千代に八千代に   作:NJ

7 / 12
私ハ、感想ノ味ガ好キダ!!(ドシドシ送ってくれよな!)

予想より作者のイラストが好評でびっくらポンだぜ…
現在も順次制作しておりますが、凝り性で時間が掛かるので気長におまちくだちい。


第6話:愛を叫ぶ-弍-

 

 

 ───数日前

 

 死滅回游平定から数年後、粗方の問題が解決した後の高専での一幕。

 

「い…………」

 

 受肉体の一人である麻桑は、己の両手の上に乗せられたソレを前に膝をついて震えていた。

 

 手に乗っているのは、ワイヤレスイヤホンのケースに似た小型のデバイス。

 

 それは近年開発され、世界的に利用されているAR/VR用のコンタクトレンズ型のアクセス機器。

 

 名を───

 

 

 

「ぃよっしゃぁあああああああああああ!!」

 

 

 

 スマートコンタクト(略してスマコン)

 ¥124400(税込)である。

 

 それを手に滂沱の涙を流して狂喜乱舞する外見だけなら成人男性(実年齢千年以上)。ここが高専でなければ奇異の目で見られていたか通報されていたであろう。まぁ、既に一部からはそう見られているのだが。

 

「おぉ、やったじゃん麻桑!」

「良かったですね!」

 

 それを我が事のように喜ぶ虎杖に乙骨。

 

「ありがどうございまず皆ざん…っ!ごれで!ごれでやっと彼女に会いにいげるっっ!!」

 

「うぅっ、僕も麻桑さんの千年の苦労が報われると思うと…グスッ」

「ヒグッ、ゔぅ、ヨがッだねェェェ」

 

 感極まる乙骨の横でリカもなんか貰い泣きしていた。

 虎杖は「この二人ほんと麻桑と仲良くなったなー」と思いながら、しかし自分も二人に負けず劣らず彼が千年もかけて呪物として耐え忍び、そして自分達の為に命懸けで戦い抜いた末に漸く報われる事への喜びを覚えていたのだが。

 

「この喜び!慶事!踊らずにいられるか!?否、踊らいでか!! 三人とも!手を繋いで共にこの喜びを分かち合いましょう!!」

「はい!」

「応ッ!」

 

 そうやって喜び合う内に手を繋いで輪になってアハハ、ウフフと踊り始めた平均年齢約500歳の不審者共をベンチに座り込んで遠目で眺める者達。

 

「───本当に良かったの?」

「良いでしょこんくらい。てか、今更彼のこと疑うの?」

 

 疑問を投げかけるのは最近京都校の学長に就任した特別一級術師、庵歌姫に答えつつ「ビビってんの〜?ダッサw」と煽る特級にして現在の東京校の学長(・・・・・・)五条悟。それに対して歌姫は青筋を浮かべつつ「そうじゃなくて」と反論する。

 

「私が言いたいのは、本当にこの程度の報酬で彼が納得したのかって事よ」

「…まぁ、僕も彼から望みを聞いた時に改めて確認したんだけどね」

 

 当時の彼の返答を思い返す五条。

 

 

 

『いやー、寧ろ私には十分過ぎるくらいですね』

『何より───既に皆様には一度私の“我儘”を聞き入れていただきましたからねぇ』

 

 

 

「───だってさ」

「まぁ、確かにそうだけど…」

 

 歌姫が目線を移すと、そこには高専のグラウンドで新入生の指導にあたる者達の姿。

 

 グラニテブラストォ!

 今日の授業は相撲だぁー!

 三代せんせー、この前の授業も相撲でしたよ

 

 リーゼントからビームを撃つ男と廻し一丁の河童、他にもチラホラと無駄に濃いビジュアルが。

 

 死滅回游の解決、及び日本復興に協力するにあたっての麻桑の要望は二つ。

 

 一つ、『自分とかぐやの再会に協力し、再会して以降は可能な限り彼女と彼女の周りの人間の為に行動して欲しい』

 

 二つ、『協力してくれた受肉体の処分を待って欲しい』というものだ。

 

「本当に、受肉体の件はどうにかなるの?」

 

 歌姫は、彼の要望がその程度で済んだ件もそうだが、それ以外にもまだ信じられない点があった。

 

 呪術師の役目は非術師を呪いから守る事。

 彼らに体を乗っ取られた非術師達もその対象に変わりはない。

 

 歌姫の言葉の重みを五条も理解している。

 羂索に利用されていたとはいえ、受肉体の宿主達が彼らによって人生を奪われたのも事実だ。

 

「まぁね、でもそこは麻桑も承知の上さ」

 

 しかし、その上で麻桑は受肉体を生かす提案をした。

 そして、五条も彼に命を救われた──というか一回(・・)生き返らせて(・・・・・・)貰った(・・・)借りがあるからこそ総監部に無理を言って天使による受肉体の処分を保留にさせたのだ。

 

 宿儺といい麻桑といい、あの最終決戦の日は改めて呪術全盛期(平安時代)の狂いっぷりを実感したものだ。強さ云々は兎も角、術師としてのレベルは間違いなく五条を超えていると本人も文句なしに認めていた。

 

 流石は神将麻桑、流石は天麻卜師。

 かの安倍や蘆屋(ドーマンセーマン)に並んで教科書(表の歴史)にすら名を残し、神格化された術師は格が違うと実感させられた。

 

 まぁ、生き返る際に代償もそれなりに支払う事になったが。

 

「どうにかなるでしょ。夜蛾センと京都高の学長(楽巌寺の爺さん)が遺したものもあるしね」

「………そうね」

 

 空港ん時はマジビビったわー、と独りごちながら片手に握られた、今は亡き前学長が遺した情報が記された研究日誌をヒラヒラ揺らしながら歌姫に見せつける五条。

 今際の際の彼に託された秘密(のろい)を生涯守り抜き、昨年寿命で亡くなった京都高の学長が死に際に五条に託した情報。

 

 この情報と(麻桑)の技術があれば、確かに受肉体も宿主も殺さずに問題を解決できるかもしれない。尤も、肝心の専門家(餅屋)である学長が既に亡き者の為、未だ時間はかかりそうだが…。

 

 

『完全自立型呪骸を作れる者は、平安でも殆ど見たことがありませんでしたからねぇ』

 

『その方が生きていれば、私の理想も早まったのですが…ままなりませんね』

 

 

 麻桑が、彼を救えず心底悔やんでいたのを昨日のように思い出す。

 そんなに責任感を覚える必要もないのだが…悠仁といい彼といい、あの空港で再会した親友といい、善人は背負い込みすぎるのが玉に瑕だと五条はため息をつく。

 

「そう思うでしょ?───恵も」

「分かってて聞いてます? まぁ、否定はしませんけど…」

 

 そう言って五条が振り返れば、そこには左頬と右目に深い傷跡のある黒髪の男。

 

「恵君。お姉さんの見舞いは終わったの?」

「ええ、最近はリハビリの甲斐あって大分自由に歩き回れるようになって…そろそろ退院しても大丈夫そうだって家入さんからも言われました」

「天使───華はどうしたの?」

「買い物です。姉貴が退院した時の為の準備をしておくって」

 

 俺も後で行く予定です、と付け加えながら伏黒も虎杖達に胴上げされる麻桑を眺める。

 

 ちょ、虎杖君…リカ様!?力入れ過───

 ガッシャーン!

 麻桑さーん!?

 っべ、やり過ぎた!

 

 正直、十年を超えた今も伏黒は信じられなかった。

 

 こうして姉と自分が生き延びている現実が。

 あそこまで荒廃した東京に、こうして平穏が戻っている事実が。

 

 

 あなたのお姉さんよ!!

 

 ───契闊

 

 

 あの時、あの場に麻桑が現れなければ姉はきっと助からなかった。勿論自分も。

 

 彼本人は「新宿で貴方から宿儺を引き剥がして助けたのは虎杖君ですよ」と謙遜していたが、どちらにせよ伏黒からすれば彼に一生かけても返しきれない恩がある事実に変わりない。少々…いやかなり変人なところがあるが。

 

「俺も信じますよ。 麻桑さん(あのひと)が見据える理想の未来(ハッピーエンド)を」

 

 なら、自分がやるべきは彼と、彼が語った女性(ひと)が歩む道に降りかかる火の粉を払うことだ。己の命に換えてでも。

 相手が宇宙人だろうがなんだろうが、姉のような底抜けの善人を不平等に助ける為、自分は呪術師としての役割を全うするだけだ。

 

 そんな元教え子の覚悟が灯った瞳を見て五条も茶化すようにヒュウ、と口笛を吹くとニッと歯を見せて笑う。今の彼も伏黒と全く同じ気持ちだから。

 

「いよっし!」

 

 勢いよく立ち上がり麻桑達の方に歩き出す五条を見て、歌姫と伏黒は長年の付き合いから察した。

 

 この男、何かろくでもない事を思いついたなと。

 

「はいはーい!みんな、ちゅうもーく!」

 

 パンパンと手を叩いて盛大に校舎の窓をぶち抜いて突き刺さった麻桑を引っこ抜こうとする虎杖達の目線を引き寄せる五条。

 

「五条殿?」

「五条先生?」

 

 引っこ抜いた頭を大量の窓ガラスと吹き出す血で飾り付けた状態で五条の方を見る麻桑。

 

「いやね、折角麻桑さんも千年越しに愛しの彼女に会いに行くんだからさ。 菓子折りもなしに挨拶だけで済ませるなんて退屈だと思わない?」

 

「…えぇ、まぁ確かに」まぁ厳密には彼女ではありませんけど

 

「そこで!このGLG(グッドルッキングガイ)ことGTG(グレートティーチャー五条)は思いついた!」

 

 意図をつかめず未だピューと血を吹き出しながら首を傾げる麻桑相手に得意げに宣う五条に虎杖はハッと察する。

 

「まさか、五条先生…!」

 

 彼も一度経験したからこそ気づけた五条の考え。

 

 思い出すは交流会の時、そして新宿の決戦での───

 

「そう、長年離れ離れだった相手と再会する時にやることはひとぉつ! それは勿論────」

 

 

 

 

 

 

 

 

「───サプライズっしょ☆」

 

 伏黒は信じたくなかった。

 

 この星マークを飛ばしながら茶目っ気たっぷりのキメ顔をかます男がもうアラフォーのオッサンだという事実に。

 

 てか、アンタもそれで痛い目見たクチだろうと言いそうになったがギリギリで堪えた。

 

 伏黒恵はこの現学長、元担任と違って空気が読める男なのだ。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 ───なんだこれ。

 

 いきなりライバルを名乗る不審者が現れて、そいつの訳のわからない手品でさっきまで観客(モブ)側で見上げていた最推しの前に連れ出されて、その不審者が最推しに鼓膜をぶち抜くようなプロポーズして────

 

 その時、彩葉は刮目する。

 電子の海の歌姫、月見ヤチヨの知られざる一面を。

 

「(え──嘘)」

 

 その時の、ヤチヨの表情は───

 

「(ヤチヨってこんな顔すんの?)」

 

 今の今まで、彼女の配信を見逃した事など一度もない。

 時間が押して生で見れなかった分も、睡眠時間を削ってまでして内容を確認した。

 

 だが、そのどれでも、こんな思わず見惚れてしまうような───

 

「……っっ────」

 

 幸福の絶頂と、絶望のドン底を同時に味わったような感情が綯い交ぜになった、こんなぐちゃぐちゃな顔なんて一度だって───

 

 

 

「────ごめんなさい」

 

 

 

 ───ピシィッ

 

「(いや振られるんかい)」

 

 ヤチヨの顔を見て思わずもしかして、と思ってたから安心したけど。

 

 固まる男。

 同時に何か、ひび割れるような音を耳にした気がした。

 

 この時点で、酒寄彩葉は確信していた。

 

 あっこれ夢だな───と。

 

 過労が祟ってスマコン付けたまま寝落ちしちゃってんだ。ヤバい、スマコン目の裏側とかに入り込んでないかな。病院行くのやだなぁ。こんな事なら芦花と真実の忠告ちゃんと聞いとけば、とか呑気に思考を巡らせる。

 

 だが、彩葉は気づいていない。

 自分も、これから盛大に目の前の珍事に巻き込まれる───というか中心に据えられるという事実に。

 

 ふらぁあ…

 

 ヨロヨロと後退りするチョンマゲ男。

 そのまま産まれたての子鹿よりも危うい後ろ歩きで彩葉の隣まで戻り、背中から倒れそうになる──

 

 ピタッ

 

「(あ、堪えた)」

 

 ──寸前でギリ堪える。

 イナバウアーみたいだなと彩葉は他人事のように…いや実際他人事感覚で眺めていた。腰が壊れたりしないのだろうか、あの体勢。

 

 ギギギ…

 

 そのまま、朽ちたマネキンを無理矢理動かしたかのような音を響かせながらゆっくり首をこちらに向ける男。

 なんかシュメール人の像、または火星で進化したゴキブリみたいな目でこちらを見ている。怖っ。

 

「お次、どうぞ」

 

「「は?」」

 

 ヤチヨと見事にハモる彩葉。

 酒寄彩葉がその言葉の意味を理解するのにかかった時間、16秒8。

 

「え────いやいやいやいや!私もやんの!?」

「当たり前でしょうがッッ!!何の為に貴女をここまで連れてきたと思ってるんですか!」

「知るか!!こちとらただでさえ色んなことがあり過ぎてキャパオーバーだってのにこれ以上飲み込めるか!」

 

 何故か逆ギレをかます男に満腹通り越して腹12分目だっつーの!胃袋吐くわ!と吐き捨てる彩葉。

 正当な主張であったが、こんな正論が通じるならこの男もこんな暴挙に出ていない。

 

 何故か俺、正論嫌いなんだよねと謎の白髪グラサン男がドヤ顔で煽る姿を彩葉は幻視した。お前誰だよ。

 

「ちょ、ちょっと待って麻桑!?まず聞きたいことが山ほど───!」

 

 目の前でギャースカとコントを始めた二人に置いてけぼり喰らったヤチヨ、割って入ろうとするも漸く困惑しっぱなしの観衆の事を思い出す。

 

 流石におかしい事に気づいた彼らは「ヤチヨ、さっきから何やってんの?」「なんか結婚とかどうとか聞こえたけど」「あの人達誰?」とざわつき始める。

 なんならさっきまでヤチヨライブのMCやってた忠犬オタ公も視聴者に「アレもイベントの一環?」と聞かれて「知らん…何アレ…怖っ」と宇宙猫になっていた。犬なのに猫とはこれ如何に。

 

 しかしそこは月見ヤチヨ───先ほどちょいとばっかし無量空処を喰らってテンパりこそしたものの、8000年の年の甲でこの混乱を納める最適解を導き出す。IQ53万のおばあちゃんの知恵袋、ここで活きる。

 

 息を吸い、鳥居の上から透き通るような声を張り上げる。

 

 

『神々のみんなー!』

 

 

 しん、と静まり返るツクヨミ。

 集まる観衆の目。

 

『びっくりしちゃったかなー!? ゴメンねー、こんな事になるならもっと早く伝えておけばよかったなぁ』

 

 動揺を覆い隠して、いつものように大仰な動きを交えて芝居がかった口調で、ヤチヨは即興の御題目(カバーストーリー)を語りだす。

 

『実はヤチヨは最近こう考えていたのです…こうしてツクヨミに訪れて楽しんで盛り上げてくれるだけでなく、ライブにも配信にも来てヤッチョを応援してくれるみんなへの感謝と感激で、胸が張り裂けてしまいそうで苦しくて苦しくて…どうすればこのホイップとチョコたっぷりのパンケーキを完食した後の胸焼けに似た苦しみを癒せるのかと』

 

 困惑していた群衆も、ヤチヨの言葉に一斉に耳を傾ける。

 それを確認してうんうんと頷きながらヤチヨは続ける。

 

『しかーし!そんな天岩戸に引き篭もる勢いでスランプモードだったヤチヨに差し込む光!さながらイナズマ、イカズチ、タケミカヅチが落ちたが如き閃きが訪れたのです!』

 

 ビシッと天の満月(ミラーボール)に向けて人差し指を立てるヤチヨ。

 

『そんな思いつきから、今日は日頃のみんなからの雨アラモードな応援に対する感謝を示す為、なんと!ヤチヨは今回のミニライブでみんなへ驚きのサプライズを予定していたのであります!』

 

「サプライズ?」

「やっぱ今回のもヤチヨの思いつきだったのか」

「ヤチヨ、こういうの好きだもんね」

 

『よーく聞いてね。 そこのクソボ…お馬…せっかちさんが先走っちゃったせいで伝えるタイミングが狂っちゃったけど…FUSHI、説明してくれるかな?』

 

 そして、そんな彼女と同じ時の旅路を歩んできた相方もまたヤチヨの意図を瞬時に察し、1秒にも満たぬアイコンタクトのみで行動に移す。FUSHI、お前こそヤチヨの真のブラザーだ。

 

『はーい!なんと、今回からヤッチョのライブに参加した経験のある神々の皆の中から選ばれた二名様のみ、ライブ後に壇上に上がって皆の前でヤチヨへ直接日頃の想いを伝える機会が与えられちゃいまーす!』

 

 相方を引き継ぐ形でヤチヨが続ける。

 

『伝える言葉はなんでもいいよー!感謝の言葉は勿論、こんな企画をやって欲しいとか!愛の告白だって…あ、でも人が悲しんだり傷つくような事はダメだからね〜。これが約束できる人なら、ヤッチョはいつでもWelcomeだよ♪』

 

 勿論、選ばれた人には参加拒否する権利もあるから安心してね☆、と解説を締めると同時におぉ、と溢れる歓喜の声。

 

「なーんだ、そういう事だったのか」

「分身と話した事ならあるけど、大勢の前でヤチヨとお話かぁ…あの二人勇気あるなぁ」

「ボク、あがり症だからとても…」

「面白そうだし、選ばれたらやってみようぜ」

「選考基準とかあるのかな?」

 

 少々強引ではあったが、ほぼ全員が納得していた。これも月見ヤチヨのトーク力と築き上げた信頼が成せる技である。

 

 そして、ヤチヨにここまで骨を折らせた元凶(ボケナス)はというと、なんか得意げな顔で腕を組んで「流石はヤチヨ…」とウンウンと頷いていた。完全に後方理解者面である。

 緊張からくる汗を拭いながら、どうにか不測の事態を切り抜けて一息ついていた時にそれを見たヤチヨは、千年ぶりの親友のふざけた態度にちょっとピキッた。

 

 これには思わずいい笑顔のまま青筋を浮かべるヤチヨ。再会の感動もなんか吹き飛んだ。さっきまでの感激を返せ。トゴ(十日五割)で。

 

 笑顔のまま腕を組んで仁王立ちでドヤ顔するバカの隣に立ってイェーイとピースしつつ背中に片手を回して背中を思いっきり抓る。

 

 ───ボソッ

 

「後でお話だからね?」

「いくらでも聞くさ。千年分」

 

 ツクヨミに痛覚が実装されていない事をここまで惜しんだ日はない。まぁどれだけ痛くてもこの馬鹿野郎は止まらないだろう事をヤチヨは知っているのだが。

 

「さぁ、お膳立ても完了致しました。 今こそ貴女もヤチヨへの想いを!(ハート)を!ここで存分に表現するのです!!」

 

 そんなヤチヨの怒りもどこ吹く風で拳を掲げて彩葉を煽る糞バカ野郎。

 

「そうだー!」

「言ったれ嬢ちゃーん!」

「アンタもプロポーズしろプロポーズ!」

 

 神々(オーディエンス)からの歓声も更にヒートアップする。この男、場の空気を完全に自分の味方にしてしまっている。最悪だ。

 いつの間にやら困惑は熱狂へと変わり、全体に広がっていた。

 

 ───プロポーズ!プロポーズ!

 

 ───こ・く・は・く!

 

 癒しの場であった筈のヤチヨのミニライブ会場は───今や酒寄彩葉の公開処刑場と化していたのである!

 

「え、えぇ…!?」

 

 どうしてこうなった?

 

 酒寄彩葉の胸中はその言葉で満たされて今にも吐きそうだった。完全に孤立無縁だ。

 というか、もう吐きたい。吐きまくって窒息死してこの現実から逃げ出したいとすら思っていた。

 

「さぁ、遠慮はいりません。オーディエンスは勿論のこと、ヤチヨも貴女の答えを待っています!さぁ!」

「やれと!?私に!この状況で!?」

「ここまで来てやらない選択などありえナッスィング!!」

「無駄にいい発音で答えんな腹立つ! だから私はプロポーズなんてハナっからする気はないんだってば! 勝手に───」

 

 しかし、そこまで追い詰められた状況であってなお彩葉は執念深く抜け穴を探す。

 

「い、彩葉…無理しなくてもいいからね? ヤッチョとしてはこうして来てくれただけで割とガチで涙ちょちょぎれというか〜…」「ヤチヨ、本名!!本名言っちゃってる!」「うわやっべ!?ごめんFUSHI!」

 

「ドジっ子キャラへの転向……ヤチヨ、それは『アリ』だ」

「麻桑は黙ってて!!」

 

 その時彩葉は見つけ出す。この絶望を抜け出す蜘蛛の糸、隙の糸を!

 

 そうだ!私は孤立無援(ひとり)じゃない!

 まだ、ヤチヨという光明が残されていた。辛い時悲しい時、私に希望をくれた、私を救ってくれたゴッデスが!

 

 そういえばさっき彩葉って呼んでたけど、なんで私の本名知ってるの?とか思ったが、そう言えばこれ夢だった。

 アレ?夢なら遠慮しなくて良くない?いやでもヤチヨに告白なんて夢でも私には…。

 

 いやそんなこと考えてる場合じゃねぇ!と彩葉はヤケクソ気味に叫び散らす。

 

「第一、ヤチヨだって迷惑そうにしてるじゃない!分かったらとっとと「彩葉…」私を帰…」

 

 

 

「や、ヤッチョはその、迷惑じゃ、ないと…いいますか、その…いや寧ろ…

 

 

 

 その、見るだけで血糖値鰻登り(げろあま)なヤチヨの表情を見た瞬間───彩葉の時は止まった。

 

 ───可愛い。

 

 その時、彩葉(+その他大勢)はその言葉以外の全てを完全に忘却した。

 

 元凶は元凶で相変わらず「ヤチヨは今日も美しい…きっと明日も美しいぞ」とか訳のわからん事を宣っていた。

 

「おっと」

 

 が、すぐにパンッと片手で頬を叩いていち早く気を取り直すと、隣の彩葉に目を向けて改めて問い直す。

 

「いいんですか───愛する(ひと)にここまでお膳立てされた上で逃げて」

 

 無意識か意図的なのか、段々と強まる語気。

 

「あなたは、それでもヤチヨへの想いに蓋をするというのか!? 酒寄彩葉ッ!!」

 

「私は───」

 

 だが、それでもなお酒寄彩葉は踏み出せない。

 

 最後の一線を、自分の殻の外側へと。

 

「やっぱり、無理だよ。 私には───」

 

 一度俯いて、やはり断ろうとした時、彩葉は見た。

 

 その時の、男の顔を。

 

 それは、先ほどまでのマグマのような激情(ねつ)を湛えた表情ではない。寧ろ真逆の───

 

 

「────そうですか」

 

 

 混乱から一転。

 体の奥底の、芯から冷え込むような嫌な感覚を覚えた。

 

 

「いえ、こちらこそすみませんでした。 無駄な期待をかけてしまい申し訳ない」

 

 

 自分は、知っている。

 同じ顔を向けられたから。

 

 

「どうやら、貴女の言う通り私の勘違いだったようです」

 

 

 重なる。

 

 

「私が探していた宿敵は───」

 

 

 ───アンタには、まだ分からん

 

 

 あの時の、母の顔と───

 

 

 

 

 

 

 

 ──今でも彩葉はすぐに泣いて帰ってくると思ってます、甘ちゃんやから。

 

「貴女では、無かったんですねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、彩葉の中で何かがキレた。

 

「───待ちなさいよ」

 

 気がつけば、背を向け歩き去ろうとした男に声をかけていた。

 

 屈しかけていた膝に、力が宿る。

 何かが、自分の体の奥底から、魂からガソリンのようなものが湧き出て体を勝手に動かすような感覚だった。

 

 足を止め、僅かに振り返る男と目が合う。

 その、不要と判断した商品を仕方なく値踏みし直すような顔がムカついた。

 

「誰が、期待はずれですってぇ…?」

 

「───ほぉ?」

 

 その目に、再び興味が宿る。

 男は、この時一度は無価値と断じた彩葉への評価を改める。

 

 一度極限まで追い詰められる事でしか、見れない人間の一面というのは確かに存在する。

 

 ある呪霊は、人間の裡で理性という上っ面に蓋をされた本能───悪意、憎悪、恐怖、欲望こそが本物の人間なのだと、人間の本質なのだと語った。

 

 それが真理か否かは聞く者によって異なるであろうが、それに一理あるのもまた事実。

 

 だからこそ、男は少女をここに連れ出し、試す事にした。

 

 知りたかったのだ。

 千年前、彼女が語った最愛が、本当に彼女の言葉通りの存在だったのか。

 

 ───もしや、これは期待以上の…

 

 己が千年の宿願。

 待ち望んだ存在。

 

 最初は期待外れかと落胆したが、やはり───?

 

 

 

 酒寄彩葉は、キレていた。

 

 あぁもう今日はずっと散々だ。

 学校では授業中に気絶しかけてボロを出しそうになるわ、バイトでは後輩のフォローに気持ち五割増しで奔走させられて、挙句に不審者に絡まれてこんな夢を見せられて…思い出すだけで臓腑の内から呪詛が溢れ出すようだ。

 

 そうだ、どうせ夢ならこれくらいはっちゃけても良いはずだ。

 

 何を自分は足踏みしていたんだろう。

 そうだ、私は確かに誇れるものなど何もない半端者かもしれない。

 

 だが──だが、しかし!

 この想いだけは───ヤチヨへの愛だけは、誰にだって負けない自信がある!

 

 言われなくったって見せてやる!

 

 見てろ!

 私だって、私だって───!

 

 

 

 

 その時だけ、酒寄彩葉は───母の言葉(のろい)を振り払う事ができた。

 

 

 

 

 ───私だって、やればできるんだ!!

 

 

「ヤぁチヨォォォーーー!!」

 

 

 ツクヨミを揺らす、魂の咆哮。

 

「なんか色々とよく分かんないけど、多分どうせ夢だろうから言わせてもらいまぁす!!」

 

「ままままま待って!? タンマ!タンマ彩葉!やっぱり心の準備が─────」

 

 テンパるヤチヨを他所に、次第に戻る男の口角の吊り上がり、先ほどよりも壮絶な笑みが顔に浮かぶ。

 

 気づけば、男は叫んでいた。

 

「魅せてみろ!! 酒寄彩葉!!」

「麻桑ォ!?」

 

 

 

 

 

 

「ヤチヨッ!8000年前から好きでした!!」

 

「私と──結婚してくださぁあああああああああああい!!」

 

 

 

 

 

 

 

「────」

 

 月見ヤチヨ。

 今度こそ完全にフリーズすると同時に、顔が服のメンダコ以上に赤く熟していく。完全にオーバーヒートである。

 

 犯人のチョンマゲ、「おもしれー女」と言わんばかりの顔でテンションを上げ、どこからともなく取り出したマイクで歌い出す。

 

 舞い上がるツクヨミ。

 なんかもうずっと蚊帳の外だった他の実況者も盛り上がっていた。

 

 当の彩葉は、なんかもうどうでもよくなっていた。

 

 どうせ夢なんだし、偶にはこのくらいはっちゃけてもいいだろう。

 

 なんか、今は兎に角この開放感を噛み締めたい気持ちで一杯だった。

 

 そして、ツクヨミの夜は更けていき───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──チュンチュン、チチチ

 ──パッパー

 

「うーん…」

 

 小鳥の囀りと、車のクラクションをBGMに意識が覚醒する。

 

 どうやら、布団も被らず寝ていたらしい。床に寝そべったままで身体中バキバキだ。

 

「いてて───あ、やっべ!」

 

 しかも、やはり夢の中の懸念通りスマコンを付けたままだった。幸い変な場所に移動せず瞳に張り付いたままだった。良かったー、病院に行かなくて済んだと一息つく。

 

 しかし、そこでアラームが鳴っていない事に気づく。完全に設定忘れだ。

 

「って、そうだ!学校!───じ、時間は!?」

 

 えーと、スマホスマホ…と時間を確認すべく机の上の携帯を手に取り、画面をタップ。

 

「ん…?」

 

 そこで、ロック画面の通知欄に表示された速報に気になるワード。途方もない数の。それも明らかにツクヨミ関連の。

 

 ざわり、と鳥肌が立つ。

 

 嫌な予感がした。具体的に言うと月の電気代の請求書が来た時のそれに近い感覚。

 だが、放置してもよくない気がして恐る恐るタップする。

 

「───は?」

 

 そこで表示された内容を見て、愕然とする彩葉。

 

 そこに記されていたのは───

 

 

 

 

 

『1000年と8000年越しの告白!? 月見ヤチヨ考案の新イベント、大盛況!!』

『まさかの告白歌合戦開幕! ヤチヨも巻き込んで熱唱する二人のファンにツクヨミが沸いた!』

『【選曲チョイス】ヤチヨに向けてGREEEENの愛唄を熱唱する謎の侍【おもろすぎ】』

『愛唄にヤチヨのRemenberで対抗する少女!?熱狂の呪い合い(ライブバトル)!』

『忠犬オタ公は語る。「未来のスターを見た」』

『元人気アイドルにして現役歌手の高田ちゃん、ツクヨミで新曲ライブ公開予定とのこと』

『【ベストショット】月見ヤチヨ、後半の告白歌合戦で茹で蛸になる【いただきました】』

 

 

 

 

 

 

「ゆ、ゆ────」

 

 暫くして、震える唇で絞り出した言葉は…

 

 

 

 

 

 

「───夢だけど、夢じゃなかった!?」

 

 酒寄彩葉、17歳。

 最愛(さいきょう)の戦績、ネットに刻む。

 

 ゲーミング電柱から赤子を拾う、数日前の出来事であった。

 




次くらいでヤチヨとお話しさせようと思います。
もしくは幕間で仙台コロニー編でもやろうかなと。

おまけ『高専での一幕』

五条悟(40)「ヤオヨロー!ツクヨミのアイドル月見ヤチヨでーーs「極の番」
その日、高専の半分近くが消滅した。
石流(アフロ)「喰らうの二度目なんだよなぁコレ」
伏黒「(寧ろ一度目も生き延びたのかよアンタ…)」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。