青い扉の前で足を止め、ユウカは軽く拳を当てた。
コンコン、と規則正しい音が廊下に響く。
しかし――返事はない。
わずかに眉をひそめる。
静まり返っているわけではない。むしろその逆で、ドアの向こうからははっきりと複数人の声が聞こえてきていた。
しかも、やけに賑やかで、どこか騒がしい。
聞き慣れているはずのその空気に、ユウカは半ば確信めいたものを覚える。
(……気づいてないのかしら)
呆れたように小さく息をつき、ドアノブに手をかけた。
「開けるわよ~」
いつも通りの調子で声をかけ、そのまま扉を押し開ける。
ゆっくりと開いた隙間から、部屋の中の光景が流れ込んできた。
まず目に入ったのは、カーペットいっぱいに広げられたカードの山。
その周囲に座り込み、完全に没頭している四人の姿。
「ヤッタレマンで攻撃!」
「くっ……あっ!来ました!
向かい合っているのは、アリスとモモイ。
その横で、ユズとミドリがそれぞれの様子を見守っている。
「ちょっとお姉ちゃん、なんで今攻撃したの?」
「え?攻撃しなきゃ勝てないじゃん!」
「いや、今のは——」
やいのやいのと、議論まで始まっている。
(……はぁ)
誰一人としてこちらに気づく様子はない。
カードに向けられた視線は真剣そのもので、声色には一切の余裕が無かった。
「はぁ……」
わざとらしく、少し大きめにため息を落とす。
その音が、ようやく場の空気にひびを入れた。
「ちょっと、そんな溜息つかなくていいじゃんミドリ!」
「わ、私じゃないよ!」
ミドリが即座に否定する。
その言葉に、残りの三人の視線が一斉にモモイ——ではなく、自分へと流れた。
三人は、ほぼ同時に気づいたようだったが、まだ一人だけ、状況を飲み込めていない。
「えっ、じゃあ今の誰の……?」
モモイはきょとんとしたまま首をかしげ、ゆっくりと顔を上げる。
そして——
視界に入った人物を認識した瞬間、ぴたりと動きが止まった。
空気が一瞬だけ凍りつく。
次の瞬間。
「うわあっ!!ユ、ユウカ!?いつからいたの!?」
部屋中に響く大声。
その慌てぶりとは対照的に、ユウカは腕を組んだまま、静かに四人を見下ろしていた。
「あなたが『ヤッタレマンで攻撃!』とか言ってる時からよ」
「ノックくらいしてよ!」
「ちゃんとしたわよ!」
間髪入れずに返す。
このやり取りも、もはや何度目か分からない。
互いに慣れきった、半ば様式美のような応酬だった。
「私達、何も悪いことはしてないよ!」
少しだけ声を張るモモイ。
だがその言葉には、どこか後ろめたさが混じっている。
「今作ってるゲームの進捗が芳しくないって聞いてね」
「えっ!」
ユウカは一歩、部屋の中へと踏み込む。
散らばったカード、開きっぱなしの資料、そしてゲーム機器。
一通りを視線でなぞってから——
「どのくらい進んだのか、見に来たのよ」
その一言で、場の空気が一気に変わる。
後ろで四人が小さく集まり、ひそひそと話し始めた。
「ちょっと……!誰かユウカに話したの!?」
「そんな事してないよ……!」
「私も言ってない……」
「アリスは先生に話しただけです……!」
その一言で、空気がぴたりと止まる。
三人の視線が、ゆっくりとアリスへ集まる。
「アリス?」
「先生に最近どう?って聞かれたので答えただけです!他の人には話してません!」
三人の視線に慌てて弁明するアリス。
「「「……」」」
沈黙が訪れる。
そして——
モモイは、ゆっくりとユウカの方へ向き直る。
「あの~……ちなみに誰から聞いたとか……」
恐る恐る、探るような声。
だが。
「そんなのは今関係無いわ」
あっさりと切り捨てられるその一言に、場の空気がぴんと張り詰めた。
「くっ……今作ってるのが、カードゲームとローグライクを合体させたようなやつで……その、参考になるかなーってやってただけだから!」
モモイが早口でまくし立てる。
言い訳と説明が入り混じったその言葉は、どこか必死で、どこか後ろめたい。
床に広げられたカードの山が、その“参考”の度合いを雄弁に物語っていた。
ユウカは一瞬だけ視線を落とし、散らばったカードや機材を見渡す。
そして、ほんのわずかに息をついた。
「それ自体は構わないわ」
一歩、ゆっくりと踏み込む。
「でも……進捗とちゃんと相談することね」
淡々とした声音。だが、その奥にははっきりとした圧があった。
「このままじゃ、予算は降りないわよ」
「えぇー!?」
モモイの悲鳴が部屋に響く。
ミドリとユズも小さく肩をすくめ、アリスは状況を理解しきれずにおろおろしている。
「当たり前じゃない!」
ユウカは腕を組み直し、四人を順に見渡す。
「いつも言ってるけど、ミレニアムは“能力主義”よ」
その言葉は、何度も聞かされてきたはずのもの。
それでも改めて突きつけられると、逃げ場はどこにもない。
「前回のミレニアムプライス以降、目に見える成果は何もないじゃない!」
ぐうの音も出ない正論。
「う、うぅ……」
「ずっとこのままじゃ、セミナーとして予算は出せないわ」
モモイが小さくうめき声を漏らし、肩を落とす。
さっきまでの勢いはすっかり消え、カードを握る手も力なく垂れ下がっていた。
その様子を見ていたアリスが、そっと一歩前に出る。
「ユウカ……モモイは悪くないんです……アリスが、やろうって言い出したので……」
しょんぼりとした表情のまま、アリスは顔を上げる。
普段は無機質にすら見えるその瞳が、今はわずかに揺れていた。
「モモイじゃなくて、アリスを叱ってください。アリスの責任なんです!」
ぎゅっと拳を握りしめ、まっすぐに言い切る。
その声は小さいのに、不思議と芯が通っていた。
ほんの少しだけ、アリスの目元が潤む。
そのまま、じっとユウカを見つめる視線。
逃げ場を許さないようでいて、どこか縋るようでもある。
「あ、いや……!」
思わずユウカの声が裏返る。
「べ、別にデュエマをやるなって言ってるわけじゃないのよ?」
慌てて手を振る。
さっきまでの厳しい態度はどこへやら、明らかに調子が狂っている。
「その……ゲーム開発も、調査も……ちゃんとバランスよくやるなら、構わないから!」
必死に言葉を選びながら続ける。
叱るはずだった立場が、気づけばフォローに回っていた。
アリスはその言葉を聞いて、ほんの少しだけ目を瞬かせる。
——と、その時。
「……あれ?」
ミドリが、ふと小さく首をかしげた。
視線はユウカから外れ、床に広がるカードへ、そしてもう一度ユウカへと戻る。
何か引っかかるような、そんな曖昧な違和感。
「ねぇ、お姉ちゃん」
声を潜めて、隣のモモイにそっと耳打ちする。
「なに?」
モモイはまだ安堵の空気を引きずったまま、気の抜けた返事を返した。
「私たちさ……ユウカがいる前で、一回でも『デュエマ』って言ったっけ?」
「え?」
モモイの眉がぴくりと動く。
なんでそんなことを?とでも言いたげに、ミドリの方へ顔を向けた。
だがミドリは、少しだけ真面目な顔をしている。
「さっきさ、ユウカが“デュエマ”って言ったんだよね」
ぽつり、と確認するように続ける。
「それが何かあるの?」
まだピンと来ていない様子のモモイ。
ミドリは一瞬だけ言葉を選び、そして小さく息を吐いた。
「カードゲームってさ、いっぱいあるじゃん。遊☆王とか、ポ○カとか」
指先で床のカードを軽くつつきながら続ける。
「ユウカって、こういうのあんまり興味なさそうなのに……なんで“デュエマ”だって分かったんだろうって」
その言葉に、モモイの表情がゆっくりと変わっていく。
さっきまでの気の抜けた顔が、じわじわと“気づき”に染まっていく。
「……あ」
モモイの中で、点と点がゆっくりと繋がっていく。
「ねぇミドリ……」
モモイはミドリへ耳打ちをする。
「大分リスキーだけど…部費のため…やるしかないね…」
「連絡の方は頼んだよ。じゃ…」
そして次の瞬間、ぱっと顔を上げた。
「ユウカ!ちょっといい!?」
勢いよく一歩踏み出す。その目は、さっきまでとは違う意味で輝いていた。
「……何よ」
嫌な予感しかしない、と言いたげにユウカが眉をひそめる。
「勝負しようよ、デュエマで!」
「は?」
唐突すぎる提案に、ユウカの思考が一瞬止まる。
モモイは構わず続けた。
「ただの勝負じゃないよ。私が勝ったら、今月の部費はいつも通り!でも、私が負けたら今月の部費はいらない!」
場の空気が一変する。
「ちょ、ちょっとモモイ……それは……」
ユズは慌ててモモイを止めた。
「いいの!どうせこのままじゃ減らされるんでしょ!?だったら賭けた方がマシ!」
言い切るその姿は、どこか開き直りにも似ていたが、同時に本気だった。
ユウカは一瞬だけ言葉を失い、それから小さくため息をつく。
「……話にならないわ。そもそも私、そんなカードゲームやったことないもの」
面倒な話になりそうだと、嘘をついてまできっぱりと切り捨てる。
——だが。
「それは嘘です」
静かに、ミドリが口を開いた。
いつの間にかスマホを手にしていて、その画面をすっとユウカの前に差し出す。
「先生に聞いてみたら、こう返ってきました」
そこには、モモトークの画面。
『この前ユウカにデュエマ教えたんだ~結構スジ良いから、皆も相手してみて!』
短い一文が、逃げ道を完全に塞いでいた。
「なっ……!?」
ユウカの目が見開かれる。
「ちょっとミドリ!?なんでそんなことまで——」
「念のため、です」
さらりと言い切るミドリ。その表情はどこか楽しげですらあった。
逃げ場は、もう無い。
その空気を察したのか、アリスも一歩前に出る。
「ユウカ……お願いします」
小さく、しかしはっきりとした声。
まっすぐな瞳。さっきのような涙こそないが、その分だけ強い意志が宿っている。
「で、でも、私今デッキ持ってないし…」
「アリスのを貸します!」
ユズももうどうにでもなれ、と三人と同じようにユウカを見る。
ユウカは何も言わず、四人の顔を順に見る。
静かな時間が、ほんの数秒だけ流れた。
やがて——
「……はぁ」
深いため息。
観念したように、肩の力を抜く。
「分かったわよ……やればいいんでしょ、やれば」
「ほんとに!?」
モモイの顔が一気に明るくなる。
「ただし...」
「やったー!!」
前置きを言う前に、モモイの歓声が部屋に響いた。
「「デュエマ!スタート!!」」
先行 モモイ マナ4 シールド5 場:≪ヤッタレマン≫ ≪パーリ騎士≫
後攻 ユウカ マナ3 シールド5 場:≪刀の3号 カツえもん≫
ヤッタレマン コスト2 パワー2000 ジョーカーズ 無色
・自分のジョーカーズの召喚コストを1下げてもよい。ただしコストは0以下にならない。
パーリ騎士 コスト3 パワー2000 ジョーカーズ 無色
・バトルゾーンに出た時、自分の墓地からカードを1枚マナゾーンへ置いても良い。
刀の3号 カツえもん コスト3 パワー5000 メガ・ドラゴン/革命軍/ハムカツ団 火・自然
・革命チェンジ:火または自然のクリーチャーが攻撃する時、手札にあるこのクリーチャーと入れ替えてもよい。
・このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手の「ブロッカー」を持つクリーチャーを一体マナゾーンへ置く。
モモイ ターン4
(フッフッフ……ユウカは最近デュエマを始めたばかり……それにそのデッキ、アリスには悪いけど完成度はそこまで高くない……!これなら——いける!)
モモイは口元を緩めながら、ちらりとユウカの様子をうかがう。
対するユウカは冷静を装っているが、その視線は場と手札の間を忙しなく行き来していた。
「ドロー!」
勢いよくカードを引く。
その動きには迷いがなく、すでに勝ち筋が見えているかのようだった。
「まずはマナチャージ!そして——ヤッタレマンの効果で1軽減、もう1体ヤッタレマンを召喚!」
軽やかな手つきでカードが置かれる。
無色のクリーチャーが並び、盤面がじわじわと圧を増していく。
(また軽減クリーチャー……でも、まだ2体……)
ユウカは内心で状況を整理する。
(数が増えれば厄介だけど、まだ制御できる範囲……それに手札の消費もそれなりに激しいはず……!)
そう自分に言い聞かせるように、かろうじて余裕を保つ。
だがモモイの手は止まらなかった。
「さらにいくよ!呪文、《ゼロの裏技 ニヤリー・ゲット》!!」
ゼロの裏技 ニヤリー・ゲット コスト4 呪文 水
・
・自分の山札の上から3枚を表向きにする。その後、その中から無色カードを全て手札に加え、残りを好きな順序で山札の下に置く。
「ちょっと!マナゾーンに水文明のカードが無いじゃない!それは使えないんじゃない?」
モモイはチッチッと指を振る。
「
「ええっ!?」
ユウカが驚いている間にモモイは山札の上から3枚を見せる。
「じゃーん!全部無色だから、全部回収!!」
一気に増える手札。
その光景は、さっきまでの“手札消費が激しい”という読みを、あっさりと覆していた。
「1コストで《パーリ騎士》を召喚!効果でさっき使ったニヤリー・ゲットをマナに置いて……さらに1コスト!《ツタンカーネン》!」
ツタンカーネン コスト3 パワー1000 ジョーカーズ 無色
・バトルゾーンに出た時、カードを1枚引く。
「効果で1枚ドロー!」
引いたカードを見た瞬間、モモイの口元がにやりと歪む。
嫌な予感が、はっきりとした形を持つ。
「まさか…!」
「ご名答!《ゼロの裏技 ニヤリー・ゲット》!」
「また!?」
ユウカの声に焦りが混じる。
先ほどまでの余裕は、もうどこにもなかった。
盤面には次々とクリーチャーが並び、それに比例するように手札も減らないどころか増えている。
「はいはい来ましたー!また全部無色だから——全回収!!」
無邪気な声。
だがその内容は、確実に盤面を押し潰しにかかっている。
(まずい……!!)
ユウカの思考が加速する。
しかし、それを上回る速度でモモイの展開が進んでいく。
「1コストで《ヤッタレマン》追加!これで場のジョーカーズは5体!」
ぴたり、と一瞬だけ手が止まり——
次の瞬間、勢いよくカードが叩きつけられた。
「能力で2コストになったのを軽減で1コスト!《ガンバトラー
ガンバトラー
・自分のジョーカーズが4体以上バトルゾーンへいるなら、このクリーチャーの召喚コストは2になる。
・W・ブレイカー
・このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、このターン、自分のクリーチャー1体のパワーを+7000する。
・自分のジョーカーズはバトルゾーンに出たターン、相手プレイヤーを攻撃できる。
「ガンバトラー
モモイは勢いそのままに、もう一枚のカードを掲げた。
「呪文!《ジョジョジョ・マキシマム》!!」
ジョジョジョ・マキシマム コスト9 呪文 ジョーカーズ 無色
・
・自分のクリーチャーを1体選ぶ。このターン、そのクリーチャーは自分のクリーチャーの分だけ追加でシールドをブレイクし、そのクリーチャーの攻撃中、相手は呪文を唱えられない。
「また
思わず声が漏れる。
だが、その疑問に丁寧に答えてくれるような流れではなかった。
「指定はパワーを上げたヤッタレマン!そのままヤッタレマンでシールドを攻撃だぁ!」
勢いそのままに振り下ろされる攻撃。
シールドが、まるで紙のように軽々と砕けていく。
「ジョジョジョ・マキシマムの効果で、呪文は使えないよ!!」
追い打ちの一言。
ユウカの手が止まる。
めくれたカードの中に“
使えない。
その事実が、じわじわと重くのしかかる。
一枚、また一枚と手札に加えながら、ユウカの思考は急速に冷えていく。
(……無理ね)
盤面に並ぶ圧倒的な数のクリーチャー。
それに対して、自分の場はあまりにも心許ない。
(仮に
ほとんど、諦めかけた——その時。
「ユウカ!最後まで諦めてはいけません!」
横から、強い声が飛ぶ。
はっとして顔を上げると、アリスがまっすぐこちらを見ていた。
「勇者たるもの!最後まで諦めてはいけないんです!諦めたら、そこで終わりなんです!」
「ちょっとアリス?どっちの味方?」
思わずモモイがツッコミを入れるが、アリスは真剣そのものだった。
その言葉が、ユウカの胸に静かに刺さる。
(……そうよ)
一瞬でも諦めようとした自分を、内心で叱る。
(最後まで……分からない!)
残る最後のシールドへと手を伸ばす。
指先にはもう迷いは無かった。
「来た……!」
確信にも似た声とともに、カードを叩きつけた。
「
光鎧龍 ホーリーグレイス コスト6 パワー6500 アーマード・アポロニア・ドラゴン 光
・
・W・ブレイカー
・このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手のクリーチャーを全てタップする。
・このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、このターン中に自分のシールドが2枚以上ブレイクされていなかったらこのクリーチャーを破壊する。
「効果で相手のクリーチャーを全てタップよ!」
「げぇっ!」
決めきれると思っていたのだろう。
モモイの額に一滴の汗が流れる。
(でも…このクリーチャーの軍隊を全て倒すなんて無理なはず!私の勝ちは揺るがない!)
「ターンエンドだよ」
悔しみつつもターンを渡す。
ユウカ ターン4
「ドロー!」
静まり返った空気の中でカードを引き、そのまま手札へと視線を落とす。並んだカードはどれも噛み合いが悪く、綺麗な動きにはほど遠い。だが、さっきまで胸をよぎっていた諦めの気持ちは、もうどこにもなかった。
(……ここで投げたら終わりよ。最後までやるって決めたんだから……!)
小さく息を整え、ユウカはゆっくりと顔を上げる。
「マナをチャージ。それから3コストで《バスター・チャージャー》を唱えるわ!」
迷いを振り払うようにカードを叩きつける。
バスター・チャージャー コスト3 呪文 火・自然
・このターン、自分のクリーチャー1体のパワーは+5000され、シールドをさらに1つブレイクする。
・チャージャー(この呪文を唱えた後、このカードを墓地に置く代わりにマナゾーンへ置く)
「効果でカツえもんを指定するわ!そして…次はこれね!」
カードを1枚場へと出す。
「相手のクリーチャーの数だけコストを軽減して……1コスト!《メガ・マグマ・ドラゴン》を召喚!」
重々しい存在感とともに現れた巨大なドラゴンに、場の空気が一気に張り詰める。
メガ・マグマ・ドラゴン コスト8 パワー8000 メガ・コマンド・ドラゴン 火
・このクリーチャーの召喚コストを、相手のバトルゾーンにあるクリーチャーの数だけ少なくする。ただしコストは0以下にならない。
・このクリーチャーがバトルゾーンに出たとき、パワー5000以下のクリーチャーを全て破壊する。
「やばっ!メガマグマ!?」
モモイの声に明らかな動揺が混じる。その反応を見逃さず、ユウカは間髪入れずに続けた。
「効果で、パワー5000以下のクリーチャーをすべて破壊よ!」
指先がまっすぐモモイの盤面を示す。その瞬間、並んでいた小型クリーチャーたちがまとめて吹き飛び、場には《ガンバトラー
間を置かず、ユウカは次の行動へ移る。
「カツえもんでガンバトラー
鋭く振り抜かれた一撃が、最後の抵抗をも断ち切る。最後に残ったクリーチャーもなすすべもなく倒れ、モモイのバトルゾーンから完全にカードが消えた。
「何とか凌ぎきったわ…ターンエンドよ!」
モモイ ターン5
「やばいやばい……」
口では焦ったようなことを言いながらも、その手つきにはまるで迷いがない。カードを引いた瞬間、モモイの口元がゆっくりと吊り上がる。
「なーんてね!5コストで《チョートッQ》を召喚!」
チョートッQ 5コスト パワー5000+ ジョーカーズ 無色
・このクリーチャーはバトルゾーンに出たターン、相手プレイヤーを攻撃できる。
・このクリーチャーは可能なら毎ターン、相手プレイヤーを攻撃する。
・自分の場またはマナにジョーカーズが2枚以上あるなら、このクリーチャーのパワーを+3000し「W・ブレイカー」を与える。
勢いよく叩きつけられたカードが、空気を切り裂くように場へと現れる。直後、その効果を誇るように胸を張った。
「《チョートッQ》は召喚酔いしない!そのままダイレクトアタックだ!!」
一直線にユウカを指差すモモイ。その宣言と同時に、勝利を確信したような笑みが広がる。
(やった~!!これで部費ゲットだ~!)
あと一歩。ほんのわずか手を伸ばせば届く勝利――そのはずだった。
だが、その瞬間。
「革命
革命の鉄拳 コスト3 呪文 火
・革命
・自分の山札の上から4枚を表向きにし、その中から火のクリーチャーを1体選ぶ。そのクリーチャー以下のパワーを持つ相手のクリーチャーを1体破壊する。
・この呪文を唱えた後、墓地に置くかわりに山札に加えてシャッフルする。
鋭く、迷いのない声が空気を切り裂く。
「革命
モモイの表情が一瞬で固まる。
ユウカは一枚のカードを高く掲げ、そのまま山札へと手を伸ばした。迷いなく四枚をめくる。その動きは、確かな手応えを掴んだ者のそれだった。
「《メガ・マグマ・ドラゴン》を選ぶわ!《チョートッQ》を破壊!」
「ええええっ!?」
間の抜けた声が部屋に響く。
あと一歩だったはずの勝利が、目の前で音もなく崩れ落ちていく。その現実を受け止めきれず、モモイは呆然と立ち尽くすしかなかった。
対してユウカは、カードを山札へと戻しながら、まっすぐ前を見据える。
その瞳には、もう迷いは残っていなかった。
「タ、ターンエンド…」
ユウカ ターン5
「ドロー!」
勢いよくカードを引き抜いたその瞬間、空気がわずかに変わる。手札へ加えた一枚を見たユウカの表情が、ほんの少しだけ強くなるのを、隣にいたアリスは見逃さなかった。
「ユウカ!そのカードはこのデッキの切り札です!このターンで一気に行きましょう!」
目を輝かせながら身を乗り出すアリス。その無邪気な応援に、すかさずモモイがツッコミを入れる。
「だからアリス!どっちの味方なの!?」
場の空気が一瞬だけ緩む。だが、ユウカはそのまま静かにカードを前へ出した。
「5コストで《
・スピードアタッカー
・このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手のパワー2000以下のクリーチャーを1体破壊する。
「ボスカツ
ユウカは手札から別のカードを抜き取り、そのまま場へと出す。
「《蒼き団長 ドギラゴン
蒼き団長 ドギラゴン
・革命チェンジ:火または自然のコスト5以上のドラゴンが攻撃する時、手札にあるこのカードと入れ替えても良い。
・T・ブレイカー
・自分の多色クリーチャーすべてに「スピードアタッカー」を与える。
・ファイナル革命:このクリーチャーが「革命チェンジ」によって出た時、そのターン中に他の「ファイナル革命」をまだ使っていなければ、コストの合計が6以下になるよう、進化ではない多色クリーチャーを好きな数、自分のマナゾーンまたは手札から選び、出す。
「バスター!?」
「ファイナル革命発動!その効果でさっきの《
シールドの数は違えど、盤面の数は逆転した。
「ドギラゴン
重い一撃とともに、3枚のシールドが砕け散る。
「なんか
祈るようにカードをめくるモモイ。だが、何も起きない。
そのわずかな間を逃さず、ユウカは追撃に移る。
「続けて《メガ・マグマ・ドラゴン》で攻撃!」
残っていたシールドが、乾いた音を立ててすべて崩れ落ちる。
破片のように手札へと収まっていくカードたちを見つめながら、モモイはぎりぎりのところで踏みとどまっていた。
盤面も、シールドも――完全にひっくり返された状況。
それでも、まだ終わっていない。
「来た!
バイナラドア 8コスト パワー2000 ジョーカーズ 無色
・
・このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、バトルゾーンまたはマナゾーンに自分のジョーカーズが合計3枚以上あれば、相手のクリーチャーを1体選び、相手はそれを自身の山札の一番下に置く。その後、自分はカードを1枚引く。
希望にすがるように、二枚のカードを一気に叩きつける。
同時に現れたクリーチャーたちが、最後の抵抗として場に立ち上がる。
「効果で……!」
モモイは勢いよく盤面を見渡す。
だが、その視線は途中でぴたりと止まった。
「あっ……」
声が、わずかにかすれる。
アンタップしているのは、《ボスカツ
二体を戻すことはできる。だが――
(一体残る……!)
その事実が、はっきりと理解できてしまった。
「……ボスカツ
力なく処理を終えるモモイ。
静かに残ったのは、ただ一体。
その姿を見据えながら、ユウカは一歩も引かずに言い切る。
「《刀の3号 カツえもん》で、ダイレクトアタック!」
「ユウカぁぁぁ……お許しをぉぉ……!」
立ち上がろうとしたその瞬間、モモイが慌ててしがみついてくる。腕に絡みつくその必死さに、ユウカは一瞬だけ動きを止めた。
「はぁ……」
深く息を吐く。さっきまでの勝負の熱気とは別の、どこか呆れたような空気がその場に落ちる。
「別に、今すぐ部費を無くすわけじゃないわよ」
ぽつりと落とされたその一言に、場の空気が固まる。
四人の表情が、一斉に同じものへと変わった。
「えっ?」
間の抜けた声が重なる。
ユウカは軽く肩をすくめ、視線だけで全員を見渡した。
「確かに私は勝負には勝った。でもね、その賭けをそのまま適用するかどうかは、別の話よ」
言葉を選びながらも、その口調にははっきりとした芯がある。
「ちゃんと調査して、ちゃんとゲームを作って、ちゃんと結果を出す。それができるなら、私は何も文句は言わないわ」
その言葉の意味を理解するのに、ほんの数秒。
四人はぽかんとしたまま、ただユウカを見つめることしかできなかった。
その視線を受け流すように、ユウカはゆっくりと立ち上がる。
「ただし!」
ぴたり、と足を止めて振り返る。
その一言だけで、空気が一気に引き締まった。
「今度という今度は、ちゃんと作ること。中途半端は許さないわ。いいわね?」
一切の妥協を許さない声音。
だがその奥に、ほんのわずかな期待が混じっていることに、全員が気づいていた。
「「「「はい!」」」」
今度は揃って、力強い返事が返ってくる。
その声を背中で受けながら、ユウカは小さく息をつき――そのまま部室を後にした。
本日のキーカード
蒼き団長 ドギラゴン
・革命チェンジ:火または自然のコスト5以上のドラゴンが攻撃する時、手札にあるこのカードと入れ替えても良い。
・T・ブレイカー
・自分の多色クリーチャーすべてに「スピードアタッカー」を与える。
・ファイナル革命:このクリーチャーが「革命チェンジ」によって出た時、そのターン中に他の「ファイナル革命」をまだ使っていなければ、コストの合計が6以下になるよう、進化ではない多色クリーチャーを好きな数、自分のマナゾーンまたは手札から選び、出す。
「改めて見るとかなり強いね…」
「先生が言ってたけどこれ4枚使えた時代って…」
「うう…想像するだけで怖いね…」
「1枚だけしか使えなくてもアリスのデッキの切り札です!」