『兄のPCにバックドアを仕掛ける重すぎる妹と、重心移動が完璧すぎる潜入メイド。~天才お兄様は恋のバグに気づかない~』 作:水上 空
天才の「回答(アンサー)」
「……結愛、凛。……先月のバレンタイン、お前たちの提供した未確認物質により、俺の脳内OSは致命的な損傷(バグ)を負った。……その補填として、今日、俺からの『お返し(カウンター)』を受け取ってもらう」
3月14日の朝。零はリビングのソファに深く腰掛け、テーブルの上に二つの銀色に輝く「リング状のデバイス」を並べました。
「お兄様! まさか……それは、わたくしたちとの『終身雇用(結婚)指輪』ですの!? ……ああ、サイズを測るために、わたくしの左手薬指を24時間ペロペロとサンプリングしてくださってもよろしくてよ!」
「……。……零様。……指輪にしては、直径が大きすぎる気がします。……これは……手首用……あるいは……」
凛が息を呑みました。そのリングの内側には、微細な針のようなセンサーと、青く発光する流体金属が仕込まれていました。
「……これは、俺が開発した新型のウェアラブル・デバイス。……通称、**『Q.E.D.(完全証明型・隷属管理機)』**だ。……指輪などという不安定なものではない。……お前たちの『首』に装着させてもらう」
零は立ち上がり、まずは結愛の背後に回りました。カチリ、という冷たい金属音と共に、結愛の白い首筋に銀の輪が嵌められます。
「……ッ!? ……あぁっ! 冷たい……。お兄様の、冷徹な独占欲が……首元に……っ!」
「……このデバイスは、お前たちの心拍数、体温、そして俺への『思慕濃度』をリアルタイムで俺のスマホに送信する。……さらに、俺から10メートル以上離れようとした場合、微弱な低周波(快感信号)を流して、強制的に俺の元へ引き戻す『帰巣本能・強制発動モード』を搭載している」
次に、零は凛の首にも同じものを装着しました。凛は首に触れる零の指先の熱と、デバイスの重みに、膝がガクガクと震え始めます。
「……。……零様。……これは、つまり……私は一生、あなたの『所有物(プロパティ)』として……あなたの視界から逃げられない……ということでしょうか?」
「……当然だ。……お前たちが俺の理性を壊した以上、俺もお前たちの『自由』という名の変数を排除させてもらう。……異論はないな?」
学園の廊下。
首元に銀のチョーカー(首輪)を光らせ、零の左右をピッタリと歩く二人の少女。
零のスマホには、常に二人の異常な「幸福度数値」が表示されています。
「お兄様! 他の女子生徒がわたくしを睨んでいますわ! ……でも無駄ですわよ、わたくしとお兄様は今、この『物理的な絆』で電気的に繋がっていますの! 離れようとすると電気が走るなんて……最高すぎますわぁぁ!!」
結愛はわざと零から離れようとしては、デバイスの引き戻し機能によって零の肩に激突し、その衝撃に恍惚の表情を浮かべます。
「……。……結愛。……零様に迷惑。……私は、常に零様の左後方0.5メートルを維持。……この首輪が発する微振動が、零様の存在を……私の脊髄に刻み込んで……脳が……とろけそうです……」
凛はクールを装いつつも、首元のデバイスを愛おしそうに撫で、瞳には制御不能な熱が溢れ出していました。
帰宅後の桐生邸。零は二人の首輪をリモートで軽く締め上げ(圧迫感を与える程度に)、自分を見上げる二人を冷たく見下ろしました。
「……ふむ。……お前たちのデータを確認した。……俺の支配下にあることで、生存本能が最大化されているようだな。……非常に非論理的だが、俺もお前たちがこの『鎖』に繋がれているのを見ると……不思議と、演算効率が上がる」
零は二人の頬を、かつてないほど強引に掴み、引き寄せました。
「……ホワイトデーのお返しだ。……一生、俺の計算の『定数』として……俺の傍でバグを出し続けろ。……分かったか、俺の奴隷(愛しき変数)ども」
「「……はい……ッ!!!(オーバーフローにより同時気絶)」」
天才が導き出した、究極の回答。
それは、愛という名の「強制管理」。
ホワイトデーの夜、桐生邸には、三人の狂った心拍数だけが同期(シンクロ)して響き渡るのでした。