千代に八千代に   作:NJ

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超かぐや姫見てきました。
正直舐めてましたすいません。最高でした。



第0話:一千年と何年か前から

 

 

 

 

 今は昔───平安の世。

 

 これは、呪術全盛期にあったかもしれない、ある術師と姫のお噺。

 

 

 

 

 

 

 平安京。

 当時の日本の文化と政の中心であった都は未曾有の危機に瀕していた。

 

 両面宿儺。

 後の世においてなお史上最強の名を恣にする最凶最悪の呪術師。

 己の快不快のみを生きる指針とし、世に溢れる人の命を蟻の如く徒に踏み躙る悪鬼羅刹。

 

 まさに、この弱肉強食の修羅の世を体現したかの如き魔物が、この日ノ本の中枢に血の嵐を巻き上げながら一歩一歩足を進めていた。

 

 ただの暇潰しの為に。

 ほんの、ほんの些細な気まぐれで万の命が息づく平安の都を灰燼に帰そうとしていた。

 

 それに対抗するは、都を守護する武士術師の大軍勢。

 

 術師か否かを問わず、都に降り掛かる(わざわ)いを祓う為に呪具(武器)を手に立ち上がり、腕を磨き、呪霊呪詛師らと鎬を削ってきた平安の猛者達。

 

 後の平成、令和(げんだい)の世の術師とは比較にならぬ一騎当千の英傑らは────それでも、全盛の呪いの王の前には一様に土塊と同義であった。

 

 術式は無くとも怪力無双の天与の肉体を持つ者が居た。幾百の呪霊を調伏し従える呪霊使いが居た。あらゆる傷を癒す法師が居た。只人なれど、鍛え上げた技と肉体で術師に肩を並べる武人が居た。

 

 その悉くが、屍を…否、もはや屍とすら言えぬ有様を曇天の下に晒していた。

 

 ──────ただ一人を除いて。

 

 

「はぁー…っはぁー…っ ゴホッガハァ!!」

 

「ケヒッ───無様だなぁ。麻桑」

 

 二面四腕の怪物を前に二本の足で立つ、今まさに怪物から麻桑と呼ばれた男。

 多少の傷を負いながらも五体満足の呪いの王を前に、麻桑の姿は満身創痍という言葉すら生易しい有様。

 

 顔半分は焼け爛れ、それどころか眼球が『◼︎』による熱で爆ぜて溶け落ち、片足は炭化。もはや歩く事もままならぬ。

 出陣前に羽織っていた浅葱色の直垂も、もはや服としての機能をほぼ失っていた。

 

 両腕は辛うじて残っているが、残された呪力でできる事といえば───

 

「もはや反転術式に回す呪力すら残っておらぬようだなぁ。 ククッ、以前の貴様(・・・・・)では考えられん事だ。あのようなつまらぬ弱者(モノ)の為に己の命を擲つとはな」

 

「ぅる…ぜぇ…なっ」

 

 焼けつく喉からは、返す言葉を絞り出すだけでも万里を駆け抜けるような労力を要する始末。

 実際、麻桑も宿儺に言われた事を誰よりも実感していた。

 

 それでも…

 

 爆発する呪力。

 もはや痛みなどもはやどうでもいい。動けるのならかすり傷も致命傷も大差ない。

 

「ハッ───まだそんな隠し玉を持っていたか」

 

「良いだろう。吹けば消える蝋燭がどこまで輝けるか、見届けてやる」

 

 俺は死なない。

 

 何をしてでも、この呪詛を原動力に、かぐやが待つハッピーエンド(一千年後)まで辿り着く。

 

 その為の布石(・・)はもう打ってある。

 あとは宿儺と羂索に気づかれない事を祈るだけだ。

 

「だが、最期に聴かせろ。 何が貴様をそこまで変えた?」

 

「俺が知る麻桑(きさま)は、以前出会った時までは何者も敬わず己の行いを微塵も顧みぬ暴君そのものであった」

 

「そんな貴様が、こうして弱者(むし)共の為に俺を倒すなどという身の丈を超えた目標を持つなど、到底考えられんかった」

 

 

 

「何故────他人などの為にそこまで命を張れるのだ?」

 

 

 

 ケハッと血と共に嘲笑が漏れる。

 

「はっ───バカですか貴方? 他人の為?弱者救済?バカも休み休み言えアシ◯ラマンの出来損ないが」

 

 ───本当に、何をやってるんだ私は。

 

 この時代に転生し、呪術師なんてクソのような役割を押し付けられて。

 呪い呪われの世界で終わりの見えないマラソンゲームを強いられて。

 

呪術(この力)を、非術師の為に使いたい』

 

 人の命が紙屑よりも安く軽い世界で、初めに抱いた決意も靴底のように擦り切れた。

 

 あぁそうだ。

 宿儺の言うとおり、自尊心(それ)はとうの昔に捨てたはずだった。

 

 いつからだったか、他人も自分も敬わない生き方を選んだのは。

 

 いつだったろうか、人生なんて死ぬまでの暇つぶしだと割り切って、楽に生きようと決めたのは。

 

 そうだ。

 そう決めた、筈だったのに…

 

 

『麻桑…? 麻桑だ!やっと会えた!』

 

『かぐやね、ずっと探してたの!彩葉とヤチヨ…麻桑のこと!』

 

 

 全部狂ってしまった。

 

 

『鼻⭐︎塩⭐︎塩。あれは今から七千年…いや、一千年前だったか…』

 

(かぐや)にとってはつい昨日の出来事だが、君達にとっては多分…………は、話すからそんな怖い顔しないで〜』

 

 

 あの呪い擬きの、未来から来たとか嘯くナマコのせいで。

 

 

『麻桑〜、一人称「俺」はやめといた方がいいって〜』

 

『かぐやが知ってる未来の麻桑は一人称「私」で、配信の時も完璧なラーメン・つけ麺・ジェントルメンって感じで、アキラとは違った魅力で女性ファンを獲得して一度の配信のスパチャ総額を目撃した彩葉の顎を外しちゃったもんだよ』

 

『まぁ今のオラついたキャラな麻桑も悪くはないけど女の子にはモテなさそ…いひゃひゃ!つねらないで麻桑〜!』

 

 

 ちっこくて弱っちい癖に異常に根明で、やたら馴れ馴れしいかぐや姫を自称するナマコもどき。

 

 

『麻桑鬼つえぇ!歯向かう呪霊全員ぶっ56していこうぜぇ!』

 

『ううん、お世辞じゃないよ。ホントだってば!』

 

『ツクヨミが大変なことになった時も、今みたいに麻桑が助けてくれたんだよ。 彩葉もヤチヨも、ブラックオニキスも…そう、皆が大変になった時も助けてくれて…』

 

『あの時の麻桑、カッコよくて推しちゃったなぁ…』

 

『だから麻桑、そんな自分のこと悪く言わないで』

 

『麻桑が自分の事や人の事を悪く言う度に、私も…きっと何処かにいる今のヤチヨも悲しくなるから…』

 

 

 どんな呪いよりもタチの悪いチビ助。

 払っても払っても、しぶとくついてくる。

 今の私が、自分の知る千年後の麻桑になると信じて。

 

 

『あ、笑った! やべ、シャッターチャンスktkr!』

 

『ざんねーん!もう今のベストショットはかぐやの脳内フォルダに保存されちゃいまし…ぐええ!?ゆ、揺らさないで…中身出ちゃう!』

 

 

 どこまでも、愚直に信じていた。くれていた。

 俺が…私が、いつか生き方を変えてくれると。

 

 自分(おれ)自身を、心から愛せる自分(わたし)になってくれると。

 

 

『約束だよ。麻桑も入れてみんなでパンケーキを食べて…』

 

『ハッピーエンドを迎えるの!』

 

 

 

 ……………ぷっ。

 

 

 

 ────ははははははははは!

 

 間欠泉のように、吹き出す狂笑。

 

「なんだ、気が狂ったか?」

 

 死に際に自暴自棄になったのかと訝しむ宿儺に、死に体の術師は吠える。

 

「いやぁ、失敬。ちょいとばかし走馬灯が愉快すぎたもんで」

 

 呪術師に悔いのない死などありえない、とは誰の言葉だったか。

 

 まさか、私のようなロクデナシが最期に思い返すのがナマコとのハートフルストーリーだなんて、B級映画監督も脚本を投げ出すクソっぷりだ!

 

 誰が聞いて信じられようか!

 

 ダークファンタジーなバトル漫画の平安時代に生まれ変わった男が、よもや未来から来た自称かぐや姫のナマコと友達になって、挙句、挙げ句の果てに…!

 

「人ですらないナマコに恋する呪術師とか誰得だ!?相手が呪霊の方がまだ理解できる範疇だぞ! 草生えるわ!」

 

 挙げ句の果てに!

 そんなナマコの為に命を捨てる決意を固めるなんて!

 あの呪いの王に、立ち向かう日が来るなんて!

 

 最高だ!ははははははははははは!

 

 あぁ、本当に、自分には勿体無いくらい楽しい人生だった。

 

 文句なし、満腹だ。ありがとう。

 

 もうこれで最期を迎えても…

 

 

『聞いてよ麻桑!それで彩葉がさ…』

 

『ひどいんだよ!彩葉ってば、こぉーんな顔でかぐやを怒鳴りつけて…』

 

『あの時の彩葉ってば…』

 

『彩葉の顔を見て、好きになったんだ』

 

『彩葉』

 

『彩葉』

 

『彩葉』

 

 

 

 

 

『かぐや、彩葉と結婚したいんだぁ』

 

 

 

 

 

 

 ……………………………。

 

 

 

 

 

 

「いい訳あるかボケがぁぁぁぁぁぁあぁああ!!」

 

 

 炭化した足が崩れようがお構いなしに吠え立て、焦土に拳を叩きつける。

 

「ふざけんな!始まる前から敗北確定とかどういうクソゲーだコラァ!!開発者呼んでこいクソが!」

 

「挙句にそいつが生まれるのが千年後!? 生まれてもない奴に負けるとかふざけんのも大概にしろやゴミカスぅ!」

 

 宿儺が「なんだコイツ」と万を見る時と同じ顔をしているが関係ない。

 “俺”にとって、この激情(ねつ)こそが唯一体を動かす原動力なのだ。

 

 この怨嗟が、嫉妬が、未練が、俺の呪力(ちから)となって半死体の己の身を立ち上がらせる。

 

あ"ぁ!あ"ーーーっ!!殺す!殺す殺す殺す殺す!!

 

 そうだ!殺してやる!殺してやるぞ…!

 

 

 

 

「殺してやるぞ──────両面宿儺

 

 

 

 

 

 宿儺は、この時理解した。

 自分が、思い違いをしていたことに。

 

 目の前の男への評価を、根本的に間違えていたことに。

 

「は─────はははははははははははははははははははははははははははは!!」

 

 ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ

 

「ははは!なんだ、つまりアレか?貴様は──よりにもよって貴様はッ! 女に(・・)フラれた(・・・・)八つ当たり(・・・・・)で俺を殺そうというのか!?」

 

 なんだその動機は!?

 宿儺はこの時代に生まれて数十年の生涯で類を見ない本物の大馬鹿者を目撃した衝撃で笑い死にそうだった。

 

 思い返すは、これまで己に挑んだ愚か者共の数々。

 

 家族を殺された復讐に燃える者が居た。ある者は名声を求めて、ある者は死に場所を求めて、ある者は救う為と宣い。

 そしてある女は愛を教えるなどと抜かして宿儺の命を狙ってきた。

 

 そして、それら全ての挑戦に真っ向から受けて立ち、踏み潰してきた。

 

 どいつもこいつも、退屈でつまらん大義名分(たてまえ)を掲げ、そして何も成せず惨めに死んでいった。

 

 だが、こいつは違う。

 よもや、呪いの王を笑いで殺しかけた呪術師なぞ、歴史上類を見ない珍妙を超えた珍味。

 

「いやスマンな。そこまでイカれた男とは思わなんだ!麻桑!!」

 

 おまけに思わず謝った!

 あの呪いの王が他者に謝罪を口にするなど!呪術の歴史においてこれほどの珍事件は未来永劫ありはすまい!

 

 呪いの王は認めた。

 コイツは本物だ。これまでの半端者共とは違う。

 

 コイツは、紛うことなき呪術師なのだと!

 

 ならば、これまでのように遊びで甚振るのは失礼というもの。

 全身全霊をもって、加減なく塵芥も残さず消し飛ばすのが術師の頂点に立つものの礼節というものだ!

 

 呪術の秘奥たる領域をもって、この男の最期を盛大に飾ってやろう!

 

 両手を組み、結ぶは閻魔天印。

 

 対する麻桑も掌印を結ぶ。

 右手で刀を象り、それを鞘を模した左手で覆う。

 印の名は不動剣印。

 

 両者のその動作が意味することは、即ち───

 

 

 

 

──────領域展開

 

 

 

 

 

 

 伏魔御廚子

 

 月天葦原

 

 

 

 

 その戦いの顚末は、呪術界の公式記録には残されていない。

 

 呪いの王に挑んだ術師麻桑はどうなったのか、知る者も当人らを除いて居ない。

 

 だが、安心して欲しい。

 これは、終わりなどではない。

 

 始まりである。

 

 遥か未来に待つ愛する者との約束のためだけに己を呪った愚か者が───

 

 

 

 一千年の時を超えて最愛とハッピーエンドを迎えるまでの、巡る呪いの物語だ。

 




主人公の名前の読み方、当ててみよう。
正解は次回!

(灰になった都であの顔をするかぐや)
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