モンスターハンター ~恋姫狩人物語~   作:黒鉄大和

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第46話 新たな戦いに向けて

 クリュウ、フィーリア、サクラの三人でチームを組んでから一ヶ月。三人の連携はなかなかのものになっていた。

 基本的にはクリュウを中心としたチームで、クリュウとタッグで戦うサクラ。そしてそんな二人(主にクリュウ)を援護するフィーリア。それぞれのクリュウとの連携が組み合わさったベストな戦法を使っていた。

 さらに言えば、荷車なんかを運ぶ時は三人もいれば安心である。必然的に援護役のフィーリアが荷車の担当となり、前方をサクラ、後方をクリュウが護衛する形となる。

 すでにこの一ヶ月で三人はフルフルとバサルモスをそれぞれ一頭ずつ狩猟している。

 サクラと二人では苦戦したフルフルもフィーリアの援護があれば難なく片付き、バサルモスも基本動作が少ないので二度目という事もあってあまり苦労せずに倒せた。

 フルフルは危険だったので狩ったのだが、バサルモスは目的があって狩った。その理由は……

 

 その日、クリュウは嬉しそうにアシュアの元に向かった。そんな彼に続くフィーリアとサクラもどこか嬉しそうだ。三人はそれぞれ防具ではなく私服を着ている。クリュウは茶色いダウンベストにシャツとズボン、フィーリアは黄緑色のワンピース、サクラは白いシャツに青いリボンを胸にし青色のスカートという姿だ。

「楽しみですねクリュウ様」

「うん。この日をどれだけ待ち望んでいた事か」

 フィーリアの問いクリュウは嬉しそうに笑みを浮かべる。昨日からずっとこの調子なのだ。彼の笑みは周りを幸せにするので自然と自分にも笑みが浮かぶ。

「この為に集めていたマカライト鉱石や砥石を全部注ぎ込んだからね。お財布も寂しいよ」

「またお金や素材を調達しないといけませんね」

「そうだね。まぁ、その時はもちろんあれを使わないとね」

 そう言ってクリュウは嬉しそうにスキップする。本当に嬉しいのだ。そんな彼を見詰め、フィーリアは笑みを浮かべる。ふと、横を歩くサクラを見ると、相変わらず何を考えているかわからない無表情だ。

 この一ヶ月、確かにチームの連携は良くなった。だが、サクラは基本的にクリュウとしか話さない。もちろんエレナや村長などとも話すが、狩りをする仲なので必然的にクリュウが一番多くなるのだが、いまだに自分とはあまり話そうとしない。

 嫌われているのかいつも不安を感じるが、確かめる術がないままこうして今日も共に会話なく行動している。

 なんとかできないかと考えていると、目的地であるアシュアの家に着いた。

 クリュウは意気揚々とドアを叩く。

「アシュアさん! 僕です!」

 元気良く言うクリュウだったが、返事はなかった。不思議に思って再びドアを叩こうと拳を構える。

「ふぁ〜い……」

 そんな気の抜けた声と共にドアが開くと、中からアシュアが現れた。

 今まで寝ていたのだろうか。アシュアの髪は寝グセがすごくて色んな方向に跳ね回っているし、いつもは元気な瞳もとろんとしている。口の端から垂れるよだれはあまり見ない事にしよう。

 それよりも一番厄介なのは服装だ。年頃の女性だというのに古く汚れた作業着。まぁこれは職業柄仕方がないとしても、前を留めておらず、寝相で少しズレた下着が丸見えである。

 真正面に立つクリュウは、顔を真っ赤にする。

「ふぉや? くりゅうくんやないのぉ、おはようなぁ。今日もかわえぇなぁ」

 そう言って寝ぼけているアシュアはいきなりクリュウに抱き付いてきた。

「あ、アシュアさん!?」

「ふやぁ、くりゅうくんは抱き心地が気持ちえぇなぁ」

 そう言って寝ぼけるアシュアは大人だからこその豊満な胸を慌てるクリュウの顔面に押し付ける。柔らかくてちょっぴりと漂う汗の匂いに、クリュウは目を回す。と、

「あ、アシュア様! クリュウ様が大変です!」

 フィーリアが慌ててクリュウからアシュアを引き離す。解放されたクリュウは顔を真っ赤にしてフラフラとしている。

「び、びっくりしたぁ……」

「だ、大丈夫ですか?」

 フィーリアが心配そうに覗き込む。と、先程の事があり自然と視線は胸に向かい……

「ぼ、僕は何も見てないよ!」

「はい?」

 そんな二人を一瞥し、サクラはまだ寝ぼけているアシュアに近づくと、その頬を無言で思いっ切り引っ張った。

「いたたたたたッ! ちょっと何するんやぁッ!」

 アシュアはサクラの手を引っ叩くと傷む頬を押さえる。瞳もしっかりとしており、どうやら目が覚めたらしい。

「おや? おぉ、みんなおはよう。朝は気持ちええなぁ」

 どうやらさっきの記憶はないらしい。クリュウはなんか良かったようなそうでもないような複雑な気持ちになった。

「あ、あのアシュアさん。あれはできてますか?」

 仕切り直して問うと、アシュアはニッと笑みを浮かべて先程クリュウを襲った胸を張る。

「当たり前や。うちを誰やと思ってるんや?」

「そ、そうですか。良かったです」

 ちょっと先程の事もあって直視できずに視線を逸らすクリュウ。すると、そんなクリュウにアシュアが不思議そうに首を傾げる。

「うん? どうしたんや?」

「アシュア様! 胸です胸!」

 フィーリアが慌てて指摘すると、アシュアはようやく自分のだらしない格好に気づいた。

「嫌やぁッ! もうクリュウくんのエッチぃッ!」

 そう言いながらもどこか嬉しそうなアシュア。きちんと胸元を閉め、ようやくクリュウは安堵する。

「とにかく、後はクリュウくんに合うかどうかやで。ちょっと来てぇな」

 そう言ってアシュアは家の中に入る。三人もアシュアの指示通りに彼女の後を追って家の中に入る。工房の方からは相変わらず暑い風が来るが、意外にもリビングなんかは窓も空いていてとても涼しい風が流れている。ちょっと問題があるとすれば床や椅子に色々なものが散っている事だろうか。

「あぁ、その辺のもの勝手にどかして座っててぇな」

 そう言ってアシュアは別の部屋に消えた。

「勝手にどかして座っててと言われても……」

 クリュウはどうすればいいか困って立ち往生してしまう。工具や本、書類などは確かにどかすという気は起きるのだが、椅子に掛けられたブラジャーとかパンツとかまではちょっと……

 恥ずかしいのか、ほんのりと頬を赤らめるクリュウ。すると、フィーリアがそんなクリュウの気持ちを察したのか、慌てて散らかってる部屋を片付け始めた。

 クリュウは一瞬、女の人の部屋ってこうなのかな? という悲しい現実を突きつけられたが、すぐにフィーリアとサクラの部屋はきれいだった事を思い出して安堵した。

 現在クリュウはフィーリアとサクラと共に自宅に住んでいる。村には新たな家を造る余裕はなく、今はとりあえず三人で使っているのだ。ちなみに夕食の時はクリュウの家でエレナを含めて四人で食事をしている。必然的にエレナが料理を作る。もちろん三人も料理は人並みにはできるが、プロであるエレナの料理の方がおいしいからこういう状態になっているのだ。

 フィーリアが猛烈な勢いで掃除をする中、サクラは無言で床に落ちていたブラジャーを取る。自分やフィーリアよりずっと大きなブラジャーだ――サクラは無言でそれをゴミ箱に捨てた。

「ちょっと何してるの!?」

 一部始終を見ていたクリュウは慌ててゴミ箱の中に手を突っ込む。

「勝手に捨てちゃダメだよ! 大事なものかもしれな――」

 どうやらクリュウ、サクラが捨てたものまでは見ていなかったらしい。がっちりと掴んだそれは、男の子は決して使う事のない女性専用の下着。

「のわあああぁぁぁッ!」

 顔を真っ赤にして慌てて投擲(とうてき)。放たれたブラジャーはフィーリアの後頭部に炸裂した。

「うわぁッ!? な、何ですか一体!? って、これはブラジャー……うぅ、大きいなぁ……」

 フィーリアはなぜかブラジャーをまじまじを見詰めている。

 一方のクリュウはぜぇぜぇと荒い息をしていた。

「……大丈夫?」

 サクラが顔を覗き込むが、クリュウは「大丈夫だよ」と笑って誤魔化す。どうやらここはクリュウにとっては狩場より危険な場所らしい。

「何騒いでるんや? あ、別に片付けんでもえぇのに。おおきになぁ」

 アシュアはそう言って笑みを浮かべるとおぼんに載ったお茶をテーブルに置く。

「これでも飲んでゆっくりしてぇな。ほんじゃ、うちはあれ取って来るから、ちょいと待っててぇな」

 そう言ってアシュアは再び消えた。クリュウ達はとりあえずきれいになった椅子に腰掛けると、アシュアが持って来てくれたお茶を飲む。

「あ、おいしいですね」

 フィーリアが嬉しそうにお茶を飲む。確かになかなかの味だった。使っている茶葉が違うのだろうか、少しまろやかだ。

 しばらくそうしてお茶を飲んでいると、「すまんすまん。待たせてもうたなぁ」と言ってアシュアが戻って来た。白いシーツが掛かった自分の身長と同じくらいのその何かを、クリュウに誇らしげに見せる。

「さぁクリュウくん。このシーツを外して見てぇな」

「はい」

 クリュウは嬉しそうに立ち上がると、アシュアが持って来たものに近づく。そんな彼を三人がじっと見詰める。

 クリュウは一度深呼吸をすると、シーツを掴み、思いっ切り引っ張った。

 シーツが外れると、そこには灰色の、岩の鎧があった。正確にはただの岩ではなく岩竜バサルモスの甲殻である。大きく滑らかな肩当が一番の特徴。全身はまるで岩の鎧としか言いようがない防具だ。所々に練り込まれたマカライト鉱石がキラキラと輝く。そして、今回は今までにはない頭装備もある。さすがにそろそろ頭を着けないと危険なので、今回は頭から足まで全て防具で包む形となる。

「うわぁ、かっこいい!」

 クリュウはそのかっこ良さに心奪われた。今までのクックは防御力を優先して装備していたが、かっこ良さならランポスシリーズが勝っていた。しかしバサルシリーズは違う。防御力もありそしてかっこいい。まさにクリュウの理想郷であった。

「えぇやろ。早速着けてみてぇな」

 そう言って微笑むアシュアに力強くうなずくと、バサルシリーズを着てみる。まず最初に気づくのは一つ一つの防具が今までよりも重い。動きにくいというほどではないが、今までよりずっしりとしている。

 頭以外を装備するとかなりかっこいい。鏡を見ながら自分の姿を見て嬉しくなる。だが、一つ難があるとすれば、頭が丸出しだとちょっとかっこ良さは半減する。それは全体的に体格以上に大きいバサルシリーズを着ると頭が小さく見えるからだ。この解決策として、クリュウは残った冑(かぶと)を手に取る。顔を守る為に鋼鉄製のフィルターも付いている。そして後頭部からは真っ赤な何かの羽が一枚伸びていてそれもまたかっこいい。

 クリュウは一度息を吹き出すと、初めての頭装備――バサルヘルムを被る。

 改めて鏡を見ると、見事に身体との大きさに合っており、かっこ良さは一気に飛躍した。

 フィルターを下ろすと、フィルターの穴から外が見える。意外と視界はちゃんと確保できている。

「えへへ、似合うかな?」

 そう言って振り返ると、なぜか三人が固まっていた。

「あ、あれ? 似合わない、のかな?」

 急に不安になるクリュウに、一番最初に元に戻ったフィーリアが慌てて否定する。

「ち、違います! と、とてもお似合いだからつい見とれてしまって……」

 そう言って照れたように頬を赤らめるフィーリア。クリュウはそんな彼女の言葉に嬉しそうに微笑む。

「えへへ、ありがとう」

「ただ、ちょっとクリュウ様のお顔が見られないのが残念ですね」

「そっかな? そんな事ないと思うけど」

 そう言ってクリュウはその場で一回転してみる。後頭部から伸びる赤い羽根が風にフワフワと揺れる。

 どうやらクリュウはすごく気に入ったらしい。フィーリアもすっかり凛々しくなったクリュウをうっとりと見詰めているし、サクラも表情こそ無表情だが、頬は赤く口元には小さな笑みがある。きっと彼女も似合っていると思っているのだろう。

 一方のアシュアは少し苦笑い気味だ。

 確かに似合っているのだが、基本的にちょっと小柄なクリュウには少し大きく見えた。でもそれもいつかきっと似合うようになると思うと、自然と笑みが浮かぶ。

「気に入った?」

「はいッ! とっても!」

 嬉しそうに笑みを浮かべるクリュウを見て、アシュアも嬉しそうに微笑む。やっぱり誰かに喜んでもらえるのは嬉しい。そんな彼の笑みを見ていると、安心したのかどっと疲れが押し寄せてきた。

「ふわぁ、徹夜したからうちもう眠いわ」

「あ、すみません。じゃあ僕達も出て行きますね」

 そう言ってクリュウはバサルシリーズを着たまま外へ出る。そんな彼に続いてフィーリアとサクラも出ると、アシュアはあくびしながら見送ってくれた。

「本当にありがとうございました!」

「もうえぇよ。クリュウくんに喜んでもらえてうちも嬉しかったで。ほんじゃぁな。ふわぁ、おやすみなぁ」

 そう言ってアシュアは微笑むと、あくびをしながら家の中に入った。

 クリュウはペコリと頭を垂れると、嬉しそうに微笑む。

「えへへ、ちょっと試しに行こうかな」

「そうですね。慣れておいた方がいいですからね。私もお供します」

「……私も」

「じゃあ三人で行こうか。何がいいかな」

「あ、コンガの群れの討伐依頼がありましたよ?」

「却下。新品の防具をいきなり屁やフンでは汚したくない」

「そ、そうですね」

「……なら、ドスランポスがいいと思う」

「そうだね。じゃあそれにしよう」

 そう言ってクリュウは待ち切れなくなったのか、駆け足で装備を整える為に家に走る。そんな彼を満面の笑みを浮かべるフィーリアと、小さな笑みを浮かべるサクラが追いかける。

 クリュウははやる気持ちを抑えて家で必要最低限のアイテムとオデッセイを持ち出し、酒場に向かう。

「え? クリュウ?」

 最初見た時エレナは誰だかわからなかったのか一瞬怖がったが、すぐにクリュウとわかっていつもの強気な態度になる。

「へぇ、それがあんたが言ってた新しい防具?」

「うん! 似合うでしょ?」

「はぁ? 別に」

「そ、そんなぁッ!」

「う、うそようそ! ちゃんと似合ってるから泣かないでよッ!」

 二人がそんな相変わらずなやり取りをしていると、同じく装備を整えた二人がやって来て依頼を受注する。

「じゃあ行こうか!」

 クリュウは嬉しそうに微笑むと、村の出口に向かって走り出す。そんな彼の背中を見詰めて二人は静かに微笑むと、その背中を追った。

 小さくなっていく幼なじみの背中を見詰め、エレナは「がんばりなさいよ」と小さくつぶやいてそれを見送った。


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