ダンガンロンパ CLOVER   作:雪国匁

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Prologue④

「ふぅ……。これで全員かな」

 

 誰に聞かせるわけでもなく、体育館の真ん中辺りで私はそう呟く。

 何だか疲れたな。一気に15人もの人と知り合ったというのもそうだけど、全員が何かの超高校級というだけあって、かなり個性的だ。

 

 

「あ、天雲(あまくも)っ! 自己紹介は終わったのっ?」

「私は終わったよ。(りゅう)(おう)さんも?」

「大体って感じかなっ。見てる感じ、みんなも割と終わったっぽいよ」

 

 竜王さんの言った通り、皆も続々と集まってきた。

 

「さて、先輩方とは全員話せたわけっすけど……。これからどうするっすかね?」

「どうするも何も、だよ。何をすればいいかもわからない、かな」

(いな)。手立て……というより、今後の展開については幾分(いくぶん)か予想できる」

 

 そう言うと國録(くにろく)くんは、体育館の角の方の屋根を指した。

 

「何やあれ。……あー、監視カメラか?」

「同じ物が、この体育館の四方八方に取り付けられている。赤く光った上でな」

「監視カメラなんだからそりゃそうだろ。作動中じゃなきゃ意味ないっての」

「そうだね、ごく自然なことだ。つまり……」

 

 呆れたような(さん)(じょう)くんに対し、(つい)()くんはゆっくりとした口調で言った。

 

 

「この空間は、誰かが見ているということだろう?」

「……あー、そういうね」

 

 

 誰かがこの状況を見ている。

 そして、見ているのならそれはこの状況を作り出した首謀者である可能性が極めて高い。

 

 なら、私達の動きが終わった今。何かしらのアクションを起こすには絶好の機会だ。

 

 

(じき)に何者か──監視中の者が、ここを訪れるだろう。学園の関係者であれば良し。しかし、そうでない場合……」

 

 彼は体育館の入り口に目を向け、そのまま口にした。

 

 

「……総員、その事態に備えよ。動ける者は、そうでない者に気を配れ」

 

 

 一段低い声。戦場で、兵士に平常心を促すような、そんな声だった。

 

 

「……おう。任せろ、体力には自信あんぜ」

「戦えない者は、俺たちの後ろに隠れろ!!!!」

「ねぇ黙って、うるさい」

 

 指を鳴らしてやる気の伏原(ふしばら)くんと(ほう)()くんに、志賀(しが)さんが鋭く言い放つ。

 耳を澄ますような動作をして、彼女は(おもむろ)に前を向いた。

 

 

「……何か聞こえる。舞台の方」

 

 

 彼女が静かに呟いたその瞬間、その音は私達にも聞こえるくらいに響き始めた。

 体育館の下から、地を揺らすような、何かがせり上がってくるような。

 

 

 

 そして。

 

 

 

「はーーーい!! キサマラ、おはようございますぅ! 数分ぶりですねぇ!」

 

 

 場違いなほど明るい声。そして、どこか気味の悪い声。

 ──現れたのは、ここに来て最初に出会った白黒の()()()()()だった。

 

 

「それじゃあ只今(ただいま)よりぃ、(かみ)()学園入学式を始めたいと思いまーす! はい、拍手!」

 

 そう言って全力の拍手をするぬいぐるみ。その音だけが体育館に響いた。

 

 

「……あれあれぇ? 辛気臭くしてどうしましたぁ? ジブンがスベっちゃったみたいになっちゃったじゃないですかぁ!」

「んーまぁ、スベったって言うよりかは意味分からへんというか……」

 

 全員が静まり返ってしまった中、何故か文句を言いたがってるぬいぐるみ。

 柚波(ゆずなみ)さんが切り出さないと、どれくらい呆然としていたか分からないほどだ。

 

「まず、アンタの存在もよー理解できてへんねん。この状況について知りたいのに、さらによー分からへんアンタが出てきてみ? ウチらも、何が何だか分からんくなるんやて」

「うーん、そうですかぁ……。それはキサマラのスペックの問題な気がしますけどぉ……」

「んなことはどうでも良いんだよ、布切れ。さっさとテメェの話を始めやがれ」

 

 まだブツブツ文句を言うぬいぐるみに、痺れを切らしたのかルークくんが語気強めに言った。

 

「ぬ、布切れですとぉ!? 酷いですよ酷いですよぉ、ジブンには沢山の綿と夢と希望が詰まってるんですよぉ!」

 

 体の中央で白と黒にはっきりと分かれ、黒い部分の口は赤く吊り上がっている。どちらかと言えば子供ウケは悪そうな姿で、彼(仮)は更によく分からないことを言い出した。

 夢と希望を(うた)いたいなら、せめてカラーリングは見直した方が良いと思う。

 

 

「それとキサマ、少しは言葉に気を付けろよぉ! 仮にも()()()に向かってさぁ!」

「……え、学園長? 君がっ?」

「さんを付けろよデコ助野郎! キサマラよりよっぽどっぽど目上の存在なんだぞぉ!」

 

 

 ……おかしい。いや、おかしいのは元からなんだけど。

 

 仮にも神与学園は政府直属の教育機関だ。ぬいぐるみのようなロボットを自由に動かす技術こそあるかもしれないけど、こんな子供騙しを学園の象徴に置くわけがない。

 

 

「……君は、何なの?」

「後で分かりますよぉ。はぁ、キサマラに合わせるのも飽きてきちゃった……。改めて名乗りますよぉ、ジブンはモノンガ! この学園、神与学園の学園長さんなんですよぉ!」

 

 小さめの体を精一杯大きく見せて、そのぬいぐるみは偉そうに言った。

 確かによくよく見たら、腕と胴体の間に膜のようなものがある。滑空用かと言われたらギリギリ頷けるくらいだ。

 

 

「じゃあモノンガちゃん。とりあえずキミに、いくつか尋ねても良いかな?」

「さんを付けろよデコ助以下略……。もういいや、天丼嫌いなんだよねぇ。特にエビ以外のやつがぁ。で? どうしたんですかぁ?」

 

 モノンガの小ボケの応酬には関心を示さずに、対野くんは淡々と続けた。

 

 

「まず一つ目なんだけど……。キミの肩書きからも察するに、ここは神与学園ってことで良いのかな?」

「はい、よろしくてですよぉ。ここは正真正銘、キサマラが入学した神与学園ですよぉ」

「根拠はあるかな?」

「いりますかぁ? 理詰めじゃないと世界を見れない理系くんは嫌われますよぉ」

「ご忠告痛み入るね。さて皆、どうしよっか? 彼の言葉を信じてみる?」

 

 モノンガを軽くあしらいながら、彼は振り返って私達の方を見た。

 

「…………信じるしか、ないんじゃないかな。話が進まないし、……疑う理由もないし」

「そうだよね! モノンガさん、信じるから話進めていいかな?」

 

 カナタさんの元気な声を聞いて、モノンガは少し機嫌を直したようだった。

 

 

「じゃあ二つ目。ボクらの記憶を断片的に消去して、この学校に連れてきた。その首謀者は……キミなのかな?」

「ええはい、そうですよぉ」

 

 

 ──あまりに当然のように話が進んだせいか、一瞬何を言ってるのか分からなかった。

 

 

「……え? えっと、つまり……」

「モノンガ先生は、人の記憶を操ることができるってことっすか!? 何すかそれ、激ヤバ技術じゃないっすか!!」

「つか勝手にやってら……。許可とか取るもんじゃないのかよ。メンドクサそうだけど……」

 

 理解し始めた皆が、口々に騒ぎ出す。当然だ、自分の記憶が少しでもこのぬいぐるみに消されたなんて、簡単に信じられる話じゃない。

 

「だが、其方(そちら)は学園長なのであろう? 仮にも手前らは新入生だ。その手前ら相手に拉致(らち)(まが)いの行動をとった挙句、記憶まで消去するとは(いささ)()(しつけ)がすぎるのではないか?」

「もう、細かいなぁ國録クンはぁ! 喉元過ぎてるんだから熱さくらい忘れなよぉ! とにかく、お前らはこの神与学園で栄誉あるドキドキ青春ライフを謳歌できるんだから、それでいいでしょぉ?」

 

 そう言いながら、モノンガは短い脚で地面を踏んづけた。仕草に反して、あまり可愛いという感想は浮かんでこない。

 

「なるほど……。じゃあ、今までの情報を飲み込んだ上で最後の質問をしたいのだけれど」

「はぁい、特別ですよぉ? どんとこいですよぉ!」

 

 

 ポンと胸を叩くモノンガに、対野くんは“最後の質問”を投げかけた。

 

 

「────キミの目的は、何なのかな?」

「そりゃああれですよぉ。キサマラを一生この学園に閉じ込めようと思いましてぇ」

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 声が漏れ出た。多分、私のだ。

 

 

 

 

 

 

「あれれ、聞こえませんでしたかぁ? 一生ですよ、一生! い・っ・し・ょ・う!! もっと驚いてくれてもいいんですよぉ!!」

 

 

 

 誰も、何も口にしなかった。できなかった。

 信じられなかった。信じるような人なんていなかった。

 

 

 

「……い、一生……!? モノンガさん、何言ってるの……!?」

「どうせハッタリやろ!! んなこと、アンタにできてたまるかいな!!」

 

 カナタさんと柚波さんが叫んだ。その音が、空気の響きが私の耳を素通りした。

 

 

 一生。幼稚な響きでありながら、何故だか嘘だと断じることのできないその言葉が、私の心を無造作に殴打する。

 

 いや、そんなわけがない。できるはずがない。急にここに連れてこられて、ここで一生を過ごすって? 

 そんな馬鹿げた話があるはずない。手の込んだドッキリか、質の悪い噓だ。そうに決まってる。

 

 

「ジブンにできない? キサマラこそ、何の根拠があって言ってるんですかぁ。本気ですよぉ! ジブンは嘘は申しません! お前らは元の世界には帰れないんですよぉ!」

「いや、信じろっつー方が無理だろ……。んな話、簡単に納得できっかよ!!」

「ねー、マリネたちはおうちに帰れないのー? おうちでゆっくりしたいなー」

「おうちぃ? いやいや、今日の今からキサマラの家はここですよーだ! キサマラは外の世界とは隔離されたこの学園で、16人でこれから生きていくんですよぉ!」

「学園長。一つ、質問を追加して(よろ)しいか?」

 

 

 半ば混乱状態に陥った空間に響き渡った一声。それは、國録くんのものだった。

 

 

「はぁい。何ですかぁ?」

「其方は今、『手前らを生涯に(わた)ってこの学園に閉じ込める』と言ったな。しかし、其方がそれを行う(えき)は何だ? 手前らを単に憎んでいるのなら、今ここで殺せば良い。それをせぬということはつまり、手前らに何かをさせるのが目的と考えるのが妥当であろう。故に、改めて尋ねさせてもらう」

 

 そこまで言って、彼は一息ついてから更に続けた。

 

 

 

「答えよ、学園長。其方の目的は何だ?」

「……はぁ、せっかちさんめ。そんなに言うなら、説明してあげますよぉ」

 

 

 

 正論を突き付けられたからか、モノンガはあからさまに落胆した声になった。

 

 

「別にジブンは、帰れないとは言ってませんよぉ。ただ一生ここで暮らしてもらおうってだけでぇ」

「……言ってなかったっすか?」

「ええい、つべこべ言うな! とにかく、キサマラにも帰る方法はあるんですよぉ! キサマラが安心安全五体満足完全完璧に帰れる方法、“卒業”という制度があるんですよぉ!!」

「じゃあさっさと言いなよ。アンタの顔なんて、見たくて見てるわけじゃないんだから」

()()ですよぉ」

 

 

 

 

 

 

 あっさりと発されたその言葉に、(とっ)()に反応できた人なんて誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

「もー、キサマラ耳悪すぎですよぉ! さ・つ・じ・ん! ちゃんとしたルールは後で説明しますけどぉ、とりあえずキサマラの中の誰かを殺せば、ソイツは家に帰れるのぉ!」

 

 

 

 …………は? 

 

 今度は、声にもならなかった。

 

 

 

「あれあれぇ、今度は誰も叫ばないんですかぁ? あ、モチロン殺し方は問いませんよぉ! 殴殺刺殺撲殺斬殺焼殺圧殺絞殺惨殺呪殺……。好きなの選んでくださいねぇ! 國録クンに答えるとするなら、ジブンはそれが見たいだけなんですよねぇ!」

 

 

 静まり返った体育館の壇上で、モノンガだけがニタニタと気味の悪い笑みを浮かべている。

 

 

 

 恐る恐る、他の人達の顔を見てみる。

 ()(ぜん)としている人、呆然(ぼうぜん)としている人……。

 

 それらの瞳の中に、何故だろうか、少しばかりの殺意を感じ取ってしまった。

 

 

 

 

「……ふ、ふざけんな!!」

 

 最初に沈黙を破ったのは、伏原くんだった。

 

「んな話、はいそうですかって素直に聞くわけねぇだろ!! お前の言いなりになってたまっかよ!!」

「伏原の言う通りだ!!!! 先にお前を倒して、こんな話は終わらせてやる!!」

 

 縫理くんも加勢して、一歩前に出た。

 

友則(とものり)!」

「危ないから下がってろ、(ひさ)()。俺らでやる」

「私もやるよ。みんなが危ないのなら、黙ってられない!」

「自分もやらせてくださいっす! 微力っすけど、頑張りますから!」

 

 2人に呼応して、カナタさんや(かぜ)(まつり)くんも名乗りを上げた。

 

 明らかな多勢に無勢の多勢側。しかも全国の高校生で考えても、最強レベルであろう伏原くんと縫理くんもいる。

 

 

 

 ──これなら、勝てるかもしれない。

 

 

 

「んー、困ったですねぇ……。こんなに愛する生徒たちの聞き分けが悪いとはぁ」

 

 またも文句を言うモノンガに対し、彼らはもう今にも掴みかかりそうな形相だ。

 

「ま、いっか! そんなに言うなら見せてあげますよぉ。ジブンの、本気の力をぉ!!」

 

 私も加勢しようと思い立った、その時だった。

 

 

 

 

 

「皆の者、動くなッッ!!!」

 

 

 

 

 

 建物ごと揺らしたその声に、私含め全員が動きを止めた。

 次の瞬間。

 

 

 

 頬骨(ほおぼね)を何かの風が(かす)め、それが地面に突き刺さって激しい音を鳴らした。

 

 

 

 徐に視線だけを横に向ける。

 

 そこにあったのは。

 

 

 

 

 

()

 

 

 

 

 

 

 

 当たれば一撃で頭なんて吹き飛ぶであろう、長く太く、黒い()

 それが16本、全員の元に、同様にギリギリを狙って刺さっていた。

 

 

 

 

 

「────え」

 

 

 今度は、声が漏れた。

 と言うより、吐いた息に声がギリギリ混じっていたくらいの、そんなか細いものだった。

 

 

 

 誰かが、座り込んだ。膝が折れて腰が地面に叩きつけられた。

 そんな音が、いくつか聞こえた。

 

 

 

「本当はジブンが直接やるのはダメなんだけど……、今回は特別ですよぉ! 分かってもらえたかなぁ? ジブンはいつでも、オマエラを簡単に殺すことだってできるんだぞぉ!!」

 

 

 

 自分の命を、初めて指で雑になぞられた感覚。

 

 

 嫌悪より、憎悪より、先に来たのは純粋な恐怖だった。

 

 

 

 誰も、何も喋らなかった。

 何も言うことができなかった。

 

 

 

『それより、國録クンはよく分かりましたねぇ? ジブン自慢のサイレント一突きをぉ』

「……嫌な予感がしたまでだ。まさか、こんなものが降ってくるなど思っておらん」

『さっすがぁ、“超高校級の将軍”ですねぇ』

 

 そう言ってケタケタ笑うモノンガが、何故そんなに平然としているのか私には分からなかった。

 サイコパスなんてものじゃない。ただただ不気味で、恐ろしい、常識の埒外(らちがい)の存在。

 

 

 

 

 

「……オイ、布切れ。無駄笑い叩いてる暇があるなら、追加の質問一つだ」

「あははぁ、はぁ……。今楽しいところだったのに、何ですかぁ?」

 

 

 声を上げたのはルークくんだった。

 至って冷静で、その声に恐怖などは混じっていなかった。

 

 

「脱出の為の人殺しの()()だ。例えば俺が今この槍で適当な奴を殺せば、それで俺は帰れんのか?」

「ちょっと、ルークくん……!」

 

 私は思わず、彼を制止しようとした。けれど彼は逆に、その貫くような瞳で私を(にら)みつけてきた。

 

「黙ってろ優等生。マシな意見を出せないなら、テメェに今価値はねぇよ。それで? さっさと答えろよ布切れ」

「全くキサマは凄いねぇ……。あれの後で、ジブンにこんな態度取れるんだもんねぇ」

 

 

 正直、初めてモノンガに賛同した。肝の座り方が尋常じゃない。

 ただの何も考えていない悪態などではない。そう私達に確信させるだけのオーラを、彼は確かに(まと)っていた。

 

 

「結論から言ったら、モチロンNO! オマエラには、ちゃんとルールに則った公平公正な“コロシアイ”をしてもらうんだからねぇ!」

 

 

 

 ……コロシアイ? 殺人じゃなくて? 

 

 

 

「じゃあキサマラ、横にある槍の持ち手の部分をご確認くださーい! そこにスマホくらいの黒い端末が括り付けられてると思うんですけどぉ、それを起動してみてねぇ!」

 

 端末……って、これかな。よく見ると、細い糸で巻き付けられている。

 

 (ほど)いて手に取ってみると、急に画面らしきものが光り出した。

 そして『天雲舞衣奈』、とシンプルなデザインで表示された。

 

 

「それはオマエラの入学祝い、電子生徒手帳! この学校の地図の確認だったり、その他色々なことができる優れものだよぉ! このコロシアイ学園生活の必需品だから、絶対になくさないでねぇ!」

 

 スマホくらいと言っていただけあって、携帯するには楽そうだ。

 背面には少し格好いいロゴで、“神与学園”と書かれている。

 

「んじゃそこに“校則”欄もあると思いますのでぇ。詳しいルールはそこに全部書いてますよぉ!」

「校則だと!!? 破ったら何か罰則があるのか!!??」

「そりゃそうでしょ、校則なんですからぁ。罰の内容とかもそこに書いてますけどぉ、あまり破らない方がいいですよぉ? 命の保証まではしないつもりなのでぇ」

 

 モノンガはどこから取り出したのか分からないメモのようなものを、入念に確認してから前を向いた。

 

「じゃ、ジブンから伝えることはこれで終わり! えー、ゴホン。じゃあ最後に、超ハイパーグレイト学園長であるこのジブンから、最後にありがたい話をみなさんにしようと思いますぅ!」

 

 

 

 モノンガの左目が、一瞬赤く光ったような気がした。

 

 

 

「キサマラの中には、『何でこんなことに俺たちが巻き込まれなくちゃいけないんだ!!』とか、『他の人を使って勝手にやってろよ!!』とか、そんなことを思ってる人もいるかもしれません。けどね、違うんですよぉ。キサマラがキサマラという存在である以上、このコロシアイ生活は他でもないキサマラが巻き込まれなくちゃいけないんですよぉ。分かりますかぁ?」

 

 

 上機嫌な様子で、モノンガは更に続ける。

 

 

「ノブレス・オブリージュの一種ですよねぇ。キサマラは、ちゃんと()()に生まれたことを後悔する必要があるのです。それが義務なのです! いいですかぁ? じゃ、これにてジブンのお話は終わりますぅ。学園長にしては良心的な長さでしょぉ?」

 

 

 壇上に立ちながら、一人だけ楽しそうに笑っている。怒りのような感情を、わざわざ抱いて向けることのできる次元ではなかった。

 

 困惑と、混乱と、恐怖。これら以外の思いが入るような容量は、今の私達にはなかった。

 

 

「はい、これにて入学式を閉会したいと思いますぅ。はいみんな、拍手!」

 

 また、モノンガが拍手する音だけが体育館に響く。

 私達の混乱と、彼の狂気。それが形となって表れたかのような状態だった。

 

 

「はぁ、イマイチ盛り上がりに欠ける式典だったなぁ……。まぁいいや。じゃ、キサマラはこの陰鬱ワクワク絶望ライフを楽しんでねぇ!」

 

 そう言って、モノンガは手を振る。

 

 

 

 

 モノンガの左目が、今度は確実に、赤く光った。

 

 

 

 

「精々ちゃんと苦しんでね? ()()()()()()()()のみんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モノンガが去って、体育館に残ったのは私達16人。

 そして、それに付随する混乱だけだった。

 

 

「えぇと……。こっから、どないする?」

「あのぬいぐるみのこと。信じた方がいいの、かな?」

「まぁ、モノンガちゃんの言ってることはまだ所詮口約束のようなものだからね」

 

 対野くんはそこまで言って、刺さった槍をコンコンと叩いた。

 

「けれど、モノンガちゃんが言っていた『いつでもボクらを殺せる』ということ。こればかりは、信じるしかないんじゃないかな?」

「そ、そうだよねっ……。実際、こんな槍をあんな精度で落とせるんだし……」

「……でもさ。モノンガさんのことを信じるんだとしたら……」

 

 少し怯えた様子で、カナタさんは続ける。

 

 

「私たちはここから出られないの? そんなの、ダメだよ」

 

 

 大きくはないけど、力のこもった声。初対面の私達の分も合わせて、本気で怒ってくれているような声だった。

 

 

()呆鳥(ほうどり)共が。ここから出る方法なら、モノンガ(あの布切れ)が懇切丁寧に教えてくれたじゃねぇか」

「……アンタ、本気かよ」

誰かを殺せば良いんだろ? ルールだって言ってただろ。本気かどうか以前の問題だろうが」

 

 

 ルークくんが冷たく言い放つ。人を殺すなんて、問題と思っていないかのような声色だった。

 

 

「えー? マリネはころされたくなんてないよー?」

「……うん。ダメだよ、殺人なんて」

「あれもダメ、これもダメ……。じゃあどうすんだよ天使。不思議な力でも使って、俺らを救ってくれんのか?」

 

 

 このままこの学園内で、外の世界と隔離されたまま一生を過ごすのか。

 この中の誰かを殺して、ここから出るのか。

 

 私達は、どちらかを選ばなければいけない。悪夢のような二択だった。

 

 

「……何なの、アンタ。誰か殺して出たいわけ?」

「そりゃルール次第だな。つか別に、俺はあの布切れの話を100%鵜呑みにしたわけじゃねぇよ。どこまで偽ってんのかが不透明な以上、信じる道理もねぇしな」

「重要なのは、手前らの内の何名かがモノンガの言っていた()()()を信じるやもしれぬということだ。……誰かを殺せばここから出られるという、可能性を」

 

 國録くんの言葉を聞いて、私達は示し合わせたわけでもないのに互いの顔を確認し始めた。

 

 

 誰も行動に出なかったら、少なくとも誰も死ぬことはない。

 じゃあ、誰かが行動に出たら? 

 

 当然、別の誰かが死ぬ。

 その“別の誰か”が自分ではない保証なんてどこにもない。

 

 幽閉生活がどんなものかなんて、想像もつかない。いつ、誰に限界が来るかなんて分からない。

 一週間後かもしれない。明日かもしれない。脱出できなければ、この不安は無限に続く。

 そして、その不安から解放されるために自ら行動に出るような人も……。

 

 

 

疑心暗鬼。今の私達の状況を、これ以上なく的確に表現する言葉だった。

 

 

 

 

 

「……でも、決めつけるにはまだ早いと思うんだ」

 

 思わず、口に出していた。

 

 

 私達が互いを疑いあって消耗してしまうのが一番良くないはず。できれば、私達は結束していた方が良いはずだ。私達が手早く協力するには、共通の目的があることが望ましい。

 ならば。

 

「……私達全員で脱出できる道が、まだ残ってるのかもしれない。私達が疑い合うのは、その道を探し終えてからでも、遅くはないんじゃないかな」

「…………そんな道が、あるのかな」

 

 

 元々騒がしくもなかった体育館が、一層静かになった。

 

 

「──オイ、優等生。自分が何やってるか分かってんのか?」

 

 ドスの効いた、低く冷たい声。こんなことを言ってくるのは、この場には彼しかいない。

 

(はな)から辛い現実を見るか。適当な薄っぺらい希望を見てから絶望に落とされるか。限界に達する奴が出てくるのは、どっちが早いのか分かってんのかって訊いてんだよ」

「…………分かってる、つもりだよ」

 

 彼の威圧に負けないように、私も頑張って彼の目を見る。

 

下奴(かど)に殺されんのは御免だな。お前のその提案という薬が転じて毒になった時、お前はしっかり責任取れんのか?」

「……けれど、無闇に人を疑い続ける生活なんて、疲れるし辛いだけだよ」

「あ?」

「私は、()()()()って言ったんだ。モノンガの言うことが全部本当なら、私達は互いを盲目的に信じた方が良いなんて全く思わない。むしろ、ある程度は疑い合う方が健全かもね」

 

 一歩、前に踏み出した。私の主張を、皆に伝えるために。

 

「いつかは、盲目的に疑い合った方が良い時も来るのかもしれない。けど、少なくとも今じゃないはずだよ。協力できる道があるなら、今は協力した方が良いと思う。それに────」

 

 

 詭弁かもしれない。ただの願望かもしれない。

 けれどこれが、嘘偽りのない私の考えだ。

 

 

 

「疑い合うより、協力し合った方が楽しいでしょ? 辛いよりかは、楽しい方がずっと良いよ」

 

 

 

 ルークくんは、小さなため息をついた。

 

「はいそうですか。なら、勝手にしろ」

 

 

 

 再び訪れた、束の間の沈黙。

 それを破ったのは。

 

 

 

「私は、天雲に賛成っ!」

 

 ──竜王さんだった。

 

 

「モノンガの言ってたことは、まだ何もホントかは分からないんでしょっ? だったら皆で探してみようよ、脱出ルートっ!」

 

 彼女は高らかに宣言し、人差し指を上に向けた。

 

「……うん、そうだよ! 全員で脱出できるなら、それに越したことはないよね!」

「俺も天雲に賛同するぞ!!!! 何事もなく済むなら、それが一番だ!!!!」

「せやな! ウチらであのぬいぐるみに、ぎゃふんと言わせたろやないか!」

 

 次々にそんな声が上がっていく。皆の顔に、徐々に笑顔が戻っていく。

 

「手前も同意しよう。恐らくは大仕掛けの出来事だ、何か(ほころ)びがあってもおかしくない」

「ボクもそう思うかな。それに、殺人なんて容易に許されて良いことじゃないからね」

「……皆で力を合わせて、皆でここから出よう。絶対に」

 

 決意表明のように、私は静かに、けれど小さくなりすぎない声で言った。

 

 

 

 

 これで良い。これで良いんだ。不安になるのも、絶望するのも、後からで十分。

 

 自分の頬を軽く叩いて、マフラーを軽く握る。

 

 

 

 私は。私達は。

 あんなぬいぐるみの思い通りになんてなりたくない。

 

 こんなところで、死ぬわけにはいかないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

「……あーあ、流石だなぁ。楽にはいかないなぁ」

 

 モニターを見ながら、呟く。

 

「まぁ、それでこそだけど。簡単には死なないでね」

 

 

 その視線の先の、盛り上がっている体育館。そこにいる16人。

 

 

 

 

 

 

私の、()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンガンロンパ CLOVER

 

 Prologue『ヨツバの貴方に死を詰める』   完了

 

 

 

 

 ≫≫≫ CHAPTER.1『達磨(だるま)(がん)()に雪景色』

 

 

 

 

 

 


 

 

神与学園 名簿表

【“超高校級の優等生”】天雲舞衣奈

【“超高校級の演出家”】風祀叢介

【“超高校級の花屋”】翌井久花

【“超高校級の時計技師”】三杖楓来

【“超高校級の気象予報士”】祈谷雪風

【“超高校級のサイメシア”】覚羅十真

【“超高校級の天使”】鈴芽カナタ

【“超高校級の家庭科部”】縫理泰陽

【“超高校級の歌手”】志賀水面

【“超高校級の公爵”】ルーク・クローヴィス

【“超高校級の 将棋棋士”】竜王飛鳥

【“超高校級の助っ人”】伏原友則

【“超高校級のパティシエ”】柚波月菓

【“超高校級の将軍”】國録逸樹

【“超高校級の人形使い”】伊豆崎鞠音

【“超高校級の???”】対野鏡太

 

 残り 16名

良ければ、好みのキャラを教えてください。

  • “超高校級の優等生” 天雲舞衣奈
  • “超高校級の演出家” 風祀叢介
  • “超高校級の花屋” 翌井久花
  • “超高校級の時計技師” 三杖楓来
  • “超高校級の気象予報士” 祈谷雪風
  • “超高校級のサイメシア” 覚羅十真
  • “超高校級の天使” 鈴芽カナタ
  • “超高校級の家庭科部” 縫理泰陽
  • “超高校級の歌手” 志賀水面
  • “超高校級の公爵” ルーク・クローヴィス
  • “超高校級の将棋棋士” 竜王飛鳥
  • “超高校級の助っ人” 伏原友則
  • “超高校級のパティシエ” 柚波月菓
  • “超高校級の将軍” 國録逸樹
  • “超高校級の人形使い” 伊豆崎鞠音
  • “超高校級の???” 対野鏡太
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