カッツェ平野の内臓男爵   作:散弾アイスクリーム

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オーバーロードの設定画集また売って欲しいですよね。

まだ外見の明らかになってない至高の御方々とか、深淵なる躯のメンバーの見た目とか種族がめっちゃ気になります。


終章:深淵への招聘と絶対者の宣告

王国と帝国の戦争が終わり数日カッツェ平野の廃屋敷に、かつてないほどの静寂が降りていた。

 

建国の夢を砕かれ、ただ無力感に苛まれるイーサンと、アインズ・ウール・ゴウンへの狂信に魂を焦がすギャルソン。「対等な協力関係(かつての相棒)」は、もはや見る影もない。

 

「……こうなれば、ここを捨てることも視野に入れるべき――」

イーサンがそう言いかけた、まさにその時であった。

 

執務室の空間が、まるで黒い水面に石を投げ入れたように歪み、不気味な漆黒の穴がぽっかりと口を開けた。空間転移魔法《転移門(ゲート)》である。

 

「ふーん……。ここがデミウルゴスの言っていた、小賢しいアンデッドの巣窟でありんすね?」

 

ゲートの中から現れたのは、場違いなほど豪奢で可憐な真紅のドレスを纏った、銀髪の少女――階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールンであった。

 

しかし、その華奢な姿から放たれる気配は、カッツェ平野のどのアンデッドよりも濃密で、圧倒的な血と死の匂いを纏っていた。

 

「な、何者ですか!? 貴女は――」

イーサンが自身のスキルを発動し、言葉で牽制しようとした瞬間、シャルティアの姿が消えた。

 

気付けば、イーサンとギャルソンの体は、見えない強大な力によって首根っこを掴まれ、そのまま漆黒のゲートの中へと乱暴に引きずり込まれていた。抵抗する暇どころか、瞬きをする時間すら与えられなかった。

 

視界が晴れた時、彼らは鬱蒼とした木々が立ち並ぶ、トブの大森林の開けた場所に放り出されていた。

 

土の上に無様に転がったイーサンが顔を上げると、そこには、この世の終わりのような光景が広がっていた。

 

玉座のごとく設えられた豪奢な椅子の中心に座していたのは、威風堂々たるオーラを放つ骸骨の主。アインズ・ウール・ゴウンその人である。

 

そしてその周囲には、漆黒の翼を持つ絶世の美女アルベドや、怜悧な光を宿した悪魔デミウルゴスをはじめとする、カッツェ平野のどんな化け物よりも恐ろしい「常外のバケモノたち」が、主を護るように傅いていたのだ。

 

アインズは、眼下に平伏させられている二体のアンデッドを、赤い光を宿した眼窩で見下ろしていた。

 

しかし、その胸中では、全く別の感情が渦巻いていた。

(うわぁ……キッツ。ユグドラシル時代から内臓の卵(オーガン・エッグ)ってグロいデザインだとは思っていたが、現実になると直視できないレベルで気持ち悪いな……! なんでボタンの隙間から、生々しい内臓が脈打ってるのが見えるんだよ。目を逸らしたいが、威厳を保たねば……!)

 

必死に顔をしかめたい衝動を抑え込み、アインズはもう一体――隻腕の死者大魔法使い(エルダーリッチ)の方へ視線を移した。

 

ギャルソンは地面に額がめり込むほど擦り付け、穴の開くような熱視線をアインズに向けながら、「おお……おおぉ……! 魔導の神よ……! 深淵の極致よ……!」と、狂信者特有の恍惚とした声を漏らしている。

 

(……うわぁ、またアイツ(フールーダ)みたいなヤバイ奴が増えたぞ。なんで私が会う魔法詠唱者は、どいつもこいつもこういうヘンな連中ばかりなんだ……)

 

心の中で盛大なため息をつくアインズをよそに、デミウルゴスが一歩進み出て、恭しく一礼した。

 

「アインズ様。カッツェ平野にて独自の集団を形成し、裏社会の人間どもと接触を図っていた特異個体、二体の身柄を確保いたしました。これより、捕獲個体の評価と処遇案をご報告いたします」

デミウルゴスは眼鏡を押し上げ、冷酷な目で二体を品定めするように見下ろした。

 

「まず、そこの隻腕の死者の大魔法使い(ギャルソン)につきまして。我々の基準では息を吹きかければ消し飛ぶほど脆弱ですが、この地で発生した個体としては、他の死者の大魔法使い(エルダーリッチ)を支配できるほど強く、魔法への強い探求心を持つ希少な存在です。我々がこの地でのアンデッドのレベルアップとクラス獲得のメカニズムを解明するための、『生きた実験体』として活用できるかと存じます」

 

「おぉ……アインズ・ウール・ゴウン様のお役に立ち、その叡智の一端となるのならば、この身、魂の最後の一欠片まで、喜んで捧げます!!」

ギャルソンは歓喜の叫びを上げ、自身の残った左腕をちぎらんばかりに震わせた。

 

デミウルゴスはそれを虫でも見るような目で一瞥し、次いでイーサンへと視線を向けた。

 

「続いて、そちらの内臓の卵(イーサン)につきまして。……結論から申し上げますと、利用価値は皆無です。戦闘力は皆無に等しく、特筆すべき《交渉術》などの精神干渉スキルも、私の『支配の呪言』などの完全なる下位互換。生かしておくリソースすら惜しいかと。皮を剥ぎ、現地のアンデッドを用いたスクロールの素材の実験用として牧場へ送るのが最も効率的でしょう」

 

「——ッ!?」

 

スクロールの素材。皮を剥ぐ。

 

デミウルゴスのその無慈悲な宣告に、イーサンの腹の裂け目を留めているボタンの一つが、恐怖で千切れ飛んだ。腸が狂ったように蠢き、彼を満たしていた絶望は、命の危機という原初的な恐怖へと一瞬で塗り替えられた。

 

(素材!? 私が、長年裏社会を操ってきたこの私が、ただのスクロール(紙切れ)になるだと!? ふざけるな、私は……!)

 

「お、お待ちください、至高なる御方!!」

 

極限の恐怖と生存本能が、イーサンの行動を暴走させた。彼は自身の持つスキル《交渉術》と《カリスマ》を全開にして発動させながら、アインズに向かって必死の命乞いを始めたのだ。

 

「私にはスクロールの素材にする以上の価値があります! 確かに戦闘力は皆無に等しいですが、私は長年、王国の八本指やズーラーノーンといった人間の裏組織と、独自の取引ルートを築いてまいりました! この交渉術とコネクションをもってすれば、必ずや御方の――」

 

「——下等なゴミ屑が」

 

その瞬間、トブの大森林の空気が、文字通り「凍りついた」。

 

いや、世界そのものが途方もない重力で圧し潰されたかのような、絶対的な殺気が爆発したのである。

 

「至高なるアインズ様に向かって、あろうことか、その矮小な『精神干渉スキル』を放ったか……? 貴様のようなウジ虫が、アインズ様の御心に触れようとしたというのか?」

 

漆黒の翼を広げたアルベドが、その絶世の美貌を夜叉のごとく怒りに歪ませ、イーサンを見下ろしていた。彼女の手には、すでに長柄の大斧(バルディッシュ)が握られ、イーサンの首筋へと振り下ろされようとしている。

 

アルベドだけではない。シャルティアの瞳は血のように濁り、周囲に控える全ての守護者が、この不届き者を微塵切りにしようと身構えていた。

 

「ヒィッ……!?」

 

(殺される。間違いなく、ここで塵一つ残さず消滅させられる——!)

 

イーサンは声にならない悲鳴を上げ、顔のない頭部を抱えて地面にうずくまった。

 

「待て。アルベド、武器を収めよ」

 

その絶望の底からイーサンを引き上げたのは、他でもないアインズの静かな、しかし絶対的な声だった。

 

アインズが軽く手を挙げると、守護者たちの圧倒的な殺気は、まるで幻であったかのようにスッと引いていった。

 

(実のところ、アインズは自身のアンデッドとしての精神作用無効化特性と、圧倒的なレベル差による抵抗(レジスト)により、イーサンがスキルを使ったことにすら気付いてすらいなかった。ただ、アルベドが急にキレたため、寛大で器の大きい王を演じるために制止しただけである)

 

アインズは眼下で震える「内臓の卵(イーサン)」を見下ろしながら、その赤い眼窩の奥でひそかに思案を巡らせていた。

 

ユグドラシルにおけるアンデッドは、基本的に戦闘や魔法詠唱に特化したモンスターである。イーサンのように交渉に特化したクラスを持つアンデッドなど、ゲーム内には――そういうロールプレイヤーを除いては――存在しなかった。

 

今後、エ・ランテルを中心として労働アンデッドの派遣事業などを行っていくつもりだ。その際にアインズが召喚した死者の大魔法使い(エルダーリッチ)を使う予定である。しかし、こうした事務作業や交渉スキルを持つアンデッドの方が、管理職として使い道があるのではないか――アインズはそう考え、僅かに興味を惹かれたが――

 

(…………いや、キツい。やっぱりキツい)

アインズは心の中で即座に前言を撤回した。

 

(ボタンの隙間からウネウネ動いてる臓器とか、視界に入るだけで精神衛生上極めてよろしくない。こんな奴を管理職にして、定期的に執務室へ報告に来られた日には、胃が——胃はないが——痛くなりそうだ。そもそも交渉事なんて、デミウルゴスやアルベド、パンドラを使えば十分すぎるし、近隣国家の裏社会の掌握は既に済んでいる。わざわざこんなグロテスクな奴を雇ってまで得られるメリットがないな……)

 

イーサンが誇るスキルも人脈も、ナザリックの圧倒的な力と既存の手駒を前にしては、我慢してまで生かしておくほどの価値はない。アインズはそう結論付けた。

 

「イーサンとやら。貴様の言い分はわかった。確かに、交渉に長けた非戦闘系のアンデッドというのは、多少レアな存在ではある」

 

「で、では……!」

 

イーサンの頭部が、希望に弾かれたように跳ね上がった。しかし、死の支配者から下されたのは、冷酷極まりない宣告であった。

 

「だが、不要だ。貴様が誇る力など、我々の前では小賢しい児戯に過ぎん。

裏社会の繋がりも、我々ナザリックは既に掌握している。何より――貴様のその姿は、私の視界を著しく汚す。生かしておくほどの価値は見出せん」

 

「——え?」

イーサンは我が耳を疑った。

 

計画の甘さよりも、スキルの弱さよりも、「見た目が不快だから」という、あまりにも理不尽で身も蓋もない理由で、自身の存在価値を全否定されたのだ。

 

「デミウルゴス。貴様の提案通り、その者はスクロールの材料として有効活用せよ」

 

「御意に。至高なる御方の視界を汚した罪、極上の悲鳴という形で償わせつつ、余すところなく資源として活用いたしましょう」

 

デミウルゴスが恭しく一礼し、酷薄な笑みを浮かべてイーサンへと歩み寄る。

 

迫り来る死の足音に、イーサンは顔のない頭部を激しく振った。自身の唯一の武器である交渉は通じない。自身の貧弱な戦闘力では、目の前の悪魔の指一本にすら抗えないだろう。

 

極限のパニックの中、イーサンは一縷の望みをかけ、すぐ傍らで平伏しているかつての「対等な協力者(ギャルソン)」へと縋るように向き直った。

 

「ギャルソン! ギャルソン!、何とか言いなさい! 私たちは共に国を興すことを夢見た盟友だったはずです! 貴方の魔法で……いや、貴方からもこの御方々に私の有用性を説いて――」

首の腸を狂ったように振り乱しながらの必死の叫び。

 

しかし、ゆっくりと顔を上げた隻腕のエルダーリッチの眼窩に灯る青白い炎は、かつてイーサンと共にカッツェ平野で野望を語り合った頃の光ではなかった。

 

それは、絶対的な神の威光に魂の底まで灼き尽くされた、純度百パーセントの狂信者の炎であった。

 

「……何を言っているのですか、イーサン様。国を興す? なんと矮小で、ひどく無価値な夢物語でしょう」

 

ギャルソンは、見苦しく足掻くかつての盟友を、酷く哀れむような――いや、心の底から『理解できない』といった様子で見つめ返した。

 

「今、我々の眼前に魔導の神が、至高の深淵がいらっしゃるのですよ? 貴方のその肉体が、皮が、神の偉大なる魔導を記すための『羊皮紙』としてこの世界に永遠に形を残す……。これほどの名誉が、これほどの至福が他にあるでしょうか」

 

「な、何を……狂ったのですか、ギャルソン! 私は皮を剥がれて死ぬのですよ!? スクロールにされて、跡形もなく消費されるのですよ!?」

 

「ええ、ですから」

ギャルソンはうっとりと自身の残った左腕を胸に当て、至極当然のことのように、狂気に満ちた声でイーサンを諭した。

 

「なぜ貴方は、至高なる御身の役に立てるというのに、その至上の歓びを理解できないのですか? なぜ、歓喜の涙を流して感謝の祈りを捧げないのですか?」 

 

「あ……あぁ……」

イーサンの思考が、完全に停止した。

 

自身の死という恐怖を超え、長年背中を預けてきた相棒が、もはや意思疎通すら不可能な全く別の「何か」に成り果ててしまったという圧倒的な絶望。

 

「ああ、嘆かわしい。その素晴らしい恩寵を理解できないとは……。さようなら、イーサン様。貴方の皮に記されるであろう神の魔法を、私はこの片腕で一生をかけて学ばせていただきます。どうか、立派なスクロールになってください」

 

「ち、違う! やめろ! 私は、私には野望が……アアアアァァァァッ!!」

 

かつてカッツェ平野で独立国家を夢見た「内臓男爵」の誇りも、磨き上げた交渉術も、絶対者の気まぐれなの前には何の役にも立たなかった。

 

漆黒の闇へと引きずり込まれていくイーサンの絶望の叫びは、トブの大森林の木霊に虚しく吸い込まれ――やがて、ナザリックの偉大なる魔導を記すための、ただの「羊皮紙」(低位の素材)へと姿を変えるのであった。




これで哀れな内臓男爵のお話は終わりです。
IFストーリー&キャラ設定も投稿してますので、よかったら見てってください。
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