千代に八千代に   作:NJ

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前回のあらすじ

ドルゥヴ「神将死んだんですか!次の受肉ではもう遭遇しなくて済むんですか!?」
ドルゥヴ「やったーー!!」
千年後
ドルゥヴ「受肉してるじゃないすか!」
ドルゥヴ「やだー!(シャボンの雨)」

麻桑「お前はもう死んでいる」
黒漆「(ピプーコリコリ) た わ ば !?」



遅れて申し訳ない。スランプになってました。



第11話:子供みたい

 

 2019年 東京郊外

 死滅回游平定から数日後。

 

「五条殿」

 

「───やぁ麻桑さん」

 

 高専管理下の墓地。

 赤く滲んだ空の下、一つの墓標の前に集う特級二人。

 

「家入様が、居るならここだろうと」

 

 黒のスーツに身を包んだ麻桑は、いつもの目隠しではなく丸いサングラスに、麻桑と同じ黒スーツ姿で墓の前で座り込む現代最強の背中に問いかける。

 

「よろしかったのですか?本当に」

 

「何が?」

 

「この件のカバーストーリーの内容です」

 

 呪いの王両面宿儺、並びに此度の戦争の黒幕たる羂索。

 両名が討たれた事で、日本全国を巻き込んだ呪術儀式・死滅回游は終わりを迎え、天元を利用した一億人の人類の強制進化は阻止された。

 

 だが、それでめでたしではない。

 呪術、呪霊の存在が全世界に公となった結果、彼らは世間を納得させる回答を用意しなくてはならなくなった。

 

 世間から求められた質問。

 今回の騒動の主犯は何者なのか?

 

 高専側の回答は───

 

「まぁ…仕方ないさ。 傑も多分、納得してくれる」

「ミゲル殿は?」

「もう説得したよ。ラルゥも墓まで持ってくって約束してくれた」

 

 

 

 ───俺達カラ言ウベキ事ハモウ何モナイ

 

 ───傑ちゃんを解放してくれたのは貴方達だもの。見て見ぬ振りをしてきた私達にとやかく言う権利はないわ。

 

 

 

 去り際の二人の言葉が脳裏をよぎる。

 

 流石に馬鹿正直に宿儺や羂索の名前を挙げて「千年前の呪術師が現代まで生き永らえて悪巧みしてました」などと言うわけにもいかなかった。

 

「なんなら、僕より麻桑さんが一番分かってるでしょ? こうするのが最善だって事ぐらい」

 

 高専側の説明を聞く非術師達の中には、権力者も当然含まれる。それも世界の覇者たる超大国の舵を握る者達が、だ。

 そんな連中が呪術で不老不死が実現できると知れば、どんな反応をするかは想像に難くない。

 

 いつの世も、富と権力を極めた者の考える事は変わらない。

 

 よく知っている。

 

 幼い頃からずっと見てきたのだから。

 

 呪術全盛の時代。

 

 あの忌わ(なつか)しき平安の世で。

 

「────」

 

 刹那。降ろした瞼の裏に彼女と出会うまでの思い出が走馬灯のように流れ、過ぎ去った。

 

 吐き気を催すような思い出(トラウマ)が。

 

 静かに目を開け、改めて二人の前の墓石に刻まれた名を目に焼き付ける。

 

 

 

 ───夏油

 

 

 

 この者が、渋谷事変からの一連の騒動の主犯である。

 

 それが、高専が出した回答だった。

 

 元々、夏油自身がカルト団体を率いて呪霊と資金集めの為に呪術を用いて信者を集めていた経緯から非術師界隈でもそれなりに顔が知られていたという理由で、都合が良いと判断された。

 

 いつだったか、夏油に救われたというサトウだかサイトウだとか名乗った前髪で目元が隠れた女性が「仏様のような人だったのに…」とテレビのインタビューに答えていた姿を思い出す。

 

 皮肉にも、夏油一派以前の“ある有名な教団”が日本人に刻んだ恐怖も「カルト教祖がテロを引き起こした」という話の説得力を後押しした。

 

 渋谷で暴れ回った怪物達(漏瑚ら)も、新宿の映像で五条悟と激闘を繰り広げた四腕四眼の怪人(両面宿儺)も、夏油が解き放った呪いという事にされた。

 

 渋谷の生存者の中からも彼を見たと言う証言が一定数出た事で、世間は急に表舞台に躍り出た呪術師という存在への疑心を拭いきれずとも、それなりの納得を見せた。

 

 親友に謂れなき咎を背負わせる五条の胸中は如何なるものか、麻桑には想像もできない。

 

 きっとそれは、本人にしか理解できない。

 

 だが、それでも…

 

「寧ろ感謝したいくらいだよ」

「ありがとう───傑の遺体(からだ)を取り戻してくれて」

 

「……天元を取り戻す為の、あくまでついでですよ」

 

 五条が宿儺と戦っている間、羂索に見つからぬよう全力で気配を消して潜伏し、五条悟の死を確認した事で油断し、更に高羽というジョーカーの存在で生まれたほんの一瞬の隙を狙った一撃。

 

 

 ───やるじゃないか、麻桑

 

 ───我ながら流石と言ったところかな

 

 

 天元だけでなく、夏油の体も羂索から切り離す事に麻桑はギリギリで成功した。

 …シャボン玉の中で生首だけになっても余裕そうに、最期までヘラヘラ笑っていた姿を思い返し、本当にバケモノだったなアイツと麻桑は顔を引き攣らせる。

 

 

 ───宇宙人…!タイムスリップしたかぐや姫…だと!?

 

 ───そんな面白そうなイベントを目前にして、私は退場させられるというのか!

 

 ───あぁ、畜生…っ

 

 

 

 

 

 ───やらなきゃ良かった!死滅回游!

 

 

 

 

 まぁ最期に嫌がらせで聞いたらこの上なく悔しがるだろう事を教えてから本体(メロンパン)を抉り出して殺してやったが。その時の顔は傑作ものだった。

 

 

 ───終わったよ、傑。

 

 

 戦いの後、今度こそ親友の骸をしっかりと弔えた五条は、家入と共に灰原、七海の墓に続く形で並び立つ夏油の墓前で胸を張って報告できた。

 

「それに」

 

「あの時、おめおめ生き永らえるのもダサいと思ってたけど─────」

 

 

 

 ───お前達のどっちかを実は愛してたなんて死んでもあり得ないけどさ。

 

 ───お前が居ないと寂しいよ。悟。

 

 

 

「─────勝手に満足して逝くのは、もっとダサいって気付けたんだから」

 

 宿儺に泣き別れにされた体を懸命に縫い合わせて保護していた友人が、自分がこっち側で目覚めて早々に口にした言葉と、その時見せた表情で自分がまた大切な事を見落としていたと気付いた。

 

 置いて行かれる辛さを誰よりも分かっていたはずだったのに。

 

 唯一の親友の心の澱みを見抜けず、悔やみきれぬほどに後悔していたというのに。

 

 自分は、もう一人の友人が抱えてきた気持ちに気づいてやれなかったのだ。

 

「傑には、もうちょっと待っててもらう事になりそうだけど」

 

 ま、向こうは向こうで賑やかそうだし寂しくはないだろう。七海に灰原、学長に天内達も居るんだから。

 

 だから、その時まで運命に向かって歩き続けよう。

 でも焦らず、たまに寄り道もしたりして思い出を作っていこう。みんなと一緒に。

 

 三人で揃った時、土産話も聞かせたいから。

 

「恨み言は、その時が来たら聞いてやればいいさ」

 

 そして思いっきり人生を謳歌して、老衰か病気だかで人生を終えたら、また向こう側で喧嘩しよう。

 

 あの頃のように遠慮なく、思いっきり。

 今までの時間を取り戻すように。

 

 麻桑は、夕陽を背にした五条の横顔を見て、光とは違う眩さに僅かに目を細める。

 

「───そうですか、あなたはもう…」

 

 それが、五条悟が第二の人生において定めたハッピーエンド。

 

 現代最強五条悟は、あの日新宿で死んだ。

 麻桑によって黄泉返った時、生まれ変わったのだ。

 

 二人で空港からこちらに戻る為に支払った代償も大きく、もう以前のように圧倒的な力は振るえない。

 

 もう、五条悟は最強ではない。

 

 だが、それでも憂いはない。

 何故なら───

 

「ま、大丈夫でしょ」

 

 

 

「───僕達、最強なんだから」

 

 

 

 仲間が居る。

 自分と肩を並べられるだけ強くなった最高の仲間達が。

 

 何より───

 

「麻桑さんが居るじゃん?」

 

 あの、伝説の呪術師が。

 宿儺との領域対決の神業のオンパレードで五条すら愕然とさせた英雄が。

 

「全く…少しは老人を労って欲しいのですがね」

 

 やれやれとため息を吐く麻桑に五条は笑いながら右手を差し出す。

 

「まだまだ現役(やれる)っしょ?」

 

「安心しなよ」

 

「僕らも手伝うよ」

 

「麻桑さんが、1000年待ち続けたその子らとハッピーエンドに辿り着くまで」

 

「それまでは───」

 

 それに応えるように麻桑も手を伸ばし…

 

 

 

 

 

「僕を生き返らせた責任、ちゃんととってよね」

 

 互いに、固く握りしめ合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は戻り───仮想現実の戦場を狐耳のアバターの少女が駆け抜ける。

 

「彩葉!」

 

 イヤホン越しの悲鳴じみた呼び声に振り向けば、鎧武者の一団が鬨の声をあげながら向かってくるのが見えた。

 

「大丈…夫!」

 

 双剣を合わせてブーメラン状に変えて全力で投げ飛ばす。面白いくらいに敵軍はまとめて一網打尽となり、上半身と下半身が泣き別れとなって消滅した。

 

「うおぉ!?やばやばやば!」

 

 一丁上がりと一息つく間も無く、チームメンバーからの救難信号。

 

 しかし、それも把握済みだ。

 並外れた視野と空間把握能力、そしてヤマ勘でワイヤーを飛ばし、林の方の死角にいる味方を襲っていたエネミーを捉え浮かび上がらせると、勢いよく地面にダンクして仕留める。

 

 これで粗方終わ───

 

 気が緩んだ刹那(スキ)を突くように、ズンッッと大地を揺らす衝撃と共に背後に降り立った巨影。

 

 私の全身を覆って余りある影に咄嗟に振り向き、ブレードを振おうとし───弾き飛ばされる。

 

「しまっ───!」

 

 それは、お伽話に出てくる妖怪をモチーフにしたような怪物だった。

 KASSENのステージでごく稀にスポーンする、牛鬼とは異なる強力な敵対モブ(どことなく、いつだかのニュースで目撃証言に基づいて描かれたという呪霊のデザインに似ている気がする)。

 

 倒しても特にメリットはない、PvPでは敵味方問わず無差別に攻撃してくるお邪魔キャラ。

 

 よりにもよって、このタイミングで来るなんて。いや、そうだとしても、いつもならこんな不覚は取らないのに───!

 

 エネミーはそのまま武器を失い抵抗する術を失った私を飲み込まんと、人一人はペロリと平らげるだろう大口を開き、私は反射的に目を閉じかけ───

 

 

 

 刹那───エネミーの頭上の月を背に、ツクヨミの夜空を舞う影一つ。

 

 

 

 目を閉じる間も無く、真上から神速でエネミーの脳天を貫く刀。勢い余って大地に縫い付けられた妖怪は、毒々しい鮮血に似たエフェクトを飛ばしながら断末魔すらあげられずに消滅した。

 

 それを成した者はチン、と涼やかな音を響かせながら慣れた手つきで納刀。

 その姿は、まるで昔話で妖怪を退治する英雄がそのまま現実に現れたようでもあった。

 

「情けないですね」

 

 フー、と呆れたように息を吐きながら私に話しかけるチームメイトの一人。

 

「それでも我が宿敵ですか」

 

 彼の配信のコメント欄は大いに盛り上がり、「流石呪術師(仮)」「まるで本物だぁ」「ライバルの危機に駆けつける王道展開」「もう実質ベジータだろコレ」「いろ、そこ替われ」と賞賛する声で溢れかえる。スパチャも少々混じっている。

 

「まだ言うんですか、それ…」

 

 心底げんなりしながらも、二度にわたって危ない所を助けられた為に強く拒絶できない自分の甘さに更にげんなりする。こんなだから母に甘ちゃんだの言われるんだろう。

 

 一度目は現実で、二度目は今この場で。

 

「何度でも言いますよ」

 

 金髪混じりの長髪を後ろで結った三本傷の偉丈夫は、聞き飽きた口上を叫ぶ。

 

「貴女と私は、八千年の宿命で繋がった宿敵(ブラザー)であると!!」

 

 常々思う。

 この残念さが無ければ俺様系イケメン配信者の我が兄(帝アキラ)とは異なる路線で更なる人気を望めたろうに、と。

 

 そうこうしている間に味方が本陣を落としたらしく、勝利報告が視界に表示される。

 

「おっと」

 

 自称ライバルもそこで視聴者へ別れの挨拶を済ませ、配信を閉じた。

 

 ゲームステージからいつものツクヨミの街に戻った私達は、お馴染みの親友達に出迎えられた。

 

「配信見たよ〜!」

「彩葉のエイムまじ凄かったじゃん!ラストのちよっちの一撃も痺れたー!」

「やっぱプロ目指しなよ彩葉も!」

「いやぁ、私にはとても…」

 

「全くその通りです」

 

 二人の賞賛に満更でもない気分になっていた所で冷水を浴びせる一声。

 

「いつもの貴女ならば、最後であのような凡ミスなどあり得なかった」

 

 ぐぅの音も出ない正論。

 実際、ここ最近何かにつけて調子が悪い。

 目の前の変人の影響もあるが、それ以前に体の調子がやたら悪い気がする。

 

「上手く隠しているようですが、あの動きの精彩の欠けようから見るに…睡眠も碌にとってないのではありませんか?」

 

 その言葉に芦花の目が厳しくなる。

 

「彩葉、まさかまた徹夜で勉強とかしてたんじゃ…」

「ダメだよ彩葉。勉強も大事だけどちゃんと休まないと」

 

 続く真実の労わる言葉が重くのしかかる。

 この二人から心配されると、下手な罵倒よりよっぽど応える。

 

 ───ブス、死ね

 

 そう、こんな風にブスだの死ねだの言われるより、よっぽど。

 

『ブス、しね、でしゃばり、うざいくたばれ』

 

「彩葉?」「聞いてる?」

 

『しねしねしねしねしねくたばれくたばれくたばれきえろきえろきえろきえ────

 

 

 

「哥伽陀」

 

 ───パチン

 

 ザフッ

 

 

 

「───彩葉!」

 

 ハッと顔を上げれば、心配そうに見つめる芦花と真実の顔。

 

 どうしたんだろう、本当におかしい。

 授業中ならともかく、こうして話してる最中でも意識が飛ぶなんて普段なら…。

 

「ご、ごめん…考え事してて」

「大丈夫?さっきから上の空だったよ」

「やっぱり病院行こうよ彩葉…」

 

 病院。その言葉に反射的な拒否反応を覚える。より具体的に言うと母に植え付けられたトラウマが蘇る。

 

 

 ───体調管理は全ての基本や。これが出来ん奴は…

 

 

「大丈夫。ほんとに考え事してただけだって」

 

 そうだ。ここで足を止めてなんていられない。

 母ならこんな風にはならなかった。あの人ならもっと上手く───

 

「お二人の言う通りですよ」

「もう帰って休みなさい」

 

「だから私は───」

 

 ストレスからか、妙にカリカリしていた私は普段と違い、苛立たしげに言い返そうとして───その有無を言わせぬ“目”に黙らされた。

 

「休みなさい」

 

「赤の他人の私にすら隠し通せていない時点で強がるだけ無駄だと気づきなさい」

 

 普段とは違う、真剣な語気に言い返せなかった。

 その言葉には、母とはまた違った形の正しさがあったから。

 

 これだから正論は嫌いなんだ。

 

 言い返せないから。

 

 それが善意から来るものなら尚更だ。

 

 私が何かにつけて構ってくるこの人を拒み切れないのも、二人が彼を信頼しているのも、普段の言動の合間に垣間見える気遣いを理解しているからだ。

 

 恥ずかしい。

 これじゃあ、私だけ子供みたいじゃないか。

 

 ────♪

 

 唐突に鳴り響くヤチヨの曲…に設定された着メロ。

 

「おっと、私のですね」

 

 画面に表示されたらしい名前はよく見えなかったが、それを目にした途端にちよっちさんの表情が微かに強張った気がしたのは私の気のせいだろうか。

 

「…失礼、仕事の電話ですので私はこれで」

 

「バイバーイ」

「また今度ー」

 

 頼むから二度と現れないでくれと願いながら、きっとこういう願いだけは叶わないんだろうなぁと憂鬱になりながら、手を振りながらログアウトして消えていく姿を見送るのだった。

 

「彩葉」

 

 そろそろ私も予習の時間なのでこっそり帰ろうとした所で、背後から呼び止める芦花の声。

 

「言っとくけど、話はまだ終わってないからね」

 

 くっそぅ、今日の予定もまる崩れだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現実に戻り、薄暗い自室でスマコンを外した麻桑は山積みとなった資料とカロリーメイトの箱やエナジードリンクの缶が立ち並ぶデスクに向き合い、座ったまま通話を始める。

 

「もしもし…あぁ伏黒君ですか。犯人の特定はできましたか?こちらの方は引き続き被害者の方を…」

 

『麻桑さん─────

 

 

 

 

─────見つけました(・・・・・・)

 

 それを聞くや否や。

 麻桑は即座に立ち上がり、外出の準備を始めた。




おまけ『唯一分かり合えた点』
メロンパン「天元ってムカつかない?」
麻桑「それな」


麻桑が助けるシーンは渋谷事変ラストの乙骨登場シーンみたいなイメージでオナシャス
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