遷移圏見聞録 時間の再生譚   作:Gun PICK

1 / 2
第1話 ナカムラとドクター

柔らかい木漏れ日が、優しく地面を照らす。

 

階段を上がる足音を伺うように、赤い提灯は木々の隙間から顔を出している。

 

ナカムラは一息ついて、おもむろに携帯を取り出した。

 

「今日は燈禾の外れに来ています。このあたり、地形が少し変わってまして――」

 

重厚な金属音が森に響き渡った。

数メートル先でその音は停止する。

 

異変を感じたのか、草陰から前歯を尖らせた小動物が顔を出した。

 

音の方向を視線で追う。風が木々を吹き抜け、仄かに木材の焦げた匂いが漂う。

 

「んーー。行ってみますか。新たな遷移口ですかね」

 

黄金色をした六足の爬虫類が壁を登ると、平坦な壁が露出した。

 

青いベニヤ板が立て掛けてある――そう見えたが、傾いたボックスの形状だった。

 

『ポリスボックス』と印字された上部の文字。

 

「これは、ドムシアット英語? 遷移物……にしては形状がしっかりしてますね」

 

ガラスの小窓から漏れてくる黄色の光は、呼吸を繰り返すようにぼんやりと波打っている。

 

ドアに引き寄せられるように、ゆっくりと手を伸ばす。

 

「君ちょっと。僕のターディスに何か用かな?」

 

高いトーンで滑舌がいい。青い箱の裏から声が聞こえた。

 

ガチャガチャと配線コードをいじる音と、高い電子音が響き渡る。

 

「少し長旅をしてて、コイツがポケットディメンションに落っこちたんだ。まあ、悪くない場所には思えるが」

 

「ポケットディメンション……。遷移口に近い事象かもしれませんね」

 

作業の手が一拍止まる。

 

「"遷移口"、聞き馴染みがない。君はここの人かい」

 

「私は、ドムシアット日本からこっちに来ました。ナカムラといいます」

 

男は裏側から顔を見せる。

整った髪型に、分厚い涙袋。どこか嬉しそうな笑顔でナカムラを捉えた。

 

「僕はドクター。故郷はガリフレイ。しばらくお世話になるよ、ナカムラ君」

 

二人は軽く握手を交わした。

 

「あれでしたら、機械に詳しい方がいるのでみてもらいましょうか?」

 

携帯を下げたナカムラは言う。

 

ドクターは両手を擦り合わせて、関節の付け根でコツコツと軽く鳴らす。

 

「是非ともそうしたい。彼女が動いてもらわないと困るんだ。少々混み合っててね」

 

ナカムラは軽く頷く。

 

「案内しますよ。そちらのは彼に頼めば、作業場まで持っていってくれると思います」

 

ドクターはボックスに手を寄せて、表面を両手で軽く支えた。

 

「待っててね。戻るから」

 

ナカムラはレンズ越しに二人を見る。

 

中央の箱は、眠るようにゆっくりと明るさを落としていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。