モンスターハンター ~恋姫狩人物語~   作:黒鉄大和

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第59話 アルフレアでの日々

「うぅ……頭痛い……」

「頭がズキズキグワングワンするよぉ……」

「自業自得じゃ」

「ったく、水二杯お願いしまぁすッ! どうする? 朝飯はやめておくか?」

「い、いらないです……」

「……ご飯の事を考えただけで……は、吐き気が……」

「おいおい、大丈夫か?」

「ふむ。これは重症じゃな」

 そんな会話をしているのは酒場のテーブルに陣を取ったツバメ達だ。ラミィとレミィは昨晩飲み過ぎたせいで完全に二日酔い状態に陥っている。

 二人は運ばれてきた水を飲むと少しは落ち着いた様子。だがまだやはり顔色は悪い。今日はどうやら復活は無理そうだ。

「まったく、あんなにバカみたいに飲むからこうなるんだよ」

「……う、うるさいわね……」

「うぅ……ごめんなさい……」

 二日酔いのせいで完全に元気がなくなっている二人。この脱力感はきっと元気ドリンコを飲んでも回復しないだろう。

 運ばれて来たのはジークとツバメの朝ごはん。とてもじゃないが、ラミィとレミィは食べられそうもない。

「仕方あるまい。今日は休業じゃな」

「ったく、調子に乗って飲みまくるからだバカ」

 もはや反撃する力もないのか、テーブルに突っ伏したまま動かない二人。酔い潰れたせいで風呂も入っていないので、髪は汗や油、酒などに汚れてベトつき、グチャグチャ状態。かわいい顔が台無しである。

 ジークはため息しながらナイフで切って一口サイズにした七味ソーセージをとろけた熟成チーズに絡めて口に入れる。朝から美味である。ツバメも砲丸レタスや西国パセリなどの野菜を入れたサラダにスネークサーモンの切り身をトッピングして一緒に食べる。朝はサッパリ系が一番だ。ツバメの食事姿は朝昼晩どれも見ていて絵になる。

 そんな感じで二人だけで食事をしていると、クリュウとサクラが酒場に入って来た。二人ともどこぞの二人のように二日酔いにはなっていないらしい。適当なテーブルに腰を下ろそうとする。

「おぉ、二人ともおはよう」

 ジークが声を掛けると、二人は気づいて近寄って来た。

「おはようございますジークさん」

「おはよう。昨日はよく眠れたか?」

「はい。おかげさまで」

「そうか。サクラも眠れたか?」

「……(コクリ)」

「そうかそうか。どうだ? 一緒に飯でも食べるか?」

「いいんですか? じゃあお言葉に甘えて」

 ジークに席を勧められてクリュウとサクラはツバメ達のテーブルに腰を下ろすと給仕に注文をする。注文を終えたクリュウはふと反対側の席でぐったりと倒れているラミィとレミィに視線を向けた。

「二人ともどうしたの?」

「ただの二日酔いじゃよ」

 答えられぬ二人に代わってツバメが答えた。朝仕度も完璧なのか、流れるような美しい黒髪は今日もキラキラと輝いている。おいしい料理を食べて幸せそうな表情を浮かべられると、そのかわいい笑顔に一日のエネルギーをもらえる気がした。

「ツバメ。一日の元気をありがとう」

「うむ? いや、ワシは何もしておらんぞ?」

 いやいや。ただそこにいるだけでいいんだ。それで、今日もがんばろうという力が湧いてくる。本当に、彼女は天使そのものだ。

「ツバメのかわいい笑顔が、僕を幸せにしてくれるんだ」

「なぁッ!?」

「……ッ!?」

 クリュウの何気ない言葉に顔を真っ赤にするツバメ、尋常じゃないショックを受けて涙目になって落ち込むサクラ、二日酔いと静かに苦闘しているが本気で怒っているラミィとレミィ、昨日の忠告をまるで理解していないクリュウに苦笑いするジーク、そしてそんな皆の反応にハテナマークを頭の上に浮かべているクリュウ。朝からクリュウの周りは大騒動だ。

「クリュウッ! お主またワシを女子と勘違いしておろうッ!?」

「え? 何で? ツバメはかわいい女の子じゃないか」

「ぬおぉッ!? クリュウッ! 思い出すのじゃッ! ワシは男じゃ! このフルフルシリーズも男性用じゃぞッ!?」

「ツバメってプライベートシリーズとか合いそうだよね。かわいいし」

「女子用の装備をほめられても嬉しくないのじゃッ! 最後の《かわいい》など言語道断じゃッ!」

「……私、いつか着る」

「サクラッ!? お主は何か間違った方向に全力疾走しておらぬかッ!?」

「ツバメって優しいし、気が利くし、きっといいお嫁さんになるね」

「無理じゃッ! 性別的に無理じゃッ! お主らワシを完全に女子と思い込んでおるじゃろッ!? このギルドカードを見よッ! 性別は《男》と書いておるじゃろうがッ!」

「あぁ、たぶんそれ入力ミスだよ。変更した方がいいよ?」

「これで正しいのじゃッ! ミスしてるのお主らの頭じゃぁッ!」

 朝からツッコミ全開のツバメ。そんなツバメの元気な姿を見て、クリュウはまたも元気をもらったような気がした。怒っていてもかわいい。それがツバメという女の子だ。

 何を言っても無駄だと判断したのか、ツバメはぐったりと肩を落として椅子に腰掛けた。その落ち込む姿は心から守ってあげたくなる、そんなような弱々しい姿だった。

「ツバメ、悩みがあるの? 僕で良ければ力になるよ?」

「……ワシは、まずワシの本質を見極めてくれる友がほしい」

「何言ってるのさ。僕とツバメは親友じゃないか」

「……クリュウ、そう思っておるのなら少しはワシを理解してくれ、頼む」

 肩を掴んで何度も何度も揺すりながら懇願(こんがん)するツバメ。何が彼をそこまで追い詰めたのか、クリュウにはわからない。

 不思議そうに首を傾げていると、クイクイっと袖を引かれる感触がして振り返る。するとこちらをじーっと見詰めるサクラと目が合った。

「サクラ? どうしたの?」

 クリュウが問うが、サクラは無言のままクイクイっと袖を引っ張り続ける。

「な、何? どうしたの?」

 サクラに引っ張られるので、クリュウは仕方なく彼女に近づく。するとようやくそっと手が離されたが、今度はじーっと見詰められる。その隻眼はどこまでも澄んでいて何を考えているのかは読めない。

「サクラ、一体どうしたのさ」

「……ダメ」

「え? だ、ダメって何が?」

「……クリュウは私だけを見てて。他の女の子を見ちゃダメ」

 小さな、それもちょっと泣きそうな声で言うサクラに、クリュウは何がなんだかわからなかったが、泣きそうな女の子にとどめを刺すなんてできる訳もなくうなずく。

「わ、わかった! わかったからそんな目で僕を見ないでッ!」

「待つのじゃクリュウッ! 今ワシを女子と認めたであろうッ!? 即刻訂正するのじゃ!」

 そんな朝っぱらからやかましく騒ぐクリュウ達を見て、まだまだ若いとはいえこの中では最年長であるジークはコーヒーを飲みながら小さく笑みを浮かべた。

「お待たせなのニャ!」

 ようやく騒ぎもひと段落した時、そんなかわいらしい声に振り返るがそこには誰もいない。気のせいかとクリュウが再び背を向けると、

「お待たせなのニャッ! 早く受け取ってほしいニャッ!」

 またしても響いた声にクリュウは再び振り返るが、やっぱり誰もいない。と、視界の下の方で何かが動いた気がした。ゆっくり視線を落とすと、そこにはおいしそうな料理が載った巨大なお盆を持つ小さな影がいた。よくよく見ると、それは人ではなくネコであった。コックみたいな格好をしているが、それは間違いなくネコだ。

 二本足で立ちながら自分よりもずっと大きなお盆を持ったネコはクリッとした瞳でクリュウを見た後ピンとした髭をピクピクとかわいらしく動かす。

「料理を持って来たニャ。さっさと受け取るのニャ」

「あ、ごめん」

 クリュウは慌ててネコから料理を受け取る。全部受け取り終わると「ごゆっくりしていくのニャ」と言い残してトテトテと去って行った。クリュウはその小さな背中が見えなくなるまでじっとそれを見ていた。

「どうしたクリュウ?」

 ジークが不思議そうに問うと、クリュウは「あ、いえ」と小さく言って席に戻る。

「初めて働くアイルーを見たのでびっくりしたんです」

 アイルーとは大陸全土に生息するネコ型のモンスターの事。獣人種という部類に類別され、同種族のメラルーと共に小さな集落を形成して生活している。狩場で会った場合黒毛のメラルーはハンターから道具を盗むので嫌われている。アイルーも仲間が攻撃されれば残った仲間が一斉に攻撃して来るので厄介な相手。しかもそのかわいさから攻撃する事自体迷ってしまうのも厄介な点でもある。

 そんなアイルーとメラルーだが、実はアイルーはかなり知能の高いモンスターで人語が理解する事が可能。その為お金を稼ぐ為に人間社会に溶け込んでいるのだ。今見たアイルーもそのうちの一匹なのだろう。

「アイルーねぇ。個人で雇ってるハンターもいるけど、俺は雇ってないな」

 アイルーを個人的に雇うにはそれ相応の実績と信頼がなければ不可能である。ジークはこれを満たしているのだが、必要ないと思って雇ってはいない。

「最近じゃ料理や家事だけでなく一緒に狩りに行くアイルーもいますよね」

 クリュウは以前読んだ人気月刊誌《狩りに生きる》で見た記事を思い出す。今までアイルーを狩りに連れて行くのは禁止とされていたが、最近になってギルドの法律が変更されて一人一匹まで、多人数依頼の場合は連れて行く事を禁止など一部制約はあるものの可能となった。それがオトモアイルーと呼ばれるアイルー達である。

 初心者は最初組む相手がおらず最近はオトモアイルーと一緒に狩りをする事が多くなってきた。一人前になった後も一緒に狩りをしたり、チームを組むようになったらキッチンアイルーに転職して一緒に居続けるなど、人とアイルーの関係はより良いものとなっているらしい。

 クリュウも雇おうと思えば一匹くらいなら雇えるかもしれないが、アイルーを斡旋(あっせん)してくれるネコバァというおばあさんがいるのだが、クリュウはまだ会った事がない。そもそも今では狩りはフィーリアやサクラと一緒だし、家事はある程度クリュウ自身できるしエレナがやってくれたりするので、正直必要かどうか微妙なところだ。

「うむ? ワシは一匹雇っておるぞ」

 そう言ったのはツバメ。窓が開いているので差し込む光がツバメを輝かせる。煌きを纏いながら紅茶を飲む仕草は元来のかわいさをさらに増大させる。

「ほ、ほんと?」

「うむ。若葉色の体毛をしたアイルーでのぉ、名はオリガミ。ジーク達と組むまでは共に狩りをしておったが、今じゃ家事を任せておる」

「へぇ、すごいねぇ」

「ワシは何もすごくはないぞ。すごいのはオリガミじゃ。それにアイルー達の作る料理には特殊な調理法があって、その料理を食べると体に様々な働きをもたらすのじゃ」

「本で読んだ事があるよ。一時的に筋力が上がったり集中力が上がったりするんでしょ?」

「そうじゃ。狩りの前にその料理を食べるのがワシの日課なのじゃよ。じゃがな、今でこそうまくいっているが、オトモからキッチンに転向させた頃は最悪じゃったぞ?」

「え? 何で?」

「あぁ、そういえばお前オリガミが作った料理を食べて腹壊して何日も寝込んだ事があったよな。それも一回や二回じゃなくて」

 ジークの言葉にクリュウは驚く。アイルーといえば食事の技術は人間でいうプロレベルと聞く。それでお腹を壊すなんて……

「あぁ、懐かしいのぉ。見た目はうまそうなのじゃが、口に含んだ瞬間すさまじい生臭さが襲って来て、言葉では言い表せないような苦いやら甘いやらのまずさが舌を破壊し、胃の中に入った瞬間強烈な腹痛が起きてのぉ、厠(かわや)に直行して一日出れなかった事もあったのぉ」

 遠い目で思い出を語るツバメ。朝日がその横顔を照らし輝かせている。何を語っても良き思い出に聞こえてしまうが、実際の内容は相当ヤバイものである。

「あれは、生物兵器じゃったのぉ……」

「……僕、アイルーを雇うのは根本的に考え直す事にする」

 そんな大博打をするくらいなら絶品料理を作れるエレナに頼んだ方が得策だ。暴力はすさまじいがその料理の腕は確かなものだ。わざわざドンドルマからお客が来たりするくらいだ。

 ……そういえば昔、エレナがドンドルマ一の飲食店から直々にオファーが来た事があったが、断っていた。彼女らしいといえば彼女らしい。あの時クリュウが彼女の将来を考えて行った方がと進言したら、言葉には言い表せないほどの暴行を受けた後一週間も口を利いてくれなかった。だがそのおかげで今もこうして楽しくやっている。だから、あれも今ではそれもいい思い出……なのかな?

「……クリュウは、アイルーを雇いたいの?」

 サクラがこちらをじっと見詰めながら問うてきた。なぜだかその瞳はかなり真剣なものに見えた。気のせい……じゃないだろう。

「うーん、別にいいかな。アイルーのする事は基本的に僕は揃ってるしね」

「……そう」

 そう小さく返事したサクラは何事もなかったかのように食事を始める。その表情がいつもより少し嬉しそうな事に気づいたのは、きっとツバメだけだろう。

「……天然じゃのぉ」

 ツバメが何か言ったような気がしたがよく聞き取れなかった。クリュウはそんな事よりもとりあえず食事を始める。頼んだのはサンドイッチとスープのセット。ヤングポテトスープはクリーミーでおいしい。季節の野菜とアプトノスの肉を挟んだサンドイッチも美味だ。

「して、クリュウ達はこれからどうするつもりじゃ?」

 二つ目のサンドイッチに手を伸ばした時に不意にツバメに問われた。クリュウはとりあえず食事をやめてホットミルクを一口飲む。

「村に帰るよ。僕のわがままで空けちゃったから、そろそろ戻らないとね」

「そうかぁ、寂しくなるのぉ」

 ツバメはすごく残念そうにがっかりしている。そりゃあもう今にもそのかわいらしい瞳から涙がこぼれるのではないかというくらいに。そんなツバメに少しの罪悪感を感じながらも、クリュウは謝る。

「ごめん。こんな僕でも必要なんだよ、あの小さな村はね」

「そうじゃのぉ。お主を見ていると故郷を思い出す。たまにはワシも帰ってみようかのぉ」

 そう言うツバメは小さな笑みを浮かべる。本当にかわいらしい男の子――あ、間違えた女の子だなぁとクリュウは思った。

「……お主、今何か心の中で大事な事を言い直して間違えなかったか?」

「え? いや、別に」

 クリュウは何の事だろうと首を傾げる。そんな彼に「いや、気のせいか。すまん」とツバメは頬を掻きながら首を傾げる。その仕草もまたかわいらしい。

「いつ村に帰るんだ?」

「今日の昼にも帰ろうかと思ってます。サクラとも相談済みです」

 ジークは「そうか」と小さくつぶやくとコーヒーを飲み終える。

「ちょっとあんた、もう帰るの?」

 今まで二日酔いに完敗していたがどうやら打ち負かしたのか、少し顔色が良くなったラミィが不機嫌そうに言った。

「う、うん。村の事もあるから」

「あっそ」

 ラミィは不機嫌そうに短く答えると、ムスッとしてクリュウに背を向けて座る。一体どうしたのだろうか?

「……そういう事か」

 ジークは一人何かを納得したようだったが、クリュウはそれに気づかなかった。

「クリュウさん、またアルフレアに来てくれますよね?」

 同じく復活したレミィが不安そうな顔で訊いて来る。そのうるうるとした瞳に、クリュウは笑顔でしっかりと答える。

「もちろん。また来るよ」

「本当ですかッ!? 約束ですよ!」

「うん。約束だ」

 その言葉に、レミィは嬉しそうにうなずいた。そんな二人を見て不機嫌そうなラミィとサクラ、微笑ましげに見詰めているツバメ、苦笑いするジーク。

 様々な想いが交錯する、そんなある晴れた日の朝の事であった……

 

 その日の昼、クリュウとサクラは定期船の船着場にいた。その周りにはラミィ、レミィ、ツバメ、ジークの四人が囲んでいる。

「気をつけて帰れよ」

 ジークの言葉にクリュウは「はいッ!」と力強くうなずく。そんな彼に近づく陰が、

「ふむ。道中にこれでも食ってくれ。ワシの手作り弁当じゃ」

 そう言って彼が渡したのは二人分の弁当。それを見たラミィが「あああぁぁぁッ!」と叫び、レミィが「う、裏切り者ぉッ!」と泣き出し、「お主達とは一度徹底的に話し合う必要があるようじゃな」とツバメは頭を抱えながらつぶやいた。

「わぁ、ありがとう」

 クリュウはツバメから弁当を受け取ると嬉しそうに微笑む。そんな彼を見てツバメも「うむ。ゆっくり味わってくれ」とはにかむ。その笑顔がまたかわいらしい事。もし同じ幼なじみでもエレナよりツバメのような優しく家庭的な女の子の方が良かったなぁ、と心から思うクリュウ。

「……お主とも、今度二人でゆっくり話がある」

 ジト目で見るツバメの言葉に、クリュウは「え? そ、それって……」と驚き、彼の顔を見て頬を赤らめる。

「……ツバメ、許さない」

「待つのじゃッ! クリュウは何か甚大な誤解をしておるぞッ! そしてサクラもそんな辻斬りのような目でワシを見るなッ! ワシとクリュウは何でもないぞッ!」

「つ、ツバメ。あの、そういう事は二人っきりの時に言ってね?」

「ぬおぉッ!? クリュウまで何を言っておるのじゃぁッ!」

 最後までクリュウ達のノリに振り回されるツバメを見て、ジークはくくくとのどで笑う。その顔は本当に楽しそうだ。

 そして、ついに出発。

 動き出した定期船の船上から二人は離れていくツバメ達に手を振る。ツバメ達もまたそんな去っていく二人に向かって手を振り、声を掛ける。

 風に乗ってくるツバメ達の声、それは――

「お元気で〜ッ! また遊びに来てくださ〜いッ!」

「もう二度と来るなバ〜カッ!」

「体調を崩すでないぞぉッ! それと今一度言うがワシはおと――」

「元気でなあああぁぁぁッ!」

「ジークッ! お主なぜわざわざワシの声に重ねて言うのじゃッ!?」

「すまんすまん」

「まったく。もう一度言うぞぉッ! ワシはおと――」

「さようなら〜ッ!」

「レミィッ! お主まで邪魔しおって! えぇいッ! クリュウよく聞くのじゃぞッ! ワシは女子ではなくおと――」

「今度レミィとツバメに手を出したら許さないわよッ!」

「ラミィッ! なぜ邪魔するのじゃッ! クリュウに誤解を与えたままではないかッ! それとなぜワシとレミィが同列なのじゃッ!? 性別的におかしいであろうが!」

「ツバメも気をつけなさい。男は狼なんだから」

「おいおい、俺はそんな男じゃないぞ」

「ふん、どうだかね。ツバメも気をつけなさい」

「こりゃ手厳しいな」

「ぬおぉッ!? ワシは仲間からも誤解されておるのかッ!? わ、ワシの居場所はどこじゃあああぁぁぁッ!」

 そんなツバメ達の声を聞き、クリュウは笑った。

 本当に、いい友達を持った。そう心から思えた。そんなクリュウを見詰めるサクラもまた、いい仲間を持ったと心から思っていた。

 遠くなるアルフレアを見詰めながら、クリュウは嬉しそうに微笑んだ。

「いい旅だったね」

「……そうね」

 クリュウとサクラはそう笑みを浮かべ合うと、風が冷たい甲板を降りて船内に入る。そんな二人を見守る太陽が、今日も寒空を少しでも暖めようと燦々(さんさん)と輝いていた。


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