『兄のPCにバックドアを仕掛ける重すぎる妹と、重心移動が完璧すぎる潜入メイド。~天才お兄様は恋のバグに気づかない~』   作:水上 空

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『水着の物理学』。視覚データが飽和(パンク)していますわ

 

深夜の添い寝という「過剰なバグ」によって一睡もできなかった翌週。零はさらなる非論理的な研究を提唱しました。

 

「……よし。結愛、凛。今日の目的は、海水の塩分濃度による光の屈折率の変化、および、紫外線の皮膚組織への干渉データの収集だ。……なぜお前たちがそんなに殺気立っているのかは不明だが」

 

夏の陽射しが照りつけるプライベートビーチ。零は白衣(夏用)を羽織り、砂浜に精巧な光学センサーとノートPCを展開しました。

 

「お兄様! 紫外線対策なら完璧ですわ。わたくし、お兄様の視界を100%独占し、有害な光線からその網膜を守る『物理的遮断(ボディーガード)』を担当します!」

 

結愛が、バサリとパーカーを脱ぎ捨てました。

そこに現れたのは、もはや紐の集合体としか思えない、四十院家……ではなく桐生家の技術の粋を集めた**「極小面積のマイクロビキニ」**。

 

「……ッ!? ……結愛。お前の水着の表面積、理論上、俺の計算式の『変数1つ』より小さいぞ。……皮膚の露出による熱収支が赤字だ」

 

「いいんですの、お兄様! 収支は愛で補填しますわ!」

 

「……。……零様。……結愛の計算は甘い。……私は、海水の反射率を考慮し、『視覚的な誘目性』を最大化させた、メタリック・ホルターネックを採用。……さらに、メイドとしての機能美(フリル)を残した特注品です」

 

隣で凛が、クールな無表情のまま、パーカーを脱ぎました。

こちらは清楚な白と、大胆なカッティングが融合したハイレグ水着。濡れたら間違いなく「アウト」な素材感が、零の動体検知センサーを刺激します。

サンオイルの「摩擦係数」

 

「……ふむ。二人の皮膚温度が上昇しているな。……火傷(サンバーン)の危険がある。……オイルを塗布して、表皮の保護を行う必要がある」

 

零は無機質な手つきで、最高級のサンオイルを取り出しました。

 

「「……ッ!!!」」

 

二人の少女の脳内で、同時に計算機が火を噴きました。

(お兄様に……直接……オイルを……塗られる……!?)

 

「お、お兄様! わたくしのこの……ハッキングで鍛えた(?)背中のラインに、たっぷりと、隅々まで『愛のコーティング』を施してくださる……!?」

 

「……。……零様。……私の肩甲骨周りは、メイドとしての可動域を確保するため、特に入念なマッサージ……いえ、塗布をお願いします」

 

零は二人の背中にオイルを垂らすと、プロの外科医のような手つきで、一切の感情を排して塗り広げ始めました。

 

「……。……。……結愛、背筋の緊張が激しいな。……脊髄に電気信号が走りすぎている。……凛、お前はなぜ息を止めている? 酸素供給が止まれば、脳の演算機能が低下するぞ」

 

「あ、あぁ……お兄様の指が……わたくしの、肌を……っ」

「……く……っ。……零様の……手のひらの、圧力……。……計算、不能……」

 

零の指先が、乙女の敏感な肌の上を滑ります。

零にとっては「液状の保護膜を均一に展延する作業」でしかありませんが、二人の少女にとっては、全身の神経が零の指先に吸い寄せられる「官能的な地獄」でした。

 

「……よし、次は海中での挙動データだ。……二人とも、俺の腕に掴まれ。……引き波による転倒を防ぐため、物理的な結合(ホールド)を許可する」

 

「……っ!! 許可、出ましたわぁぁ!!」

 

二人は待ってましたと言わんばかりに、左右から零の両腕をガッシリと抱き込みました。

水着と肌が密着し、海水の冷たさとは裏腹に、零の腕には二人の体温と、柔らかい「肉の弾力」がダイレクトに伝わります。

 

「……ふむ。……水圧による圧迫かと思いきや、お前たちの『軟部組織』による反発力の方が強いな。……結愛、腕を締めすぎるな。……血流が止まる。……凛、なぜ俺の首筋に鼻を近づけている? 海水の匂いなど、どこで嗅いでも同じだろう」

 

「お兄様の……塩素(プールの名残)と、数理学の香りを……分析しているだけですわ……っ」

「……零様の……首筋の……心拍を、聴診……しています」

 

「……。……お前たちの行動は、常に俺の『物理法則』を逸脱しているな。……だが」

 

零は、左右で必死に自分に縋り付く少女たちの頭を、海風に吹かれながら軽く叩きました。

 

「……この『異常な浮力』のおかげで、俺も海に沈まずに済んでいる。……今日のデータは、非常に『熱い』ものになりそうだ」

 

結局、零のノートPCに記録されたのは、「二人の心拍数が200を超え、体温が40度に達した」という、およそ健康診断とは程遠い異常値の山でした。

 

「……よし、帰るぞ。……結愛、凛。……お前たちの水着、理論的には『防御力がゼロ』に近いが、俺の脳への『視覚的負荷』という意味では、核爆弾級のインパクトがあったようだ」

 

「「……っ!!(本日二度目の昇天)」」

 

零は、夕焼けに染まる二人を見つめ、少しだけ口角を上げました。

「……次回は、服の面積と羞恥心の相関関係を、家でじっくりと検証(生体検査)することにしよう」

 

天才のさらなる「無自覚な追い討ち」に、妹とメイドは、帰りの車中で幸せな熱中症にうなされることになるのでした。

 

 

 

 

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