組に入ってくる子達の中に元々A組だったけど人を殴ってE組に来ちゃう月乃君って子がいて…』

 

『その子が問題児だと?』

 

『いえ、そうではないんです。謹慎中に何度か会いに行って話してみて、最初は確かに無表情で無口でちょっぴり怖い印象だったけど話してみると意外と普通で、話していくうちにむしろ心根はとても優しい子なんだって思ったんです…けど…』

 

『けど?』

 

『なんと言うか、言語化が難しいんですけど…自分の心に自分の心で蓋をしている感じ?なんです。本来の優しい一面を無理やり押し込めてしまってる…みたいな。』

 

『なるほど、その月乃君の優しい顔を出させたい、と言う事ですか。』

 

『はい、彼無表情で無口なせいで友達が2人しかいないそうで……中学時代なんてたった3年、あと1年しかないんです。せめてE組で過ごす1年くらい、月乃君の優しさを皆に知ってもらってたくさんの友達と笑顔で過ごして欲しいなって。……まぁ、月乃君は頭が良いからフラッとA組に戻っちゃうかもですけど。』

 

 

 

(君は既に彼の本当の姿を見抜いていたんですね…あぐり、君が心配していた月乃君は多くを乗り越えてE組で大切な物を見つけ、笑顔で多くの友達と笑えていますよ。君から託された、彼もE組も真っ直ぐ見つめて…あの子達に必ず光を。)

 

暗闇に染まる洞窟の中、人間だった頃の思い出に耽る殺せんせーの心情に気づかないまま白利達の暗殺肝試しが始まるのだった。




ご覧頂きありがとうございました!

【月乃白利の秘密】

心霊系の強さは未知数
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