千代に八千代に   作:NJ

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やっぱりアナログだと見辛いなとスマホで描いてみて猛烈に後悔したGW
ケチらずiPad買おうかなと悩む今日この頃

最後に出会ったばかりの二人を貼っときます
麻桑は10代後半ぐらいのイメージ


第8話:思い出話はボロアパートで(呪)

 

 

 

「もっと他にやり方とかあったよね?」

「オッシャルトオリデス」

 

 

 某異星の戦士族特有の概念のように質量を持った殺意が、にこやかな歌姫の笑顔から放たれていた。

 これでもかと上に尖った放物線を描いた目に、にぱっという擬音が聞こえそうなくらいにこやかに開かれた口。

 

 一度目にすれば誰もがそのスーパームーンのように明るい笑顔に魅入られ、自然と月見ヤチヨのチャンネル登録ボタンを押している事だろう。

 

 ───目元に陰が差し、青筋が浮きまくってなければの話だが。

 

「あのねぇ麻桑」

 

 少女の眼前で首に「我、をこにさぶらふ(私はバカです)」と無駄に大きく、かつ達筆に記されたボードを引っ提げたまま俯いて正座する180cm超えの偉丈夫。

 

「はい」

 

 その顔は、便意ギリギリで駆け込んだトイレが満室かつ行列待ちになっていた極限状態を耐え忍ぶかのごとくであった。

 

「私に黙って呪物になってたのはいいよ? 許してあげる」

 

「誠にありがとうございま「でもさ」

 

 垂らされた救いの糸に思わず顔を上げた所で、その糸を断ち切るように遮り、続けて枷の重りを足すように問いかける。

 

「なんで黙ってたの?」

 

「えーっとですね…」

 

 正座する男に目線を合わせるように膝を畳んで、子供に語りかけるように、安心させるように慈母の笑みを向ける。

 

「焦らなくてもいいよ〜」

 

 しかし、薄く開かれた瞼の隙間から覗く眼光は言っていた。

 

「お姉さんゆぅ…っくり聞いてあげるから」

 

「だからヤチヨに言ってご覧〜。精一杯の理由(いいわけ)を」

 

 ───はよ言えや、と。

 

 呪術全盛の時代に神将とすら呼ばれた術師は、いっそ娘と呼んでも納得がいくほどの背丈の少女に陥落。

 

 観念したようにぽつぽつと、懺悔するように語り始めた。

 

 

 

 

 被告人による自供が始まって───はや30分。

 

 

 

 

 最初の般若の如き怒りようから一転。

 

 ヤチヨは号泣した。

 

 必ずや、目の前の邪智暴虐なるボケナスを永久にツクヨミに幽閉してやらねばならぬと決意した。

 

 ヤチヨには呪術が分からぬ。

 ヤチヨは、電子の歌姫である。

 歌を歌い、神々(リスナー)遊んで(配信して)暮らしてきた。

 

 けれども、愛する人達の不幸に対しては人一倍どころか八千通り越して八百万倍も敏感であった。退◯忍も裸足で逃げ出す数値だ。

 

 故にこの判決は必然であった。

 

 ───有罪(ギルティ)

 (人権を)没収(コンフィスケイション) (社会的に)死刑(デスペナルティ)

 

 もう絶対に離さない。

 自分の目が届く所から居なくなるなど許さない。

 

 もうずっとツクヨミで暮らせ、現実の体は持ち得るコネ全部使って守護(まも)ってやるからと貢ぎマゾみたいな事まで言い出す始末。

 もう酷すぎて映像化できない悲惨な姿だった。リスナーには到底見せられないような。

 

 まぁ当然と言えば当然の反応だろう。

 

 「千年後に日本人全員生贄にする呪術儀式やって世界滅ぼそうとするクソ呪詛師を騙し討ちする為に魂切り分けて片方封印してから、本体の方はガチで討ち死にして来ました」とか言われたら。

 

 挙句に、「魂殆ど死んで盛大に弱体化したので死滅回游終わらせて条件満たすまで最愛の人に会えなくなる縛りかけて戦ってました」という追い討ちをかけられたら。

 

 それでもヤチヨは陥落はしていなかった。

 

 トドメになったのはその後だ。

 

 羂索が脹相に空性結界を使って自分の計画をプレゼンしていたように、麻桑もそれが出来ることを知っていたヤチヨに強くせがまれた事で嫌々ながら同じように天守閣に同じ結界を構築。

 

 この男、何気に結界術の中でも屈指の難易度を誇る神業を会得していた。伊達に宿儺に認められていない。

 

 なんならあの羂索も麻桑に関しては

 

「彼には期待してたんだけどなぁ…丸くなった上に死んじゃった時は残念で仕方なかったよ」死に様が面白かったからいいけど

 

 と語り、割と結構死を惜しんでいたりする。

 まぁ死んでいなかったし、なんなら自分が死ぬことになるとは当人も思っていなかったろうが。

 

 そんな感じで見せた。

 記憶から再現した千年後の呪い合い(術師の戦争)を。

 

 あの地獄絵図を、見せちゃったのである。

 もう話すより見せた方が早いなと。

 

 千年前も一緒に血腥い世界を旅してたし、まぁ大丈夫だろうとタカを括っていた。

 

 その結果、そこには猿の赤ん坊のように懐に引っ付いて離れなくなったヤチヨと、なんとも言えない困り果てた顔のまま正座する麻桑の姿があった。

 

「ヤチヨさん、ヤチヨさんや」

()に?」

「ちょっと、離れていただけます?」

 

 このままだと死んでしまう。自分が。

 具体的に言うと幸福感と罪悪感の逕庭拳(ダブルパンチ)で。

 

「や()

 

 無情にも告げられる鼻水混じりの死刑宣告。

 触覚は無いはずなのに懐が湿っていくような感覚がした。

 

 このお姫様、千年前よりも泣き虫になってないかと考え、そもそも泣いてる原因が自分だったと天井を仰いでげんなりする麻桑。

 

 結局、彼に出来たのは抵抗を諦めて結界内の時間を可能な限り引き延ばし、可能な限りヤチヨの気持ちを受け止める時間を作る事だけだった。所謂精神と時の部屋の電脳版だ。

 

 だから当たり前のように神業を連発するんじゃないというツッコミが何処かから聞こえた気がしたが無視した。

 

 そして、結界内では数日が、現実では一時間が経過した頃。

 

 麻桑にとって幸せな地獄が始まって幾日も過ぎ、漸くヤチヨの涙は落ち着きを見せ始めた。

 

 まだ軽く涙目でズビズビ鼻を啜っていたが、やっとこさ離れてくれて麻桑は一安心だった。

 正直何千年でも引っ付いてくれて良かったのだが、ずっと泣かれていてはメンタルが保たない。ヤチヨが泣くのは呪物を作る為に魂を引き裂くより辛いのだ。宿儺の黒閃より効く。

 

「だからさ」

 

「俺なら大丈夫だって」

 

 こうして、約束通り君の前に戻って来たわけだし。

 

「亡くした魂の方もさっき話したけど、なんやかんやで五条殿を甦らせるついでに回収して元通りになったし」

 

 だから泣かないでいいから、な?と優しくヤチヨの両肩に手を置いて目を合わせて諭す麻桑。

 

 この場に五条悟が居たら死者蘇生をなんやかんやで済ませんなとツッコんでいたに違いない。麻桑上人、羂索も太鼓判を押す化け物(アッチ側)である。

 

 だが、そんな言葉でヤチヨは納得できなかった。

 

 許せなかった。

 麻桑が、ではない。

 

「でも」

 

 自分を、許せなかった。

 

「私のせいで」

 

 私がかけた呪いがあなたを。

 

「あなたを、千年も一人にしたのに」

 

 死ぬ事も許されず、誰とも関われない意識の深淵に閉じ込めたまま、魂を現世に縛り付けたのに。

 

 そうして顔を戻せば、そこにはキョトンと、狐につままれたような間抜け顔。

 

 それは次の瞬間、堪えきれないと言わんばかりに歪み───

 

 

 ───ぷっ

 

 

「何言ってんだよ」

 

「一番辛い時、そばに居てくれただろ?」

 

「それで十分だったよ」

 

 

 ───救われてたよ、千年分。

 

 

 透き通る瞳には、嘘偽りのない真実だけが映っていた。

 

 

 ──────。

 

 

「─────そっか…」

 

 

 その言葉は、ヤチヨ自身でも驚くほどすんなりと、胸の奥の空白にストンと嵌まり込んだ。

 

 

 ───ねぇ。

 

 ───ねぇ麻桑。

 

 

『麻桑、いる?』

『いない』

 

『麻桑、生きてる?』

『腹減ってる』

 

『ねぇ麻桑、寒くない?』

『どっちかっつーと、喧しい』

 

『ねぇ麻桑、千年後の食べ物は信じられないくらいおいしいんだよ』

『ハンバーグに寿司にカレーライス!』

『中でも、特に記憶に残ってるのはふっわふわのパンケーキ! 口に入れたら脳みそがとろけるみたいで最高なんですよ〜麻桑さんや』

 

 ボリッ

 ガリガリ

 

(バッタ)よりも?』

『う、うん…』

 

『だからね、麻桑』

『絶対二人で彩葉が居る千年後(ハッピーエンド)まで辿り着こうね』

 

『三人でまたパンケーキ食べる為に』

『甘いの嫌いっつったじゃん。まぁ───』

 

 ブチッ

 クチャクチャ

 

今食ってる奴(カブトムシの幼虫)より美味いんなら、なんでもいいけど』

『そ、そうだね…』

 

 私の8000年は、麻桑にとってあの10年だったんだね。

 

 1000年前、貴方にとっての私は───何度も弱虫(わたし)の背中を押してくれた、沢山の友達(みんな)と同じだったんだね。

 

 

 

『汝は縁起善しとぞ』

 

『逢ひ見ての、のちの心にくらぶれば───』

 

『いいぜ、確かめてやるよ』

『千年後、お前の言葉が正しかったかどうか』

 

『私と、友達に、なりたい…だと?』

 

『会いたいものがおるのだろう?』

 

『ムカつくからさ、笑うんだよ』

 

『へぇ、麻桑上人に会ったことがあんのかい?』

 

『山の向こうの寺を頼ってみるわ』

『大丈夫───私はお母さんなの』

 

『私には、ここなの』

 

『千年前、君にこの鍵を託した魔法使いに私も会ってみたかった』

『きっと、いい酒が飲めただろうね』

 

 

 

 私も。

 

 ちゃんと、あなたの助けになれてたんだね。

 

 私と過ごした時間は、麻桑にとってちゃんと意味があるものになっていたんだね。

 

 それが、堪らなく嬉しくて、我慢できずにまた懐に飛び込む。

 麻桑は当たり前のように受け入れて、頭を撫でてくれた。

 

 相変わらず感覚はないけど、八千年前の温もりが戻って来た気がした。

 

「許してくれた?」

 

「全然」

 

 だが、それとこれは話は別だ。

 私はこれっぽっちも許してなんかいないのだ。

 

「だから、まだまだお話しして」

 

 今の私は皆のAIライバー月見ヤチヨ。

 

「千年分、穴埋めして」

 

 だけど、今だけは我儘なお姫様(◾︎◾︎◾︎)に戻ってもいいよね。

 

 だって、彩葉に会う為に八千年。

 あなたと別れてからまた会うまで千年も耐えてきたんだから。

 

「仰せのままに、お姫様(◾︎◾︎◾︎)

 

 こりゃ当分徹夜だなと、やれやれと諦めたような、しかし満更でもない笑顔で反転術式で頭を回しながら結界内の時間を極限まで引き延ばす麻桑。

 

「あぁ、そうだ」

 

 唐突に何か思いついた顔で麻桑がピッとテレビのチャンネルを切り替えるように指を振ると、結界の風景が変わる。

 

「どうせなら、こっから話そうぜ」

 

 豪華絢爛な天守閣は、先ほどとは真逆の姿に反転した。

 

 隙間だらけな、雨風もまともに防げない天井。

 子供の粘土細工がマシに見えるボロボロの土壁。そこに吊るされた柿や魚、トカゲの干物。

 歩くだけで抜けてしまいそうな…座布団などあるはずも無く、申し訳程度に薄く藁が敷かれただけの朽ちた床。

 

 現代人がここに住めと言われたら間違いなく巫山戯るなと唾を交えて怒号を飛ばすだろう荒屋。

 

 だが、私は知っていた。

 

 この場所を。

 千年前の、私達の原点を。

 

 共に過ごした、都の片隅のボロ長屋(アパート)

 彩葉のボロアパートすら貴族の屋敷に見えてしまうような、私達の思い出の場所。

 

「存外、懐かしくならねえか?」

 

 な?と私の方を見下ろして笑いかける麻桑の顔を見上げ、笑って頷く。

 

「さて」

 

「そろそろ俺ばっかり話すのも疲れた事だし」

 

「聞かせてくれよ、お前の話を。千年分」

 

 そりゃそうだ。

 ここまでされたら、千年分お話しないと気が済まない。

 

 麻桑。

 守られるだけの◾︎◾︎◾︎(こども)だった頃の私では手が届かなかった。

 

 ヤチヨ(おばあちゃん)になった今だから隣に立てるようになった私の──私だけの、◾︎◾︎◾︎。

 

「てかさ、二人きりになれてテン上げしたから忘れてたんだけど」

 

 麻桑がそういえばと切り出す。

 

「今更だけど、この喋り方でいいわけ?」

「うん、今だけは千年前の…」

 

 胡座をかいた彼の足の上に座り込み、後ろから優しく両手で抱きしめられながら答える。

 

「ありのままの、麻桑でいて欲しいな」

「別に、このキャラが嫌だったわけじゃありませんがねぇ」

 

 今は割と気に入ってますし、と態とらしく口調を変えて笑う彼の鈍さに、遠回しに伝える事の無意味さを思い出す。

 

「ごめん、言い方が悪かった」

 

 八千年前は、ほんのちょっとだけ苦々(きび)しくて、でも(やさし)さに満ちたあなたが好きだった。

 

 でも、今は───自分が、月見ヤチヨ(あなたの一番)だと気づけた今は。

 

千年前(むかし)の麻桑が、いいの」

「私が本当の意味で好きになれたあなたが」

 

 それを聞いた瞬間、麻桑の表情は変わらなかった。

 

 ただ、空気が変わっていた。

 

「─────ヤチヨ」

「なぁに?」

 

 あ、この雰囲気は、と察して内心身構える。

 

 

 

 

「結婚してくれ」

「ダーメ」

 

 

 

 これからも、あなたの生きる理由でいたい(私を呪い続けて欲しい)から。

 




ずっと気づいてあげられなくて、ごめんね

【挿絵表示】

もう、一人ぼっちにしないよ
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