挑戦士ギルド。
世界に名を轟かせた伝説のギルドだ。
多種多様な14組の戦団が所属し、クエストによって臨機応変に組み合わせを変えることで全ての事態に対応してきた。
ギルドマスター、ライアンは今日も未来が見えているかのような正確な采配を行う…。
──────
「ここか?今回の俺様のチームは。」
「遅かったな。」
「当たりよ。あなたが最後ね。」
「早く座れ。」
「おしおし、待たせて悪かったな。それじゃ、自己紹介だ。」
───俺様はパンプ筋肉。
name:パンプ筋肉
job:ファイター
skill:マッスル果肉
tribe:植物族
───…私の事はイセリナと呼べ。
name:イセリナ
job:ロード
skill:威圧の烈風
tribe:ヴァンパイア
───あたしは、ユキメ。退魔士よ。
name:ユキメ=シンダイ
job:マジックファイター
skill:氷雪斬
tribe:人族
───俺はチェアード・マルシェ。よろしく
name:チェアード・マルシェ
job:椅子
skill:座らせる
tribe:ソウルアイテム(椅子)
「…また妙ちきりんなメンバーだ。ライアンのやつ、何が見えてるんだろうな?」
「さぁ?あの人の考えることなんて気にしたことないわ。」
「いや、気にしろよ。椅子だぞ。」
「椅子の何が悪い?早く座れ。」
「やだよ。」
「同感だ。尻を触らせるなど。」
「………。」
喧騒の中、紳士が1人このテーブルに近づいてきた。
「お集まりなされているご様子ですな。」
「今日は何のクエストだ?」
紳士の名前は『リグ』。この挑戦士ギルドのスタッフの1人。クエスト内容の説明を行う。
リグは一つ空いていた椅子に座り、話し始めた。
「皆様にはあの…『アンバーミノタウロス』の討伐をお願いしたいのです。」
「アンバーミノタウロス!?」
アポロニア平野に突如として【浮上】した
「
「
その際、大量の魔素も放たれ、空中に舞い…台風の如くの力を持つ天災魔獣が誕生するきっかけとなってしまうのだ。
「待て。それがミノタウロスの討伐にどう関係するのだ。」
「
「どうしてそれがわかる?」
「過去の大魔術師がそのようにしたのです。ですが、迷宮内の魔物のどれかが【鍵】になるということ以上はわからないようで、爆発の兆候が出るまで鍵を見つけることができなかったようです。」
(なんかお尻がスースーするな…。)
魔素が集まると魔獣が生まれる。太古の魔術師は地中から生まれる魔獣に対処するため、大地にかけられた大魔術、【
地中の魔素が集まり、魔獣が産まれそうになると、【
「わかった。つまりアンバーミノタウロスを撃ち倒せば最後の間が開くのだな?」
「はい。皆様の仕事はそこまでで結構でございます。」
「わかった。受けるわ。早く行きましょ。」
ユキメは立ち上がり、外に待たせてある馬車へ向かった。
「まったく…思い切りがいいな。」
「まぁ、ライアンの見立てに間違いはない。何とかなるだろうぜ。」
「フン。さっさと行くぞ。」
「ひぃ!?椅子がしゃべったッ」
「こいつのこと聞いてないのかよ。」
──────対決、ミノタウロス。
パンプ筋肉、イセリナ、ユキメ、チェアードの4人はダンジョンを進んでいた。
パンプ筋肉はその怪力、イセリナはその威圧感による制圧力、ユキメの剣術、チェアードの特殊能力…4人が合わさればまさに無敵。
「トラップは解除済みらしいから、本当に魔物しか出なかったな。」
「ハッハー!俺様には物足りないぜ!」
「満足されても困るわよ。」
「そう。目的はミノタウロスだ。気を緩めるな!」
…大きな破壊音が聞こえる。
モンスターと戦うのは命懸けだ。誰も助けてはくれない。
手を繋ぎ、歌を紡ぐ人の心では、魔物には勝てない。
「始めるぞ。」
我々は、冒険者だ。
心ある者の剣。
悪路の踏破者。
そして───あらゆる神秘の略奪者!
発見。
接敵。
迷宮王者───
「ッ!」
血走った目がこちらを睨む。
暗闇の先の魔性。
その4本の手には斧が握られている。耳を劈く咆哮が大地を揺らした。
引き伸ばされた時間。気圧された味方達。牛武者の第一撃を食い止めたのはイセリナ。
「烈風よッ!」
纏う威圧は
───やられる…。
仲間が殴り殺されてしまう!
「!ッルォォオオオオオッ!!!」
パンプ筋肉がパンパンに張った果肉でタックル。轟音と共に牛武者を吹き飛ばした───ように見えた。
ただ、仰け反ったのみ。
「!」
ミノタウロスの顔面が目の前にある。唾液が沸騰しているかの如く、口からは白い煙が噴き出ている。筋骨隆々の肉体には柔らかさすら感じさせる。それは、脱力───。
弓のように引き絞られた4本の拳がパンプ筋肉を粉々に砕かんとしていた。
「す、座れッ!」
───!?
急に足が脱力する。拳は腰に引っ張られ、パンプ筋肉は直撃を避けることができた。
「───氷雪斬。」
腹を一閃。
傷は浅い。しかし、傷口の氷は呪いのように広がり続ける。牛武者は徐々に弱り、そして死ぬ…。
死ぬという逆鱗を、踏んだ。誰がやったか、ミノタウロスは正確に把握している。今まで呪いのような攻撃を扱う者達には何度も出会ってきた。
そのために、呪いとは術者を殺せば止まるものと知っていた。
「ぐ…!」
腕をスイング。腰の力のみで回転させる。鉄球のような一撃に、防御するも敵わず、ユキメは刀を折られ大きく吹き飛ばされた。
「ユキメーッ!」
───だが、ミノタウロスの脳裏によぎる不可思議…足がまだ脱力している。
力を込めようが、ここから動くことができない。姿勢を維持しようと抵抗するも、この異常は止まない。
「座れ…ッ!座れ……ッ!!」
あの、椅子か。
斧を取り戻せば両断できそうだ。風の手の女を狙おう。
「ま、まだだぁぁッ!!」
「烈風よ!刃を為せ!」
風の手は消えた。代わりに肌にチリチリとした烈風の斬撃が当たる。
斧は落ちた。それさえ手に入れれば。
…腹に食い込む氷傷は増すばかり。あの女も殺し損ねた。
(ミノタウロスの足を奪った。ユキメが傷も付けたッ!このまま耐えれば…!)
手を用い、足を引き摺りながら移動するミノタウロス。弱っている。
迷宮王者を、ここで倒す。
「パンプ筋肉!チェアードを連れて離れろ!私が相手をする!」
「…わかったぜ!」
烈風の剛腕、烈風の刃を用いてミノタウロスを相手するイセリナ。しかし、傷を与えることはできない。パワーではミノタウロスが上なのだ。
チェアードは体を震わせ、パンプ筋肉に伝えた。
「ま、待て、もう限界が近い!あまりに力が…強すぎる!」
「なんだって!?」
まだ、氷傷は体の1割にも広がっていない。ここで立ち上がられたらユキメが殺される。そうなったら勝ち目がない。
「…わかった。俺様に考えがある。ユキメが吹き飛ばされた方に向かうぞ!」
「ぐっ…頼んだ!保たせてみせる!」
───
短いのか、長いのか…。ミノタウロスの攻撃を交わし続けてしばらく経った。氷の傷はミノタウロスを徐々に侵していく…。
「!」
私の首根っこは、捕まえられていた。
そのうちに握りつぶされるだろう。ああ、そうか…チェアードが限界を迎えたのか。
未熟だ。足が治れば、すぐに捕まえられるような間合いで戦うなど…。
「待てよ。牛ィィイッッ!!」
パンプ筋肉が後方からタックル。通路を回り込んでミノタウロスの背後に回ったのだ。強烈な、最後の力を振り絞った一撃だ。
「ッ…りゃあああッッ!!」
首の締まりは変わらない。
でも、機のために。
勝つために、最期まで───烈風を絶やさないッ!
───それが、どうした。
振り返り様の大振りの拳に砕かれマッスル果肉が弾け飛ぶ。出涸らしの烈風が封じられるのは、せいぜい一つの腕だけ。
わかっている。近くにいないと、呪いはかけられない。椅子はそこにいるのだろう?
「パンプ筋肉ゥーッ!うわあああ!!」
───その声、わかったぞ───。
牛武者は残った腕で斧を拾い、二腕にて声の方向に振り抜いた───。
「退魔奥義。───氷雪斬、《吹雪》。」
数秒の後、そこには自分が殺された───ただその感触のみが残っていた。
ミノタウロスの腹に刻まれた、二つ目の傷。深く、冷たく、体から熱が抜け出ていく。致命傷だ。
「体内の血液を凍らせた。いくらあなたの生命力が立派でも───これで終わりでしょう?」
おのれ、動けん。
ああ、ああ、ああ…。
寒い。
寒くて、暗い───。
…めくらましさえ、なければ…。
──────
「…お前達、どうやって勝ったんだ?」
クエストは成功した。ユキメとイセリナの病室にて、チェアードは語り出す。
「パンプ筋肉が弾けて、その果肉がミノタウロスの目を塞いだ隙に、ユキメが最後の一撃を与えるっていう作戦だ。」
ミノタウロスの一撃は、ユキメがチェアードの上に座ることで躱した。チェアードは1人でも動ける。流石のミノタウロスでも、椅子が動くのは想定できなかった。
「…では、パンプ筋肉は…。」
「俺様ならここだ。」
「えっと…小さいね。」
パンプ筋肉は鉢植えの上にぴょこんと生えていた。植物族ならではの蘇生方法だ。
「…みんな無事で良かった。」
「くくっ。」
「はははっ!」
「ふふ…。」
挑戦士ギルド、今日も伝説を刻み続ける。
迷宮王者───