ついでにおじいちゃんの名前は【十三(じゅうぞう)】、おばあちゃんは【暦(こよみ)】です。
「〜〜〜♩」
晴れ渡る空の下、白利は花壇に水やりをしていた。
「お前達、綺麗に咲いたなぁ〜」
E組校舎の周りがあまりに殺風景だったのでクラスで植えた花は、世話の甲斐あってそれぞれが綺麗に咲き誇っている。
その姿を見て1人ほっこりしていると
一筋の突風が吹き抜け
「あっ!?」
花壇の花が全て抜き去られていた。
そんなこと出来るのはこのクラス…否、この世界で1人だけ。
「……………」
今頃は校舎裏でおやつを食べていた筈だろうと当たりをつけ、対先生ナイフを手に駆け出した。
校舎裏にたどり着くと、花壇に植えられていた花を片岡達が持っていた。
恐らく暗殺しようとした所、ナイフを奪われ代わりに花を持たされたのだろう。
「こんな危ない対先生ナイフは置いといて、花でも愛でて良い笑顔から学んで下さい。」
「「「…!!」」」
「…ていうか殺せんせー!この花クラスの皆で育てた花じゃないですか!!」
片岡も手に持った花の正体に気づいたのか声を荒らげる。
「にゅやッ!?そ、そーなんですか!?」
「ひどい殺せんせー…大切に育ててやっと咲いたのに…」
矢田の渾身の泣く演技でタジタジになる殺せんせー。
手近な物を取ってきただけでこんな事になるとは思わなかったのだろう。
だが、その行為に最もキレている人物が1人…
「…殺せんせー?それ、ナニ?」
「あぁ、月乃君も来たんですねェ!!?」
殺せんせーが視線を向けた先にいたのは、凄まじい怒気を纏う白利がナイフを手に立っていた。
「月乃君…!あの…違くて…いや違くはないんですけどぉ…!」
「花壇の花、全部取って行ったの殺せんせーだよね?」
「はいぃ…」
「早く新しい球根を買って来い!!」
「買って来ましたぁ!!」
一瞬姿が消えたかと思うと、次の瞬間両手に大量の球根を抱えた殺せんせーが現れ、白利と片岡・岡野・矢田は殺せんせーに先頭を歩かせながら花壇へ向かう。
殺せんせーの背中には常にナイフが突きつけられているが、逃げようと思えば逃げ切れるだろう。
だが先生としてのプライドが許さないのか大人しく従っている。
「今まで水やりしてるところは見てきたけどさ、正直意外だったかも月乃君が花を大事にしてたの。」
「…そうか?」
歩いている途中、片岡に話しかけられる。
「あ、わかる!月乃って水やりしてる時も表情が全然動かないから仕方なくやってるのかなぁって。」
「私もちょっと思ってたかも。でも、渚君とか杉野君といる時は結構笑ってる事あるからそっちが月乃君の素だったり?」
「ん……まぁな。話す話題が無いから話さない、話しかけられないから話さないってだけだから、俺は。」
女子に囲まれている事に気づき、居心地が悪そうに頭を掻く。
「3人とも月乃君と話してみてわかったでしょう?彼は人との関わりを避けている訳ではありません。少しばかり人より『人との関わり方』が苦手なだけなのです。その内側は優しい普通の男の子なのですから見た目や噂に流されず、しっかり彼自身を見てあげて下さい。」
「「「はーい」」」
「…てかさ、自分では結構表情出してる感覚なんだけどそんなに無表情に見える?今までも花に水やりしてる時も花に微笑んだりしてたんだけど…」
「「「めちゃくちゃ無表情だったよ。」」」
「マジかよ…」
女子3人の言葉の刃が白利の心に突き刺さる。
思わず天を見上げて手で顔を覆った。
「ヌルフフフ、恐らく今まで凝り固まった表情筋がほぐれてないのでしょう。だから、君の中では笑ったりしていても表には上手く出ていなかった。この一年でしっかりとほぐしていきましょう。」
「…はい。」
「さ、殺せんせー着いたよ。」
あっという間に花壇に着き、殺せんせーは球根を地面に置き膝をつく。
「マッハで植えちゃダメだかんね!!」
「承知しました!!」
「一個一個いたわって!!」
「はい!!」
「球根同士の距離が近い!もうちょっと離して!」
「すみません!!」
岡野、片岡、白利の3人による指導のもと、殺せんせーは丁寧に球根を埋めていく。
「なー…あいつ地球を滅ぼすって聞いてッけど…」
「お、おう…その割にはチューリップ植えてんな…」
後をついてきた磯貝と前原は、目の前で3人の生徒に叱られながら球根を埋める超生物を見て困惑している。
「…チッ、モンスターが良い子ぶりやがって。」
どうやら偶々居合わせたらしい寺坂達は舌打ちを一つして去って行った。
殺せんせーが球根を全て埋めるのを見届けた後、後ろを向くとメモ帳片手に何かを書き込んでいる渚の姿があった。
「「渚」」
渚に声をかけようとすると、ふと声が重なる。
声の主は『茅野カエデ』3年生で転校してきた女子だ。
渚に今のヘアースタイルを教えたのも彼女らしい。
「茅野と月乃、どうしたの?」
「なにメモってるの?」
「茅野に同じく。」
2人で渚の持つメモ帳を指差すと、渚はメモ帳の中身を見してくれた。
「先生の弱点を書き溜めてこうと思ってさ。そのうち暗殺のヒントになるかもって。」
「「ふぅーん…」」
2人でメモ帳を覗き込むと
殺せんせーの弱点
カッコつけるとボロがでる
「…役に立つか?…コレ?」
「………」
渚はなんとも言えない顔をしていた。
放課後、E組の運動場では多くの生徒が集っていた。
「あ、烏間さん。こんにちわ。」
「こんにちわ月乃君。」
E組の正門前にいた白利の前に現れたのは、殺せんせーが初日にやって来た時に説明をしていた烏間だった。
少々強面だが、誠実さが伝わってくる佇まいをしている。
「E組に何か用事が?」
「明日から教師として君等を手伝う事になった。よろしく頼む。」
「そうなんですか。じゃあ明日から烏間先生ですね。」
「あぁ…ところで奴はどこだ?」
「殺せんせーですか?今から俺も行くところだったんで一緒に行きます?」
烏間を連れ、運動場へと向かう白利。
そこには、運動場に生えた木の枝に縄で縛られ吊り下げられている殺せんせーと、その下で棒にくくりつけた対先生ナイフで突き、エアガンを発砲している生徒達がいた。
「実は殺せんせー、クラスの花壇を荒らしてそのお詫びとして、ハンディキャップ暗殺大会をしてるんです。」
吊り下げられている殺せんせーはぬるんぬるんと上手い事身体を捩ったり揺らしたりして攻撃を避けている。
「ほら、お詫びのサービスですよ?こんな身動きできない先生そう滅多にいませんよぉ。」
余裕そうに顔に緑の横縞模様を浮かべながらニヤニヤと笑う殺せんせー。
「これは…暗殺と呼べるのか…?」
「う〜ん…どうなんでしょうねぇ?じゃあ俺も
殺せんせーに向かい駆け出す白利の背中を見送る烏間。
そして
「!?」
白利の身体が飛んだのを見た。
吊り下げられている殺せんせーの足の先端でも地上から約1.5M、身体捩っているので約2メートルはあろう高さを平気で超え、殺せんせーの顔に向けナイフを突く。
「にゅや!?月乃君一体どうやって!?」
「跳躍力には自信があって…ねッ!!」
「しかし無駄ですねぇE組諸君!このハンデを物ともしないスピードの差!」
捉えたと思われたが持ち前の超スピードで躱わされる。
身体を大きく揺さぶり、木の枝をギシギシと鳴らしながら『君達が私を殺すなど夢のまた夢!』と煽っていると
バキッ!!
とそこそこ太い枝ではあったが、流石に超スピードには耐えきれなかったようで殺せんせーを地面に落としてしまう。
「………」
「「「………」」」
沈黙が流れる。
「「「今だ
「にゅやーーッ!しッ、しまった!!」
地面を転がる殺せんせーを生徒達が追いかけ回すのを見つつ、白利はメモ帳を広げている渚と茅野へと近づく。
「…役に立つかも、弱点メモ。」
「…うん、どんどん書いてこう。」
「…ここまで効果あるとはな。」
転がり回る殺せんせーは縄から抜け出そうとしているが触手と縄が絡まりドツボにハマっている。
「ちょっ…待って!な…縄と触手がからまって!」
殺せんせーの弱点
テンパるのが意外と早い
「あっ、ちっくしょ抜けやがった!!」
「ここまで来れないでしょう!基本性能が違うんですよ!バーカ!バーカ!」
なんとか縄を脱した殺せんせーは校舎の屋根に避難してなんとも大人気ない言葉を吐く。
一頻り吐き終わったのか一息入れ
「明日出す宿題を2倍にします…!」
「「「小せぇ!!!」」」
殺せんせーの弱点
器が小さい
「なっさけない大人だよ…」
「あッ!今聞こえましたよ月乃君!君は宿題3倍ですッ!!」
「そんでもって地獄耳か…」
話終わった殺せんせーは逃げるように空は飛び去って行った。
「案外惜しかったな。」
「そうだね、このまま殺せんせーの弱点を探し続ければかなり役に立つかも!」
「どう?2人とも殺せんせーは殺せそう?」
空に浮かぶ飛行機雲を指差す茅野。
「「殺すさ/殺すよ」」
暗殺大会に参加していた生徒達が思い思いに暗殺の事を語る異常な光景。
だが、烏間は思う。
生徒の顔が最も活き活きとしてるのは、このE組なのだと。
(しかし月乃君が見せたあの跳躍…恐らく彼は身体のバネがとても強いのだろう。それに勢いを殺さない踏み込み、そこから繰り出される体勢の安定した刺突、着地もしっかりとしていた。射撃成績は最下位だと聞いていたが、近接戦闘においてはトンデモない原石かもしれんな。…ん?)
暗殺大会での白利の跳躍を見て、色々と思考を巡らせていた烏間の前を本人が通りかかる。
「月乃君、少し良いか?」
「烏間先生、どうしました?」
「先程の君の跳躍についてなのだが、かなり股関節周りが柔らかいように見えてな、月乃君は何か部活や習い事は?」
「特にはして無いですけど…小さい頃から身体はかなり柔らかいです。」
『ほら』と白利は烏間の前で右足を高く上げ、地面とほぼ垂直になる。
踵落としのような姿勢だ。
「すごいな…!部活や習い事無しでここまで柔らかいとは…少し走ってもらう事はできるか?」
「…?まぁ良いですけど…」
烏間の頼みに疑問符を浮かべつつ、クラウチングスタートの姿勢を取り
「ふッ!」
(ッ!?速いっ!)
飛び出した白利を見て烏間は驚愕した。
「ふーっ…どうです?」
「なるほどな、君の身体の柔らかさを活かした良い走りだった。柔軟性と体幹があるからこそ出来る初速と低重心を維持した加速、脚力も文句無しだが何よりもそのしなやかさに目を見張るものがある。…となるとナイフ術も教えつつ体術も伸ばしていけば……」
「あ…あの、烏間先生?」
一回の走りでそこまでわかるものなのかと驚愕していたが、烏間が1人何やらブツブツと呟き始めたので声をかける。
「あ…すまない、だが君のその身体能力は磨けば必ず奴の脅威となるだろう。」
「…!そうですか、なら明日からお願いしますね烏間先生。」
「こちらこそよろしく頼む。ところで月乃君はかなり暗殺に積極的だな?」
「えぇまぁ、チャンスですから。」
「…そうか。引き止めてしまってすまなかった、気をつけて帰るように。」
「はい、さようなら烏間先生。」
少年の持つ可能性にニヤリと口角を上げる烏間なのだった。
ご覧頂きありがとうございました!
【月乃白利の秘密】
花は好きだがそこまで種類に詳しいわけでは無い