今回の話の最後にイーサンとギャルソンの設定を載せてあります
IF:内臓男爵の憂鬱なる中間管理職生活
魔導国建国から数ヶ月後。
かつてカッツェ平野の死気漂う廃屋敷で独立国家を夢見た「内臓男爵」ことイーサン・マース・マトックは、今やエ・ランテルの片隅に設けられた窓一つない地下事務所で、かつてないほどの激務による胃痛に悩まされていた。
「……本日分の八番スケルトン隊、第三農耕区画への配分表の作成完了。続いて、エ・ランテル近郊の街道拡張工事に従事する三番ゾンビ隊の交代スケジュールの調整……っと」
薄暗い地下の執務室で、イーサンは顔のない頭部を机に沈め、酷使して震える手で羽ペンをインク瓶に戻した。
かつては王国の闇社会を牛耳る「八本指」や秘密結社「ズーラーノーン」を手玉に取り、壮大な建国計画の図面を引いていた彼が、今やっているのはあまりにも地味で、それでいて胃をすり減らすような膨大な事務仕事であった。
彼が管理するのは、かつて自分が支配しようと夢見た強大な力を持つアンデッドの軍団ではない。鍬を持ち、土を運び、ただ黙々と単純作業に駆り出される、知能の欠片もないスケルトンやゾンビたちである。
直接人間と顔を合わせるには不向きなグロテスクな外見のため、基本的にはこのカビ臭い地下に引きこもり、裏方の折衝をこなす毎日だ。
一方のギャルソンはといえば、ナザリックの実験施設に収容された後、「あぁ……! アインズ様の偉大なる魔導研究の礎となれるとは……! これぞ至上の歓び!」と狂気的な悦びに浸り、その隻腕で日々自らの魔力を捧げ、狂ったように魔導書を書き綴っているという。かつての盟友は完全に
「アインズ様の御慈悲で生き永らえたとはいえ、この絶え間ない仕事量……。少しでも数字にミスをすれば、容赦のないデミウルゴス様の査チェックを経て、『ニューロニスト』なる御方の尋問室へ直行することになる……。考えただけで、腹を留めているボタンが恐怖で弾け飛びそうです」
首に巻いた腸を疲れ果てた手で整えながら、イーサンは立ち上がった。作成したアンデッド派遣事業の週次報告書を、魔導国の出張所に直接届けるためだ。自身の醜悪と呼ばれた体を足元まで隠す分厚いローブで完全に覆い隠し、フードを深く被って、彼はエ・ランテルの大通りへとこっそり足を運んだ。
かつて墓地に数万のアンデッドが跋扈し、自身の建国計画の肥沃な苗床となるはずだったこの街は、今や多種族が平和に行き交い、かつての面影など微塵も残っていない「世界で最も安全な都市」へと変貌を遂げていた。
その活気ある広場の片隅を急ぎ足で通り抜けようとした時、イーサンはピタリと足を止めた。
「……? 何ですか、あの奇妙な生き物は」
賑わう大通りを、巨大な毛むくじゃらの塊が、立派な鎧をガチャガチャと鳴らしながら、短い足で器用に横切っていくところだった。
(あれは……確か、このエ・ランテルを拠点とし、今や魔導国の客将として滞在している、アダマンタイト級冒険者、モモンが従えているという魔獣『森の賢王』……)
イーサンは記憶の糸を引っ張り出しながらその姿を観察し――そして、その生き物の首に太い鎖でぶら下がっている、禍々しい漆黒の光を放つ玉に釘付けになった。
自身の腸が、激しい拒絶反応を示すように波打つ。
「……ま、間違いない。あれは、私がズーラーノーンのカジットに与えた……いや、計画のために押し付けた『死の宝珠』ではないですか!? なぜ、冒険者のペットの首飾りにされているのです!?」
イーサンはローブの下で戦慄した。
『死の宝珠』は、使えば使うほど所有者の精神を汚染し、自我を喰らい尽くして死へと誘う強力な呪いのアイテムである。それを、あろうことかただの獣が「アクセサリー」として無造作に身に付けているのだ。
宝珠は知性を持つアイテムであり、その声は触れている者――あるいは所有者として繋がっている者にしか聞こえないはずである。当然、少し離れた場所にいるイーサンに宝珠の声は届かない。
しかし、彼の耳には、その首飾りをぶら下げた巨大ハムスターの信じがたい独り言が届いた。
「わかっているでござるよ、宝珠殿。そんなに急かさないでほしいでござる。主である殿の威光を汚すような真似はせぬゆえ、頭の中に直接響く声でガミガミと小言を言うのは勘弁してほしいでござるよ」
鬱陶しそうに首元の宝珠を短い前足で小突きながら、そうぼやいていた。
(宝珠殿、だと……?)
イーサンは目の前の光景から「事実」を即座に気付いた。
あの宝珠は間違いなく意識を保っている。そして、所有者であるペットの脳内に直接語りかけ、精神汚染による支配を試みているか、あるいは何らかの指示出しをしている。しかし、当の巨大ハムスターは精神を喰われるどころか、宝珠のテレパシーを「口うるさい小言」程度にしか受け取っておらず、完全に持て余しているのだ。
(モモン……! カジットを討ち果たしたあの戦士は、宝珠の強力な精神汚染を完全に跳ね除けたばかりか、この呪われた知性体アイテムを完全に屈服させ、あろうことか自身のペットの『喋るおもちゃ』として与えたというのか!?)
イーサンはその場にへたり込みそうになり、慌てて近くの壁に手をついた。
彼がかつて王国を壊滅させるための「死の螺旋」の核にしようとした、誇り高き死の秘宝。それが今や、ただのハムスターの小言役である。
(……あのモモンという戦士、英雄などという枠には到底収まらない規格外のバケモノだ。だが……ああ、なんということだ
)
イーサンは、さらに深く、暗く冷たい底なしの絶望に気付いてしまった。
(そのバケモノのような英雄モモンすらも、現在はこの魔導国において、アインズ・ウール・ゴウン陛下の圧倒的な武の前にひれ伏し、軍門に降って配下として働いている。……私の究極の切り札をペットの首輪にするような規格外の人間すらも、アインズ様にとってはただの手駒の一つに過ぎないのだ……!)
自分の野望がいかに小さく、ひなびたものであったか。
自分の企んでいた「建国」という名の砂上の楼閣が、絶対者たちから見ればいかに滑稽な子供の泥遊びであったか。
それを改めて、無慈悲な形で突きつけられた瞬間だった。
「……戻りましょう。私には、処理すべき書類の山が待っています」
イーサンは、かつての野心の欠片をカッツェ平野の霧の中に捨ててきたつもりだったが、今日、その最後の一欠片すらも完全に砕け散ったのを感じた。
あんな神の領域の強者たちに、小細工で逆らおうなどと考えた自分がどれほど愚かだったのか。彼は今、魔導国という巨大で絶対的な組織の末端の歯車の一つとして生きることに、一抹の「諦観」と、奇妙な「安らぎ」すら感じ始めていた。
「残業してでも、明日のスケルトン派遣リストを完璧に仕上げなければ。……ニューロニスト殿の部屋だけは、それだけは絶対に避けねばなりませんからね……」
かつてアンデッドの国の建国を夢見ていた「内臓男爵」は、恐怖に震えながらローブの裾を翻し、急ぎ足で地下事務所へと帰っていく。今日もしがない中間管理職として、アインズ・ウール・ゴウンという絶対者の下で、己の身を守るために必死にペンを動かし続けるのであった。
以下キャラ紹介
名前: イーサン・マース・マトック
(Ethan Mars Mattock)
二つ名: 内臓男爵
種族: 異形種
アライメント: 極悪(カルマ値:-350)
住居: カッツェ平野の廃屋敷 ⇒ アベリオン丘陵のデミウルゴス牧場
【クラス構成】
取得総計レベル:28レベル
種族レベル(計5レベル)
職業レベル(計23レベル)
ノーブル Lv5
カリスマ Lv10
エキスパート Lv5
ネゴシエーター Lv5
アドミニストレーター Lv3
名前: ギャルソン
(Garçon)
二つ名: 隻腕の探求者
種族: 異形種
アライメント: 邪悪(カルマ値:-200)
住居: カッツェ平野の廃屋敷 ⇒ ナザリックの実験施設
【クラス構成】
取得総計レベル:34レベル
種族レベル(計10レベル)
職業レベル(計24レベル)
ネクロマンサー Lv10
ハイ・ネクロマンサー Lv3
ウィザード lv10
サーヴァント Lv1
ハムスケの下りが書きたかっただけです。
宝珠は原作だとハムスケの飴玉みたいな扱いでしたが、少し分かりにくそうだったので、首輪にしちゃいました。
次回作は原作キャラを主人公で書くアイデアがあるのである程度、ストックが書けたら連載で投稿したいなぁと思っています。(仕事の配属が変わるので、どうなるかわかりませんが)
では、改めて読んでくださりありがとうございます。