天気は雲ひとつない快晴のある日。村は今頃洗濯日和で主婦達が洗濯に精を出しているだろう頃、クリュウはいつものようにセレス密林で狩りを行っていた。
「せりゃぁッ!」
突進しながらその勢いを利用してクリュウは剣を横になぎ払う。その一撃で目の前にいたランポスは断末魔の悲鳴を上げて吹き飛び、地面に倒れた。
クリュウはすぐに剣を腰に戻すと、剥ぎ取り用ナイフに持ち替えて手早く剥ぎ取る。もう何度もしてきた事なので慣れた手つきだ。
「ふぅ……」
「この辺一帯のランポスは、もういないようですね」
そう言って涼しい笑顔をしながら近づいてきたのはフィーリア。身を包むのは深緑色のレイアシリーズ。上級飛竜である雌火竜リオレイアから剥ぎ取った鱗や甲殻を使った強力な防具だ。背中にはこれまたリオレイアの素材を使ったヴァルキリーファイアというライトボウガンが背負われている。
クリュウはそんな強固かつ貴重な上級装備を身に纏ったフィーリアを見て小さくため息した。
「あはは、やっぱりすごいな。レイアシリーズは」
「そんな事ありませんよ」
そう謙遜するが、並のハンターでは敵わない飛竜の女王であるリオレイアの素材をふんだんに使った防具だ。そのすごさは一般的に使われている防具とは桁違いだ。
「それに比べて僕のは……」
そう言って苦笑いしながらクリュウは自分の防具を見詰める。
頭は何も付けていないが、それ以外はチェーンメイル、チェーンアーム、チェーンライトベルトという初心者丸出しの装備だ。唯一そんな中足の装備だけは新鋭装備。ランポスの鱗と鉄鉱石を使ったランポスグリーヴに変わっている。アシュアが壊れたブルージャージーの後継として作ってくれたのだ。
「履き心地はどうですか?」
微笑ましく見詰めながら問うフィーリアに、クリュウは嬉しそうに微笑みながら爪先で軽くコンコンと地面を蹴る。
「うん。よく足に馴染むよ」
「そうですか。良かったですね」
「あはは、フィーリアの装備には負けるよ」
「もう、またそんな事言って」
しつこく言ってくるクリュウに少し怒るフィーリア。そんな彼女を見ながらクリュウは「ごめんごめん」と笑いながら軽く謝る。
二人はそのまま会話をしながら別のエリアへ移動する。今まで狩り場では一人だったクリュウにとっては、こうした移動中の会話も楽しいのだ。
一方、フィーリアはクリュウの話を聞きながらもしっかりと周囲を警戒する。その辺はやっぱり歴戦のハンターという訳だ。
「ここは以前私達が出会った場所ですね」
「同時に、ドスランポスに襲われた所でもあるけどね」
そう言ってクリュウが見詰めたのは、まわりを岩に囲まれた道はそれぞれ反対側の二ヶ所しかないまるで闘技場のような場所だ。
以前クリュウはここでランポスの群れとドスランポスに襲われた死ぬかと思った。同時にフィーリアと出会った場所でもあるのだが。
「ドスランポスは仲間のランポス達と共に各地を回るモンスターです。クリュウ様の装備を整えるのに一週間掛かりましたので、おそらくはもう他の場所に移動しているでしょうが、警戒は必要ですね」
「確かに、もうあんな思いは嫌だからね」
そう言ってクリュウは苦笑いする。確かに、そう何度も死ぬ覚悟はしたくはない。
フィーリアは「そうですね」と小さく微笑むと鬱蒼(うっそう)と茂る木々を見回す。だが、そこには目的の青い生物は存在しなかった。フィーリアは残念そうに小さくため息する。
「ドスランポスが消えてしまったので、ランポスの数もずいぶんと減りましたね。これではランポス鱗が手に入りませんね」
そう。今回の目的はランポスの鱗や皮、牙の採取である。それとそれぞれの腰に掛けてあるピッケルで鉱石の採掘も行う予定だった。
「そうだね、これじゃあランポス装備は揃わないよ。あと少しなのになぁ」
クリュウは残念そうにため息交じりにつぶやく。
今回こうしてランポスの素材を集めに来た理由はランポス装備を作る為だ。新米ハンターが一番最初に討伐する人間に害をなすモンスター。それがランポスである。その装備は新米ハンターが一番最初に手に入れる防具だが、その性能はチェーンシリーズより断然上である。これからの事を考えてどうしても装備しておきたい。
実際、すでに脚に装備しているランポスグリーヴは履き心地はいいし、何より軽い。鉱石だけのチェーンシリーズと違って、ランポス装備の特徴はなんといっても要所要所を守っている頑丈で軽いランポスの鱗だ。ベーシックな装備ながらその安全性と利便性、運動性は折り紙つきである。
「ランポスシリーズですか、懐かしいですね。私も最初は装備してました」
「フィーリアも?」
「そうですよ。何も最初からレイアシリーズをつけてた訳じゃありませんよ?」
「ははは、それもそうだね」
クリュウがおかしそうに笑うと、フィーリアも小さく笑みを浮かべた。その時、フィーリアの顔から笑みが消えスッと瞳が細まり、クリュウの横で突如屈んだ。
「フィーリア?」
「……ランポスの足跡です」
「え?」
クリュウも慌てて確認すると、確かに柔らかな腐葉土が何かの力で浅く沈んでいる。なるほど。何かの足跡らしいが、言われないと絶対に気づかないだろう。
「かなり新しいものです。きっと近くにまだランポスは残っていますよ」
フィーリアはそう言って立ち上がるとランポスの足跡が向かっている先を見詰める。そんな彼女に、クリュウは改めて感心する。
「さすがフィーリア。よくそこまでわかるね」
「狩り場ではこうした積み重ねが必ず役に立つんです。特に飛竜種と戦う時は情報収集がまず最初に必要な事ですから」
「情報って?」
「飛竜種の種類、生態、生息範囲、狩り場の状態などたくさんありますよ」
「へぇ、僕は今までそんな事考えてなかったけど、狩りって奥が深いんだね」
「鳥竜種はそれほど情報を必要としませんが、これから大型モンスターを狩る場合には必ず必要になりますよ」
「うん。覚えとく」
クリュウはそう言って忘れないように覚える。そんなクリュウの肩をポンと叩き、フィーリアは「先を急ぎましょう」と言って歩き出す。
二人は足跡を追って進む。しばらく進むと、深い木々に覆われた洞窟の入り口が姿を現した。洞窟の奥は所々の穴から差し込む日差しだけが暗い洞窟内を薄暗く照らし上げている。どこかと繋がっているのだろうか、洞窟からは少し肌寒い風が吹き出しており、頬を撫でるその冷たい風にクリュウは身を震わせる。
「洞窟の中は、あまり入った事がないんだ」
「そうなんですか?」
フィーリアが驚いたように目を見開く。ここは彼がよく使っている狩場なので、てっきりとっくの昔に制覇していると思っていた。
「うん。洞窟の中って狭いでしょ? 僕みたいな新米ハンターじゃそんな所でランポスに囲まれたらおしまいだからね。あんまり入らなかったんだ」
クリュウの説明に、フィーリアは納得したようにうなずく。
「そうですか。それは確かにそうかもしれませんね。ですがランポスはこうした洞窟を巣にする事が多いですし、何より洞窟の中は鉱石の宝庫です。鉄鉱石はもちろんうまくいけばマカライト鉱石も手に入るかもしれませんよ?」
マカライト鉱石とは別名《燕雀石》と呼ばれる精製するとマカライト鋼となる良質な金属が取れる鉱石の事であり、初期防具などの素材に使われる事が多い、鉄鉱石よりは貴重な鉱石だ。
「そうだね。とりあえず入ってみようか」
「はい」
クリュウは一応何度かは鉱石採掘の為に訪れた事があるので、フィーリアを案内する。もちろん入ってすぐの場所までだ。その奥はクリュウにとっても未経験だ。
フィーリアはヴァルキリーファイアを構えて通常弾LV2を装填し付近を、特に後方を警戒しながら歩く。背後から奇襲を受けるのがこの世の中で最も危険な事だ。
一方、クリュウもハンターナイフ改を構えて前方を警戒する。フィーリアのおかげで警戒する方向が限定されてより集中できる。こういう時こそ仲間という存在が嬉しい事はない。
岩陰に隠れながら前方へ進んでいくと、細い通路から一転して大きな広場に出た。上には大きな穴があり、そこから太陽の光が注ぎ込んでいる。その光の恩恵を受けて、広場には植物がひっそりと生えている。
「気をつけてください。ここはどうやら飛竜の巣に適した地形のようですね。一応今現在飛竜の目撃情報はありませんので、大丈夫だと思いますが」
そう言うが、フィーリアはより警戒を強める。
「とりあえず、この先に鉱石採掘に適した場所があるから、そっちに行こう」
クリュウは付近にモンスターがいないか確認する。すると、小さな猪がノロノロと動いていた。あれはモス。比較的温厚なモンスターで、こっちから攻撃しなければまず襲って来たりはしない。彼らはキノコが好物なので、キノコ採掘の時は彼らの後をついていけば特産キノコなどのキノコが手に入る。ハンターの基本知識だ。
「モスがいるけど、あれは無視しよう」
「はい」
二人は広場を横切る。途中モスが突然現れた侵入者を一瞥してきたが、すぐに興味がなくなったのか再び鼻をヒクヒクさせてキノコを追う。そんなモスを何気なく目で追いかけていると、
「あれは、もしかして厳選キノコ?」
イージス村の特産物の中にはキノコがある。ドンドルマなど都会での需要が高いキノコは村の資金源となっている。そして、厳選キノコとは普段取れる特産キノコの数倍から時には十倍の高値で取引される高価なキノコだ。味がいいのはもちろん、圧倒的にその数が少なく希少価値が高い。《厳選》という名前は伊達じゃないのだ。
今回の目的はあくまでもランポスの素材と鉱石の採掘だが、厳選キノコならちょっとした臨時収入になる。
クリュウは嬉しそうに駆け寄る。彼自身厳選キノコは一度もお目にかかった事はない。フィーリアは付近を警戒しながらも嬉しそうにキノコに駆け寄るクリュウを微笑んで見詰めた。
クリュウはキノコに近づくと驚いた。
「うわ、こんな大きなキノコ初めて見たよ。これは高く売れるぞぉ」
クリュウの言葉に、フィーリアの顔から笑みが消えた。
厳選キノコは普通のキノコと大して大きさは変わらないはず。驚くほど大きなキノコ――それはまだ彼には教えていない危険な存在――
「クリュウ様ッ! 離れてくださいッ!」
「え?」
フィーリアの悲鳴のような声に振り返った刹那、
「ウキャキャァーッ!」
奇声を上げて、土の中から何かが飛び出して来た。
「うわッ!?」
クリュウは突然の事に尻餅をついてしまう。そんな彼の目の前には不気味な仮面を被った小さな人型のモンスターが。
「チャチャブーですッ!」
フィーリアの放った目の前のモンスターの名前に、クリュウは驚く。
チャチャブーとは奇面族と呼ばれる獣人種の一種だ。しかし同じ獣人種でもアイルーとメラルーに比べてその生態はかなり謎に包まれていて、ギルドでも把握しかねている。わかっているのは、チャチャブーは大きなキノコの傘や石を被って地面に潜り、近くに来た者に突如として姿を現して攻撃するという事。アイルーやメラルーと違って人間に友好的ではなく、かなり好戦的。小柄な体形を生かしてすばやい動きで相手を翻弄(ほんろう)し、手にした剣で斬り掛かり、隠し持った爆弾を投げつけてくる。人間よりも小さいながらも筋力は人より強い。その一撃は下手なモンスターの攻撃よりも強力……と、モンスター図鑑に書いてあった事を思い出す。
「クリュウ様ッ!」
フィーリアはすぐさま引き金を引いた。撃ち出された弾丸は寸分の狂いなく小さなチャチャブーへと吸い込まれ、その仮面の一部を粉砕する。
「ウキャッ!?」
突然の攻撃にチャチャブーの動きが止まる。
「今のうちに早く逃げてくださいッ!」
フィーリアの声に慌ててクリュウは立ち上がって逃げ出す。が、
「ウキャキャッ!」
チャチャブーはその身に合った小振りの剣を振り回してクリュウを追う。フィーリアは連続して弾倉の中の全弾を撃ち込むが、すばやく変則的で、しかも小さなチャチャブーにはなかなか狙いが定まらないのか全て外れて地面などに突き刺さる。
「ウキャァッ!」
チャチャブーの声にクリュウはとっさに振り向くと盾を構える。するとその瞬間、跳躍したチャチャブーが剣を振り下ろした。その攻撃は盾によって防げたが、その威力はランポスの比ではない。ビリビリと腕が痺れた。
「くぅッ!」
クリュウは右手に構えた剣を薙ぎ払うようにして横一線に振るう。が、チャチャブーはそれを難なく回避した。しかも見事に着地して「キャキャッ!」とまるであざ笑うかのように声を上げる。
「このぉッ!」
「クリュウ様ッ!」
フィーリアの声を無視し、クリュウは剣を振るう。だが、その全てをチャチャブーはまるで踊るようにして避ける。なんてすばやいのだろうか。すると、いきなりチャチャブーが跳躍した。突然の事に対処できず、クリュウは一瞬チャチャブーの姿を見失う。
「ど、どこッ!?」
「クリュウ様! 後ろッ!」
フィーリアの声に振り返るとそこには――小さな爆弾を構えたチャチャブーの姿が。
「しまっ――」
言い終わる前に、チャチャブーは爆弾を放った。とても逃げられる距離ではない。反射的に盾を構えるのが精一杯だった。
ドガァンッ!
すさまじい爆音と爆風にクリュウは簡単に吹き飛ばされ、壁に背中を強打した。肺の中の空気が一瞬で吐き出され、咳き込む。
「クリュウ様ッ!」
フィーリアは牽制の為に再装填したばかりの弾を全弾チャチャブーに撃ち込み、急いでクリュウに駆け寄る。
「クリュウ様! お怪我はありませんか!?」
「う、うん……何とか、大丈夫……」
クリュウはそう答えて痛む身体を無理やり起こす。が、
「うぐぅ……ッ!」
突然右肩に痛みが走り、顔がゆがむ。
「ど、どうされたんですか!?」
「どうも、さっきの爆風で跳ばされた時、右肩を強く打ち付けたみたい……」
右肩に痛みが走る。走る事には問題なさそうだが、戦闘となれば別だ。利き腕が使えないのでは戦う事なんてできない。
痛む肩を押さえるクリュウの前に、フィーリアがヴァルキリーファイアを構えて立ち塞がる。
「クリュウ様は私が守ります!」
そう言うと、フィーリアは突撃してくるチャチャブーをスコープで捉えると間髪入れず連射する。細かく動き回る小さな相手を撃ち抜くのは難しいが、自分に向かって来るのは別だ。敵の向かうべき方向は決まっているので、自(おの)ずと迎撃すべき場所も限定される。一直線に迫るチャチャブーを撃ち抜く事など、フィーリアの腕なら造作もなかった。
無数の銃弾を受けてチャチャブーは戦況の不利を悟ると、慌てて地面に潜った。落としてしまったのだろうか、チャチャブーの仮面が不気味に残されている。
チャチャブー撃退に成功したフィーリアは急いでヴァルキリーファイアを背中に戻すとクリュウの前で屈む。
「クリュウ様。具合はいかがですか?」
「うん、平気。大した怪我じゃなかったみたい」
そう言って笑うクリュウを見詰めるフィーリア。その表情は全てお見通しと言いたげで、
「クリュウ様」
「え? あ、いでぇッ!」
フィーリアの無言でクリュウの右肩を掴んだ。隠してはいたが、結構痛かった所を鷲掴みにされクリュウは悲鳴を上げる。
「な、何するのぉッ!」
「やはり、怪我をされてますね」
「うっ……」
「見せてください」
フィーリアはクリュウのチェーンメイル部分を脱がせると、インナーに隠れた青いあざを目にする。
「確かにそれほどの怪我ではありませんが、痛いでしょう?」
「うん……」
フィーリアはクリュウの肩にすり潰した薬草を塗り込んだ包帯を巻いて応急処置をすると、再びチェーンメイルを付ける。
「痛みますか?」
「少し。だけどさっきよりは楽になったよ」
「そうですか」
フィーリアは笑顔を浮かべるとおもむろに立ち上がった。
「では、帰りましょうか」
「え? で、でもまだランポスの素材が……」
驚くクリュウに、フィーリアは笑顔で自分の腰に下げていた素材袋を差し出した。
「私のランポスの素材を差し上げます。これだけあれば足りるでしょう」
「で、でもいいの? それはフィーリアのじゃ……」
「いいんです。私はランポスの素材は使いませんので、クリュウ様に使ってほしいんです。その方がこの素材も喜びますし」
笑顔で言うフィーリアに、クリュウは「ありがとう」と笑顔で礼を言って受け取る。ちゃんと素材袋を受け取ってくれたクリュウに笑顔を向けると、フィーリアはそっと手を差し伸べた。
「さあ、帰りましょう。私達の戻るべき場所へ」
「うん」
クリュウはフィーリアの手を取って立ち上がると、並んで歩き出した。
負傷したクリュウをかばうように、フィーリアはヴァルキリーファイアを構えて全方位を警戒しながら歩く。そんな彼女を見て、クリュウは改めてこの年下の師匠の存在をありがたく思うのだった。
「い、いだいってばぁッ!」
「うるさいわね! 男だったらこれくらい耐えなさいよ!」
「え、エレナ様! そのように乱暴をなされては……ッ!」
わいわいと賑やかなクリュウの家。クリュウが怪我をしたと聞いたエレナはクリュウの怪我の手当てをしに来たのだ。そこまでは良かったのだが、素直じゃないエレナは乱暴にその手当てをするのでクリュウは悲鳴を上げるし、エレナは怒鳴るし、フィーリアはあわあわとするしと相変わらずなクリュウ家。
五分間の死闘の後、クリュウは涙目で巻かれた包帯を見詰める。
「し、死ぬかと思ったぁ……」
「大げさね。これくらい耐えられなくて何がハンターよ」
「え、エレナ様。あれはいくら何でも……」
腰に手を当てて呆れた声を上げるエレナに、フィーリアがあわあわとする。もう結構見慣れた光景だ。
クリュウはとりあえず立ち上がると、用意していた素材の入った袋を手に取る。そんなクリュウにエレナが驚く。
「ど、どこに行くのよ」
「アシュアさんの所へ。新しい防具の作ろうと思って」
「ふーん、なら付き合ってあげる」
「え?」
そう言ってエレナはクリュウの手から袋を奪い取る。ずっしりと重い感覚に一瞬驚くが、すぐにグッと力を入れて耐える。
「け、結構重いわね」
「だ、大丈夫?」
不安そうに見詰めるクリュウに、エレナは偉そうにわざわざ胸を逸らす。
「当たり前でしょ。私はあんたみたいなへなちょこじゃないの」
「べ、別にへなちょことかは関係ないでしょ。そもそも僕はへなちゃこなんかじゃないよ」
「ふん。怪我人は黙って言う事を聞いてなさい」
そう言ってエレナはクリュウやフィーリアを置いて勝手に出て行ってしまう。
「ちょ、ちょっと待ってよッ!」
「クリュウ様!? エレナ様まで! 待ってください!」
二人も慌てて家を飛び出す。相変わらず無駄ににぎやかな日常のクリュウ達だった。