千代に八千代に   作:NJ

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前回のあらすじ
ヤチヨ、貢ぎマゾになりかける(中の人ネタ)

みんな、星街すいせいとかぐやのラジオ聴いた?
聴いたならこの尊さを分かち合おうぜ、聴いてない人、期間限定だから急げ


第10話:ここに居るぜ

 

 ───はぁ

 

 机に肘をつき、両手で頭を抱えながら「最悪」と口から溢しかけ、辛うじて声が喉から出る前に押し留めることに成功した。

 

 同じ教室で船を漕ぎながら睡魔に抗う親友とそれを呆れ半分で眺めるもう一人の親友を尻目に軽く安堵する。

 

 しかし油断は禁物と言わんばかりに不意打ちを受ける事となる。

 

 

「それじゃあ───今日は酒寄」

 

「───はい」

 

 

 反射的に勢いよく、しかし背筋はピンと背筋に芯を通すように真っ直ぐと立ち上がる私。

 

 教科書を両手で持ち、黒板の内容、一瞬盗み見た隣の席の教科書(タブレット)画面(ページ)から求められている答えを逆算、テンパる内心を抑え込みながら読み上げる。

 

 読み上げる内容は──

 

 

「───麻桑(あそう)上人(しょうにん)は」

 

 

「平安中期に実在・活躍したとされる陰陽師、又は呪術師として有名な人物です」

 

「長徳元年(995年)生まれと言われていますが生没年は不明。本名に関しても諸説あり、麻桑は家名又は俗称ではないかとも専門家の間で憶測が飛び交っています」

 

「好物として有名なのは貴族の氷室から盗んで食したと言う甘葛の樹液をかけたかき氷で、嫌いなものは飢饉の時期に飢えを凌ぐために口にした昆虫類全般」

 

「伝説上では将門公の怨霊鎮魂や蝦夷の黄金探索、山神や海神(わだつみ)殺しで知られますが、史実では天文学の発展に大きく貢献した学者として著名であり、特に月の運行に関しての研究に力を入れていました」

 

「この時、麻桑上人が遺した研究成果は後の占星術に大きな影響を与えています」

 

「更に注目を集めるキッカケとなったのは、生前に麻桑上人が記したという『月讀(ツクヨミ)』が近年発見された事であり、これは天文学界に大きな衝撃を齎しました」

 

「現在では失われた独自の技法による観測から導き出された天体の形と大きさ、月と地球の距離、公転速度、月の引力が地上に齎す影響、果てには宇宙が真空である事を踏まえた上で地球から月に向かう為に必要な時間、速度、時期の算出まで事細かに記されたそれは独自の暗号が使われているため未だ完全な翻訳がなされていませんが、翻訳された範囲ですら現代人を驚嘆させる内容が途方もない密度で詰め込まれており、今もなお熱心な解析が行われています」

 

「如何にしてここまで調べ上げたのか、また何故麻桑上人がここまで月に執着したのかは謎に包まれていますが、これらの経緯から麻桑上人は『護国神将』の他に『月見仙人』『月狂ひ』とも呼び親しまれ、人々の尊敬と奇異の目を集めたとされています」

 

 

 そこまで言い切って、軽く息を吐いた所で先生から、周りからもおぉっという感嘆の声と共にパラパラと拍手があがる。

 

「うん、流石だ」

 

 でも教科書にすら書いてない部分も含めて息継ぎなしで言い切ったのは先生ちょっと怖かったぞ、と軽く引いた先生からの賞賛。

 クラスメイトからの羨望の眼差しに対し、計算して作り上げた笑顔で応えながら淀みなき動作で着席する。

 

 そして、「酒寄が言ってくれたように、この国の歴史にもダ・ヴィンチやアインシュタイン、ノイマンにも負けない常識外れな天才が何人も〜」っと、私の解説に少しばかり触発されたらしい日本史の先生の熱弁に涼しい顔で耳を傾けていく。

 

 

 

(───あっっっっぶねぇ〜〜〜〜〜!)

 

 

 

 …内心では、冷や汗ダラッダラのパニック状態だった事をひた隠しにしながら。

 

 しかし、今回は本当に運が良かった。

 

 よりにもよって私が得意な…いや結果的に得意分野(・・・・)になった(・・・・)日本史(・・・)

 

 それも、ピンポイントであの(・・)麻桑上人の部分で本当にラッキーだった。ありがとうヤチヨ。

 

 ───あぁ、ありがとう麻桑上人。

 

 この人物の話でなければ、ここまで完璧に対処できなかったであろう。

 

 ノートを握る手に力が籠り、ぐしゃりと皺を刻む。

 

 ───ああ本当に、本当に…

 

 いや、対処できなければ後ろめたくて今後ヤチヨの配信を拝む事ができなくなるのだから当然だ。

 

 口内炎だらけの口の中で食いしばった歯がギシリと鳴る。

 

 

 

 ───本当()に恨めしや。麻桑上人

 

 

 

 そして感謝の念と同時に、その名を心底呪いたくなる自分が居る。

 

 なんせ、我が永遠の最推し───数多くの謎と設定の中で歴女としての側面を持つ月見ヤチヨ。

 

 そんな彼女にとって、麻桑上人は日本史の人物の中でも、いっそ憎らしい程にダントツの───

 

 

 

 ───“最推し”なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───お、新規さんかな?ヤオヨロ〜』

 

 

 

『え、ヤッチョが本当に八千年生きたのかって?本当だよ〜。信じてくれない神々も居るけどね…ヨヨヨ、ヤチヨは悲しくて蛸壺に引き篭もっちゃいそうです…』

 

『そう、ヤチヨは電子の歌姫であると同時に歴女でもあるんだ』実際に見てもきたからね

 

『うんうん、どの時代にも思い出があるけど、中でも平安時代が熱くてさ〜』

 

『あの頃は大変だったけど思い出も沢山あったんだよ。特に麻桑と出会った頃は───』

 

 ≫まーた始まったよヤチヨの怪文書が

 ≫今回はいつまで続くのかね

 ≫あーあ、歴史の話振っちゃったから

 ≫ヤッチョの脳内に溢れる存在しない歴史…!

 ≫前の雑談枠で麻桑ファン神々ネキとプロレス始まった時はほんま草生えた

 ≫もっかいヤッチョのガチトーンの「は?」聴きたいわ

 ≫互いの解釈違いで火にガソリン注ぎ合ってたの草超えて花

 ≫雅系細身イケメン派vs不良系ワイルドイケメン派vsダークライ

 ≫ファイ!

 ≫勝った方が敵になるだけ定期

 ≫キッショ、なんで腹筋の数まで知ってんだよ

 ≫推しに関してだけ全く大人気ないヤチヨほんま草

 ≫ヤチヨ「麻桑はね、ヤチヨ以外には謝らないし、ヤチヨが支えないと食生活もズボラだし、やることなすこと滅茶苦茶でないといけないの」

 ≫自分を麻桑上人の嫁だと思い込んでる精神異常AI

 ≫麻桑上人「知らん…誰この人…怖っ」

 ≫夢女子(厄介ファン)共に捻じ曲がった設定を押し付けられ続ける麻桑上人に哀しき現在(イマ)…

 ≫イェーイ、麻桑上人見てる〜?後世の君どんどんイロモノに魔改造されてくよ〜(主にヤチヨに)

 ≫信長「ワシなんて創作で女体化が当たり前じゃぞ」

 ≫戦国一のフリー素材さんオッスオッス

 ≫これが変態国家NIPPON定期

 ≫同じ平安時代でも藤原とか安倍みたいな有名どころではなく、麻桑上人とかいうややコアな人物を推してる所にガチさを感じる

 ≫てか、ヤッチョ最近急に元気になったよね

 ≫なんかいいことでもあった?

 ≫あのライブの後から麻桑ネタ一気に増えたよね

 

 恨めしい。

 

『それでさぁ、聞いてよ皆! その新嘗祭の時の麻桑ってばヤチヨが止めたのに堂々と両面宿儺の席に───』

 

 ≫平安なのに古墳時代の奴出てきて草

 ≫漫画描いたら売れそうなぐらい設定凝ってる

 

 何度思い返しても恨めしい。

 

「今日もヤチヨは相変わらずだね〜」

「あーなると暫く戻ってこないもんね…まぁ」

 

 私の、私の───

 

 

 

 

「私の馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉ…!!」

 

 

 

 

「………それはこっちも同じか」

 

 ダムダム、と己の愚かさへの呪いを込めて拳を仮想現実(ツクヨミ)の地面に叩きつける。当然現実ではやらない。痛いだけだし、敷金怖いもん。

 

「あの日、彩葉の顔が速報に上がってきた時は思わず二度見しちゃったよねー」

「ねー、SNSでもバズり倒しだったし」

 

 打ちひしがれている背後で親友達が言いたい放題だ。畜生、当事者じゃないからってお気楽に言ってくれる。二人とも絶交だ。いややっぱ無しで。

 

「てか、このショート動画の彩葉の歌上手すぎない?」

「だね、これを機に配信やれば?」

「だからやらないってば」

 

 ただでさえ目立ってるのにこれ以上注目を集めてたまるかってんだ。おかげで勉強にも身が入らないしツクヨミを歩く度に「あ、1000年と8000年前からコンビの片割れだ」と笑顔で声をかけられるようになってしまったんだぞ。誰だ8000年前から好きでしたとかそんなキッショい事言った馬鹿は?私だよチクショウ。

 

「えぇ、でもさ〜」

 

 じゃあ1000年前の方はって?

 そりゃ、今もそこで────

 

 

 

 

「あ、あの…最近話題沸騰中の『ちよっチャンネル』の“ちよっち”さんですよね!私、最近チャンネル登録したんですけど…ぜひ握手を!」

「この前の歌ってみた最高でした!今後、また歌うこととか───」

「この前の桃鉄配信またやってくれない? ラストの『金ちゃん』の大逆転が激アツで忘れられなくてさ!」

「またヤチヨに告白した?フラれた?」

「キッショ、なんで諦めないんだよ」

「どんな女がタイプだ?」

「いや、ヤチヨでしょ」

「そうだ、このゲームやってみない?おすすめなんだけど…」

「どうやら俺達は───」

 

 

 

 

 沢山のリスナーに囲まれてウハウハしてますが?

 

「彩葉の相方はあんなに上手くいってるよ?」

 

 相方言うなし。

 そんな真実の戯言に突っ込む気力すら、今の私にはなかった。

 

「───いやぁ、お待たせ致しまして候」

 

 態とらしい、取って付けたような侍口調で詫びを入れながら戻ってきた我が悩みの元凶。

 

「ちよっちすっかり人気者だね〜」帝様ほどじゃないけど

「私も真実も追い抜かれないか不安だよ」

 

 開始からわずか数日で登録者数5万超えの鰻登りどじょう掬いの大バズり。

 

「ふっふっふ…拙者、伊達に一千年生きておりませんからな〜」

「お〜、流石呪術師(設定)。美容インフルエンサーとしては是非不老長寿の秘訣をお聞きしたいものですな〜?」

「千年前は何食べてたの?」

「イナゴ」リアル貧乏時代に

「そ、そう…」「大変だったんだね…」今度ラーメン奢ろっか?

 

 目の前の親友達を含め、他の配信者との関係も良好でコラボの依頼もちらほらと。

 

 例の件のみならず、型にハマらない自由な配信スタイルで注目を集め、「また今度のヤチヨライブで何やらかすか楽しみ」という理由も合わさって倍通り越して2.5乗の更なる大バズりの見込み。

 

 侍の見た目で呪術師とかいう意味不な設定。

 でも「面白そうだから」であっという間に人気者。

 

 呪術師系ゲーム配信者ちよっち。

 

 私、酒寄彩葉は今───この男を心底呪っている。

 

 

 

 

『それでね、その時麻桑はヤチヨにこう言ったの!』

 

『「千年後でまた会おうな」って!』

 

 ≫更に追加された存在しない歴史

 ≫マジで会いに来る展開に花◯院の魂を賭けるね

 

 

 

 

 ───麻桑上人(ヤチヨの推し)と同じくらい。

 





麻桑「(正直恥ずいからそろそろやめてくんないかな…)」

呪術キャラは次あたりでちょっと出す予定
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