柔らかい木漏れ日が、優しく地面を照らす。
階段を上がる足音を伺うように、赤い提灯は木々の隙間から顔を出している。
ナカムラは一息ついて、おもむろに携帯を取り出した。
「今日は燈禾の外れに来ています。このあたり、地形が少し変わってまして――」
重厚な金属音が森に響き渡った。
数メートル先でその音は停止する。
異変を感じたのか、草陰から前歯を尖らせた小動物が顔を出した。
音の方向を視線で追う。風が木々を吹き抜け、仄かに木材の焦げた匂いが漂う。
「んーー。行ってみますか。新たな遷移口ですかね」
黄金色をした六足の爬虫類が壁を登ると、平坦な壁が露出した。
青いベニヤ板が立て掛けてある――そう見えたが、傾いたボックスの形状だった。
『ポリスボックス』と印字された上部の文字。
「これは、ドムシアット英語? 遷移物……にしては形状がしっかりしてますね」
ガラスの小窓から漏れてくる黄色の光は、呼吸を繰り返すようにぼんやりと波打っている。
ドアに引き寄せられるように、ゆっくりと手を伸ばす。
「君ちょっと。僕のターディスに何か用かな?」
高いトーンで滑舌がいい。青い箱の裏から声が聞こえた。
ガチャガチャと配線コードをいじる音と、高い電子音が響き渡る。
「少し長旅をしてて、コイツがポケットディメンションに落っこちたんだ。まあ、悪くない場所には思えるが」
「ポケットディメンション……。遷移口に近い事象かもしれませんね」
作業の手が一拍止まる。
「"遷移口"、聞き馴染みがない。君はここの人かい」
「私は、ドムシアット日本からこっちに来ました。ナカムラといいます」
男は裏側から顔を見せる。
整った髪型に、分厚い涙袋。どこか嬉しそうな笑顔でナカムラを捉えた。
「僕はドクター。故郷はガリフレイ。しばらくお世話になるよ、ナカムラ君」
二人は軽く握手を交わした。
「あれでしたら、機械に詳しい方がいるのでみてもらいましょうか?」
携帯を下げたナカムラは言う。
ドクターは両手を擦り合わせて、関節の付け根でコツコツと軽く鳴らす。
「是非ともそうしたい。彼女が動いてもらわないと困るんだ。少々混み合っててね」
ナカムラは軽く頷く。
「案内しますよ。そちらのは彼に頼めば、作業場まで持っていってくれると思います」
ドクターはボックスに手を寄せて、表面を両手で軽く支えた。
「待っててね。戻るから」
ナカムラはレンズ越しに二人を見る。
中央の箱は、眠るようにゆっくりと明るさを落としていった。