銀魂 奈落の底から天へ翔ける烏   作:白河葵

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 時間かかりました(汗)もっと早く投稿したかったけど、なかなか書けず苦しかったです。長くなったので2話に分けました。
 後、子供が良くない扱いを受けてる描写があるので、地雷の方は注意してください。



第二話 協力、過去

 「奈落を滅ぼす・・・・・・」

 

 朧は呆然と呟く。

 あまりにも無謀な考えだ。奈落に身を置いて日が浅い朧でも、この組織の強大さは身にしみて分かっていた。なのに、この子供は屍を殺すだけでなく、奈落を滅ぼすと言ったのだ。

 

「無謀だと言いたいんだろ」

 

 朧の内心を見透かしたのか、(もがり)がぶっきらぼうに言う。

 

「とはいえ、お前も大概だろ。奈落で一番の下っ端、しかも一度は足抜けしようとして戻ってきた奴。そんな奴が、首領に成り上がろうなんざ万が一他の奴に聞かれても相手にされないどころか大笑いされるだろうな」

「・・・・・・」

 

 もっともな事を言われ、黙り込んでしまう朧。

 

「さっきも言ったが、お前が頑張り続けても奈落がある限りお前の先生は追われ続けるし、お前に何かあったら先生を守る事も出来なくなるぞ」

 「滅ぼすにしたって、あれだけの数を相手に戦えるわけないだろ」

 「それは理解している。

 だが、あいつらは幕府の、いまは天導衆の権威を笠に着て、命令一つで攘夷志士だけでなく対立する派閥に所属していただけの人間を、その家族ごと平気で殺すような連中だ。 

 放っておけばこれから先もそんな風に殺される人間が増え続ける。・・・・・・お前はそれでも良いのか?」

 

 

 

 

 

 朧の脳裏にかつて、奈落の襲撃に巻き込まれた時の光景が蘇る。見知った者が物言わぬ骸になり、自らも蔵に隠れていた所を見つかり、殺される所だった。あの時の死を前にした時の絶望は今でも忘れることができない。

 奈落が存在し続けるあたり、あの光景がどこかで引き起こされる。まして、首領になれば自分の手で引き起こすことになる。

 

 不意に肩に手を置かれた。びくりと肩を震わせ、前を見れば殯がこちらの顔を覗き込んでいた。その顔には先ほどまでの険しい表情ではなく、どこかこちらを気遣うようなものだった。

 

 「顔色が悪い。辛いことを思い出させたようだ・・・・・・すまない」

 「・・・・・・いや、大丈夫だ」

 

 朧は殯の思いがけない行動に驚いたが、殯は「無理はしなくていい」と声をかけ、そっと肩から手を放す。

 

 「まあ、奈落を滅ぼすとかは一旦置こう。首領を目指すなら(かばね)がいる限り不可能だ。奴は権謀術数に長けているが、暗殺者としても一流だ。だからこそ、幹部に上り詰め今首領になろうとしている。どのみち奴と闘う事は避けられない。

 ・・・・・・なら、それまででもいい。手を組まないか?」

 

 

 

 

 

 殯の言葉に朧は必死で考えを巡らせる。

 正直、殯の申し出に心が動きつつある。だが、一方で信じられない気持ちがあった。首領だった先生も知らない隊員。本当にそんなことがあるのだろうか?朧の脳裏に人間味を感じさせない冷たい目が思い起こされる。

 

 屍。幹部の一人であるその男とは一度顔を合わせたことがあった。

 

 先生と一緒にいる時、任務の報告だと言って先生の私室にやってきたのだ。

 その際、朧のことを値踏みするように全身を隈なく嘗め回すような視線を向けてきて、背筋に寒いものが走った。

 先生がそのことに気付いたのか、早々に屍を下がらせたが、それでも最後まで朧を不気味な目で見ていた。その後、直接会うことがなかったが時々遠くからこっちをあの目で見ていてその度に気味の悪い思いをした。

 

 そいつの直属の部下だというが、それこそ罠ではないだろうか。

 だが、さっきから周囲の様子をひたすら気にしているし、わざわざ天井裏から牢の中へ侵入してきたことといい、誰かにここにいることを知られるのをひどく恐れているようだ。  

 それに先程屍について話したとき「奴隷のようなもの」だと言っていた。その時の憎悪と殺意を募らせた表情が芝居ならたいしたものだ。

 

 

 

 

 

 「一つ聞きたい。恨みがあると言ってたけど、いったい何があったんだ」

 

 朧がそう尋ねると、殯の顔が歪んだ。握られた手は震え、ギリッと音がするほど歯を食いしばる。

 

 

 

 

 

「家族の仇だ」

「え・・・・・・?」

 

 絶句した朧を尻目に、殯はどこか遠くを見つめるような眼をして話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 元々、殯はどこかの山奥にある村の村長の家の生まれだという。生まれてすぐに親を亡くしたが親類や村の人間とは折り合いが悪かった。彼らは殯の外見が自分たちと違うことや成長が人より妙に早いことを理由に「化け物」と気味悪がっていた。

 その為名前を付けられず屋敷の隅にある離れに入れられ、外へ出ることは許されず、窓から景色や外にいる人間を眺めるばかりの生活を送っていた。

 

 だが、彼には唯一味方がいた。烏たちだ。一度なんとなく烏の鳴き声を真似したところ、窓にはめられた格子の隙間から彼らは部屋に入ってきた。

 不思議なことに殯は彼らが何を伝えようとしているのか理解できるのだ。烏たちも彼の言うことがわかるのか、殯が空腹を感じれば木の実や食べられる草などを嘴に咥えて運んできてくれたのだ。家の人間は食事を出しはするが、量は少なかったため、烏たちのおかげで何とか飢えず生きることができた。

 

 それだけでない。ある日の夜戸の外から鳴き声が聞こえた。気になって戸に手を掛けたら施錠されているはずの戸があっさり開いた。

 見れば閂が外されていて、近くに止まっていた烏が誇らしげに胸を張っているように見えた。それを見て、少し前に烏を撫でながら「ここから出たい」と呟いたのを思い出した。それを覚えていてくれたのか。

 

 「ありがとう」と言いながら、頭を撫でると小さく「カァ」と鳴く。今のうちに出ろ、ということらしい。辺りの様子を伺いながら、離れを抜け出す。

 家人は寝静まっているのか、わずかに寝息と鼾が聞こえるだけだ。気づかれないようにと足音を出さずに歩く。先ほど閂を開けてくれた烏が先導するように前を飛び、その後を付いていく。

 

 そうして屋敷の門を抜け、村の中をこれまた村人に気づかれないように物陰や裏道を通り、しばらくすると村を出たのか家はなくなり木が鬱蒼と茂る森の中に入っていた。

 だが、恐ろしいとは思わなかった。前を飛ぶ烏の姿が夜の森の中でも見えていたし、他にも烏たちが近くを飛んでいる気配があった。

 何より、外に出られた解放感が強い。もう閉じ込められていない。自分は自由で、どこへだっていけそうな気がする。

 それを実感したのが心のままに歩く足は次第に速くなり、いつしか走り出していた。  

 

 それまで走ったことなどないはずなのに、自然と足は大きく前へ前へと進み、飛んでいる烏たちに追いつけるんじゃないかというほどに速くなっていた。ただひたすら気持ちがよくて、いつまでも走っていたいと思った。

 そうして走っているうちに山の中に入っていたらしい。道が険しくなってきたが、構わず走り続けていた。そうしていつまでも走り続けるかと思っていた矢先、突然目の前に黒くてゴワゴワした「何か」が現れた。

 

 「あ」

 

 気づいて止まろうとしたが、すぐには止まることができない。結局走っていた勢いそのままにその黒いごわごわした物に激突した。

 

ドゴッ!

 

 全身に走る衝撃。回る視界。どさっという重い音と共に地面にたたきつけられる。ぶつかった顔や胸がじんじんと痛む。

 何とか起き上がると少し開けた所にいた。見れば、黒くてゴワゴワしたもの少し離れた所にある木の根元に横向きで倒れていた。鼻の横に牙が生え、ずんぐりしたその生き物を見てなんだろうこれ、と思っていると

 

 「・・・・・・天狗様か?」

 

 という声が聞こえた。見れば彼より年上の十二、三ぐらいの子供だった。そばかすのある顔をしており、びっくりしたように目をまん丸くしてこっちを見ていた。粗末な着物の上に鹿皮を羽織り手には手斧を持っていた。

 

 

 

―――これが、兄弟との出会いだった。

 

 

 

 

 「って、んなわけあるか!」

 

 話を聞いていた朧は黙ってられずツッコミを入れてしまった。

 

 「なんでずっと閉じ込められた子供がすごい速さで走ってんだ!あと、猪に激突してよくケガしなかったな!いやそれで猪を倒すなんてありえないだろ!」

 「いや、自分でもびっくりしたな。走ると急には止まれないんだな」

 「驚くのそっち!」

 

 ずれた驚き方をしている殯に朧はドン引きした。

 

 「まあ、話を続けるぞ」

 「え、このまま話を続けるの」

 

 

 

 

 

 あの後、猪を担いで子供―――喜一(きいち)が住んでる小屋に向かった。

 

 何でも彼も元はあの村―――ここから山一つ離れていたらしい―――で生まれ育ったらしい。が、親や村人からは冷たく当たられ、それでも祖父だけは味方でいてくれたらしく、彼に連れられてこの山小屋に移り住むようになったとか。

 そして、祖父から罠を使った猟や食べられる野草の見分け方、山の中で生きていくための知恵を教えられながら生活していたが、最近祖父が亡くなり、それでも頑張って一人で生きようとしていたところ山の中でイノシシに遭遇してしまい、何とか逃げようとしたが追い詰められもうだめだと思ってきたとき、殯が猪を(結果的に)倒したことで難を逃れたという。

 

 さらにその時、人間離れした速さで飛ぶように走り、周りに烏たちが飛んでいるから山の主―――天狗じゃないかと思ったという。そんなものじゃないと否定するが、でも助けてくれたと笑顔で話す太一を奇妙に感じた。

 

 「お前は俺が怖くないのか?村の奴は髪や目の色が気味悪い、人よりやけに成長が早いなんて人間じゃないなんて言ってた」

 「それは、村の人間が天狗様の祟りを恐れてるからだよ」

 「たたり?」

 

聞いたことがない言葉に怪訝な表情をすると「聞いたことないんだ」と言って喜一が教えてくれた。

 

 「何でも大昔、空の果てから天狗様が村にやってきて村長の娘と夫婦になって子供が生まれたんだって。

 でも、村長はそれが気にいらなくて、ある日村人と一緒に天狗様を殺した。その後、山から獣がやってきて村人を襲ったり、日照りや大雨が続いて食べ物がなくなって村人が大勢死んだり・・・・・・天狗様の祟りだと思った村人は山の神として天狗様を祀ってお供えとかするようになったってじいちゃんが言ってた。

 で、村長の家には時々赤い毛が混じった髪と金色の目をした子供が生まれるようになったって。天狗様がそんな外見をしてたみたいだから、天狗様の生まれ変わりだって言われてる。

 ・・・・・・生まれたら外には出さず、一生屋敷の中に籠って生きるんだって」

 「そうか・・・」

 

 天狗の話は初めて聞いたが、連中が自分を気味悪がっていた理由は分かった。

 

 「ねえ、これからどうするの?」

 「・・・・・・考えてない。でも、戻りたくないな」

 

 戻ればまた、あの離れに閉じ込められるだろう。今度は抜け出せないように見張られるかもしれない。烏たちが助けてくれたことがばれれば、烏たちを殺そうとするだろう。

 何より、自分は外に出て心のままに歩き走ることがどれだけ気持ちいいか知ってしまった。もう、あんな狭い場所に閉じ込められる生活なんてまっぴらだった。

 

 「なら、一緒に住む?」

 「!」

 

 驚いて目を見開くと「一人じゃ大変だし、寂しいんだ」とどこか寂しそうな笑みを浮かべていた。

 

 「寂しい?」

 「じいちゃんがいた時は笑いあって暮らしてたし、さっきみたいに猪に襲われても大丈夫だって安心できた。

 でも、じいちゃんが死んでからは悲しくて笑えなくなって、ずっと寂しかった。

 ・・・・・・行くところがないなら、ここにいなよ。村人も熊や猪を恐れて山には入らないから追いかけてくることはないよ。俺っちも山に住んでから一度も村人を見かけたことはないし」

 「村人が来ないのはいいけど・・・お前は俺を見ても気味悪くないのか」

 

 それを聞いた喜一は少し首をかしげたが、また笑顔を浮かべて言う。

 

 「じいちゃんが言ってた。烏は頭がいいから、意地悪すれば絶対仕返しするし、反対に助けたら恩を返そうとするって。

 あの烏たちがあそこまでなついてんだから悪いやつとは思えないし、さっき烏が殺されるかもしれないって言ってたろ。悪い奴なら烏の心配なんかしないって」

 「・・・そうか」

 

 実をいうと、最初にあった時からこの喜一のことが気になっていた。今までの村人と違い自分を恐れるような態度をとらないどころか、笑顔を向けてくる。今まで見てきたのは村人の相手を見下すような嫌な笑みだけだった。喜一が向けてくるような明るい影のない笑顔を見たのは初めてだった。

 そして、そんな笑顔を向けられることが嫌じゃない、むしろもっと見ていたいと思ったのだ。

 

 「ここにいたい」

 

そう答えると「良かった」と言って一際明るい笑顔を見せる喜一。それを見て、いたいといってよかったと思った。

 

 

 

 

 それからは喜一と二人で暮らし始めた。

 

 長いこと離れに閉じ込められたせいか、自分は思っていたより何も知らなかったらしい。喜一が猪を捌いてつるして干し肉にしたり、小屋の近くを流れる川で魚を釣ったり、少し奥のほうまで行って食べられる野草や木の実、薬草を見つけては天日干しにして、薬草はすりつぶして薬を作ったりと見るものが全てが新鮮だった。

 

 喜一は話す事が好きなのか、それらの作業をしている間も、今日は天気が良くて助かった、もう少しすれば何とかの実が実る、じいちゃんが昔こんな事をしていたと他愛のないことを喋っていた。喜一を手伝いながらそれらの話に耳を傾けるのも当時の殯―――名前がなかったため、喜一からは「(ぬし)」と呼ばれていた―――には初めてのことだったが嫌ではなかった。

 

 暮らしの中で、自分はどうやら足が速いだけでなく、身体能力全般が高い事が次第に分かってきた。

 出会った日に猪を運んだ事といい、喜一が木に登っているのを見て、自分でもやってみれば軽く跳んだだけで幹の高い所に届き、するするとよじ登ったりする所を見て喜一は目を丸くしていた。聞けば、普通子供は力が強くないし、そんなに高く跳べないというから、やっぱり自分は普通じゃないんだと思った。

 だが、喜一は「すごい」「カッコいい」と目を輝かせていた。「やっぱり天狗様みたいだ」と言われて背筋がむずむずしたが、自分が何か普通じゃない事をしても喜一が態度を変えない事に安堵していた。

 

 烏たちも喜一になついたらしい。喜一の手から餌を食べたり、肩に止まったりと気を許しているのがわかった。

 村にいたときには想像も出来なかった穏やかな時間。窓越しに見ていたそれを自分で経験し、心が満たされるように感じた。

 

 烏たちに頼んで村の方へ様子を見てもらったが、自分を探している様子はないようだった。少なくとも山の中へ入ってくる感じはしなかったので、ほっと胸をなでおろした。

 

 

 

 

 山で暮らし始めて、夏から秋、冬と季節が移り替わりやがて春になった。ある時、「いい所があるから」と喜一に連れられ、小屋から少し離れたところにある場所まで歩いて行った。喜一に手を引かれ、あたりを見渡しながら歩いていくとやがて薄紅の花を大量につけた木々が並んでいるのが見えた。

 

 「これは・・・・・・?」

 「桜だよ」

 

 初めて見る光景に見とれていると喜一が教えてくれた。目を細めて木々―――桜が咲き誇る様を見ていた。

 

 「春になるとじいちゃんが連れてきてくれたんだ。主が来て春になったらこれを見せたいって思ってた」

 「村にはなかった木だな」

 「実もならないし、花が散ると毛虫が出るからね。村外れにはちょっと植えてあったと思うけど」

 

 日の光を浴びていくつもの花が咲いている。時折、ひらひらと花弁が一枚、二枚と地に落ちていく。それらが風に吹かれ花弁が宙を舞う姿は、壮観だった。

 

 「・・・綺麗だな」

 

 思わずそうつぶやく。それを聞き喜一も「だろう」と得意げにいう。こんな風に誰かと話して傍にいる。その事に言いようのない安らぎを感じる。

 村を出て本当に良かった。

 こんな日々がいつまでも続いてほしい。

 

 「また来年も見に行こう」 

 「そうだな」

 

 心の底からそう思った。

 

 

 

 

 ―――あの日までは。

 

 

 

 




 簡単な紹介

殯:全部じゃないけど、わりとアレな生き方をしてきた。ずっと離れに閉じ込められた反動で、生まれて始めての自由で気分がハイになって、その勢いで気の向くままに爆走してたら、猪に衝突して喜一助けてた。喜一が自分に笑いかけてくれたのが嬉しい。

朧:真剣に話聞いてたら、爆走からの猪と衝突事故で、ほぼ無傷だったので、ついツッコミを入れた。殯のマイペースぶりに引き気味。
 
喜一:じいちゃん亡くして頑張って生きてたら、猪に襲われてもう駄目か…ってなったらすごい速さで走ってきた子供が、猪と衝突し、助かった。驚いたけど、助けてくれたし、寂しいから一緒に住もうと誘った。
 その後も、殯が色々やっても「すごい」「カッコいい」ってなる。
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