それはそうと舞台挨拶のあれ見た?マジヤバくね?
「───成程ね」
「変だと思って調べちゃいたが、合点が言ったよ」
「あん? 今更お前の言うこと疑う意味あるか?」
「お前が言うなら嘘も本当になるさ」
「見ろよ、お前が築いた
「1000年前に散々吹かした
「この
「だから泣くなヤチヨ」
「態々頼まれるまでもねぇ」
「呪われる謂れなき者達の矢面に立ち、呪いに立ち向かい、祓い清める」
「それが────
「───もう、いい加減にしてください!」
自身より一回り小柄な真実を庇うように立つ芦花の叫びが正午の路上に響き渡る。
その声に周囲の目が集まるが、やがて気まずそうに、或いは億劫な様子で視線を逸らして我関せずと言わんばかりに素通りしていく。
理由は、彼女らの目の前の男達であった。
「そんな固いこと言わないでさぁ〜」
「ちょっとした勉強だと思って、ね?」
これ見よがしに染めた金髪、耳のピアス、腕には「僕ワルい奴です」とアピールするようにびっしりと彫りこまれたタトゥー。
テロが解決し、都心を埋め尽くしていた呪いが祓われ人が戻った東京。
だが、当然と言うべきか人が集まり都市の新陳代謝が加速すれば、このような輩が蛆のように湧いてくるのは自明の理であった。
平和のありがたみも理解できない“猿”の群れが。
「向こうに知り合いがやってる店あんだ」
「そこらの女子高生じゃ体験できないようなことさせてあげるからよ」
そして、人間の多くが目の前で起きた揉め事に対して自分の安全と当事者を天秤に置き…前者に傾かせるものであることも。
「芦花…」
「真実、私がなんとか時間稼ぐから。その間に…」
「ダメだよ、それじゃ芦花が…!」
周りの助けも期待できない状況。
誰か警察でも呼んでくれているかもしれないが、仮にそうだとしても悠長に待つ暇はなさそうだ。
男達の方も苛立ちを隠せなくなり、元からペラッペラだった取り繕いも剥がれ落ちて思考が口説きから力尽くへと移行する。
「なにコソコソ話してんの?」
「もうかったるいから無理矢理やっちゃおーぜ」
「ッ、離し───!」
「やめて!」
だが、何事にも例外はあるもので。
「るっせーな、暴れんなよ」
「なぁに、すぐに自分から欲しがるように───
────ガッ
ギュゥウウウウウッ
「ちょっとアンタら────」
二人にとって、その日は
「────私は?」
これが、
─
───
───────
「ほんと、災難だったわよねー」
「あはは…あの時、野薔薇さんが来てくれなかったらどうなってたか…」
かつての荒廃ぶりが嘘のような都内の雑踏を歩きながら、綾紬芦花は当時の出会いを想起していた。いつも連んでいる真実と彩葉はそれぞれ別の用事でおらず、今は二人だけだった。
あの時はチンピラもそうだが、自分も彼女の顔を目にして思わずギョッと身を竦めてしまったものだ。
後で謝った時、本人は慣れた反応だから気にしなくていいと手をヒラヒラさせながら軽く流してくれたが。
「マジで気ぃつけなきゃダメよ? 私がJKだった頃に比べたら少ない方だけど、あーいう輩はどこにでも湧いてくるからね」
「そうですね…私も野薔薇さんみたいにああいう人達をあしらえるくらい強くなれたらいいんですけど」
「私からしたら問題行動ばっかの
100パーあんのバカ共の影響だわ、と高校時代からの親友で同僚らしい人達の話をしながら溜息を吐く野薔薇の横顔を見つめる。
この眼帯の女性について、芦花が知る事はあまりない。
顔の傷についても深く詮索していない。
本人の性格上聞いたら普通に答えてくれそうではあるが、それでも他人の過去を無遠慮にほじくり返せるほど綾紬芦花は厚顔無恥ではなかった。
分かっているのは高校で教師をしている事と、「何かあったらいつでも相談して!」と連絡先をもらった事。
そして、「あの時」の東京に居たということ。
今の自分と、そう変わらない歳の頃に。
無論断言はできないが、それだけで顔の傷の所以もある程度想像できてしまう。
テロが起きた時、物心がつき始めたばかりだった芦花は印象が薄いが、両親や周りの大人の雰囲気、今はすっかり衰退したテレビに成り替わるように主流となった動画サイトで定期的に取り挙げられる被災者へのインタビュー動画から当時の激動ぶりが伝わってくる。
だからこそ、当時の恐怖をおくびにも出さずあっけらかんとした様子で我が物顔で、かつて惨劇の場だった東京を歩く姿に芦花は尊敬の念を向けてもいた。
自分にはない強さを持った彼女に。
「それにしても、凄い時代になったもんよねぇ」
顔を上げ、ビルの画面を飾る月見ヤチヨの広告に隻眼を向ける野薔薇。
「仮想現実やらVRなんてダチに付き合わされて見たSF映画でしか知らなかったし興味もなかったけど、こうして現実になると驚かされるわね…」
「凄いですよね。もう利用者数1億人超えですし」
待ち受ける未来はマト◯ックスかもねー、と今となっては随分レトロな映画を話題に出しながら、そういえばと思い出したように広告でウミウシと一緒に笑う乙姫のようなキャラクターを指差す。
「この子…ヤチヨちゃんだっけ? ウチの同僚にも推してる奴が居んのよね」
「そうなんですか?人気ですもんね、AIライバー月見ヤチヨ」
「そうそう、ホントこの子が絡まないとマトモなんだけど…この前のバカ騒ぎ見た時は頭抱えたわ」
あのゴリラといいドルオタにはマトモな奴がおらんのか…と苦虫を噛み潰したような顔の野薔薇に苦笑する芦花。
芦花が密かに懸想する彼女もまたヤチヨが絡むと普段とは打って変わってテンションが乱高下する為、野薔薇の気持ちが少し理解できた。
まぁ、芦花が抱くそれは野薔薇のそれとは少し違う感情だが。
「芦花ちゃんの友達も推してるんだっけ?彩葉ちゃん」
「はい。彩葉、ヤチヨの事になると凄い饒舌になって…」
心の中を読まれたかのように彩葉の名前を出されてドキリと胸に嫌な衝撃が走るが、どうにか顔に出さずに答えられた。
「大丈夫?彩葉ちゃん、最近特に無理してるって真実ちゃん言ってたけど…」
「はい…」
最近、話をかけて顔色が悪くなった親友の姿を思い返して無意識に顔が俯く。
彩葉。
芦花にとって大事な人。真実に並ぶ親友で、親友以上の気持ちを向けている相手。
なんでも出来る超人…を懸命に演じる強がりな子。
皆に尊敬されて頼もしく見えて、今にも消えてしまいそうな儚い笑顔を見せる少女。
母親の言葉に縛られ、自分を追い込み続ける大好きな人。
「学校では平気そうにしてるんですけど、この前ちよっ…ツクヨミで知り合った人から『ふらついて車道の方に倒れそうになってたのを助けた』って聞いた時は居ても立っても居られなくなって…」
「………」
その時の野薔薇の「大分深刻ね…」という呟きは芦花には聞こえなかった。
そして、続けて質問した。
「彩葉ちゃん、人間関係でなんかトラブルとか無かった?」
「学校とかバイト先で、誰かと揉めたとか」
芦花は唐突な質問に僅かに困惑するが、すぐに顎に手を当てて考え込み…思い当たる記憶が頭に浮かび、顔を上げる。
「そういえば─────」
「───って感じ。そっちは?」
『…こっちも粗方確かめて回ったが…間違いなさそうだ。 問題は、いざという時周りを巻き込めるよう念入りに備えてやがる事だ』
「チッ───勉強でも運動でも勝てない癖に、そういう悪知恵だけは働くのがムカつくわね」
『力に目覚めて一朝一夕の動きじゃないな。残穢を隠すのも慣れてるし、確実に
「麻桑さんには?」
『もう連絡した。だが被害者の護衛もあるしすぐには動けないだろうな』
「先輩達に頼るわけにもいかないからねー。虎杖は?」
『待機だ。下手なことして呪詛師を刺激したら大惨事になりかねん』
「んじゃ、あの人が来たら改めて作戦会議といきましょ」
『あぁ、そっちは依頼人の要求通り引き続き二人の護衛を頼む』
「そっちも頑張りなさいよ。
『…………好きでやってるわけじゃねぇよ』
ブツッ
釘崎の登場シーンは原作のアレとおんなじです。