『兄のPCにバックドアを仕掛ける重すぎる妹と、重心移動が完璧すぎる潜入メイド。~天才お兄様は恋のバグに気づかない~』 作:水上 空
夏の海の「視覚的飽和」を経て、季節は秋。聖マリアンナ学園の広大なグラウンドは、エリートたちのプライドと、二人の少女の「独占欲」が激突するコロシアムへと変貌していました。
開会式の「鉄壁陣形」
「……ふむ。グラウンドの砂の摩擦係数、および風速2.1メートル。……結愛、凛。今日の体育祭、俺の『効率的な勝利』のための計算は完了した。……だが、なぜお前たちはそんな重装備なんだ?」
零は体操着姿で、手にしたタブレットにコースの傾斜を打ち込んでいました。
その両脇を固める結愛と凛は、応援団の衣装……という名の、もはや「戦闘服」に近い武装を施しています。
「お兄様! 本日はお兄様の走る全コースに、わたくしが開発した『高精度カメラ付きドローン』を24機配備しましたわ。……お兄様の太腿の筋肉の動き、一ミリたりとも見逃しません!」
結愛はハチマキをキツく締め、モニター越しに女子生徒たちの視線を「遮断(ブロック)」する準備を整えています。
「……。……零様。……私は、あなたの発汗による脱水を防ぐため、浸透圧を完璧に調整した『自家製スポーツドリンク』を常備。……さらに、あなたの影に潜み、コース上の小石を瞬時に排除(デリート)します」
凛は白いブルマの上から、メイドの意地を感じさせるエプロンを着用。その手には、障害物競走用の網を切り裂くための「セラミックカッター」が隠されていました。「……次は、障害物競走か。……非効率な種目だが、俺の『空間把握能力』の証明には丁度いい」
零がスタートラインに立つと、周囲の女子生徒から「桐生様、頑張って!」「こっち向いて!」という黄色い悲鳴が上がります。
「……凛。第3コーナーの女子集団、デシベル数が許容範囲を超えているわ。……『指向性スピーカー』で、彼女たちの耳にだけ『数理物理学の講義音声(催眠用)』を流しなさい」
「……了解、結愛。……零様の走りを汚す不純物は、私が掃除(スイープ)する」
レース開始。零は物理演算を駆使した最短ルートを爆走します。
ハードルを飛ぶ際、愛がドローンで「理想的な向かい風」を発生させて浮力を与え、網をくぐる際は凛が事前に網の目を緩めておくという、徹底した「妹・メイド連合軍」のバックアップ。
「……おかしいな。……網の摩擦抵抗が、計算より80%低い。……まるで網が俺を避けているようだ。……超常現象か?」
零は困惑しながらも、ぶっちぎりの1位でゴールしました。
午後のメインイベント、騎馬戦。零は「王」として騎馬の上に君臨していました。
彼を支える馬役は、屈強なラグビー部員……を、結愛と凛が札束(あるいは脅し)で買収して退かせ、自ら志願した二人の少女。
「お兄様! 安心してわたくしの肩に乗ってくださいまし! ……お兄様の臀部の圧力を、脊髄で直接感じられる……ああ、これこそが真の『人馬一体』ですわ!」
「……。……零様。……私の体幹は、あなたの重心移動を0.01秒で予測します。……落馬など、私が心臓を止めてでも阻止します」
零は高い位置から敵を見下ろし、冷静に指示を出します。
「……結愛、凛。……お前たちの筋肉の収縮速度、女子の平均を逸脱しているぞ。……特に凛、お前はなぜ片手で敵の騎馬を物理的に持ち上げようとしているんだ?」
「……。……いいえ、零様。……これは、メイドとしての『お片付け』の一環です」
凛が鋭い目つきで敵の帽子を奪い取る中、結愛はハッキングで相手チームの無線をジャックし、嘘の作戦を流して自滅させていきます。
天才の兄を「最強」にするため、二人の少女は学園のルールという名の「バグ」を力ずくで書き換えていくのでした。
体育祭の締めくくり、キャンプファイヤーを囲んでのフォークダンス。
零は「踊るという行為の運動エネルギー効率」について考えていましたが、周囲の女子たちが「次は私の番!」と目を光らせて近づいてきます。
「……っ、お兄様! 他の女の手に触れるなんて、論理的にも倫理的にも許されませんわ!」
「……零様。……私の手袋越しでないと、あなたの皮膚が不純物に汚染されます」
結愛と凛は、零の腕を左右からがっちりとロック。フォークダンスの輪の中で、零だけが「女子二人に挟まれたまま、一歩も動かずに高速回転する」という奇妙なダンスを披露することになりました。
「……ふむ。……お前たちとの密着度、およびこの回転速度。……向心力が強すぎて、俺の脳内ホルモンが異常数値を叩き出している」
零は二人の手を強く握り返しました。
「……だが、悪くない。……お前たちの『バグ』に巻き込まれている方が、一人で勝利の方程式を解くより……心拍数が安定(満足)するようだ」
「「……っ!!!(本日最大級のオーバーヒート)」」
炎に照らされた二人の少女の顔は、どの数式でも説明できないほどの「幸福」に染まっていました。