モンスターハンター ~恋姫狩人物語~   作:黒鉄大和

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第54話 楽しい旅路 ツバメの苦悩

 一時間後、クリュウ達は酒場の前で合流。それぞれ用意を整えて街の入り口に向かう。

 ギルドから支給されるアプトノスが引く竜車に荷物を詰め込み、それぞれも乗り込むとアルフレア出発する。今回の運転手はツバメだ。

 アルフレアからイルファ山脈は竜車なら二日という所にある。それまでの間は森が続く。人が通る道にはあまりモンスターは出て来ないが、それでも警戒は怠らない。

 ツバメが運転をしている間、クリュウ達は作戦の立案や行動などを練る事になった。何せ初めてのチームだ。いまだにチームの実力は未知数。どう作戦を立てるかにも困ってしまう。

 クリュウはサクラとはいつも組んでるしレミィとも何度か組んでいる。しかしクリュウはツバメと、サクラはレミィと組むのは初めてだ。どういう戦い方になるかもわからない。

 さらに今回は全員剣士という偏ったチームとなった。いつものようにフィーリアなどのガンナーからの掩護はない。いつもとは違う戦い方になりそうだ。

 レミィの考えはまず動きは鈍いが強力な盾で攻撃を防ぐ事ができるガンランスの自分が前衛に出てドドブランゴを引き付けて攻撃。その間に機動力と手数で攻める双剣のツバメと機動力と攻撃力に優れた太刀のサクラがドドブランゴを徹底的に叩く。機動力重視でサポートに適した片手剣のクリュウは遊撃役。ドドブランゴと戦いながら閃光玉や罠、爆弾の設置。さらにはドドブランゴと連携して攻撃して来るであろうブランゴを駆逐するという最も過酷な役回りとなった。

「これで大丈夫ですか?」

 レミィが今回一番動きが多くなるであろうクリュウに確認を問うと、クリュウは「もちろん問題なし」と笑顔で応える。元々彼はサクラとフィーリアを組んでいてもそういう役割が多いし、何より彼自身も得意だ。

 クリュウの返事にレミィは笑顔でうなずくと、今度はサクラと打ち合わせに入る。双方共に今回の狩りが組むのが初めて。お互いの力量をある程度確認しているのだ。

 そんな二人を一瞥すると、クリュウは幌の外で一人竜車の操縦をしているツバメに近寄る。狩場ではないと一応ヘルムであるフードを被らないのが彼の主義らしい。クリュウも基本的に狩場以外ではヘルムを外している。それと同じようなものらしい。サラサラとした髪が風に揺れて何とも絵になる光景だ。

「順調?」

 クリュウが声を掛けると、ツバメは振り向いて小さく笑みを浮かべる。

「うむ。このアプトノスは大人しいから扱いやすいのぉ。これなら予定通りに行けるぞ」

「そっか」

 クリュウはそっとツバメの横に腰掛ける。ツバメはクリュウを不思議そうに見詰めながら手綱を引く。そんな彼のクリッとした瞳に見詰められてやっぱりまだドキッとするクリュウ。危ない危ない。

 クリュウはツバメと対峙するように彼を見詰めると、にっこりと微笑む。

「よろしくねツバメ」

「うむ? 今更どうしたのじゃ?」

「いや、今までフィーリアやサクラ、ラミィやレミィみたいな女の子ばかりと組んでたから、男の仲間ってのが初めてなんだ」

「うむ。それではワシはクリュウの男仲間一号じゃな」

「うん。まぁ、外見はどうであれ僕にとっては初めての男仲間だね」

「……今、ものすごく気になる言葉が聞こえたような気がしたのじゃが」

「気のせい気のせい」

 楽しそうに笑うクリュウを見て、ツバメは小さく苦笑いする。彼にとっても同世代の同性ハンターと組むのは久しぶりの事。ちょっぴり嬉しかったりする。

「そういえばそれってフルフルシリーズだけど、一人でフルフルは倒したの?」

「うむ? いや、一人だったり仲間と一緒だったりそれぞれじゃよ」

「そうなんだ」

「うむ。このフルフルシリーズは理屈はわからんが傷の治りが少し早い回復速度+1というスキルで発動してるんじゃ」

「へぇ、そういえばサクラも回復速度+1が発動してるよ」

「うむ。そうじゃな」

「他には何かあるの?」

「うむ。ワシのこの防具は他にもチーム戦に適しておってな、ワシが回復薬を飲むとどういう訳かこのフルフルの皮を使った防具から気化した回復薬が周りに拡散し近くにいるお主ら仲間も回復させる事ができるのじゃ」

「広域化? すごいね! 初めて見たよ!」

「うむ。装飾品をスロットに加えられるだけ加えてなんとか広域化+2にしたんじゃ。まぁ、単独の時は回復速度を+2にするんじゃが、今回はチーム戦。しかもガンナーがいないから回復弾も望めない。そうなるとワシが回復薬を飲んで皆を回復させんとな」

 そう言ってツバメはにっこりと微笑む。なんともかわいらしい笑みだ。こんな彼女なら、いつでも大歓迎だ。

「頼りにしてるよツバメ」

「うむ。任しておくのじゃ」

 そう言ってツバメは胸を拳で軽く叩く。何とも頼りになる相手だ。その時、後ろに気配を感じて振り返ると、なぜかじーっと自分達を見ているサクラとレミィ。

「ど、どうしたの二人とも?」

 なぜか二人の目がすごく悲しげに見えるのは気のせいだだろうか。クリュウが一人首を傾げていると、

「クリュウさんは、ツバメさんのような方が好みなんですか?」

「へ? ど、どういう事?」

「……クリュウ、ツバメのどこがいいの? 教えて」

「え? あ、いや……」

 なぜ泣きそうな顔でそんな質問をするのか、クリュウは全くわからない。すでに頭が混乱中だ。

「えっと、それはどういう事なの?」

「だから! クリュウさんはツバメさんのような女の子が好きなんですかって訊いてるんです!」

「なぁッ!?」

 クリュウは顔を真っ赤にする。こういう話題が昔から苦手なクリュウはどう答えたらいいかわからずおろおろする。ちなみにツバメも別の意味でおろおろしている。

「……確かにツバメはかわいい。でも、私だって負けてない」

「私もです! クリュウさんどうなんですか!?」

「お主ら根本が間違っておるぞ!? ワシは男じゃ!」

 ツバメは慌てて二人の中にある自分=かわいい女の子という間違った方程式を正そうと必死になる。だが、そんな彼の横で、

「そ、そんな事いきなり言われても……ッ! そりゃあ僕だってツバメはかわいいと思うし、優しいし、頼りになるし……好きだし」

「「……ッ!?」」

 爆弾発言炸裂。サクラとレミィは顔を真っ青にしてフラフラと後退(あとずさ)る。一方のツバメはクリッとした瞳やかわいい顔を驚愕に染めて慌てる。

「クリュウ! お主も何か間違っておらぬか!? お主はワシを男仲間と言ったであろう!? なぜ女子扱いするのじゃッ!? それとそっちもなぜそんな絶望的な顔をするのじゃッ!」

「まだ僕恋愛とかよくわかんないんだけど、ツバメみたいな彼女なら、僕も大歓迎だよ?」

「ぬぉッ!? 何を言い出すのじゃッ! ワシは男じゃ! 彼女にはなれんのじゃぞ!? っていうか今のお主のセリフにドキリとした自分が怖いぞ……ッ! 何なのじゃこの胸のドキドキは!?」

 ツバメが大混乱していると、サクラとレミィがグッと拳を握り締めて何か決意したような顔をする。

「だ、だったら私ももっと優しくなります!」

「……私も」

 すっかり間違った方向に全力疾走している四人。

 サクラとレミィはツバメのようにもっと女の子らしい女の子を目指す事を心に決め、クリュウは自分の理想の女の子が案外フィーリアやツバメのような優しい女の子なのかなと考え、クリュウのドキドキ発言にちょっぴり頬を赤くしてドキドキするが、ハッと自分が男だと思い出して慌てて三人を説得し直すツバメ。

 今まで以上に何ともドタバタなメンバーは、その後何事もなく進み、イルファ山脈の高地――雪山と呼ばれる狩場に到着した。


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