学園都市の決闘者   作:逆襲

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ユウカ、革命を起こす

青い扉の前で足を止め、ユウカは軽く拳を当てた。

コンコン、と規則正しい音が廊下に響く。

 

しかし――返事はない。

 

わずかに眉をひそめる。

静まり返っているわけではない。むしろその逆で、ドアの向こうからははっきりと複数人の声が聞こえてきていた。

 

しかも、やけに賑やかで、どこか騒がしい。

聞き慣れているはずのその空気に、ユウカは半ば確信めいたものを覚える。

 

(……気づいてないのかしら)

 

呆れたように小さく息をつき、ドアノブに手をかけた。

 

「開けるわよ~」

 

いつも通りの調子で声をかけ、そのまま扉を押し開ける。

 

 

 

 

ゆっくりと開いた隙間から、部屋の中の光景が流れ込んできた。

 

まず目に入ったのは、カーペットいっぱいに広げられたカードの山。

その周囲に座り込み、完全に没頭している四人の姿。

 

「ヤッタレマンで攻撃!」

 

「くっ……あっ!来ました!(シールド)・トリガー発動です!」

 

向かい合っているのは、アリスとモモイ。

その横で、ユズとミドリがそれぞれの様子を見守っている。

 

「ちょっとお姉ちゃん、なんで今攻撃したの?」

 

「え?攻撃しなきゃ勝てないじゃん!」

 

「いや、今のは——」

 

やいのやいのと、議論まで始まっている。

 

(……はぁ)

 

誰一人としてこちらに気づく様子はない。

カードに向けられた視線は真剣そのもので、声色には一切の余裕が無かった。

 

「はぁ……」

 

わざとらしく、少し大きめにため息を落とす。

その音が、ようやく場の空気にひびを入れた。

 

「ちょっと、そんな溜息つかなくていいじゃんミドリ!」

 

「わ、私じゃないよ!」

 

ミドリが即座に否定する。

その言葉に、残りの三人の視線が一斉にモモイ——ではなく、自分へと流れた。

三人は、ほぼ同時に気づいたようだったが、まだ一人だけ、状況を飲み込めていない。

 

「えっ、じゃあ今の誰の……?」

 

モモイはきょとんとしたまま首をかしげ、ゆっくりと顔を上げる。

 

 

そして——

視界に入った人物を認識した瞬間、ぴたりと動きが止まった。

空気が一瞬だけ凍りつく。

 

 

次の瞬間。

 

「うわあっ!!ユ、ユウカ!?いつからいたの!?」

 

部屋中に響く大声。

 

その慌てぶりとは対照的に、ユウカは腕を組んだまま、静かに四人を見下ろしていた。

 

「あなたが『ヤッタレマンで攻撃!』とか言ってる時からよ」

 

「ノックくらいしてよ!」

 

「ちゃんとしたわよ!」

 

間髪入れずに返す。

 

このやり取りも、もはや何度目か分からない。

互いに慣れきった、半ば様式美のような応酬だった。

 

「私達、何も悪いことはしてないよ!」

 

少しだけ声を張るモモイ。

だがその言葉には、どこか後ろめたさが混じっている。

 

「今作ってるゲームの進捗が芳しくないって聞いてね」

 

「えっ!」

 

ユウカは一歩、部屋の中へと踏み込む。

 

散らばったカード、開きっぱなしの資料、そしてゲーム機器。

一通りを視線でなぞってから——

 

「どのくらい進んだのか、見に来たのよ」

 

その一言で、場の空気が一気に変わる。

後ろで四人が小さく集まり、ひそひそと話し始めた。

 

「ちょっと……!誰かユウカに話したの!?」

 

「そんな事してないよ……!」

 

「私も言ってない……」

 

「アリスは先生に話しただけです……!」

 

その一言で、空気がぴたりと止まる。

三人の視線が、ゆっくりとアリスへ集まる。

 

「アリス?」

 

「先生に最近どう?って聞かれたので答えただけです!他の人には話してません!」

 

三人の視線に慌てて弁明するアリス。

 

「「「……」」」

 

沈黙が訪れる。

 

 

 

そして——

モモイは、ゆっくりとユウカの方へ向き直る。

 

「あの~……ちなみに誰から聞いたとか……」

 

恐る恐る、探るような声。

 

 

だが。

 

「そんなのは今関係無いわ」

 

あっさりと切り捨てられるその一言に、場の空気がぴんと張り詰めた。

 

「くっ……今作ってるのが、カードゲームとローグライクを合体させたようなやつで……その、参考になるかなーってやってただけだから!」

 

モモイが早口でまくし立てる。

言い訳と説明が入り混じったその言葉は、どこか必死で、どこか後ろめたい。

 

床に広げられたカードの山が、その“参考”の度合いを雄弁に物語っていた。

 

ユウカは一瞬だけ視線を落とし、散らばったカードや機材を見渡す。

そして、ほんのわずかに息をついた。

 

「それ自体は構わないわ」

 

一歩、ゆっくりと踏み込む。

 

「でも……進捗とちゃんと相談することね」

 

淡々とした声音。だが、その奥にははっきりとした圧があった。

 

「このままじゃ、予算は降りないわよ」

 

「えぇー!?」

 

モモイの悲鳴が部屋に響く。

ミドリとユズも小さく肩をすくめ、アリスは状況を理解しきれずにおろおろしている。

 

「当たり前じゃない!」

 

ユウカは腕を組み直し、四人を順に見渡す。

 

「いつも言ってるけど、ミレニアムは“能力主義”よ」

 

その言葉は、何度も聞かされてきたはずのもの。

それでも改めて突きつけられると、逃げ場はどこにもない。

 

「前回のミレニアムプライス以降、目に見える成果は何もないじゃない!」

 

ぐうの音も出ない正論。

 

「う、うぅ……」

 

「ずっとこのままじゃ、セミナーとして予算は出せないわ」

 

モモイが小さくうめき声を漏らし、肩を落とす。

さっきまでの勢いはすっかり消え、カードを握る手も力なく垂れ下がっていた。

 

その様子を見ていたアリスが、そっと一歩前に出る。

 

「ユウカ……モモイは悪くないんです……アリスが、やろうって言い出したので……」

 

しょんぼりとした表情のまま、アリスは顔を上げる。

普段は無機質にすら見えるその瞳が、今はわずかに揺れていた。

 

「モモイじゃなくて、アリスを叱ってください。アリスの責任なんです!」

 

ぎゅっと拳を握りしめ、まっすぐに言い切る。

その声は小さいのに、不思議と芯が通っていた。

 

ほんの少しだけ、アリスの目元が潤む。

 

そのまま、じっとユウカを見つめる視線。

逃げ場を許さないようでいて、どこか縋るようでもある。

 

「あ、いや……!」

 

思わずユウカの声が裏返る。

 

「べ、別にデュエマをやるなって言ってるわけじゃないのよ?」

 

慌てて手を振る。

さっきまでの厳しい態度はどこへやら、明らかに調子が狂っている。

 

「その……ゲーム開発も、調査も……ちゃんとバランスよくやるなら、構わないから!」

 

必死に言葉を選びながら続ける。

叱るはずだった立場が、気づけばフォローに回っていた。

 

アリスはその言葉を聞いて、ほんの少しだけ目を瞬かせる。

 

 

 

——と、その時。

 

「……あれ?」

 

ミドリが、ふと小さく首をかしげた。

 

視線はユウカから外れ、床に広がるカードへ、そしてもう一度ユウカへと戻る。

何か引っかかるような、そんな曖昧な違和感。

 

「ねぇ、お姉ちゃん」

 

声を潜めて、隣のモモイにそっと耳打ちする。

 

「なに?」

 

モモイはまだ安堵の空気を引きずったまま、気の抜けた返事を返した。

 

「私たちさ……ユウカがいる前で、一回でも『デュエマ』って言ったっけ?」

 

「え?」

 

モモイの眉がぴくりと動く。

 

なんでそんなことを?とでも言いたげに、ミドリの方へ顔を向けた。

だがミドリは、少しだけ真面目な顔をしている。

 

「さっきさ、ユウカが“デュエマ”って言ったんだよね」

 

ぽつり、と確認するように続ける。

 

「それが何かあるの?」

 

まだピンと来ていない様子のモモイ。

 

ミドリは一瞬だけ言葉を選び、そして小さく息を吐いた。

 

「カードゲームってさ、いっぱいあるじゃん。遊☆王とか、ポ○カとか」

 

指先で床のカードを軽くつつきながら続ける。

 

「ユウカって、こういうのあんまり興味なさそうなのに……なんで“デュエマ”だって分かったんだろうって」

 

その言葉に、モモイの表情がゆっくりと変わっていく。

さっきまでの気の抜けた顔が、じわじわと“気づき”に染まっていく。

 

「……あ」

 

モモイの中で、点と点がゆっくりと繋がっていく。

 

「ねぇミドリ……」

 

モモイはミドリへ耳打ちをする。

 

 

 

「大分リスキーだけど…部費のため…やるしかないね…」

 

「連絡の方は頼んだよ。じゃ…」

 

そして次の瞬間、ぱっと顔を上げた。

 

「ユウカ!ちょっといい!?」

 

勢いよく一歩踏み出す。その目は、さっきまでとは違う意味で輝いていた。

 

「……何よ」

 

嫌な予感しかしない、と言いたげにユウカが眉をひそめる。

 

「勝負しようよ、デュエマで!」

 

「は?」

 

唐突すぎる提案に、ユウカの思考が一瞬止まる。

 

モモイは構わず続けた。

 

「ただの勝負じゃないよ。私が勝ったら、今月の部費はいつも通り!でも、私が負けたら今月の部費はいらない!」

 

場の空気が一変する。

 

「ちょ、ちょっとモモイ……それは……」

 

ユズは慌ててモモイを止めた。

 

「いいの!どうせこのままじゃ減らされるんでしょ!?だったら賭けた方がマシ!」

 

言い切るその姿は、どこか開き直りにも似ていたが、同時に本気だった。

ユウカは一瞬だけ言葉を失い、それから小さくため息をつく。

 

「……話にならないわ。そもそも私、そんなカードゲームやったことないもの」

 

面倒な話になりそうだと、嘘をついてまできっぱりと切り捨てる。

 

 

——だが。

 

「それは嘘です」

 

静かに、ミドリが口を開いた。

いつの間にかスマホを手にしていて、その画面をすっとユウカの前に差し出す。

 

「先生に聞いてみたら、こう返ってきました」

 

そこには、モモトークの画面。

 

『この前ユウカにデュエマ教えたんだ~結構スジ良いから、皆も相手してみて!』

 

短い一文が、逃げ道を完全に塞いでいた。

 

「なっ……!?」

 

ユウカの目が見開かれる。

 

「ちょっとミドリ!?なんでそんなことまで——」

 

「念のため、です」

 

さらりと言い切るミドリ。その表情はどこか楽しげですらあった。

逃げ場は、もう無い。

 

その空気を察したのか、アリスも一歩前に出る。

 

「ユウカ……お願いします」

 

小さく、しかしはっきりとした声。

まっすぐな瞳。さっきのような涙こそないが、その分だけ強い意志が宿っている。

 

「で、でも、私今デッキ持ってないし…」

 

「アリスのを貸します!」

 

ユズももうどうにでもなれ、と三人と同じようにユウカを見る。

ユウカは何も言わず、四人の顔を順に見る。

 

静かな時間が、ほんの数秒だけ流れた。

 

やがて——

 

「……はぁ」

 

深いため息。

観念したように、肩の力を抜く。

 

「分かったわよ……やればいいんでしょ、やれば」

 

「ほんとに!?」

 

モモイの顔が一気に明るくなる。

 

「ただし...」

 

「やったー!!」

 

前置きを言う前に、モモイの歓声が部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「「デュエマ!スタート!!」」

 

 

 

 

 

 

 

先行 モモイ マナ4 シールド5 場:≪ヤッタレマン≫ ≪パーリ騎士≫

後攻 ユウカ マナ3 シールド5 場:≪刀の3号 カツえもん≫

 

 

 

ヤッタレマン コスト2 パワー2000 ジョーカーズ 無色

・自分のジョーカーズの召喚コストを1下げてもよい。ただしコストは0以下にならない。

 

パーリ騎士 コスト3 パワー2000 ジョーカーズ 無色

・バトルゾーンに出た時、自分の墓地からカードを1枚マナゾーンへ置いても良い。

 

 

刀の3号 カツえもん コスト3 パワー5000 メガ・ドラゴン/革命軍/ハムカツ団 火・自然

・革命チェンジ:火または自然のクリーチャーが攻撃する時、手札にあるこのクリーチャーと入れ替えてもよい。

・このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手の「ブロッカー」を持つクリーチャーを一体マナゾーンへ置く。

 

 

モモイ ターン4

 

(フッフッフ……ユウカは最近デュエマを始めたばかり……それにそのデッキ、アリスには悪いけど完成度はそこまで高くない……!これなら——いける!)

 

モモイは口元を緩めながら、ちらりとユウカの様子をうかがう。

対するユウカは冷静を装っているが、その視線は場と手札の間を忙しなく行き来していた。

 

 

「ドロー!」

 

勢いよくカードを引く。

その動きには迷いがなく、すでに勝ち筋が見えているかのようだった。

 

「まずはマナチャージ!そして——ヤッタレマンの効果で1軽減、もう1体ヤッタレマンを召喚!」

 

軽やかな手つきでカードが置かれる。

無色のクリーチャーが並び、盤面がじわじわと圧を増していく。

 

(また軽減クリーチャー……でも、まだ2体……)

 

ユウカは内心で状況を整理する。

 

(数が増えれば厄介だけど、まだ制御できる範囲……それに手札の消費もそれなりに激しいはず……!)

 

そう自分に言い聞かせるように、かろうじて余裕を保つ。

だがモモイの手は止まらなかった。

 

「さらにいくよ!呪文、《ゼロの裏技 ニヤリー・ゲット》!!」

 

 

ゼロの裏技 ニヤリー・ゲット コスト4 呪文 水

(グラビティ)・ゼロ 自分の場に無色クリーチャー

・自分の山札の上から3枚を表向きにする。その後、その中から無色カードを全て手札に加え、残りを好きな順序で山札の下に置く。

 

 

「ちょっと!マナゾーンに水文明のカードが無いじゃない!それは使えないんじゃない?」

 

モモイはチッチッと指を振る。

 

(グラビティ)・ゼロって能力の条件を満たすとね…コストを払わずにカードをプレイできるんだ!」

 

「ええっ!?」

 

ユウカが驚いている間にモモイは山札の上から3枚を見せる。

 

「じゃーん!全部無色だから、全部回収!!」

 

一気に増える手札。

その光景は、さっきまでの“手札消費が激しい”という読みを、あっさりと覆していた。

 

「1コストで《パーリ騎士》を召喚!効果でさっき使ったニヤリー・ゲットをマナに置いて……さらに1コスト!《ツタンカーネン》!」

 

 

ツタンカーネン コスト3 パワー1000 ジョーカーズ 無色

・バトルゾーンに出た時、カードを1枚引く。

 

 

「効果で1枚ドロー!」

 

引いたカードを見た瞬間、モモイの口元がにやりと歪む。

嫌な予感が、はっきりとした形を持つ。

 

「まさか…!」

 

「ご名答!《ゼロの裏技 ニヤリー・ゲット》!」

 

「また!?」

 

ユウカの声に焦りが混じる。

 

先ほどまでの余裕は、もうどこにもなかった。

盤面には次々とクリーチャーが並び、それに比例するように手札も減らないどころか増えている。

 

「はいはい来ましたー!また全部無色だから——全回収!!」

 

無邪気な声。

だがその内容は、確実に盤面を押し潰しにかかっている。

 

(まずい……!!)

 

ユウカの思考が加速する。

しかし、それを上回る速度でモモイの展開が進んでいく。

 

「1コストで《ヤッタレマン》追加!これで場のジョーカーズは5体!」

 

ぴたり、と一瞬だけ手が止まり——

次の瞬間、勢いよくカードが叩きつけられた。

 

「能力で2コストになったのを軽減で1コスト!《ガンバトラーG7(グレイトセブン)》を召喚だぁ!」

 

 

ガンバトラーG7(グレイトセブン) コスト7 パワー7000+ ジョーカーズ 無色

・自分のジョーカーズが4体以上バトルゾーンへいるなら、このクリーチャーの召喚コストは2になる。

・W・ブレイカー

・このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、このターン、自分のクリーチャー1体のパワーを+7000する。

・自分のジョーカーズはバトルゾーンに出たターン、相手プレイヤーを攻撃できる。

 

 

「ガンバトラーG7(グレイトセブン)の効果でヤッタレマンのパワーを上げる!さらに——!」

 

モモイは勢いそのままに、もう一枚のカードを掲げた。

 

「呪文!《ジョジョジョ・マキシマム》!!」

 

 

ジョジョジョ・マキシマム コスト9 呪文 ジョーカーズ 無色

(グラビティ)・ゼロ 自分のマナと場のジョーカーズが合計11枚以上

・自分のクリーチャーを1体選ぶ。このターン、そのクリーチャーは自分のクリーチャーの分だけ追加でシールドをブレイクし、そのクリーチャーの攻撃中、相手は呪文を唱えられない。

 

 

「また(グラビティ)・ゼロ……!?って何その効果……!?」

 

思わず声が漏れる。

だが、その疑問に丁寧に答えてくれるような流れではなかった。

 

「指定はパワーを上げたヤッタレマン!そのままヤッタレマンでシールドを攻撃だぁ!」

 

勢いそのままに振り下ろされる攻撃。

シールドが、まるで紙のように軽々と砕けていく。

 

「ジョジョジョ・マキシマムの効果で、呪文は使えないよ!!」

 

追い打ちの一言。

 

ユウカの手が止まる。

めくれたカードの中に“(シールド)・トリガー”の文字が見えた——だが、それは呪文。

 

使えない。

 

その事実が、じわじわと重くのしかかる。

 

一枚、また一枚と手札に加えながら、ユウカの思考は急速に冷えていく。

 

(……無理ね)

 

盤面に並ぶ圧倒的な数のクリーチャー。

それに対して、自分の場はあまりにも心許ない。

 

(仮に(シールド)・トリガーが来たとしても……この物量は……)

 

ほとんど、諦めかけた——その時。

 

「ユウカ!最後まで諦めてはいけません!」

 

横から、強い声が飛ぶ。

 

はっとして顔を上げると、アリスがまっすぐこちらを見ていた。

 

「勇者たるもの!最後まで諦めてはいけないんです!諦めたら、そこで終わりなんです!」

 

「ちょっとアリス?どっちの味方?」

 

思わずモモイがツッコミを入れるが、アリスは真剣そのものだった。

 

その言葉が、ユウカの胸に静かに刺さる。

 

(……そうよ)

 

一瞬でも諦めようとした自分を、内心で叱る。

 

(最後まで……分からない!)

 

残る最後のシールドへと手を伸ばす。

指先にはもう迷いは無かった。

 

「来た……!」

 

確信にも似た声とともに、カードを叩きつけた。

 

(シールド)・トリガー!《光鎧龍 ホーリーグレイス》!!」

 

光鎧龍 ホーリーグレイス コスト6 パワー6500 アーマード・アポロニア・ドラゴン 光

(シールド)・トリガー

・W・ブレイカー

・このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手のクリーチャーを全てタップする。

・このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、このターン中に自分のシールドが2枚以上ブレイクされていなかったらこのクリーチャーを破壊する。

 

 

「効果で相手のクリーチャーを全てタップよ!」

 

「げぇっ!」

 

決めきれると思っていたのだろう。

モモイの額に一滴の汗が流れる。

 

(でも…このクリーチャーの軍隊を全て倒すなんて無理なはず!私の勝ちは揺るがない!)

 

「ターンエンドだよ」

 

悔しみつつもターンを渡す。

 

 

 

ユウカ ターン4

 

「ドロー!」

 

静まり返った空気の中でカードを引き、そのまま手札へと視線を落とす。並んだカードはどれも噛み合いが悪く、綺麗な動きにはほど遠い。だが、さっきまで胸をよぎっていた諦めの気持ちは、もうどこにもなかった。

 

(……ここで投げたら終わりよ。最後までやるって決めたんだから……!)

 

小さく息を整え、ユウカはゆっくりと顔を上げる。

 

「マナをチャージ。それから3コストで《バスター・チャージャー》を唱えるわ!」

 

迷いを振り払うようにカードを叩きつける。

 

 

バスター・チャージャー コスト3 呪文 火・自然

・このターン、自分のクリーチャー1体のパワーは+5000され、シールドをさらに1つブレイクする。

・チャージャー(この呪文を唱えた後、このカードを墓地に置く代わりにマナゾーンへ置く)

 

 

「効果でカツえもんを指定するわ!そして…次はこれね!」

 

カードを1枚場へと出す。

 

「相手のクリーチャーの数だけコストを軽減して……1コスト!《メガ・マグマ・ドラゴン》を召喚!」

 

重々しい存在感とともに現れた巨大なドラゴンに、場の空気が一気に張り詰める。

 

 

メガ・マグマ・ドラゴン コスト8 パワー8000 メガ・コマンド・ドラゴン 火

・このクリーチャーの召喚コストを、相手のバトルゾーンにあるクリーチャーの数だけ少なくする。ただしコストは0以下にならない。

・このクリーチャーがバトルゾーンに出たとき、パワー5000以下のクリーチャーを全て破壊する。

 

 

「やばっ!メガマグマ!?」

 

モモイの声に明らかな動揺が混じる。その反応を見逃さず、ユウカは間髪入れずに続けた。

 

「効果で、パワー5000以下のクリーチャーをすべて破壊よ!」

 

指先がまっすぐモモイの盤面を示す。その瞬間、並んでいた小型クリーチャーたちがまとめて吹き飛び、場には《ガンバトラーG7(グレイトセブン)》だけがぽつりと残った。

 

 

間を置かず、ユウカは次の行動へ移る。

 

「カツえもんでガンバトラーG7(グレイトセブン)を攻撃!」

 

鋭く振り抜かれた一撃が、最後の抵抗をも断ち切る。最後に残ったクリーチャーもなすすべもなく倒れ、モモイのバトルゾーンから完全にカードが消えた。

 

「何とか凌ぎきったわ…ターンエンドよ!」

 

 

モモイ ターン5

 

「やばいやばい……」

 

口では焦ったようなことを言いながらも、その手つきにはまるで迷いがない。カードを引いた瞬間、モモイの口元がゆっくりと吊り上がる。

 

「なーんてね!5コストで《チョートッQ》を召喚!」

 

 

チョートッQ 5コスト パワー5000+ ジョーカーズ 無色

・このクリーチャーはバトルゾーンに出たターン、相手プレイヤーを攻撃できる。

・このクリーチャーは可能なら毎ターン、相手プレイヤーを攻撃する。

・自分の場またはマナにジョーカーズが2枚以上あるなら、このクリーチャーのパワーを+3000し「W・ブレイカー」を与える。

 

 

勢いよく叩きつけられたカードが、空気を切り裂くように場へと現れる。直後、その効果を誇るように胸を張った。

 

「《チョートッQ》は召喚酔いしない!そのままダイレクトアタックだ!!」

 

一直線にユウカを指差すモモイ。その宣言と同時に、勝利を確信したような笑みが広がる。

 

(やった~!!これで部費ゲットだ~!)

 

あと一歩。ほんのわずか手を伸ばせば届く勝利――そのはずだった。

だが、その瞬間。

 

「革命(ゼロ)トリガー、《革命の鉄拳》を発動よ!」

 

 

革命の鉄拳 コスト3 呪文 火

・革命(ゼロ)トリガー:クリーチャーが自分を攻撃する時、自分のシールドが1枚もなければ、この呪文をコストを支払わずに唱えてもよい。

・自分の山札の上から4枚を表向きにし、その中から火のクリーチャーを1体選ぶ。そのクリーチャー以下のパワーを持つ相手のクリーチャーを1体破壊する。

・この呪文を唱えた後、墓地に置くかわりに山札に加えてシャッフルする。

 

 

鋭く、迷いのない声が空気を切り裂く。

 

「革命(ゼロ)トリガー!?」

 

モモイの表情が一瞬で固まる。

 

ユウカは一枚のカードを高く掲げ、そのまま山札へと手を伸ばした。迷いなく四枚をめくる。その動きは、確かな手応えを掴んだ者のそれだった。

 

「《メガ・マグマ・ドラゴン》を選ぶわ!《チョートッQ》を破壊!」

 

「ええええっ!?」

 

間の抜けた声が部屋に響く。

 

あと一歩だったはずの勝利が、目の前で音もなく崩れ落ちていく。その現実を受け止めきれず、モモイは呆然と立ち尽くすしかなかった。

 

対してユウカは、カードを山札へと戻しながら、まっすぐ前を見据える。

その瞳には、もう迷いは残っていなかった。

 

 

「タ、ターンエンド…」

 

 

 

ユウカ ターン5

 

「ドロー!」

 

勢いよくカードを引き抜いたその瞬間、空気がわずかに変わる。手札へ加えた一枚を見たユウカの表情が、ほんの少しだけ強くなるのを、隣にいたアリスは見逃さなかった。

 

「ユウカ!そのカードはこのデッキの切り札です!このターンで一気に行きましょう!」

 

目を輝かせながら身を乗り出すアリス。その無邪気な応援に、すかさずモモイがツッコミを入れる。

 

「だからアリス!どっちの味方なの!?」

 

場の空気が一瞬だけ緩む。だが、ユウカはそのまま静かにカードを前へ出した。

 

「5コストで《(おとこ)の二号 ボスカツ(バスター)》を召喚!」

 

 

(おとこ)の二号 ボスカツ(バスター) 5コスト パワー5000 メガ・ドラゴン/革命軍/ハムカツ団 火・自然

・スピードアタッカー

・このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手のパワー2000以下のクリーチャーを1体破壊する。

 

 

「ボスカツ(バスター)で攻撃する時!」

 

ユウカは手札から別のカードを抜き取り、そのまま場へと出す。

 

「《蒼き団長 ドギラゴン(バスター)》に革命チェンジよ!」

 

 

蒼き団長 ドギラゴン(バスター) 8コスト パワー13000 メガ・コマンド・ドラゴン/革命軍/ハムカツ団 火・自然

・革命チェンジ:火または自然のコスト5以上のドラゴンが攻撃する時、手札にあるこのカードと入れ替えても良い。

・T・ブレイカー

・自分の多色クリーチャーすべてに「スピードアタッカー」を与える。

・ファイナル革命:このクリーチャーが「革命チェンジ」によって出た時、そのターン中に他の「ファイナル革命」をまだ使っていなければ、コストの合計が6以下になるよう、進化ではない多色クリーチャーを好きな数、自分のマナゾーンまたは手札から選び、出す。

 

 

「バスター!?」

 

「ファイナル革命発動!その効果でさっきの《(おとこ)の二号 ボスカツ(バスター)》をもう一度バトルゾーンへ!」

 

シールドの数は違えど、盤面の数は逆転した。

 

「ドギラゴン(バスター)でシールドに攻撃!」

 

重い一撃とともに、3枚のシールドが砕け散る。

 

「なんか(シールド)・トリガー来て...!」

 

祈るようにカードをめくるモモイ。だが、何も起きない。

そのわずかな間を逃さず、ユウカは追撃に移る。

 

「続けて《メガ・マグマ・ドラゴン》で攻撃!」

 

残っていたシールドが、乾いた音を立ててすべて崩れ落ちる。

破片のように手札へと収まっていくカードたちを見つめながら、モモイはぎりぎりのところで踏みとどまっていた。

 

盤面も、シールドも――完全にひっくり返された状況。

それでも、まだ終わっていない。

 

「来た!(シールド)・トリガー!《バイナラドア》2枚!」

 

 

バイナラドア 8コスト パワー2000 ジョーカーズ 無色

(シールド)・トリガー

・このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、バトルゾーンまたはマナゾーンに自分のジョーカーズが合計3枚以上あれば、相手のクリーチャーを1体選び、相手はそれを自身の山札の一番下に置く。その後、自分はカードを1枚引く。

 

 

希望にすがるように、二枚のカードを一気に叩きつける。

同時に現れたクリーチャーたちが、最後の抵抗として場に立ち上がる。

 

 

「効果で……!」

 

モモイは勢いよく盤面を見渡す。

だが、その視線は途中でぴたりと止まった。

 

「あっ……」

 

声が、わずかにかすれる。

 

アンタップしているのは、《ボスカツ(バスター)》《カツえもん》、そして《ホーリーグレイス》の3体。

二体を戻すことはできる。だが――

 

(一体残る……!)

 

その事実が、はっきりと理解できてしまった。

 

「……ボスカツ(バスター)とホーリーグレイスを山札の下に……」

 

力なく処理を終えるモモイ。

静かに残ったのは、ただ一体。

 

その姿を見据えながら、ユウカは一歩も引かずに言い切る。

 

「《刀の3号 カツえもん》で、ダイレクトアタック!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウカぁぁぁ……お許しをぉぉ……!」

 

立ち上がろうとしたその瞬間、モモイが慌ててしがみついてくる。腕に絡みつくその必死さに、ユウカは一瞬だけ動きを止めた。

 

「はぁ……」

 

深く息を吐く。さっきまでの勝負の熱気とは別の、どこか呆れたような空気がその場に落ちる。

 

「別に、今すぐ部費を無くすわけじゃないわよ」

 

ぽつりと落とされたその一言に、場の空気が固まる。

四人の表情が、一斉に同じものへと変わった。

 

「えっ?」

 

間の抜けた声が重なる。

ユウカは軽く肩をすくめ、視線だけで全員を見渡した。

 

「確かに私は勝負には勝った。でもね、その賭けをそのまま適用するかどうかは、別の話よ」

 

言葉を選びながらも、その口調にははっきりとした芯がある。

 

「ちゃんと調査して、ちゃんとゲームを作って、ちゃんと結果を出す。それができるなら、私は何も文句は言わないわ」

 

その言葉の意味を理解するのに、ほんの数秒。

四人はぽかんとしたまま、ただユウカを見つめることしかできなかった。

 

その視線を受け流すように、ユウカはゆっくりと立ち上がる。

 

「ただし!」

 

ぴたり、と足を止めて振り返る。

その一言だけで、空気が一気に引き締まった。

 

「今度という今度は、ちゃんと作ること。中途半端は許さないわ。いいわね?」

 

一切の妥協を許さない声音。

 

だがその奥に、ほんのわずかな期待が混じっていることに、全員が気づいていた。

 

「「「「はい!」」」」

 

今度は揃って、力強い返事が返ってくる。

その声を背中で受けながら、ユウカは小さく息をつき――そのまま部室を後にした。




本日のキーカード
蒼き団長 ドギラゴン(バスター) 8コスト パワー13000 メガ・コマンド・ドラゴン/革命軍/ハムカツ団 火・自然
・革命チェンジ:火または自然のコスト5以上のドラゴンが攻撃する時、手札にあるこのカードと入れ替えても良い。
・T・ブレイカー
・自分の多色クリーチャーすべてに「スピードアタッカー」を与える。
・ファイナル革命:このクリーチャーが「革命チェンジ」によって出た時、そのターン中に他の「ファイナル革命」をまだ使っていなければ、コストの合計が6以下になるよう、進化ではない多色クリーチャーを好きな数、自分のマナゾーンまたは手札から選び、出す。


「改めて見るとかなり強いね…」

「先生が言ってたけどこれ4枚使えた時代って…」

「うう…想像するだけで怖いね…」

「1枚だけしか使えなくてもアリスのデッキの切り札です!」
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