要望もチラホラありましたので。
死滅回游初日───仙台コロニー外部
適当な
「うっし」
戦場に行く前でも身嗜みは大事。古事記にもそう書いてある。書いてない?俺が書いたんだよボ…私が書いたんですよ。今、油性マジックで。
なにしろ、こちとら千年も女を待たせてんだ。
この時代のどこかに居るかぐやに再会した時にガッカリさせないよう男を磨くことを心がけておかねばなるまいて。
そして一千年の間、各々の時代で名を馳せた術師(+a)と顔を合わせんだ。相応の格好で臨まにゃ礼節に欠けるというもの。ただしメロンパン、テメーはだめだ。
改めて、結界と向き合う。
「さて───行きますか」
ポンッと軽快なエフェクトと共に現れたコガネが話しかけてくる。
『よぉ、俺はコガネ!ここでは死滅回游って殺し合いのゲームが────が、が、??、?がががががががgggggggggg───gg───』
俺は無視して結界の前で掌印を組む。
コガネが盛大にバグっているが気にしない。俺の仕業だしな。
さぁ、こっからが大変だ。
集中して目を閉じながら呪詞を唱える。
死滅回游に参加するにあたって、まず回游のシステムそのものに術式でハッキングを仕掛け、俺の弱体化を少しでも軽減する為の縛りを結ぶ。
まず、
そして、視界内、又は認識できる範囲での非術師の
術師を殺した場合の点はほぼ据え置き。
だが、戦闘開始(どちらかが殺意をもって攻撃した時点で開始とする)から一定時間内で
このくらい難易度調整で丁度いい塩梅だろう。
千年前、最後の戦いに赴く時点で設けた“縛り”も合わせれば十分な効果を発揮する筈。
その内容はこうだ。
一つ、俺は死滅回游が終わるまでかぐやに絶対に会いに行かず、これを破った場合は自らの手で絶命する。会いに行こうという意思を僅かに見せるだけでも適用される。
二つ、
そして最後の縛りは、
そう、絶対に気づかれない。
目の前を横切ろうが面と向かい合おうが、条件を満たさない限りかぐやは絶対に俺に気づかないように因果律が操作される。絶対にだ。
「…………………」
空気が歪む。
無理矢理術式でゴリ押しして回游のシステムに干渉しているせいで脳が悲鳴をあげ、顔中の穴という穴から血が滂沱の如く溢れるが関係ない。それ以上の痛みが俺の胸の、心臓より更に奥深くを抉っているのだから。
先ほどまで覗き込んでいたガラスが、いや周り全ての窓がビリビリと振動し、鼓膜を貫くような高音を響かせ次々に砕け散る。
我先にと付近から逃げ出すゴキブリやネズミ、カラスなどの小動物の群れ。
もどかしい。ああもどかしい。
かぐやが今まさに、この国のどこかに居るというのに会いに行けない。安否を確かめられない。向こうにも俺の安全を伝えられない。
「おのれ………」
歯が軋む音。
術式がギアを上げて回転していく感覚が高まる。
そして、遂に───弾けた。
「おのれ羂索ゥウウうウウウウゥウううウ!!」
ボンッと背後のマンホールがシャンパンのコルクのように勢いよく吹き飛ぶ。
地中の排水管が破裂し、間欠泉の如く水柱が各所から上がる。
お前さえ!お前らさえ居なければ!
俺は何事もなく何の憂いもなく堂々と彼女に会いに行けたと言うのに!
お前の!お前らのせいで!!
俺は我慢しなければならない!かぐやにまだまだ寂しい思いをさせなければならない!!
結界が触れた箇所を中心にメリメリと軋み破れ、割れた結界の破片をべキャリと踏み砕きながら堂々と侵入する。
殺す、お前も宿儺も今度こそブチ殺す。
粉々にして練り込んでハンバーグにしてネズミの餌にしてやる。
そうだ、殺してやる!殺してやるぞ───
「殺してやるぞドルゥヴ・ラクダワラ」
その日、仙台コロニーの一角たるドルゥヴ・ラクダワラは思い出した。
不敗を誇っていた己が生涯における二度の敗走を。
倭国大乱に於いて、列島制圧を目前にしながらかの女王に敗れ逃げ延び、呪物となって隠れ潜んだ屈辱を。
そして二度目、それを上回る千年前の恐怖。
想起する。
内から爆ぜて飛び散り、或いは轢かれた蛙のように潰れ、刻まれた式神の群れ。
ちぎれ飛んだ己の腕、それを閉じ込め浮かぶ血濡れのシャボン玉。
無様に蹲り、歯を鳴らしながら呻く満身創痍の自分。
そんな自分の頭を踏みつける、金髪混じりの───
「お久しぶりで」
─────おい
「───ご老体」
圧倒的な自己。
他を顧みない災いを。
─── ぐちゃ
『5
ドルゥヴ・ラクダワラ。仙台コロニーの四強の一角。
その中でも最初に脱落したのは彼であった。
その頃市街地では、非力な泳者達がなす術なくただ延々と逃げ惑っていた。
「助けてくれぇえ!」
そして、ここにも逃げ惑う一人の男。
男は卑劣な術師による
「はっ…はっ…────『喰ワセロ』ひっ!?」
男には、“それ”が見えていない。
当然声も聞こえていなかった。
ただ、それでも無視出来るはずがない。
『私ニ、我々ニ』
自分が居る路地裏、その更に奥の影から滲み出すように現れた黒────
『私ハ───
山のような、蜚蠊の群れなど。
そして、男も他の者達同様なす術なく黒い悪魔の奔流に飲み込まれる───筈であった。
「───
堪らず目を閉じた男───しかし、いつまでも想像した痛みが襲ってこない為、恐る恐る目を開ける。
そこには…
『───? ナンダ、貴様…』
黒い悪魔を統べる呪い───黒沐死が問いかける。
獲物の前に立ち、幾つものシャボン玉で己が眷属らをまとめて封じ込めた者に。
非術師から見れば蜚蠊が空中でボール状に固められ、ギチギチと出口を求めて蠢く地獄のような絵面。
「困りますねぇ」
ぐっと軽く拳を握る動作と共に、ぐんと勢いよく収縮する全てのシャボン玉。
その中の蜚蠊はプレス機にかけられたアルミ缶のように高圧縮され、ゴルフボールより小さな黒い粒となってベチャベチャと地面に落下していく。
「誰ですか、こんな大量のゴキブリを街中に放った阿呆は」別に食っても美味くねーってのに
それを見た蜚蠊の王は、眼前の存在への認識をただの
───爛生刀
刃先の穴に卵が詰まった悍ましき魔剣。
生と死が交雑する、黒沐死の術式が具現化した武装を片手に構える。
「羂索の野郎…後でケツの穴にこの蜚蠊詰め込んでオホらせてやるから覚えてやが───ゲフンゲフン!詰め込んで善がらせてあげますから覚えていやがりなさ…いや、違うか?なんで表現すれば…あぁクソッ」
そして、何やらブツクサ喋り始めた男の隙をついて蜚蠊と共に躍り掛かる。
「考え事の最中に───」
馬鹿正直な突撃は、当然男に容易く防がれる。
蜚蠊は先ほどと同じようにシャボン玉に遮られ、纏めて潰される。
「割って入るなと親に教わらなかったのです───」
が、男は遅れて気づく。
手応えが無さすぎる事に。
「───か?」
潰したのは、蜚蠊だけ。
呪いの方は何処に───
『
答えは、背後。
それも───
腐っても特級。
まともに対話する頭は無くとも、敵を欺くだけの知性は十全に備わっている。
蜚蠊を隠れ蓑に背後に回った黒沐死は、そのまま男が守る非術師に向けて爛生刀を振るう。
非術師である彼は呪いが見えぬが故に反応できず───路地裏に鮮血が舞う。
切り落とされた腕が飛び、それに黒沐死は嬉々として喰らい付く。
『血───鉄ノ 味ィィィィ!』
グチュグチュと不快な咀嚼音を響かせながら黒沐死は堪能する。
非術師の───ではない。
「ぐっ───」
彼を庇った───男の腕を。
「わぁあああああ!?」
突然自分の首根っこを掴んで引き寄せてきた男の片腕が千切れ飛ぶというショッキングかつ意味不明な光景に悲鳴をあげる非術師の男。
『足リヌ、モット、モット喰ラウ』
『ヨコセ、私ニ モット鉄ノ味ヲ───』
腕を食い終え、更なる糧を求める黒沐死は蹲る男にトドメを刺して食事にありつこうとして───違和感に気づく。
ボコリ
『?、 ?』
違和感の根源は、腹部。
先ほど堪能した血肉が収まった、自身の…。
「全く、酷い方だ」
「折角、隠し味を仕込んでご馳走して差し上げたのに碌に味わいもせず食べ尽くすとは」
先ほどの苦しみようから一転。
腕を失いながら何事も無かったように立ち上がり、ボコボコと腕を再生させていく男。
背後で腰を抜かしている非術師はもう何が何やらで口を半開きにしたまま脳が思考を放棄している。
「最期なので教えておきましょうか」
片手で泡を操りながら解説する。
「私の術式で作り上げた
徐に片手に握った泡を自分の耳にあてがうと、チュルンと容易く抵抗もなく入り込んでしまう。
そして、反対の穴から素通りするようにポンッと飛び出した。
「
いやぁ当時はここまで術式磨くのに苦労したんですよー、と当時の苦労を思い返しながら語る男に対し、黒沐死は体内で膨張していく苦痛にもがき始める。
ボコ、ボコボコッ
『ガ、ギギ ギ!?』
妊婦のように膨張していく黒沐死の腹部。
そこから連鎖するように腕、足、頭部まで異様に膨れ上がっていく。
「どうか、改めてご堪能いただきたい」
「手製の───最後の晩餐を」
『ギィイイイイイイイ!!』
ヨタヨタと、内側から膨れ上がるそれに苦しみながら、それでも刀を振り上げて男を仕留めようとする黒沐死。
そして、刀が男に触れる寸前で指を鳴らし───
「哥伽陀」
───ぱんっ
『5
シャボンが弾ける音と共に、コガネの無機質なアナウンスが響き渡った。
開始から僅か数分で四強の内の二つが落ちた仙台コロニー。
その後も、乱入者による好戦的な泳者の大掃除が続いていき───
「───コガネ、今の私の持ち点は?」
『現在の得点、95点です』
「目標の
コガネに確認を取りつつ受肉体含めた凶暴な術師らの屍が散乱した市街地を我が物顔で闊歩する乱入者。
「あーあ、折角の一張羅も汚しちまっ──汚してしまいましたね」気に入ってたのに
その姿、さながら暴君の如し。
自身のも含めた返り血に塗れながら、気にも留めず我が道を征く姿は、どこか呪いの王を想起させた。
「まぁ、市民の保護は概ね完了しましたし、残りは───」
しかし、そんな王の行軍を遮る者が現れる。
「おやおや」
まるで泳ぐ魚に合わせて引かれる水面の揺らぎのように歪む空。
それは遥か遠方から男の方へと向かっていき…。
「これまた懐かしい」
自然と持ち上がる男の口角。
軽やかに着地したその姿を認め、受肉して外見が変わろうとも、唯一変わらない目つきからその正体を看過する。
まぁ、目つきやら過去の因縁関係なく男は知識から知っているのだが。
今まさに溢れんばかりの呪力と殺意を滾らせ、男を貫かんばかりに睨みつける女の事を。このコロニーの誰よりも。
「どーも、お久しぶりで」
女とは対照的に、まるで久々に再会した旧友と世間話でもするかのような軽い雰囲気で男は名を呼ぶ。
名もなき女に、“彼女”が与えた名を───
『んーとね、じゃあさ』
『いっつもお空飛んでるから───』
「───
「麻桑ォォオオオオオオオ!!」
かつて主君に切り捨てられた己を見捨てた二人。
その片割れへの呪詛を吐き散らしながら突貫する平安の術師・烏鷺亨子は捻じ曲げた空間を掌に収束させ、叩きつける。
戦いは、まだ終わらない。
おまけ『時をかける直哉』
直哉「内緒やで、ぶっちゃけダサいと(ry」
麻桑(平安)「良かったな。この時代ならカッコよく死ねるぞ。秒で」
羂索「面白い事言うねぇ。そういう考え方は本物の強者だけに許された特権だっていうのに、弱い君が言ってるんだから本当笑えるよ」タハー
万「あんた馬鹿ぁ?」
宿儺「くだらん、虫螻如きが術師の在り方を語るなぞ滑稽極まる。矜持を語る前に先ず己の身の丈を知れ」
裏梅「カスが」
天元(not親指)「君の術式を考慮すると、その考えは推奨できないな。そもそも投射呪法は──(クソ長ナレーション)」
直哉「…………(ヒクヒク)」
かぐや(ウミウシ)「………(彩葉がこの時代に生まれなくて本当に良かったという安堵に満ちた顔)」