ポケモンスナップ むげんのきせき   作:ナスの天麩羅

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4話 かつてのヴィデ

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涼しい海風が吹き抜けるムロタウンの夜が更けていく。キャンプ地は俺とルミナの貸し切りだった。隣のテントでルミナはまだ起きているのだろう。ランタンの明かりと規則正しいタイピングの音が聞こえてくる。

 

「ルミナー、もう寝ないのかー?」

「もうちょっと。もうちょっとでキリがいいのよ」

 

俺の3匹の手持ち、アーマーガア、タチフサグマ、フライゴンはボール越しにぐっすりと眠っているのがわかる。ルミナのアブソル達もそうなのだろうか。

 

「……なぁ、ルミナ」

「なにー?」

 

しばし言葉に悩む。最初は軽く言おうと思ってたが、いざ言うとなるとさすがに緊張する。

 

「ありがとな。2年前の仕事の件。ルミナが鍛えてくれたから撮影家やれてるって思う」

「あー良いの良いの。アンタ動画であることを差し引いても腕は確かなんだから」

ま、私ほどじゃないけど、とルミナは厭味ったらしく付け加える。

 

そう、俺はルミナと出会う前、鳴かず飛ばずのアマチュア撮影家だった。

 

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モニターだけが光源の暗い部屋で、1人の少年が怒りと不満をまき散らしている。

 

「あーっ、くっそ!なんで誰も俺の動画を見ないんだよ!見れば俺の凄さがわかるってのに!カメラワークの意味!秒数の意味!意味意味意味!だーれも理解しちゃいねぇ!」

 

そいつは、歳にして17くらいだろうか。落ち着きのなさからそれ以下にも見える。

 

そいつは、俺だった。2年ほど前の、ルミナに出会う前の俺だった。

 

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「ふむ、あなたの動画を拝見しましたが……『普通』ですな」

「普通……!?嘘ですよね!?」

 

提出した動画。重々しい足音とともに迫るポケモンの脚。カメラを上げていき、一度、二度と巨大な翼に寄り道。そしてリザードンの顔を捉えたタイミングで火炎放射。独学ながら完璧なカメラワークという自負があった。

 

「では、ワシが撮影したリザードンの動画も見比べてみますかな」

「ええ、是非とも……!」

絶対に俺のほうが上だ、と思いながら食い入るように見つめる。

 

───

──

 

唯一の違い、それは……

 

「なんで、写真の真似事なんかするんですか!?動画は動くから動画なんですよ!」

「まぁ落ち着きなさい。独学で普通レベルなんて大したものなんだよ本当は。ただねぇ……」

ごくり、と俺は次の言葉を待つ。

 

「君、撮りたいものがなかったんだよ。ワシのアレはリザードンにしては太く大きい剛腕を捉えたかった。君にはそういうものがないんだよ」

 

がっくりとうなだれる。返す言葉が出てこない。違う。違う──。俺にも捉えたいものはあった、下から上にゆらめき登る炎。しかしそれを伝えられていなかった。紛れもなく表現者の敗北だ。

 

「それと、写真の真似事と言ったがね、写真家にも参考になる者はいるよ。そうだな……少し気難しいが、彼女と会ってみれば得るものは多いだろう」

 

電話番号と思しき文字列の最後に、「ルミナ」という人名が書かれていた。受け取る気にはなれなかったが、受け取らなければ自分は進めないことも理解していた。

 

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「もしもし……」

「アンタがヴィデね。アンタの大学近くのカフェあるでしょ?そこで待つから」

がちゃり、と電話が切れる。あまりにも一方的な会話だったが、藁にもすがる思いで大学近くのカフェに重い足取りで向かう。

 

客の入りはまばらだった。目につく客はたった1人黒いゴシックな出で立ちの、おそらく自分より年下の少女。たった1人でボックス席を占有しており、退屈そうに肘をついている。

 

「なぁ、アンタがルミナか?」

一瞬面食らったような顔をするが、すぐに興味を瞳に纏わせる。

「ええそうよ、ヴィデ。名前は聞いているし、リザードンのも見たわ。」

「あれは……」

「炎、でしょ?下から上に、絶えずゆらめく。だから一瞬たりとも止まらなかった」

 

呆気にとられた。気がついたら涙が零れそうになっていた。必死に押し留めようとする感情が、余計に涙を誘った。

 

ルミナは俺が静かに泣き止むのを興味なさげに珈琲をすすりながら待っていた。泣き止んで大きく息を吐くと、ようやく視線をこちらに向けて口を開く。

 

「で、どう?この業界嫌いになった?」

 

自分の未熟さ、テーマへの無理解、下に見ていた写真・写真家に上だと思い知らされた。

 

「……なった。嫌いになったよ。」

「撮影は、やめる?」「やめない」

 

反射的に答える。

 

「俺、あいつらを見返すまでは、絶対カメラ手放さない」

 

そう宣言すると、ようやくルミナと目が合う。光沢のある赤黒いガーネットのような瞳。

 

「合格。弟子にしてあげてもいいわよ」

その時のルミナは、やけに楽しそうに笑っていたのを覚えている。

 

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「んで2年間無人島やら未開の森やらに行かされて……自分の世話の時間も取れないから手持ちも3匹までが限界でさぁ……」

「何よ、不満あったの?」

「あるに決まってるだろ。でも得るものは間違いなくあった」

「当然ね。私、優秀だから」

「つーかルミナお前よく5匹も育てられるな。しかもタイプバラバラのやつらを」

「慣れよ慣れ……ふあぁ……調べ物も一段落ついたし私寝るわね」

 

テントの向こうでもぞもぞと衣擦れの音が聞こえる。

 

「おう、んじゃまた明日」

「ええ……」

いつもより気の抜けた返事とともにランタンの光が消える。

 

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「それで、昨夜は何について調べてたんだ?」

「ふっふっふ、言うなれば対ラティアスの秘密兵器よ!」

「なんだよ、もったいぶらずに早く教えろよ」

「まったく、そう慌てないの」

 

カチリ、カチリとパソコンからブックマークしたページを開く。

 

「これよ、デボンスコープ!見えないポケモンに反応して音が鳴るの!」

「おおー!」

無骨な双眼鏡といった風情であまりデザイン性は惹かれないが、説明が確かならラティアスを探す大きな助けになるだろう。

 

「俺は見たことないけど、それって売ってるものなのか?」

「……」

「ルミナ?」

 

「残念ながら、非売品よ」

 

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