千代に八千代に   作:NJ

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何度でも言うぞ。私が日間ランキング上位になれたのは読者達(おまえたち)せい(おかげ)だ。

今回は回想だけで短いですが、おまけで生前の主人公のイラスト一つ置いときます(ラフだけど)。


第2話:Sugarless Coffee(呪)

 

 千年前───平安京

 

 パチパチと、線香花火のように残火で木が爆ぜる音を尻目に走る。

 

 はっ、はっ、と肺もない癖に焦燥が数千年ぶりに息が切れる錯覚をさせた。

 

 走る。

 

 自分達がつい数日前までは笑って歩いていた…今は更地となった朱雀(おお)大路(どおり)の街並みを、小さな体で、懸命に。

 

「…桑!」

 

 名を呼ぶ。

 七千年の時を超えて漸く再会できた名を。

 

「麻桑!」

 

 私に、擦り切れかけた私に彼女と再会できる希望を与えてくれた彼の名を。

 

「麻桑ー!どこー!?」

 

 無くなっていた。

 全て、彼と過ごした十年以上の思い出が全て。

 

 いつも貴方達からお代は取れませんとタダにしてくれた気のいい商人達が居た西市の織物屋が。

 甘い物が苦手な彼が、苦手を克服する為に通い詰めるようになった東市の甘味処も。

 毎度任務の度に武器を壊す彼にぶつくさ苦言を呈しながら、それでも最高の一振りをと寝ずに鉄を鍛え刀を拵えてくれた頑固者の老いた刀匠の工房も。

 

 彼が呪いを祓って助けた恩に食事に招いてくれた人達の家が。

 

 自分を可愛いと撫でてくれた子供達の遊び場が。

 

 彼と馴染みの術師達が集まって屯していた茶屋が。

 

 全て、灰となっていた。

 

 全部、全部、全部。

 

 分かっていた。

 

 人はみんな死ぬ。

 形あるものは消え去る。

 

 風の前の塵のように。

 

 分かっていたじゃないか。

 

 それでも、でも彼だけは違うと、思っていた。

 

 彼だけは、八千代の果て(彩葉とまた会う時)までついて来てくれると。

 

 

 ───暫しのお別れです。相棒。

 

 

 だって、約束したんだ。また会おうって。

 ツクヨミでの最後の日に。彩葉と一緒に。

 彼の領域の中で、あの月夜の葦の原で。

 

 

 ───安心なさい。心配せずとも必ず追いつきます。

 

 ───貴女達に、貴女の語った未来に、必ず。

 

 ───ご存知の通り、足の速さには一家言あります故。

 

 

 そして、この時代で、私にとっては二度目の、彼にとっては一度目の約束を。

 

 

 ───この時代ではもう会うことはないでしょうから、最後に言うべき事を伝えておきましょう。

 

 

 ねぇ、麻桑。

 本当は、私もすごく嬉しかったんだよ。

 

 

 ───かぐや、君が好きだ。

 

 ───八千代の果てで、俺の隣を歩んでくれないか?

 

 

 でも、ごめんね。

 ごめんね…それでも、私は。

 彩葉との約束を…。

 

 

 ───ぷっ、ぶははははははは!!

 

 ───なんですかその顔!

 

 

 あなたは、それでも笑い飛ばしてくれたよね。

 きっと、答えを分かってたから。

 

 

 ───フラグ破壊成功!やったね☆

 

 ───貴女が教えてくれた未来の呪い(お約束)…呪いを扱う術師(われわれ)の世界では、そういう迷信(ジンクス)ほど笑えないものですからねぇ。

 

 ───かぐや、貴女は最後に私の呪いを祓ってくれたんですよ。

 

 ───やはり貴女は私にとっての幸運の象徴でした。

 

 

 やめて、違うよ。

 祓ってくれたのはあなたの方。私の絶望を拭ってくれたのはあなたなんだよ。

 

 いつだって、助けてくれたのは麻桑(あなた)

 

 私は、ついて行くだけで精一杯だったのに。

 

 だから…

 

 

 ───だから、再会フラグを立てる為にもここで約束しておきましょう。

 

 

 いやだ。

 

 

 ───貴女にとっては八千代の…私にとっては千代の後に巡り会えたなら…

 

 

 やめて。

 

 

 ───また告白してさしあげますので、その時は愉快盛大にフッてくださいな。

 

 ───何度でも、何度でも。

 

 

 いかないで。

 

 

 ───こらこら、謝るなんてらしくもない。

 

 ───貴女が教えた事でしょう。

 

 ───こういう時に言う言葉は…

 

 

 私を、おいてかないで。

 

 

 

 

 

 ───またな、かぐや。

 ───いろはとヤチヨ(・・・)に、宜し「麻桑っ!!」

 

 

 

 

 

 

 都だった灰の山の頂上に、彼は居た。

 

 彼だった“物”が。

 

「麻桑…」

 

 触れた側から、ボロボロと崩れていく。

 

「だ、だめ…麻桑!」

 

 崩れる。この世から、跡形も残さずに。

 

「麻桑…あそうっ」

 

 消えてしまう。麻桑が。

 私の、彩葉の◼︎◼︎が。

 

「あそう、あそう…あそう!!」

 

 サラサラと、ボロボロと、風に吹かれた砂の城のように小さくなっていくソレの名を、もう一度呼ぼうとして─────

 

 

 

 

 

あそっ

 

 ───ザフッ

 

 

 

 

 その音は、いつも聞いていた。

 呪いが祓われる音に、よく似ていて。

 

「ゔぅ、ゔっ

 

 中身が渦巻く感覚を覚える。

 洗濯機の中身のように、ぐるぐると。

 

 あるはずもない内臓が捩れる感覚。

 本当に吐いてしまえるなら、どんなに楽だったか。

 

 死んだ。死んだ死んだ死んだ。

 

 死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ。

 

 麻桑が。なんで?なんでなんでなんで???

 

 戦ったから死んだ。なら、なんで戦った?

 

 戦わなければ、麻桑は死ななかった。

 

 かぐやと、出会う前の麻桑なら、きっと戦わなかった。

 

 

 ───タダ働きなんてゴメンだね。

 

 

 あの頃の、自分の事しか考えなかった麻桑なら───

 

 

 ───あなたのお陰ですよ、かぐや。

 

 ───ありがとう

 

 

 嗚呼、そうか。

 そうだったんだ。

 

 答えは、もうずっと前に───

 

 

 

 

 

(かぐや)が────殺した…」

 

「麻桑を…」

 

「かぐやが…」

 

 

 

 

 

 そうだよ、かぐや。

 

 (あなた)が殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれほど、そこに居たんだろう。

 

 もう、灰は全て風に攫われた。

 

「いかなきゃ」

 

 果たさなきゃ、彩葉との約束(のろい)を。

 

 無意味にしちゃいけない、麻桑の(のろい)を。

 

 そうじゃなきゃ私は────ただの人殺しだ。

 

 呪い呪われ、それでも生きていく。

 

 生きていかなければならない。

 

 

 

 

 

 それが、かぐや(ヤチヨ)宿命(のろい)だと信じて歩き出した千年前。

 




呪いの王に失恋の八つ当たりしまくった男の死に様である。
メロンパンも遠くで爆笑してました。

↓おまけイラスト

【挿絵表示】

顔の傷は反転術式修得前のものなので消す事ができず、受肉後は目立つという理由で隠してます。
チョンマゲは金剛杵(魔除けの仏具)をイメージ。
その内、受肉後のデザインもまとめる予定。
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