千代に八千代に   作:NJ

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遅れて申し訳ない
エアコン壊れた上に腰痛悪化して鬱ってました

リアルも立て込んでて投稿間隔更に伸びる可能性があるのでご了承くだちい

それはそうと、かぐやちゃんお誕生日おめでとう(尚、本編ではまだ生まれてすらいない模様)


13話:正当性の在処(呪)

 

 

 あいつだ。

 

 

 あいつが来てから全てが狂い始めた。

 

 自分が居るべきだった筈の場所。

 

 自分に向けられるべきだった感情。

 

 自分が被るべきであった数多くの恩恵。

 

 奪われた。

 

 全てアイツに。

 

 あの女、穢らわしい売女。

 

 いつもすました顔で、裏では皆を見下してるくせに優しくて完璧な優等生ぶった不愉快な偽善者。

 

 そうだ。

 人間は皆、弱く醜い。

 

 自分は知っている。

 この術式(ちから)で、薄っぺらな偽善の内側を暴いてきた。

 

 力に目覚めた時、初めて見たのは両親。

 次にクラスメイト、先生、近所の奴ら。

 

 皆醜い、皆皆皆。

 醜かった。どいつもこいつも。

 

 そんな醜い部分をこの手で捏ねくり回す度に奴らの汚い本音が伝わってくる。

 

 

 

『産まなきゃよかった』

 

 

『こんな女と結婚しなけりゃ今頃俺は』

 

 

『あいつ殴ってストレス発散しよ』『マズイ飯ばっかり持って来やがってクソババア』

 

 

『キモ』『一日餌忘れたくらいで死ぬんじゃねぇよ』『あの程度で自殺するとかないわ』『つまんないの』

 

 

『死ね』『クソが』『殺したい殺したい』『ゴミ』『ブス』『あいつ嫌い』『なんで私が』『俺のせいじゃない』

 

 

『俺に迷惑かけるなクソガキ共』『もう捨てちゃえ』『今日はあの子にしよう』『マジうぜぇ』『飛び出した奴が悪いだろ』『チート一回だけで垢BANしやがってヤチヨの野郎』『ムカつくムカつくムカつくムカつく』『安月給でコキ使いやがって』『使えねえ奴らだ』『相談とかマジやめてよ面倒臭い』『この程度のコメントで炎上すんのかよ』『何がブラックオニキスだよくだらねぇ』『どんだけスパチャした(ふじゅ〜貢いだ)と思ってんだ』『私を好きって言ってよ』『早く帰りたいな』『レジ打ち遅えよ』『腹立つからコメ欄荒らそ』『俺可哀想俺可哀想』『人間じゃねえんだから何匹殺そうがいいだろ別に』『殺す殺す殺す殺すみんな殺す』

 

 

 

 死んで当然の奴らだ。

 何をされても文句を言えない奴らだ。

 

 だから台無しにしてやった。

 ただ、奴らから生まれたものを奴らに返してやっただけ。

 

 そこら中に吐き捨てた呪い(ゴミ)をあるべき場所に戻しただけ。

 

 みんな無様に潰れていった。

 自分から生まれた呪いで壊れて狂って、愉快に終わっていった。

 

 楽しかった。

 自分の陰口を叩いてた奴らを自殺未遂まで追い込んだ時も、噛み癖が酷い飼い犬を躾けない怠惰な飼い主に犬を縊り殺させた時も、生徒に欲情する教師の人生を破滅に追い込んだ時も、口うるさい近所のババアを病院送りにしてやった時も、受験のライバルを次々に不慮の事故に遭わせてやった時も、最高の気分だった。

 

 だから、今回もいつも通りで行く筈だったのに。

 

 どうも上手くいかない。

 

 潰れない。

 どれだけ呪っても、どれだけ周りの嫉妬を固めておっ被せてもへばらない。

 

 どうなってる、どうなってる、どうなってんだよクソクソクソッ。

 

 ツクヨミじゃ手を出せない。

 自分の術式で分かるのだ。対象が周りからどんな感情を向けられているのか。

 

 ツクヨミには、あの女に途方もない執着を向けている奴がいる。

 

 常に奴を見張っていたのを感じていたから、正体はすぐ分かった。

 

 愕然とした。

 

 何故、何故、何故“彼女”が奴を。

 ツクヨミの象徴までもが奴を特別扱いする。

 

 

 

 ふざけるなよ

 

 

 

 死ね。

 もうなりふり構うものか。

 

 お前が悪いんだ。お前が目立たなければこんな目に遭わずに済んだんだ。

 

 精神が完全に潰れようと構うものか。どうせ死ぬんだから。

 

 さぁ、死ね。お前は今から死ぬんだ。

 

 間抜けな(・・・・)、交通事故(・・・・)の(・)被害者(・・・)として!

 

 

 

 ───その、筈だったのに。

 

 

 

『どうやら私達は、“宿敵”のようですね』

 

『自己紹介しただけなのに!?』

 

 

 

 なんで、呪術師が奴を助ける。

 

 しかも途方もなく強い。

 

 分かる。

 同レベルの奴を見たことがあるから。

 

 

 

『へぇ、面白いね、君。その歳でここまでやれるとは驚いたよ』

 

『この体の術式と似て非なる能力…いいね、次の候補に入れとこうか。…あぁ、こっちの話だから気にしないでいいよ』

 

『こっちも今は立て込んでてさ、今回の件が終わったら会いに来るからよろしくね』

 

 

 

 あの日、日本が、世界が大混乱の真っ只中だった時、意味の分からないことをペラペラ一方的に捲し立て、勝手に満足して消えたあの袈裟の男。

 暫くしてテロの首謀者として公表されていたあの男と同じくらい…いや、下手するとそれ以上に。

 

 それから、あの女の陰に必ずその術師がチラつくようになった。

 まだ自分の存在は気取られていないが、高専の連中も周りをうろつき始めた。

 

 怪しまれてる。隠れ蓑(・・・)は用意したが見つかるのも時間の問題だ。

 

 まただ。またあいつばっかり。

 

 あいつばっかり、特別扱い。

 

 なんでだ。

 

 なんで

 

 あいつばっかり

 

 不公平だろうが

 

 私は“普通”に生きてるだけなのに

 

 あいつらと同じように

 

 みんなそう(・・)だろうが

 

 誰だって腹の底では他人を呪ってるのに

 

 憎んでる癖に、妬んでる癖に

 

 妬み、嫉み、恨み、欲し、奪い、傷つけ、殺し、怯え、怠け、貪り、嘲り、騙す。

 

 それが人間の真理なのに。

 それこそが“本当の人間”なのに。

 

 そして、それに純粋に従う自分は誰よりも人間的な生き方をしているだけに過ぎないのに。

 

 否定するのか、偽善者共が。

 

 許さない。

 

 許さない許さない。

 

 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。

 

 

 呪ってやる

 

 

 報いを受けろ酒寄彩葉。

 

 もう逃げ場はない。

 だが、ただでは転ばない。

 

 

 

 

 

 お前も道連れだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───ガリッ

 

 

「なるほど────アレが」

 

「はい」

 

 麻桑と伏黒はビルの屋上から標的を確認する。

 伏黒は双眼鏡で、麻桑は右手のカロリーメイトを噛み砕きながら左手の指の輪に張ったシャボンの膜を望遠レンズのようにして絶妙に屈折率を調節しながら。

 

「練習だりー」

「帰ったら何する?」

「テレリリの勉強配信見るわ」

「俺は乃依のASMR聴いて寝る」

「お前ホモかよwww」

「うっせwww」

 

 遅くまで部活動に明け暮れていたらしく、日が暮れてから同年代の少年に囲まれて、何気ない談笑に耽りながら下校する高校生の姿を。

 

「尾鳥はどうする?」

「帰って予習するよ」

「テスト近いもんな」

「面倒くせー」

 

 部活仲間の中心で短髪の精悍な顔立ちで、人当たりのいい雰囲気の少年。

 

 名は────

 

 

 

『尾鳥羊介(おとりようすけ)』

 

 

 

「酒寄彩葉と同学年、短距離走者(スプリンター)として全国大会出場経験もある陸上部のエース…」

 

「クラスは別ですが、定期テストでも常に上位をキープしていますね。本来なら一位になれてもおかしくない成績です」

 

「文武両道、見るからに交友も豊かでまさに誰もが羨むクラスの一番星(スター)…」

 

「酒寄彩葉が居なければ(・・・・・・・・・・)、ですが…」

 

 一見すれば、男子高校生の青春の一幕。

 

「そんで前の配信でオタ公がさ…」

「なんだよそれ〜」

「マジ草www」

 

 だが、二人には見えていた。

 

 

 

『おおぉ、はよぉおおおお』

『きょきょ教科書、さんじゅぅいちページをををををを』

 

 

 

 ───彼を中心にした生徒達を人質に取るように、彼らの首元、頭に爪を牙を添える呪いの姿が。

 

 そして、尾鳥の全身から見せびらかすように立ち上る禍々しい呪力を。

 

「…気づいてますね」

「術式に目覚めたのもだいぶ前でしょうね。覚醒型泳者とは違う」

「証言はどこから?」

「陸上部の後輩からです」

 

 伏黒は釘崎からの情報を反芻する。

 

 

 ───そいつの後輩だっていう陸上部のマネージャーが芦花ちゃんに話したらしいんだけど…

 

 ───『先輩が校舎裏で酒寄先輩に詰め寄っているところを見た』とか

 

 ───声も荒げて、やたら興奮気味で怖かったとも言ってたわね

 

 

 意識を集団に戻す。

 

 自分達に対する人質にしておきながら、何食わぬ顔で同級生と接している姿はあまりにも自然体なのだから面の皮が厚いなんてもんじゃない。呪術師にも言えるが、呪詛師には定期的にこういう突き抜けたロクデナシが現れるものだ。

 

 性格的に気は進まないが、東堂先輩が居てくれればと歯噛みする。だが今は乙骨も彼も東京には居ない。

 

「羂索……千年前から嫌がらせに関してはとことん金メダリストだな」

 

 これもあれも、あのメロンパンがイタチの最後っ屁と言わんばかりに置いていった負の遺産のせいだ。

 

 東京と呪霊の問題がほぼ解決したと思ったらバランス調整と言わんばかりに降りかかった問題の数々には全員で頭を抱えたものだ。

 

 

 

 ───忘れない事だ、麻桑

 

 ───私が死んだところで終わりはしない

 

 ───寧ろ、ここから始まるのさ

 

 ───精々足掻く事だね。愛しのかぐや姫とやらと一緒に

 

 

 

 抉り出した脳髄に口だけが付いた異様な姿で、千年を生きた怪人は死を前にしながら尚も嗤った。

 

 

 ───きっと楽しいよ

 

 

 ネタバラシを悔しがりながら、それでも呪詛師らしく呪いの言葉を遺して。

 

「───麻桑さん?」

 

「大丈夫です。ちゃんと監視してますよ」

 

「いや、そうじゃなくて…」

 

 伏黒が心配しているのはそこではない。

 

「麻桑さん、ちゃんと寝てるんですか?」

 

 ここ十数年、麻桑は働き通しだった。

 だが、ここ最近は特に…酒寄彩葉と出会ってからは全く麻桑が休んでいる姿を見ていない。

 

 同期からもそうだし、補助監督からも心配する声を聞いた。

 

「ちゃんと栄養は摂ってますよ」

 

「睡眠は摂ってないんですか…」

 

「糖分が最低限あれば反転術式でどうとでもなります」

 

 六眼には及ばずとも呪力効率には自信がありますから、というズレた発言に伏黒は「本当にこの人といいあのバカといい…」と目の前の恩人と見えないところで動いているだろう親友の救いようのなさに辟易する。

 

「大丈夫ですよ。千年前も似たような事はしてましたから」

 

「その時と今は違うでしょう…麻桑さんも、別に俺たちに気を遣わないでヤチヨさんと「伏黒君」

 

 伏黒の言葉を麻桑が遮る。

 そして、眼前に広がる今の東京の街並みを見渡す。

 

「やっと、ここまで来られたんです」

 

 死滅回游の時、今とは真逆の荒廃した東京を同じように見下ろしていた時を思い出す。

 

 もはや誰も元に戻らないと確信していた旧首都は、かつての輝きに及ばずとも確かに世界に誇る大都市の威厳を取り戻しつつある。

 

 それは呪術師の活躍によるところが大半を占めるが、決して麻桑達だけが頑張っていた訳ではない。

 

「八千年(ヤチヨ)の努力を、無意味にさせない為に」

 

 麻桑は知っている。いや今になって知ったという方が正しいか。

 麻桑が居なくなった後の彼女がどれだけ自分を追い詰めながら戦ってきたのか。

 

 麻桑に報いる為に、どれだけ血反吐を吐いてきたのか。

 

 今になって実感した。

 彼女にとって大事だったのは酒寄彩葉だけではないのだと言うことに。

 

「もう、失敗はできないんだよ」

 

 ここからは、何一つ取りこぼせない。

 やり直しも効かない。

 

 一度きりの、八千年の最後を飾る短い…しかし途方もなく重く困難なラストスパートの始まりなのだ。

 

 

 

 ───精々足掻く事だね

 

 

 

「…言われなくても、足掻いてやるよ」

 

 亡き宿敵の幻影に小さく、誰にも聞こえない声で応える。

 

 

 

「─────最後まで」

 

 

 

 その呟きは、夜風に攫われて消えていった。

 




滅茶苦茶スランプな状態で描いたので出すか迷いましたが貼っとく事にします。
恐らく、これからイラストはほぼ出せなくなるだろうと思いますので。


【挿絵表示】


「千年分お願いがあるんだ」
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