『兄のPCにバックドアを仕掛ける重すぎる妹と、重心移動が完璧すぎる潜入メイド。~天才お兄様は恋のバグに気づかない~』 作:水上 空
非科学的な「初詣」
「……ふむ。正月の混雑統計によれば、この時間帯に神社へ参拝する行為は、1平方メートルあたりの人間密度が限界を超え、酸素供給効率が著しく低下する。……結愛、凛。なぜ俺たちはこの『非科学的な集団催眠』に参加しているんだ?」
雪がちらつく神社の境内で、零はマフラーを完璧な角度で巻き、タブレットの画面を見つめていました。
「お兄様! 初詣は、一年の『運命という名の乱数』を固定するための重要な儀式ですわ。……わたくしたち三人の未来が、数式を超えた愛で結ばれるよう、神様にデバッグ(お願い)しに来たのです!」
結愛は、いつもの制服ではなく、白衣に赤い袴の**「巫女装束」**に身を包んでいました。……もちろん、神社の許可など取っていません。
「……。……零様。……私は、神の加護よりも、あなたの体調管理を優先。……この巫女服の袖には、使い捨てカイロ20個と、緊急用の甘酒を完備。……隙のない奉仕をお約束します」
凛もまた、クールな表情で巫女服を纏っていました。巫女服の「脇の隙間」から覗く白い肌が、零の光学センサーをわずかに狂わせます。
「……よし。神という概念のデータ的価値を測るため、この『おみくじ』を引いてみる。……理論上、大吉を引く確率は15%前後のはずだが」
零が古びた木箱に手を伸ばした瞬間、背後で結愛と凛がアイコンタクトを交わしました。
(凛、光学迷彩展開。お兄様の視界を0.1秒だけジャックして!)
(……了解。……超小型ジャマー起動。……おみくじの束を『書き換え済みの特製品』に全入れ替え済み)
零が引き当てた一枚の紙。そこには、神の言葉とは思えないほど具体的な内容が記されていました。
【第零番:超大吉】
【願事】 全て叶う。特に妹との物理的接触において最大値。
【待人】 すぐ横にいる。銀髪でハッキングが得意な美少女。
【恋愛】 妹、または無表情なメイド以外との交際はバグを生む。
【幸運の鍵】 二人を左右から抱きしめること。
「…………。……おかしいな。……神社のサーバー……いえ、神のアルゴリズムが、あまりにも俺のプライベートに干渉しすぎている。……筆跡も、どこか結愛のタイピング癖に似ている気がするが……」
「気のせいですわ、お兄様! それは神様が、わたくしたちの『愛の方程式』を公認した証拠ですわ!」
参拝を終え、境内の隅で甘酒を飲む三人。
零が一口飲むと、その「糖分」と「麹(こうじ)の香り」に脳の演算が少しだけ緩みました。
「……ふむ。……お前たちの巫女服。……理論的には防寒性能が低いが、視覚的な刺激による『脳内温度の上昇』が激しい。……特に、その袖の隙間や、袴の足捌き……。……俺の網膜に焼き付いて離れないバグが発生している」
零は少し顔を赤らめ、左右の少女たちの頭を、巫女の髪飾りがずれるほど強く撫でました。
「お、お兄様……っ! 神聖な境内で、わたくしを直接『物理干渇(愛のナデナデ)』してくださるなんて……! 罰当たりすぎて昇天してしまいますわ……!」
「……。……零様。……私の心拍数、神社の鐘の音より大きく鳴っています。……このまま、私の……心を、お守り(ロック)してください」
「……。……お前たちは、本当に……俺の『計算外』ばかり起こすな。……だが」
零は、初詣の喧騒の中で、巫女姿の二人をグッと自分の方へ引き寄せました。
「……一年の計は元旦にあり。……今年の俺の目的は、この『二人のバグ』を解明することではなく……。……このカオスを、誰にも邪魔させずに楽しむことに設定した」
「「……っ!!(本日最大級の神のお告げ)」」
二人の少女は、零の腕の中で、お賽銭の総額よりも重い「幸福」に打ち震えるのでした。
天才の兄が下した今年の指針。それは、妹とメイドにとって、世界で最も甘く、最も逃げられない「呪縛」の始まりだったのでした。