拠点(ベースキャンプ)から出発して一時間後、狩場中を捜索したがゲリョス亜種の姿はどこにもなかった。
先程ゲリョスとゲリョス亜種と遭遇した丘の上のエリアに向かうが、そこにもゲリョス亜種の姿はない。クリュウは困ったような表情を浮かべながら防水仕様の地図を取り出す。
「おかしいなぁ。こんだけ探してもいないなんて」
「すれ違いになっておるのではないか?」
「そうかもしれませんね。ここは一度分散して捜索しませんか? その方が発見率はグッと上がりますし」
「何を言っておるんじゃ。こちらにはけむり玉とシビレ生肉は一回分しかないのじゃ。分散してもしクリュウ以外のワシやお主が遭遇したら、せっかくの奇襲戦法が使えないではないか」
「しかし、このまま無意味に動き回るのは体力を消耗するだけです」
ツバメは分散反対を、フィーリアは分散賛成をそれぞれ支持した。話し合いは纏まらず、二人は最後の頼みとばかりに先程から空を見上げているクリュウの方を向く。三人なら、クリュウが支持した方が過半数を取る事ができる。
「どうじゃクリュウ? 分散して捜索かこのまま全員で捜索か。どちらにする?」
「クリュウ様、ご決断を……」
二人の言葉に対し、クリュウは無言で空を見上げ続ける。すると、突然手を道具袋(ポーチ)に手を伸ばし、けむり玉を構えた。クリュウの行動に驚く二人に対し、クリュウは小さくつぶやく。
「こっちから行く必要は全くなくなったみたいだね……」
その言葉に二人が顔を上げると、どちらも表情が険しくなった。
雨風を吹き飛ばしながら舞い降りてくる飛竜。奇妙なトサカと特異な皮に全身を包んだその姿は通常のものと何ら変わらない。だが、その纏う皮の色は紺色ではなく紫色。闇夜でも目立つ緑色の模様は巨大な目にも見える。
そして、奴はゆっくりと大地に降り立った――毒怪鳥ゲリョス亜種。
背を向けているゲリョス亜種に向かって、クリュウは単身で素早く近づくと手に持っていたけむり玉を投擲。ゲリョス亜種の足元に転がったけむり玉は辺りに真っ白な煙を噴き出し始める。それは次第にエリアの一角を支配するまで広大に広がり、ゲリョス亜種の姿を包み隠す。
ゲリョス亜種は突然の煙幕に警戒しているのか、キョロキョロと辺りを見回している。だが視界は完全に封じられており、その行為は無駄だ。
続いてクリュウは煙幕を利用して堂々とゲリョス亜種の正面に立つとシビレ生肉を設置。すぐさま離脱を図った。すでに岩陰に隠れている二人と同じく、クリュウもまた木の陰に身を隠した。
やがて、けむり玉の効果が切れて煙は次第に風に流されていき掻き消えた。視界が回復したゲリョス亜種は今のは何だったのだろうと首を傾げつつ、正面に向き直る。すると、そこには生肉が置いてあった。先程まで、こんな物あっただろうか。
ゲリョス亜種は不思議に思いながらもそっと近づき、鼻で匂いをかぐ。それは間違いなく肉であった。ゲリョス亜種は周囲に敵対する者がいない事を確認すると、チャンスとばかりに一気にかぶり付いた。その瞬間、隠れている三人がガッツポーズをしたのは言うまでもない。
ガツガツと生肉を食べるゲリョス亜種。だが、突然――
「ギャオオォッ!?」
全身に痺れが走った。体の動きは完全に封じられ、口すらも満足には動かせない。
「今だッ!」
ゲリョス亜種が痺れると同時に隠れていたクリュウ達は一斉に飛び出した。フィーリアは徹甲榴弾LV2を装填してゲリョス亜種の頭部を狙う。クリュウは脚に、ツバメは尻尾に向かってそれぞれ攻撃を開始する。
ツバメは痺れて動けないゲリョス亜種の尻尾に到達すると鬼人化。グッと視界が狭まり、狙う獲物の姿だけを捉える。狙うは、この尻尾。
「うおおおぉぉぉッ!」
叫び声と共にツバメは乱舞。無数に斬り出される斬撃の嵐は次々にゲリョス亜種の尻尾を斬り刻む。
クリュウもまたゲリョス亜種の脚を集中的に斬る。バーンエッジが炸裂するたびに炎が爆ぜ、火花が迸る。何度も何度も執拗に炎の斬撃を繰り返す。縦横無尽に振るわれるバーンエッジ。そろそろ麻痺が解ける頃、クリュウは最後に回転斬りを叩き込みゲリョスの懐から離脱。刹那、ゲリョス亜種の体の自由を奪っていた麻痺毒が効果を失った。
「グワアアアァァァッ!」
怒号を上げるゲリョス亜種。だが尻尾ではまだツバメが乱舞を続け、フィーリアもまた徹甲榴弾LV2を撃ち続けている為に動きは封じられている。クリュウは再び斬り掛かろうとするが、ゲリョス亜種は尻尾を執拗に狙うツバメを追い払おうと尻尾を伸ばしてムチのようにして襲う。
「ぬおッ!?」
ツバメは武器をしまうと回避の為に前のめりに倒れた。だが、執拗なゲリョス亜種は逃げるツバメに再び尻尾を叩き付ける。倒れているツバメは次なる回避が間に合わない。襲い来る尻尾にツバメが直撃の覚悟をした瞳を閉じた瞬間、衝撃が襲い掛かった。地面を何度か転がる感触がし、体中に痛みが走る。だが、それは予想していた衝撃や痛みにしてはずいぶんと軽い。恐る恐る目を開くと、横にはクリュウが倒れていた。
「く、クリュウッ!?」
「僕は大丈夫。ツバメは?」
「わ、ワシも平気じゃ。まさかお主……」
ツバメに尻尾が直撃する寸前、クリュウがツバメの前に立って盾を構えたのだ。結局は吹き飛ばされてしまったが、おかげでツバメには大した怪我はなく、クリュウもまたガードのおかげで大した怪我はしていない。ただ、痛めた左腕にほとんどの衝撃が直撃した為にかなりの苦痛に耐える事になった。
二人に攻撃をさせない為、フィーリアはすぐに通常弾LV2を装填すると速射でゲリョス亜種を狙う。ダメージこそ少なくても執拗な連続射撃は鬱陶しいのか、ゲリョス亜種は狙いをフィーリアに変えて毒液を吐き掛ける。フィーリアはこれを回避すると、位置を変えて再び速射。ゲリョスの反撃が来れば再び回避して立ち居地を変えて速射。これを繰り返す。
たった一人でゲリョス亜種と交戦しているフィーリアを見て、クリュウはすぐに駆け出してゲリョス亜種を追う。ツバメは立ち上がると回復薬を二つ飲んでから追いかける。これで三人の体力は再び十分なものになっただろう。
ゲリョス亜種に背後から駆け寄るクリュウ。だがゲリョス亜種はフィーリアの銃撃から逃げるように後ろに飛ぶ。突然迫って来たゲリョス亜種はあっという間にクリュウを追い越して彼の背後を取った。しかも、クリュウは風圧で動きを止められている。
「クワァッ!」
ゲリョス亜種はチャンスと毒液を吐いた。放物線を描きながら毒液はクリュウに直撃。その重々しい衝撃にクリュウは前方に吹き飛び、倒れた。
フィーリアが悲鳴を上げ、追撃阻止の為に猛烈な速射をゲリョス亜種に叩き込む。この集中砲火にゲリョス亜種はたまらず怯み、クリュウへの追撃を断念した。
一方、フィーリアのおかげで何とか危機を脱したクリュウであったが、体中に鈍痛と倦怠感、そして吐き気や頭痛など毒による影響で苦しんでいた。だが、毒状態はほんの一瞬であった。突然スッと毒が抜けたように体が全快する。驚いて振り返ると、ツバメが空になったビンを持って手を振っていた。どうやら解毒薬を飲んで広域化による解毒をしてくれたらしい。
「ありがとうツバメッ!」
「なぁに、さっきの借りを返したまでじゃ」
ツバメはニッとかわいらしい笑みを浮かべるとビンを捨ててサイクロンを構える。そしてすぐさま鬼人化するとゲリョス亜種に向かって突撃した。ゲリョス亜種はフィーリアを狙って執拗に毒液攻撃を繰り返す。だがその背後からツバメが接近し、尻尾に向かって斬りかかった。突然の予期しない一撃にゲリョス亜種は驚いてたたらを踏む。その間にフィーリアは再び徹甲榴弾LV2を装填すると、ゲリョス亜種の頭に狙いを定めてトリガーを引いた。撃ち出された弾丸はゲリョス亜種のこめかみに命中。一瞬遅れて起爆した。
「グオォッ!?」
これまでの蓄積が加わり、ゲリョス亜種はめまいを起こして転倒した。ツバメは構わず乱舞を続け、フィーリアもまた火炎弾に切り替えて猛烈な集中砲火を浴びせる。クリュウも負けじとゲリョス亜種のトサカに向かってバーンエッジを叩き込んだ。
必死に抗うゲリョス亜種の翼や脚の動きに注意を払いつつ、クリュウはひたすらにトサカに目掛けてバーンエッジを振るい続ける。爆ぜる炎は熱く、クリュウ自身にも熱となって襲い掛かる。レウスシリーズを纏っているからといって熱くない訳ではない。だが、雨によって冷えた体にはちょうどいいくらいだ。
「せいやぁッ!」
尻尾を集中的に狙っていたツバメは最後の一撃を叩き込むと、一端ゲリョス亜種から離れて鬼人化を解いた。大きく方を上下させて荒い息を繰り返すツバメ。その苦しげな表情は鬼人化によるスタミナの消耗の激しさを物語っていた。
ツバメが離れてすぐ、ゲリョス亜種はようやく起き上がる事に成功した。だが、顔をもたげようとした瞬間クリュウのバーンエッジが炸裂。この一撃に、ゲリョス亜種の中で何かが切れた。
「クワアアアアアァァァァァッ!」
ゲリョス亜種は怒号を放ちながら狂ったように首を激しく上下させる。目の周りは通常種と違って緑色に変化しているが、毒液を吐きながら血走った目をしている点は通常種と変わらない怒り状態だ。
ゲリョス亜種は「クワッ、グワオォッ」と鳴き声を上げながら鼻先とトサカをぶつける動作を何度か繰り返す。クリュウは盾を目の前に構え、フィーリアとツバメはそれぞれ安全圏に離脱した。その直後、ゲリョス亜種は怒号を放ちながら辺りに閃光を爆発させたが不発に終わった。だがゲリョス亜種はしつこく再び鼻先とトサカを打ち鳴らし始める。クリュウはその場から動けずに再びガードをし、ツバメとフィーリアは安全圏で目を庇いながら反撃の機会を窺う。そこへ再び閃光が炸裂。
光が収束すると同時に、ゲリョス亜種は突然前方に向けてジャンプした。その先にはガード態勢のままのクリュウ。直後、ゲリョス亜種の強烈な蹴りを盾に受けたクリュウは吹き飛んだ。
「クリュウ様ッ!」
「クリュウッ!」
地面の上を二転、三転したクリュウだったがすぐに起き上がると「大丈夫ッ!」と二人に無事を叫んだ。だが、正直もうあまりガードはできなさそうだ。左腕はガードのたびに悲鳴を上げるように激痛を発する。
「クワアアアァァァッ!」
ゲリョス亜種はジャンプすると起き上がったばかりのクリュウをついばもうとする。クリュウは慌てて横へ飛びこれを回避。すぐにツバメが駆けつけ、ゲリョス亜種の脚に斬りかかる。
「グワアアアァァァッ!」
「くぬぅッ!?」
ゲリョス亜種は突然走り出した。ツバメはそれに巻き込まれる形となり、走り去るゲリョス亜種の背後にゴロゴロと転がった。それを見たフィーリアはツバメを守るように弾種を通常弾LV2に変更。速射でゲリョス亜種の目を自分に引き付けながらツバメからゲリョス亜種を引き離す。
フィーリアを追うように移動するゲリョス亜種の動きに注意しながら、クリュウは倒れたツバメに駆け寄る。
「だ、大丈夫ツバメッ!?」
「へ、平気じゃ……」
そう言ってツバメは立ち上がるが、一度小さく立ちくらみをしたのかフラつく。
「本当に大丈夫なの?」
「問題ない。鬼人化で疲労が蓄積しているだけじゃ。まだまだ戦えるぞ」
「そ、そう? ならいいんだけど……」
「ワシの事は構うでない。それより、早く前線に戻れ。男がいつまでも女子(おなご)一人に死線を任せておくでない」
「わ、わかった。でもツバメ、無理はしないでよね」
「わかっておる。さぁ行けッ! ワシも息を整えたらすぐ戻るッ!」
ツバメの言葉にうなうずくとクリュウは再び駆け出した。ゲリョス亜種は未だにフィーリアを執拗に追い回している。それらの攻撃を、フィーリアはギリギリの紙一重で回避していた。速射は絶大な威力と持つが、同時に反動が大きく走りながら撃つ事ができず、撃つ場合は一度動きを止めなければならない。その為、一撃離脱するのが非常に難しい。しかし、それだけの連射をされれば、モンスターは自然と速射を行うガンナーを執拗に追うようになる。仲間を援護する為に自分を囮にする場合はこれ以上ない方法と言ってもいい。
すぐ横で爆ぜる毒液に冷や汗を流しながら、フィーリアは横に転がって速射を放つ。それら全弾は見事にゲリョス亜種の頭に命中。しかし、まだトサカは健在だ。あれを破壊しない限り、ゲリョス亜種の閃光は封じられない。
「クワッ! クワァッ!」
ゲリョス亜種はいくら追っても捕まえられないフィーリアに嫌気が差したのか、首をもたげて鼻先とトサカを打ち鳴らし始めた。それを見て、フィーリアは目を見開く。
この動作は閃光攻撃。だが、今から走っても閃光の範囲外に脱する事はできない。振り返って地面に倒れれば回避できるが、それでは動きを封じられてしまう。閃光の後、ゲリョス亜種が攻撃に転じれば回避できない。
絶体絶命の危機。だが、
「喰らえッ!」
ゲリョス亜種の背後に現れたクリュウは閃光を放とうとするゲリョス亜種の尻尾に向かって渾身の力でバーンエッジを叩き込んだ。予期しない強烈な一撃に、ゲリョス亜種は悲鳴を上げて怯んだ。その隙に、フィーリアはゲリョス亜種の正面から逃げるように横へ走った。
「ありがとうございますッ!」
フィーリアはクリュウに礼を言うと、ゲリョス亜種から距離を取って火炎弾を装填。連続してそれを叩き込んだ。その容赦のない一撃にゲリョス亜種は狂ったように突然走り出すと、毒液を撒き散らしながらエリア中を全力疾走し始めた。
クリュウはすぐに追いかけようとするが、ゲリョス亜種の全力疾走の前では人間の足は敵わない。フィーリアはその間も火炎弾を着実にヒットさせ、ダメージを与える。
全力疾走するゲリョス亜種。だがその動きは通常体と同じコースを走っていた。それに気づいた時、ゲリョス亜種の通るであろう部分にツバメが落とし穴を設置した。一瞬で地面と同化するネットが広がり、設置完了。ツバメは笑みを浮かべながら拳を突き出した。それを見てクリュウはうなずくと急いで落とし穴の方へ向かう。フィーリアもまた一発一発確実にヒットさせながら落とし穴の方へ走った。
一方のゲリョス亜種はそんなクリュウ達の行動など見えていないように全力疾走し、壁際で転回。そして、クリュウ達の方へ真正面から突っ込んで行った。待ち構えるクリュウ達は、一斉に武器を構えた。
「ギョワアアアァァァッ!?」
ゲリョス亜種は疑いもせずに落とし穴を踏み抜き、下半身から地面に埋まった。その瞬間、ネットの繊維が空気に触れて粘着質を展開。溶解した土もまた加わり、ゲリョス亜種の動きを完全に封じた。
突然身動きを封じられてパニックに陥るゲリョス亜種。クリュウ達は一斉に総攻撃を仕掛けた。
再び鬼人化したツバメはその外見に似合わないような勇ましい咆哮を上げてゲリョス亜種の腹に向かって乱舞。神速の連撃は斬りづらいゴム質の皮を少しずつだが傷つけ、裂傷を走らせる。
クリュウも全力でバーンエッジをツバメとは反対の背中に向かって叩きつけていた。爆ぜる炎が熱に弱いゴム質の皮を少しずつだか溶解させ、露になった肉を斬りつけ血を迸らせる。
この一撃一撃は、圧倒的な生命力を持つモンスターの前では本当に微々たる一撃でしかないのだろう。だが、例え微々たるものだったとしても、積み重なればその生命力すらも打ち砕く事ができる。そう信じて、クリュウはバーンエッジを振るう。
そして、そんな二人から少し離れた所からはフィーリアが冷静に、的確に火炎弾を当てていく。残り弾数はわずか。だからこそ一撃一撃を正確に当てていく。三発撃ち、空薬莢排出と次弾装填を同時に行い、再びスコープを覗きながら弾が最も威力を発揮する頭に向かって正確に引き金を引き続ける。
三人の猛攻にゲリョス亜種は悲鳴を上げながらもがき苦しむ。だが、まだ拘束時間はある。三人は最後の一瞬まで猛攻を続けた。爆ぜる炎と迸る血飛沫。それらの一撃一撃全てが、確実にゲリョス亜種の体力を奪っていた。
「グワッ! ギャワッ! ガアアッ!」
必死になって脱出しようとするゲリョス亜種。次第に落とし穴の周りの地面に亀裂が走り、落とし穴は限界に達しようとしていた。それでも三人は攻撃の手を一切緩めない。
「りゃあああぁぁぁッ!」
痛む左腕に構わず、クリュウは両手でバーンエッジを構えると全力で振り下ろした。その一撃は見事にゲリョス亜種の紫色のゴム質の皮を斬り裂き、血が噴き出した。
「ギャアアアァァァッ!」
ゲリョス亜種は悲鳴を上げながらも、ようやく落とし穴を脱して空中に浮かび上がった。その風圧にクリュウは動きを封じられたが、鬼人化しているツバメと範囲外にいるフィーリアは再び降りて来るゲリョス亜種を見詰める。怒り状態が解けたのか、ゲリョス亜種の目の周りは元の色に戻っていた。
脚が地面に着く直前、ツバメはゲリョス亜種の脚に向かって乱舞した。突然の攻撃にバランスを崩したのか、ゲリョス亜種は「ギャオォッ!?」と悲鳴を上げて墜落。横倒しになった。
「今じゃッ!」
ツバメは残りのスタミナが少ないのも構わず乱舞を仕掛ける。フィーリアは残りの火炎弾全弾を撃ち込むように全力射撃。そしてクリュウは、悶えるゲリョス亜種の頭に向かってバーンエッジを叩きつける。爆ぜる炎と鋭い剣先が叩き込まれるたびにトサカは妙な音を立てる。そして、渾身の回転斬りを叩き込むと今までとは違う異様な音が響いた。見ると、トサカに小さいながらヒビが入っている。
「あともう少しッ! うわッ!?」
さらなる一撃を入れようと構えたクリュウだったが、それを防ぐようにゲリョス亜種は慌てて立ち上がると風圧で群がる敵を吹き飛ばす。だが鬼人化しているツバメの猛攻は止まらない。
激痛に耐えながらゲリョス亜種は閃光を放とうとトサカと鼻先を打ち鳴らし始める。これに慌てたのは最も接近し、ガードもできないツバメであった。すぐに鬼人化を解いて走るが、とても範囲外には逃れられそうもない。
考えている暇はなかった。後先考えずとにかくツバメは閃光が爆発する寸前で地面に向かって飛び込んだ。閃光の後すぐに立ち上がって振り返ると、ゲリョス亜種はどうやら再び閃光を放とうとしているらしくトサカと鼻先を打ち鳴らしている。その足元にはまだクリュウが残っていた。ガードができるとはいえ、一人で前線に取り残される形となってしまった。
「くぅッ!」
すぐに合流したいが、閃光攻撃が終わるまでは近づく事はできない。そして、ゲリョス亜種は再び閃光を放とうと顔を勢い良く天に突き上げる。その直前、クリュウは突然ジャンプした。その行動に、離れた場所にいたフィーリアとツバメは驚く。
「させるかッ!」
空中にいながら、クリュウは天に向こうとするゲリョス亜種のトサカに向かって渾身のバーンエッジを叩き込んだ。炎が爆ぜ、異様な破砕音が響く。バランスを崩して落下したクリュウはそのままゴロゴロと転がったが、すぐに身を起こしてガードの体勢になる。
一方のゲリョス亜種は閃光攻撃をしなかった。いや、できなかったのだ――ゲリョス亜種の上にあった奇妙なトサカは、跡形もなく消し去っていたのだから。
「クワアアアァァァッ!?」
一瞬遅れてゲリョス亜種の悲鳴が轟く。自慢のトサカを壊されたからか、ゲリョス亜種は再び目の周りを緑色に染めて怒り狂う。その矛先はもちろんトサカを砕いたクリュウだ。
「グワッ! グオッ! グワッ!」
ゲリョス亜種はクリュウ目掛けて激しく頭を打ち付けるようについばんで来る。クリュウはとっさにガードしたがその一撃がクリュウの左腕の限界だった。ガードはできたものの、そのまま大きく後ろに吹き飛ばされてしまった。
だがゲリョス亜種の怒りはその程度では収まらない。追撃を仕掛けるように何度も何度も執拗についばんで来る。その連続攻撃にクリュウは何度も地面を転がって回避するが、ついに一撃が脇腹に直撃。クリュウは吹き飛び地面に転がった。
「貴様ぁッ!」
鬼人化状態で怒り狂いながらツバメがゲリョス亜種の尻尾に全力の一撃を叩き込んだ。この攻撃にゲリョス亜種は悲鳴を上げて仰け反る。だが、ゲリョス亜種の怒りが収まらないと同じくツバメの怒りも収まらない。
クリュウを襲った事に対する怒りが爆発し、その怒りが全て両手に握られているサイクロンへと注がれる。疲労を感じさせない、むしろより鋭くなった神速連撃にゲリョス亜種は慌てて尻尾を振り回すが、すでに懐に入っているツバメにはそんな攻撃は効かない。
さらに、空から無数の弾丸が降り注いで来た。それらは容赦なくゲリョス亜種の体を次々に貫いていく。外れた弾は地面を砕き、当たった弾は肉を切り裂く。それはいつの間にかエリアの隅の方にある登れる岩の上に登ったフィーリアの怒りの貫通弾LV2の集中砲火であった。
ツバメにフィーリア。どちらもいつもはクリッとしたかわいらしい瞳を消し、刃物のように鋭い眼光でゲリョス亜種を射抜く。どちらも、クリュウを痛めつけた事に対する怒りの表れ――ある意味、今の二人はモンスターで言う所の怒り状態だ。
足元ではゴム質の皮を斬り裂くツバメの乱舞。上空からは容赦なく身を貫く鉄槌の如きフィーリアによる銃撃の嵐。ゲリョス亜種はたまらず転倒した。その時、ゲリョスの尻尾に炎がぶつかった。驚いてツバメが振り返ると、そこにはバーンエッジを構えたクリュウが立っていた。先程の一撃でかなりダメージを負っているらしいが、ツバメと視線がぶつかると笑顔を浮かべた。そして、ゲリョス亜種の方を向くと真剣な表情に変わってバーンエッジを振るう。そんな彼に、フィーリアは回復弾LV2を撃ち込んだ。
三人の総攻撃にゲリョス亜種は悲鳴を上げながら慌てて起き上がると再びトサカと鼻先を打ち鳴らし始める――だが、鼻先がぶつかって音を立てるべきトサカは、すでに壊れてそこには存在しない。無防備なその姿は、狩人(ハンター)達から見ればただの的だ。
ツバメは最後の力を振り絞って乱舞を仕掛け、クリュウもまたバーンエッジを力の限り叩き込む。フィーリアは貫通弾LV2を連射してゲリョス亜種を貫いていく。
「クワアアアァァァッ!」
ゲリョス亜種は閃光を撃ち放つモーションをする。だがもちろん閃光を放つ為のトサカはすでに壊れているので光り輝く事はない。その間も三人の猛攻は続く。
そして、閃光のモーションから降りて来た頭に向かって、
「喰らえッ!」
クリュウは体全体を回転させるように回転斬りを叩き込んだ。その一撃にゲリョス亜種は弱々しい悲鳴を上げて倒れた。そしてそのまま動かなくなり、辺りを包んでいた殺気も消え、密林らしい静けさが戻る。聞こえてくるのは激しい雨音と風の音だけ。
雨に濡れながら、クリュウは左肩を押さえた。それを見てフィーリアが慌てて彼に駆け寄る。ツバメもまた鬼人化を解くとその場で膝をついて肩を激しく上下させて苦悶の表情を浮かべている。
だが、そんな状態であっても三人は決してゲリョス亜種から目を逸らす事はなかった。これで死んだとは三人とも思っていない、これは明らかに死にマネだ。しかし、この間に三人は次なる戦いに備えて全員が回復薬や回復薬グレート、栄養剤などを飲み、携帯食料を食べて腹を満たす。
そして、三人が準備を整えた頃、ゲリョス亜種は突然辺りに再び殺気を振りまいて足掻くように体を激しく動かしながら起き上がった。それを見て、三人は再び武器を構える。
だが正直クリュウ達、特に左腕を負傷しているクリュウと疲労困憊のツバメはこれ以上の戦闘は辛い。フィーリアもまたこの雨で着実に体力を奪われている。モンスターにとっては大した事のない雨でも、繊細な生き物である人間には確実に影響を与え、時にそれは命を奪う事にも繋がる。
すでにゲリョスを討伐し、ゲリョス亜種とも激戦を繰り広げた三人の疲労はかなりの域にまで達していた。完全な休憩は望めなくても、小休憩くらいはほしかった。
そして、それは驚く事にゲリョス亜種も同じだったらしい。
ゲリョス亜種は突然クリュウ達に背を向けると翼を大きく広げながら下手な走りで去って行く。それを見たフィーリアは慌てて走り出し、ペイント弾を装填。飛び立とうとするゲリョス亜種に向かってペイント弾を撃った。もちろん命中だ。
ゲリョス亜種はペイントの匂いと共に雨雲が垂れ込める空を水平飛行しながらクリュウ達の前から去った。それを見て、三人はようやく全身に纏っていた緊張を解いた。疲労困憊のツバメは倒れるように座り込むと、荒れる呼吸を整えようと再び大きく肩を上下させる。
フィーリアは座り込んだクリュウに駆け寄ると、すぐに左のレウスアームを外して怪我の部分の包帯を解き、怪我の部分を診る。一応新しい薬草を塗ったが、これ以上ガードを続ければ左腕が折れてしまう可能性だってあった。
「クリュウ様、もう無理はなさらないでくださいね」
「わかってる。それより、ツバメは大丈夫なの?」
「ツバメ様は疲れ切っているだけで怪我はないようですね。ただ、鬼人化はスタミナを激しく消費するので、双剣使いは長期戦には向かないんです。一度休憩を取った方がいいようですね」
「そうだね。ゲリョスも巣には向かってないようだから、寝られる心配もないしね」
「そうですね」
「……じゃが、見方を変えればまだ奴には余裕があるという事じゃろ?」
「「……」」
ツバメの何気ない一言に、クリュウとフィーリアは同時に何とも言えないような複雑そうな笑みを浮かべる。それを見て、ツバメは自分の失言に気づく。
「す、すまん……」
「いや、事実だし。別に謝る事じゃないよ」
「そうですよ。どんな状況であれゲリョスを討伐しなければならない事には変わりありませんから」
そう。今回の依頼はゲリョスの二頭同時討伐。状況がどうであれ二頭のゲリョスを討伐しない事には成功とは言えない。そして、通常種はすでに討伐済みだが亜種はまだ余力を残した状態にある。対するこちらはすでに双剣使いのツバメの疲労は相当なもの。クリュウはまだ体力的には余裕があるが、左腕を痛めている。正直、これ以上の戦闘は避けたい所だ。
状況は限りなく劣勢だ。だけど、希望はある。
「でも、死にマネをしたって事はそれなりに弱ってるって証拠でしょ? あと一歩だよ」
クリュウは二人を励ますようにあえて笑顔で言った。自身も左腕を痛め、疲労もかなりのものなのに。
チームという組織において最も大切な事は士気だ。どれだけ劣勢な中であっても、士気が高ければ逆転の可能性はある。逆に、どれだけ優勢であっても士気が低ければ思いがけない一撃で形勢が逆転してしまう。
士気とは、それだけ重要な事なのだ。
だが、きっと彼はそんな事考えてもいないだろう。ただ偏(ひとえ)に、みんなに元気になってもらいたい。笑顔でいてもらいたい。そんな一途な気持ちからの行動だろう。そして、そんな彼の想いに二人はちゃんと気づいている。
「そうじゃな。あと一息じゃの」
「はい。次で決着をつけましょう」
クリュウの笑顔に、二人もまた笑顔で返す。クリュウはその笑顔を見て嬉しそうにうなずくと、ゆっくりと立ち上がった。左腕には新たな包帯が巻かれ、これであと一回くらいの戦闘なら大丈夫だ。
「それじゃ、一度|拠点(ベースキャンプ)に戻って休憩しよう。そして、その後にゲリョスとの最後の決戦だ」
一度|拠点(ベースキャンプ)に戻った三人はそこで少しの休憩を取って準備を整えると、ペイントの匂いを追って一路ゲリョス亜種との最後の決戦に臨むのであった。
雨降り頻(しき)るセレス密林。ゲリョス亜種がいたのは池に面したエリア。ここは飛竜だけでなくアプトノスやランポスも水を飲みに来る貴重な水のみ場だ。
そして、奴はそこにいた。
ゲリョス亜種は池に背を向けて、クリュウ達の来る道の方を向いている。当然、エリアに入った瞬間に見つかった。
「クワアアアァァァッ!」
怒号を上げるゲリョス亜種を見詰め、クリュウはバーンエッジの柄を握る。
「……これを、最後の戦いにしよう」
クリュウの言葉に、二人は静かにうなずいた。
ゲリョス亜種は閃光を放とうとするが、トサカがなければ閃光は放つ事はできない。つまり、今は最大の攻撃チャンスという事だ。
三人は誰が言った訳でもなく一斉に走り出した。
クリュウは右へ、ツバメは左へ走ってゲリョス亜種を挟撃。正面からはフィーリアがハートヴァルキリー改を構えると残りわずかの火炎弾を装填。すぐさまスコープで狙いを定め、連続で引き金を引く。撃ち出された三発の火炎弾を続けざまに頭に受けたゲリョス亜種は悲鳴を上げて仰け反った。その隙に、左右から迫っていたクリュウとツバメが一斉に襲い掛かる。
「我が神速の剣を受けてみよッ!」
構えたサイクロンを天に向け、ツバメは鬼人化。クリッとしたかわいらしい瞳は鋭くなり、純情可憐な笑みを浮かべる顔には獣の形相が浮かぶ。
「うおおおおおぉぉぉぉぉッ!」
勇ましい咆哮と共に、ツバメは神速の乱舞をゲリョス亜種の脚に叩き込んだ。拠点(ベースキャンプ)で最大まで研いだサイクロンの刃は鋭く、鬼人化の鋭さも加わり、まるで斬れないものなどないかのように勇ましく踊る。
ツバメに負けていられないと、クリュウもまたバーンエッジを空いている方の脚に向かって叩き込んだ。刃先は触れると同時に炎を纏い、ゴム質の皮を焼き斬る。
振り下ろした一撃を殺さず、その勢いを利用して回転斬りに繋げ、上段からの斬り下げ、下段からの斬り上げ。突き、そして再びの回転斬り。それらの動作を一瞬の休憩を挟まずに連続で行う。勢いを利用してのそれらの攻撃は、攻撃を重ねるたびに鋭さを増しているように錯覚するほど鋭い。爆ぜる炎もまた勢いを増し、雨粒は刀身に触れる前に水蒸気となり消滅する。
クリュウは水蒸気を纏いながら再びの回転斬りをゲリョス亜種の脚に叩き込む。もはやゴム質の皮は解け切れ、露になった肉はその刃先に抉られて血を噴き出した。その激痛に、ゲリョス亜種は悲鳴を上げる。そこへ、フィーリアの撃ち放った最後の火炎弾が側頭部へ命中。ゲリョス亜種はたまらず横倒しに倒れた。
「グワッ! ゴォッ!?」
ゲリョス亜種は必死になって起き上がろうとするが、その巨体が仇となってなかなか起き上がれない。その間もフィーリアの通常弾LV2LVの嵐、ツバメの乱舞、クリュウの業火は続く。
三人の容赦のない攻撃の嵐に、ゲリョス亜種は悲鳴を上げ続ける。
ようやく起き上がる事ができると、ゲリョス亜種は怒号を放ちながらツバメに向かって突撃した。だが、ツバメはこれをきれいに避ける。突撃に失敗したゲリョス亜種だったが、まるで最初から彼など狙ってはいなかったかのようにそのまま壁際まで走り、そこで転回。再び別の方向へと狂走を続ける。
「往生際が悪いですねッ!」
エリア全体を走り回るゲリョス亜種には剣士の二人では追い付けない。フィーリアが必死になって通常弾LV3で狙撃をするが、距離があるので大したダメージにはならないし狙いづらい。
ゲリョス亜種の動きを見て先回りして何とか追いついた二人だったが、ゲリョス亜種は急停止すると背後から近づく二人に向かってムチのようにしなる尻尾を叩きつけて来た。二人はそれぞれ左右に分かれて回避したが、せっかくの一撃の機会を失ってしまった。
ゲリョス亜種は翼を羽ばたかせて上空へ飛び上がると、そのまま水平飛行に移った。
「逃げたのか?」
「いや、あれは……」
ゲリョス亜種は逃げる事はせず、エリアの周りを周回するように飛ぶ。それを見たクリュウはすぐさま走り出す。クリュウの考えに気づいているのか、フィーリアもハートヴァルキリー改を背負うと同じく走り出す。一人、ツバメだけは二人の謎の行動に戸惑っていた。
「な、何をしておるんじゃ?」
「何やってんのッ! 一ヶ所に留まってると上空から襲われるよッ!」
クリュウの言葉にようやくツバメが二人の行動を理解した直後、上空で獲物を見定めていたゲリョス亜種は一ヶ所に留まっているツバメに狙いを定めると高度を下げ、鋭い脚の爪を構える。
「ツバメッ! 後ろッ!」
クリュウの悲鳴に驚いて振り返ると、上空からゲリョス亜種が自分に向かって突っ込んで来るのが見えた。
「ぬおぉッ!?」
ツバメは慌てて地面に向かって飛び込むように伏せた。その直上を掠るかのような距離でゲリョス亜種が通過したのを感じ、嫌な汗が全身から噴き出した。
上空からの強襲に失敗したゲリョス亜種はそのまま地面に降り立った。すぐに一番近くにいたクリュウが駆け寄りバーンエッジを叩き込む。爆ぜる炎にゲリョス亜種は体を回転させて尻尾で追い払おうとするが、クリュウはその動きに合わせて立ち居地を変える事でこれを回避する。そこへさらにフィーリアからの支援射撃が加わり、ゲリョス亜種は悲鳴を上げる。
ゲリョス亜種は風圧でクリュウの動きを封じたが、その間にツバメは鬼人化しながらゲリョス亜種の懐に潜り込む。
「懐がガラ空きじゃあああぁぁぁッ!」
乱舞乱舞乱舞。鬼人化中のツバメの猛攻を止める事は誰にもできない。神速で振るわれるサイクロンには雨粒すらも付着する事は許されないほど、素早く、そして鋭く舞う。
フィーリアの支援射撃に加え、さらにクリュウも攻撃に合流。三人の猛攻はさらに激しさを増す。
ゲリョス亜種は必死になって尻尾を振って追い払おうとするが、彼らの攻撃の嵐は止まらない。そのあまりの激しさにゲリョス亜種は悲鳴を上げ続ける。そして、
「グオオオォォォ……」
弱々しい鳴き声と共に、ゲリョス亜種は地面に倒れた。しばしもがいた後、ピクリとも動かなくなった。
狩場に静けさが戻り、雨音だけがザーザーと音を立てている。
クリュウとツバメはすぐさまゲリョス亜種から離れる。二人がフィーリアを向くと、彼女はコクリとうなずいて散弾LV1を装填し、引き金を引いた。
撃ち出された弾丸は銃口のすぐ近くで破裂し、倒れているゲリョス亜種に無数の銃弾となって襲い掛かる。何発かは地面を抉るが、この距離ならほとんどがゲリョス亜種に命中する。
五、六発撃った頃、そんなフィーリアの猛攻に耐え切れなくなったのか、ゲリョス亜種は突然起き上がった。やはり死にマネをしてこの場を逃れようとしていたらしい。
すぐさまクリュウが突撃。ゲリョス亜種の顔面に向かってバーンエッジを叩き込んだ。その一撃に、ゲリョス亜種が怒り狂う。毒液を口から撒き散らしながら、目の周りは鮮やかな緑色に染まる。
たった一撃で怒り状態になる。これは弱っている証拠だ。クリュウ達は自分達の勝利が目前にまで迫っている事で最後の追い込み、ラストスパートを掛ける。
フィーリアは弾種を通常弾LV3に切り替える。主力となる通常弾LV2はもう弾切れだ。
ゲリョス亜種は付きまとうクリュウを追い払おうと自身を回転させて尻尾を振るうが、クリュウはこれを姿勢を低くしながら転がって回避する。それどころか、一ヶ所に留まっているが為にフィーリアの猛攻を受ける羽目になった。
すると突然ゲリョス亜種は付き纏うクリュウに背を向けて、脚を引きずりながら移動を始めた。もう残り体力がわずかな証拠。ここで逃がしたら巣で眠られてしまう。
クリュウはバーンエッジを腰に挿すと走った。フィーリアが必死になって狙撃するが、ゲリョス亜種は構わず移動し続ける。だが、その速度はクリュウの本気の走りよりは遅い。何とかクリュウは追いつくとゲリョス亜種の尻尾に向かってバーンエッジを叩き込んだ。
「グギャオォッ!?」
その一撃に怯むゲリョス亜種。
「ツバメぇッ!」
「了解じゃッ!」
後から来たツバメはそのままゲリョス亜種を追い抜くと、腰に下げた落とし穴を地面に仕掛けた。いつもはあっという間に広がるネットも、今では妙に遅く感じられる。
設置を終えると、ツバメはすぐに落とし穴の後方へ下がった。それを確認し、クリュウはバーンエッジを腰に戻すと道具袋(ポーチ)から捕獲用麻酔玉二発を両手に握り、ゲリョス亜種の正面に移動する。
フィーリアも射撃を止め、その光景を見守っている。
ゲリョス亜種はとにかくこの場から逃げたい。そんな想いから周りが妙に静かになった事にも気づいていない。そのまま歩き続け、そして――
「グワオオォッ!?」
落とし穴を踏み抜き、ゲリョス亜種は悲鳴を上げる。必死になってもがくが、当然逃げる事は敵わない。
クリュウはゲリョス亜種の頭に向かって捕獲用麻酔玉を一発投げ付けた。それは見事顔面に命中して破裂。白い煙を噴き出し、それらはゲリョス亜種の鼻の中に消えていく。だが、一発ではまだ効果がない。残りの一発で、全てが決まるのだ。
失敗という二文字が頭を過ぎる。もし残り体力がまだ残っている方だとすれば、捕獲は失敗に終わる。そうなれば、こちらの劣勢は計り知れないものになるだろう。
不安はある。でも、
「今じゃクリュウッ!」
「クリュウ様ッ!」
二人の声が、そんな不安を吹き飛ばした。
三人でここまでやったのだ。それを信じないでどうする――きっと、成功する。
クリュウはうなずくと、暴れるゲリョス亜種に向かって最後の一発を投げ付けた。それは再びゲリョス亜種の頭に命中し、破裂。噴き出した煙はスゥとゲリョス亜種の鼻に消えていく。そして――
「グオオオォォォ……」
ゲリョス亜種は地面に倒れた。そして瞳を閉じ、眠り始めた――捕獲成功だ。
いつの間にか、雨は止んでいた。水溜りに足が触れると、それは波紋として広がり、ゲリョス亜種の頭にピチャンと音を立てて当たる。
雲が切れ、山の向こうから眩い光が現れた――朝日だ。
セレス密林全体を明るく照らすその光に照らされるゲリョス亜種。さっきまでの勇ましさはどこへやら、情けないような鼻提灯をしながらぐっすりと眠っている。
朝日を眩しげに見詰め、クリュウはほっとしたように笑みを浮かべた。
フィーリアもツバメも、現れた朝日を見て達成感に満ちた笑みを浮かべている。
雨ですっかり濡れ、冷えた体には、その温かな光はどんな暖炉よりも温かく感じられた。
セレス密林での二頭のゲリョスとの死闘は、ここに幕を閉じたのであった……