モンスターハンター ~恋姫狩人物語~   作:黒鉄大和

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第61話 桜花姫爆誕

 新たな武器を注文して二日後、完成した武器を取りにクリュウはアシュアの家に訪ねていた。

「これでええんやな?」

 そう言って彼女が差し出してきた武器を見て、クリュウはうなずく。

「間違いありません。僕がほしかった武器――デスパライズです」

 クリュウが受け取ったのはゲネポスの牙や皮を使ったヴァイパーバイトという武器の強化型でドスゲネポスの皮や麻痺袋を使った片手剣、デスパライズだ。

 今までの武器が剣らしい姿をしていたのに対し、このデスパライズは異彩を放っていた。ドスゲネポスの皮で包んだ刀身から突き出たドスゲネポスの牙。その形はどこか鋸(のこぎり)に似ている。埋め込まれた牙の先端からは内蔵されたドスゲネポスの麻痺毒が生成される麻痺袋から強力な麻痺毒が染み出している。つまりこれでモンスターを斬りつければ麻痺毒が蓄積され、やがて麻痺状態にできるという訳だ。

 片手剣の攻撃力の低さを捨て、主力攻撃手のサクラの補助を目的に作った武器だ。これで麻痺させたらサクラを中心に総攻撃を仕掛ける。仲間の為を思ったクリュウらしい武器の選択だ。

「せやけどあんまり期待すんやないで? 麻痺や毒、睡眠なんか毒素は一回その効力を発揮させるとすぐにモンスターは体内に抗体を生成して対応力を上げるんや。二回目はより毒を与えないとできない。三回目はそれよりもっと。四回目はさらにもっと……って具合でより難しくなるんや」

「わかってます。これはあくまでいい素材を手に入れていい武器を作るまでの繋ぎですから。いくら片手剣が弱いと言っても、僕は属性攻撃を重視したいですから」

「せやなぁ、付加攻撃は剣士やのうてガンナーの方が向いてるからなぁ。剣士のあんたはやっぱり属性攻撃の方はええなぁ」

「そうですね。まぁ、その為にはもっとがんばってモンスターを倒して素材を手に入れなきゃ作れませんけどね」

「そん時はもちろんうちに頼むんやでぇ? 多少やったらサービスしてあげるで」

「ありがとうございます。その時はひいきにさせてもらいますよ」

「任しとき」

 自信満々に微笑むアシュアにクリュウはお礼を言うと新調したデスパライズを腰に下げて酒場に向かう。すでにバサルシリーズは装備済み。早速デスパライズの試し斬りに向かうつもりだったがとりあえずまずは腹ごしらえが先だ。

 酒場には十人くらいの村人が食事をしていた。そろそろお昼時。エレナの酒場にとっては稼ぎ時の時間となる。

 クリュウは村人にあいさつしながら適当な席を探す。と、隅のテーブルにサクラが腰掛けているのを見つけ、クリュウは彼女に駆け寄る。

「サクラ、お昼?」

 クリュウが声を掛けるとビクリと一度驚いたように震えた。振り返って声の主がクリュウとわかるとほっと胸を撫で下ろしてうなずく。

「そっか。あ、ここいい?」

「……(コクリ)」

 クリュウはサクラの許可を得て彼女の正面に腰掛ける。彼女もまだ来たばかりなのかメニューと睨めっこしていた。クリュウもとりあえず料理を選ぼうとメニューを手に取って広げる。日々新しい料理を考えては作ったりしているエレナ。おかげでメニューもずいぶんと多い。これを一人で賄(まかな)えるのは村の小ささもあるが一番はやはり彼女の技量のおかげだ。

 メニューを見ながら料理を選んでいると、別の客の料理を持ったエレナが厨房の方から出て来た。手に持つ料理をテーブルに置き「ごゆっくりどうぞ♪」と天使のような営業スマイルを炸裂させて振り返り――クリュウを目が合った。途端に彼女は二人に駆け寄って来る。その時の彼女の笑顔はさっきのとは根本的に違う気がしたが、気のせいだろうか?

「いらっしゃいサクラ、他一名」

「略さないでくれる? すごく空しい」

「あんたの気持ちなんか知ったこっちゃないわよ。で? 何食べるの?」

 エレナはクリュウの言葉をスルーして注文を訊いてくる。こういう部分はしっかりとしている幼なじみにクリュウはため息すると料理を頼む。サクラも続いて頼んだ。

 二人の注文を聞いたエレナは「店長命令よ。待ってなさい」と言って去った。

「っていうか、エレナは店長でもあって料理長でもあってホールチーフでもあって……あれ?」

「……とにかくすごい」

「そ、そうだね。エレナはすごいよね」

 クリュウは心からそう思った。無茶苦茶な事ばかりしているが、仕事はまじめで熱心。やる事はちゃんとやる。そういう子なのだエレナは。子供の頃から、そこは変わらない。

 この酒場がこうして運営できているのも、エレナの努力の賜物(たまもの)だ。おかげで今この酒場は村の交流所としても使われていて、少なからず村の発展に貢献している。

 本当に、すごい子なのだ。エレナは。

 新たな料理を持って来てその帰りに注文を取りまた厨房に消えるエレナのがんばる後姿を見て、クリュウは静かに微笑んだ。自分ががんばっているように彼女もがんばってるんだなぁと改めて実感する――サクラが冷たい目で見ているのに気づいていないほど真剣に。

「……バカ」

「え? サクラ何か言った?」

「……別に」

「え? な、何か怒ってる? さ、サクラ?」

 まるで自覚がないクリュウは不機嫌そうなサクラを見て狼狽(ろうばい)する。そんな彼には一切視線を向けずにツンとするサクラ。よく見ないとわからないかもしれないが、頬をわずかに膨らませてふてくされている。

 せっかくの二人っきりなのに他の女を見るクリュウにご立腹なのだが、例によってクリュウは自覚なしだ。こちらの鈍感さも子供の頃から変わっていない。

「ぼ、僕が悪いの? 何か怒らせる事をしたのなら謝るよ」

「……別に」

「と、とにかくごめん!」

「……別に」

 サクラが不機嫌な時の定番言葉である「……別に」が連呼され始めた事にクリュウは心の中で悲鳴を上げる。とその時、そよ風がそっとクリュウの頬を撫でた。何気なくクリュウが視線を上げた刹那、懐かしい声が響いた。

「クリュウ様あああぁぁぁッ!」

 その声に、クリュウの顔がぱぁっと華やぎ、サクラの機嫌はさらに悪くなった。

 村の入り口の方から走って来る懐かしい人物。それはクリュウが最も信頼するチームメイトであり、クリュウとサクラとは別行動で桜リオレイアを狩りに行っていたフィーリアであった。久しぶりのその汚れのない純粋な笑顔に、クリュウは満面の笑みを浮かべて手を振る。

「フィーリアッ!? 久しぶりッ! 無事だ――」

 そこでクリュウの動きが止まった。不審に思って振り返ったサクラもまたフィーリアの姿を見て固まる。

 駆け寄って来るのは確かにフィーリアだ。あの天使のような笑顔を間違える事なんて絶対にありえない。だが、クリュウ達の知っているフィーリアとは多くのリオレイアを狩って来た、二つ名を《新緑の閃光》と呼ばれるハンターだ。だが、二人の前にいる彼女は、前とは大きくかけ離れていた。

「えっと……僕の気のせいかな? フィーリアが、ピンク色に見えるんだけど……」

「……私にも見える」

「という事は……」

 笑顔が引きつってくるのを感じていると、フィーリアは二人の前に立ちにっこりと天使の笑みを浮かべた。その笑顔は、本当に見ていると元気をもらえるような、そんな笑顔だった。

「お久しぶりですッ! お元気でしたか?」

「あ、うん。元気だったよ」

「良かったぁ。クリュウ様が無事なのかとても心配してたので、ご無事な姿を見られて安心しました」

 そう言って胸の前に手を合わせて安堵するフィーリア。本当に心配してくれていたのだろう。ここはお礼を言っておくべきところなのだが――残念ながらクリュウはそれどころではなかった。訊いておかなければならない事があるのだ。

「あ、あのさフィーリア」

「はい? 何でしょうか?」

「……その装備、どうしたの?」

 クリュウが訊いたのは彼女の装備だ。外見はまるで変わっていない。防具の形も武器の形も以前と何らから変わりない――ただ、全てが桜色に変わっていた。

 クリュウの問いに対しフィーリアは待ってましたとばかりに嬉しそうな笑みを浮かべる。

「今回の狩猟で念願のリオハートシリーズを手に入れたんですッ! 武器も新しくハートヴァルキリー改に新調しましたッ! どうですか? 似合ってますか?」

 そう言ってフィーリアは嬉しそうにくるりとその場で回ってみせる。

 彼女の新たな防具はリオハートシリーズと呼ばれる、世にも珍しい桜リオレイアから剥ぎ取れる素材を使った貴重な防具だ。外見はレイアシリーズの桜色バージョンともいうべきもので、今までのが夏に華やぐ木々の葉だとすれば、リオハートシリーズは春に咲き乱れる花々とも言うべき鮮やかな色だ。背中に背負ったハートヴァルキリー改も同じような感じだ。頭は以前と同じようにレッドピアスを付けている。

 金色の髪が美しい天使のようなフィーリアにとって、リオハートシリーズはあまりに似合っていた。かわいさも美しさも、以前よりグッと磨きが掛かって見える。

 クリュウが呆然としていたのは彼女の装備がより高レベルのものになったからでもあるが、同時に以前よりもかわいく見えたからでもある。

「あ、あのクリュウ様? に、似合ってませんか?」

 クリュウからの返事がないフィーリアは似合っていないのかと不安そうな表情になる。その落ち込みようにクリュウは慌てて首を激しく横に振る。

「い、いやそんな事ないよッ! むしろ前より、その……かわいいし」

「……ッ!?」

「か、かわいい、ですか? そ、そんなぁ……」

 クリュウの言葉に赤くなった頬を押さえながら恥ずかしそうに喜ぶフィーリアと、彼の言葉に愕然としているサクラ。極端に反応が分かれた。

「えへへ、クリュウ様にかわいいって……かわいいって……」

「……クリュウ、どうして……どうして……」

 大喜びするフィーリアと絶望感に打ちひしがれるサクラ、そしてクリュウは自分が言った事が恥ずかしかったのか赤くなった頬を掻いて何もない空なんかを眺めている。

 クリュウとフィーリアの間に、彼女の装備の色のような雰囲気が流れ始めた。その雰囲気にクリュウが耐えられなくなった時、

「こんのバカクリュウウウウウゥゥゥゥゥッ!」

 突如そんな空気をぶち壊すようにしてエレナが飛来。クリュウに向かって強烈な跳び蹴りを炸裂させた。酒場から吹き飛ばされて道の上を砂煙を上げながら転がるクリュウ。フィーリアとサクラが悲鳴を上げる中、見事な跳び蹴りを放ったエレナはスタッと着地した。

 吹き飛ばされたクリュウは全身にすさじい激痛が走ったが、それ以上にさっきの空気を何とか脱する事ができた方が良かった。だから、思わず言ってしまった。

「あ、ありがとうエレナ」

 エレナの顔からサーッと血の気が引いていった。

「……ご、ごめんなさいクリュウ。私もやり過ぎたわ。だから、その、そんな趣味に走るのはやめてね? ほんと、お願いだから」

 懇願(こんがん)するように言うエレナに、ようやく彼女がすさまじい誤解をしている事に気づいてクリュウは悲鳴を上げる。

「ち、違うッ! 僕はそんなんじゃないんだよッ!?」

「ほ、本当にごめんなさい。こ、これからはもう暴力とか振るわないから。お、お願い、元の普通のバカなクリュウに戻ってぇッ!」

「ち、違うんだッ! それは誤解なんだぁッ!」

「く、クリュウ様、私がいない間に、そんなぁ……」

「……クリュウ、かわいそう」

「やめてッ! 人をそんな哀れむような目で見るのはやめてぇッ! 本当に誤解なんだよおおおおおぉぉぉぉぉッ!」

 青空の下、イージス村にもはや恒例となりつつあるクリュウの悲鳴が響き渡るのであった。

 

 帰って来たばかりのフィーリアはクリュウ達と一緒に食事をする事になった。テーブルを中心にクリュウの対面にサクラが座り、その横にフィーリアが座っている。最初はクリュウの横に座ろうとしたフィーリアだったがサクラの猛反対を受け、危うく全面激突する寸前でクリュウが妥協案としてこういう座席を提案したのだ。相変わらずフィーリアとサクラの仲はクリュウが絡むとギクシャクしているのだ。

「ドドブランゴを討伐されたんですか。すごいですねぇ」

 クリュウから自分のいない間に起きたドドブランゴ戦の話を聞くフィーリアは、まるで自分の事のように喜んだ。本当にいい子だ。

「そんな事ないよ。あれはみんなのおかげだし。そもそもフィーリアはリオレイアの亜種を討伐したんでしょ? それに比べたら霞んで見えるよ」

「そうご謙遜なさらずに。ドドブランゴは厄介な相手ですから、討伐できたなんですごい事なんですよ? しかもガンナーの掩護抜きの剣士だけのパーティでだなんて」

「みんな強かったよ。レミィもツバメも。特に一番活躍してたのはサクラなんだ。やっぱりすごいよサクラは。すっごく頼りになるもん」

「……え? あ、ありがとう」

 今まですっかりフィーリアといい感じで忘れられてムスッとしていたサクラは突然自分に話題が振られて驚いたが、すぐに自分をほめてくれたクリュウにお礼を言う。その頬は幾分か赤く染まっていた。

「そうなんですか、やはりすごいですねサクラ様は」

「……別に」

 フィーリアのほめ言葉は完全シャットアウト。クリュウは二人の間にすさまじい緊迫感を感じた。乙女冷戦とも言うべき光景だ。

「そ、それでリオレイアの亜種はどうだったのぉッ!?」

 クリュウが慌てて新しい話題を振る。この場において一番シンプルな回避術だ。そんなクリュウの振った話題に対し、フィーリアはうっとりとしや表情を浮かべ……

「至福のひと時でしたぁ……」

「ありがとうフィーリア。ものすごく楽しかったという事はすさまじく伝わって来たよ」

 これ以上語らせると一日中語っていそうなので途中で強制終了した。それなりの付き合いのおかげか、二人の扱い方をなんとなく理解しているクリュウだった。

「そ、そうですか? 残念です。また聞きたくなったらぜひ言ってくださいね?」

 ここで文句を言わずにうなずくところがフィーリアの優しいところであり天然なところであったりする。

「そういえば、クリュウ様武器を変えたんですか?」

 そう言ってフィーリアはクリュウの腰に下げられているデスパライズを見る。

「あぁ、これはついさっき完成したばかりの新武器だよ」

「私はあまり片手剣が詳しくないのですが、それはゲネポスの素材を使ってますよね? という事は麻痺属性の武器ですか?」

「そうだよ。よくわかったね」

「モンスターの特性を考えればなんとなくわかりますよ。で? クリュウ様はどうしてまた麻痺属性の武器を選ばれたんですか?」

「今までの僕の武器はオデッセイだったでしょ? 片手剣はバランスの取れた武器な分攻撃力が低い。その分を付加効果や属性にして攻撃力を補うんだけど、オデッセイは無属性だからそれができないんだ。だから新しく付加効果のある武器を作ろうと思ってデスパライズにしたんだ。これを使えば相手に麻痺毒を蓄積させて麻痺させる事ができる。そうすればサクラを主力として一斉攻撃ができるでしょ?」

 クリュウの説明にフィーリアは驚く。クリュウがそこまで考えて武器を作った事に驚いているのだ。

「く、クリュウ様すごいですッ! そこまで考えて武器を選ばれたのですかッ!?」

「まぁ、攻撃力はこっちの方が低いからあくまで次の武器までの繋ぎだけどね」

「次の武器、ですか。何にされるんですか?」

「僕はサクラみたいな付加属性の武器がほしいんだ。オデッセイを強化したオデッセイ改は水属性らしいんだけど、岩竜の涙と雌火竜の逆鱗っていう希少素材を使うらしくて作れないんだ」

 オデッセイ改にするには貴重な鉱石と岩竜の涙、雌火竜の逆鱗という貴重な素材が必要となる。鉱石はクリュウも一応少ないながらも持っているので問題ないのだが、重要な部分に使う岩竜の涙と呼ばれるバサルモスの希少素材と雌火竜の逆鱗というリオレイアから一枚取れるかというくらい貴重な素材が必要になる。リオレイアと交戦経験のないクリュウはもちろん持ってなんかいない。

「雌火竜の逆鱗ですかぁ。それは超希少素材ですね。私も多くのリオレイアを狩ってきましたけど、十個ほどしか持ってませんね。差し上げましょうか?」

「いや、それは規則に反するからダメだって」

 前にも言ったが、ハンター同士でのアイテムの交換はレア度が3以下のものでないとできない。ギルドの規定で、これを破ると不正行為としてギルドに裁かれるのだ。

「大丈夫です! 黙っていればわかりません!」

「いや、そういう問題じゃなくて……そもそも僕のレベルでそんな素材を使った武器なんか持ってたら怪しまれるって」

 クリュウの冷静なツッコミに、フィーリアは肩を落としてものすごく残念そうに重いため息を吐く。

「そうですよね、クリュウ様がギルドナイトに目を付けられるのは絶対にダメですよね」

「……さらっと怖い事言うね」

 ギルドナイトとは以前ツバメが持っていたギルドナイトセーバーを使っているギルド直属の部隊の事。違反行為をするハンターを取り締まるハンターを狩るハンター。ハンターから最も恐れられる存在だ。

 さすがのクリュウもギルドナイトという単語には苦笑いしかできない。と、そんなクリュウの手をそっと握るサクラ。

「……大丈夫。クリュウは私が守る」

「いや、ギルドナイトを敵に回さない事を大前提に行動しようね? 問題はそこじゃないからね?」

 そんなツッコミを入れるクリュウに、サクラは素直にコクリとうなずく。そんな二人を見て今度はフィーリアがムッとする。

「サクラ様。いつまでクリュウ様の手を握られてるつもりですか?」

「……いつまでも」

「いや、もういいからね?」

 クリュウはあっさりとサクラの手を離す。サクラはものすごく不満そうな顔をしていたが、大人しく引いた。すると、ちょうどタイミング良くエレナが料理を持って来た。

「お待たせぇ〜。フィーリアとサクラ、他一名」

「……」

「あ、あのエレナ様? あまりクリュウ様をいじめないでくれませんか? クリュウ様すごく落ち込んでますよ」

「……かわいそう」

「あぁ、大丈夫大丈夫。こいつ単純だから簡単に復活するわよ」

「ひどいなぁッ!」

「ほら復活した」

「うぐ……ッ」

 返す言葉がないクリュウはふてくされたように頼んだピラフをモグモグと食べる。そんなクリュウを見てつい微笑んでしまうフィーリア、小さく笑みを浮かべるサクラ、呆れながらもどこか楽しそうな笑みをするエレナ。

 イージス村のいつもの光景がそこにあった。

 おいしいエレナの料理を食べながら、みんなで他愛のない話をする。アシュアが混ざったり村長が元気な声を上げてやって来たり、アルトが笑いながら料理を注文したり、他にも知っている村人がクリュウ達を見て楽しそうに笑う。そんないつものイージス村。

 クリュウが守りたいと願う、そんな故郷。

 この三人で村を守っていく。クリュウは心からそう思っていた。

 クリュウは食事を済ませるとデスパライスの試し切りの為に森丘に現れたイャンクックを狩りに向かう。そんなクリュウの両隣には信頼できるフィーリアとサクラが。

「別について来なくても良かったんだよ?」

 アニエスの手綱を引きながらクリュウは言った。だが、それは愚問である事はクリュウだってちゃんとわかっていた。

 二人は笑みを浮かべながら言った。

「クリュウ様と一緒がいいんです」

「……クリュウと一緒」

 全く違うタイプの女の子だが、その想いはどちらも同じ――クリュウと一緒にいたい。それだけだ。

 二人の言葉にクリュウは「そっか……」とだけ返すと、再び前に向き直る。その表情が嬉しそうに笑みを浮かべている事は、二人もちゃんと気づいている。

 信頼できる仲間。それがこの仲間であった。クリュウ、フィーリア、サクラ。お互いがお互いを信用している、そんな大切な存在。

 今日もそんな仲間と共に、三人は狩猟に出掛ける。

 空はどこまでも蒼い。

 今日はずっと晴れていそうだ……


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