黄金樹から出禁くらったので、フォドラで生きていきます。   作:エクストラ・バージニアオイル

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オリチャーでいきます。

がんばります。


「おお、混沌。」

 

 

 「黒鷲の学級(アドラークラッセ)の教師になります。」

 

 

 謁見の間に戻ったベレスは、大司教レアの前で決断をする。

 

そう、彼女が受け持つ学級を決めたのである。

 

 

 「しかと聞き届けました。ベレス、あなたが良き教師として生徒たちを導く事を期待しています。」

 

 

ベレスの言葉を聞いたレアは、柔らかな笑みを浮かべながらそう言った。

 

そして、側にいた騎士たちに小声で指示すると。

彼らは謁見の間から退室し、2人の人物とセテスを連れて戻ってきた。

 

ひとりは立派なヒゲとモノクルが特徴的な、いかにも学者といった風体の男。

そして、やたらと肌面積が広い服を着た女だ。

 

彼らがちょうどベレスの斜め前あたりに来ると、男が口を開く。

 

 

 「お初にお目にかかる、吾輩の名はハンネマン。このガルグ=マク大修道院で紋章学者をしている者だ。」

 

 「そしてアタクシがマヌエラ。この学校の教師兼、医師兼、元歌姫をしてるわ。これからよろしくね!」

 

 

と、彼らが軽く自己紹介をする。

 

紋章学者と元歌姫。

変わった経歴を持っているであろう二人組なのであろうが、この場では彼らの事を深く聞く人物はいなかった。

 

 

 「初めまして、ベレスです。」

 

 「はじめまして、メリクです。」

 

 

仏頂面の2人が軽く礼をしながら、挨拶を済ませる。

 

それだけで自己紹介が終わってしまった。

 

あいも変わらず無愛想というか、簡潔な2人。

 

だが、ハンネマンとマヌエラは教師の先輩。

気さくに2人へ話しかけてくる。

 

 

 「ふむ、傭兵をしていると聞いていたが2人とも紋章に興味はあるかね?」

 

 「あんまり。」とベレス。

 「ある。」とメリク。

 

 「おお、メリクと言ったかね。興味があるのは結構!ならば後で吾輩の部屋へ来てくれたまえ!是非とも、君にも紋章があるか見せて欲しい。」

 

 「たぶんないけど、いく。」

 

 

ハンネマンと名乗った学者は存外に紋章に熱を上げているようで、多分持って無い。とメリクが言っても特段がっかりする様子などもなく。

 

むしろ、隠された力があるかもしれないといった探究心からか嬉しそうに頷いていた。

 

 

 「あら、そっちのベレスさんは紋章には興味がないのかしら?なら、歌劇は好き?アタクシ、帝国のミッテルフランク歌劇団の歌姫を務めていたのよ。」

 

 「歌劇は、見たことない。でも興味はある。」

 

 「あら!だったら是非とも足を運んでみて欲しいわ!それとね、今年の黒鷲の学級にはアタクシの後輩が入学しているの。彼女だったらきっと修道院に集まる子達に何か演目をしてくれるかもしれないから、その時にでも歌劇に触れてみて欲しいわ!」

 

 「覚えておく。」

 

 

などとそれぞれ異なる話題で交流を深める事になった2人。

 

 

 「仲良くなれそうで結構。さて、そろそろ私から説明したい事があるのが良いかね?」

 

 

と、レアの隣に立ったセテスがキリの良い所で声を掛けてくる。

 

 

 「このガルグ=マク大修道院の士官学校では毎年、秋になると帝国領のグロンダーズ平原で鷲獅子戦と呼ばれる三学級対抗の大規模演習を行う。これに向けて、今節の終わりに新入生の実力を図る学級対抗模擬試合を実施する運びとなった。」

 

 「説明ありがとうございます、セテス。さてベレス。あなたの教師として初めての大仕事です。やってくれますか?」

 

 

大司教とセテス、そして先輩教師であるハンネマンとマヌエラ。

 

皆の視線がベレスへと注がれる。

 

だが、彼女は緊張の面持ちなどはせずいつも通り、無表情に。

 

 

 「はい、勝ちます。」

 

 

淡々と、勝利宣言をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 「べれす、これからどうする。」

 

 「まず黒鷲の学級に向かって自己紹介。それが済んだら早速、対抗戦に勝つための現状把握かな。」

 

 

謁見の間で勝利宣言をしたベレスはメリクと話しつつ、教室棟へ向かっていた。

 

大司教、そして周囲にちらほらと騎士たちが見える中でこれから行われる模擬戦に勝つと啖呵を切ってしまった手前。

ベレスは1秒たりと無駄に出来ない状況に置かれていた。

 

だが、そんな事もまた杞憂だろう。

 

 

 「べれす、おれがぜんいん、たおそうか。」

 

 「それはちょっと。」

 

 

彼女を守るべく動く褪せ人は例え相手が幾万の手勢だったとしても、必ず全てを倒し切る。

 

これは確定事項であり、彼に一泡吹かせたいなら巨大バリスタがひしめく城砦でも用意しない限り、手傷を負わせる事も難しい。

 

なので、彼の参戦は明らかなズルだと思える。

 

こんな “歩く戦術兵器” と言える男を士官学校の新入生達にぶつけるのは出来レースにも程がある。

 

なので、ベレスが下した決断は

 

 

 「メリク、対抗戦が終わるまでの間。別行動をしよう。」

 

 「え。」

 

 

彼を野に放つ事であった。

 

 

 「べれす、まもれない。」

 

 「士官学校の中なら安全。だから心配しないで。」

 

 「........ゆび、だして。」

 

 

ベレスから離れようという提案への交換条件だろうか、彼女に指を出せと言う。

 

少し首をかしげつつ、彼女がなんとなく左手を出すと。

 

 

 「白い指輪?」

 

 

薬指に、白く輝く指輪が付けられた。

 

 

 「これで、どこにいてもだいじょうぶ。ねんじれば、いつでもかけつける。」

 

 「そう。わかった、必ず助けに来てね。」

 

 

彼は力強く頷いた。

恐らくだが、この指輪は狭間の地由来の物なのだろう。

 

どこにいても駆けつけるというのは信じ難い事だが、きっと彼なら出来てしまう。

 

ベレスは自然とそう考えるほどに、メリクを信頼し始めていた。

 

 

 「それじゃ。学校、楽しんでねメリク。迷子にならないように。」

 

 「うん、いってくる。」

 

 

こうして、言葉を交わした2人はそれぞれ別の方向へと分かれた。

それぞれのすべき事をするために。

 

だが、この2人。どこまでも抜けているというか。

良くも悪くも周囲の目を気にしないからか。

 

ベレスの左手の薬指に輝くその指輪の意味を、きっと2人とも理解していなかった。

 

だからだろうか、生徒らの間で「ベレスは婚約者がいる」という噂が密やかに広まり始め、暗黙の了解として一節が経つ頃には大半の生徒らの認識に定着してしまう事になる。

 

寡黙で美しい傭兵教師へ、淡い恋心を抱いていた新入生は泣いた。

 

 

 

 

 

 「じゆうになった、どこいこ。」

 

さて、ベレスへ悪い虫が寄り付かないようにした事に気づかない褪せ人メリクは校内を散歩していた。

 

使命としてベレスを守ると決意した彼であったが、まだまだ情緒が赤ちゃんなのか。それとも純粋な好奇心が優ってしまったか。

沢山の人と物が集まるガルグ=マク大修道院の様子が彼の探究心を掴んで離さないのである。

 

なので、彼は自分の目に留まったものを片っ端から調べながら校内を回り始める事とした。

 

まず教室棟から、大広間へ。

 

 

 

向かったがいいが、大広間は騒然としていた。

それもそのはず。

 

 

 「ちょ、ちょっとアナタ!?何をしてるの!」

 

 「すごい。つくえといす、ろーりんぐしても、こわれない。(ゴロンゴロン)」

 

 

近くにいた女性騎士の静止を無視。

衆目の視線をを浴びながら、誉高い褪せ人は奇行をしていた。

 

ローリングによって木の机と椅子へ突撃したメリク。

 

何度も華麗な前転を繰り返して机の下を、長椅子の上を、幾度も回転を繰り返して転がっていく。

 

 

 「じゃんぷしても、こわれない。すごい。」

 

 「危ないわよ!?降りなさい!」

 

 

狭間の地には前転やダッシュでぶつかれば壊れる机や椅子ばかりで、ここまで頑丈な木製の机と椅子を見つけてしまった以上は耐久テストをしなくてはならぬという思いがあったメリク。

 

それ故の奇行なのだが、知るものなどいる筈がない。

 

 

 「うわっ!なんだっ!?」

 

 「じゃーんぷ。」

 

 

大広間で魔法学の勉強をしていた生徒の筆記用具が舞う。

 

 

 「何してるんだよアンタ!」

 

 「猟犬ステップ。」

 

 

すかさず、姿を見え隠れさせながらスライディング。

 

今度は高級そうな本と木の像が吹っ飛ぶ。

 

 

 「キャァッ!誰か、騎士団を呼んでっ!」

 

 「たのしい。たのしい。」

 

 

もはや破壊の権化と化したメリクは止まらない。

 

彼が転がり、飛び跳ねるごとに周囲からどよめきと、混乱が生まれていく。

 

曲がりなりにも貴族や、その門弟に仕える立場の人間が集まる士官学校である。

 

こんな蛮行(奇行)をする田舎者、否。

セイロス教の主である天上の女神様もびっくりな、ド級の大馬鹿者が現れる事はまさしく青天の霹靂であった。

 

 

 「すごいすごい、こわれない。あっ...あっちもおもしろそう。」

 

 

混乱に満ちた大広間に騎士団が入って来るのと入れ違いで、メリクはひょいと机から飛び降りて次の場所へ向かう。

 

 

彼が向かった次の場所は...。

大広間を抜けて橋を渡り、大聖堂へ。

 

そこでは敬虔な信徒らが祈りを捧げ、聖歌隊や修道士たちが歌や楽器を奏でている所であった。

 

 

 「なにをしてるの。」

 

 「あら?アナタ、大聖堂に来るのは初めて?今は讃美歌を捧げる時間なのよ。みんなで女神様に感謝する歌を歌っているの。」

 

 「さんびか。おしえて。」

 

 

今度は、歌う事に興味を惹かれたメリク。

 

だが、彼に歌った事などありはしない。

 

強いて言うのであれば...。

 

 

 「歌詞はわかる?あの子達と一緒に歌うのよ、それじゃあ。せーの。」

 

 「スゥゥゥゥ.......ゴアァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!!」

 

 「ピシピシッ、パリィィィィィン!!」

 

 

爆音と共に、メリクの頭部から竜の顔に見えるシルエットが。

 

そして一瞬にして周囲のステンドグラスが吹っ飛んだ。

 

 

 「.....ドサッ。」

 

 (バタバタバタバタ......。)

 

 

あまりの衝撃から、半径10数mにいた信者や修道士らがぶっ倒れた。

 

 

 「あれ。まちがってたかな。」

 

 

哀れ、メリクにとって歌とは音波。

主に歌いながら擬態する狭間の地のコウモリの影響でそう認識してしまっていた。

 

そして、最も大きな音波を出せばいい歌になるのではと勝手に連想してしまった結果。

 

彼が出した結論は、「グレイオールの咆哮」。

己の頭部を竜と化し、周囲一体を衝撃波で吹っ飛ばす祈祷だった。

 

先ほどまで荘厳かつ、美しい音色の讃美歌が聞こえていたはずの大聖堂は恐ろしい程の静寂へ包まれてしまった。

 

 

 「あ、かいふくさせなきゃ。」

 

 

だが、そこは理知的(?)な褪せ人メリク。

 

鼓膜を吹っ飛ばされ、物理的にも吹き飛んで傷ついた周囲の人々への気配りを忘れた訳ではない。

 

すばやく装着しているタリスマンを入れ替えて、黄金樹系祈祷用の触媒を握る。

 

 

 「よみがえれ、【黄金樹の祝福】。」

 

 

片膝をついて祈るような姿勢となったメリクを中心として、暖かな黄金の輝きが大聖堂全体を照らした。

すると。

 

 

 「....うぅ、一体何が...?」

 

 「わたし、気を失って...えぇっ!?そんな、大聖堂のステンドグラスがッ!!」

 

 「お母さん、耳がジンジンするよぉ。」

 

 

光に照らされた民衆たちは、気づくと全員起き上がっていた。

 

だが、咆哮による耳へのダメージはあるようでフラフラとした足取りの人達ばかりだ。

 

そして彼らの意識が戻ると、皆一様にあちこちにガラスの破片が散らばる大聖堂の様子に驚愕していた。

 

 

 「一体何が起こったんだ!?」

 

 「い、急いで大司教様にご連絡を!!」

 

 

あっという間に、パニックへ陥る信徒ら。

 

これでは歌うどころではなさそうだと判断したメリク。

 

 

 「....よし。つぎのばしょいこ。」

 

 

自身の祈祷が原因であわてている彼らの心情などつゆ知らず。

 

メリクは無自覚のまま、次の場所へと混乱をもたらすべく

移動を再開していたのであった。

 

 

 

 

 

一方その頃。

 

 

 「師(せんせい)、どうかしら。私達の実力は。」

 

 「うん。悪くないよ、良く訓練している。」

 

 

自己紹介を終えて訓練場へと移動していた黒鷲の学級一同。

 

彼らはベレスの監督下で現状の実力を見るべく、順番に彼女と一騎打ちをして。

その後、戦闘時の状況想定をしつつ複数人での戦闘訓練をした所だった。

 

 

 「でも、まだお互いの特徴を掴めてない。カスパルは周りを見ずに突出しすぎ。リンハルトは逆に後ろに下がりすぎ。ペトラは集中したら1人の世界に入ってる。それにベルナデッタも....。」

 

 

と、生徒らひとりひとりの現場で改善すべき課題を述べながら、総評をしている。

 

 

 「エーデルガルト様、いかかですか。あの教師は。」

 

 「思っているよりは頭も切れる、といった所かしら。剣の腕はすでに知っていたけれど指揮の才能も予想以上だわ。」

 

 

総評をしている中心から少し離れて、エーデルガルトと側近であるヒューベルトがベレスを値踏みするように囁いていた。

 

 

 「もしも今後の支障になるようでしたら、私がすぐに...。」

 

 「ダメよ。騎士団が嗅ぎ回ってる。事を起こすとしてもまだ早計よ。」

 

 「かしこまりました、ですが不慮の事態があった際は。」

 

 「ええ、独断で動くのも許可するわ。...そろそろ戻りましょう。」

 

 

何かを手引きしているのか、それとも大きな野望でもあるのか。

 

不穏な会話を終えた2人は皆が集まる輪の中へと戻って行った。

 

 

 「ぜぇぜぇ.....べ、ベルもう帰っていいですかぁ!?」

 

 「ベルナデッタ、まだ訓練始まったばかりです。もう一度、反省点取り入れて、再開しましょう!」

 

 「そうよベルちゃん。私も少し疲れたけどちゃんと訓練しなくちゃ、模擬戦で怪我しちゃうわ。」

 

 「いや、僕もそうだけど後衛職だから大丈夫でしょ。でもそろそろ一回昼寝しないと保たないかも...。」

 

 

息切れしながら泣き散らかすベルナデッタと、横から応援するドロテア。

汗を拭きながらも元気が有り余る様子のペトラと。

目が半開きでフラフラとした足取りのリンハルト。

 

4人で一つのチームとして動いていた彼らは体力の差こそあるが、それでもチームワークは生まれつつあった。

 

そしてその隣でも。

 

 

 「カスパル、先ほどの攻撃だが私としては複数方向から同時に斬り込むのが良いと思う。」

 

 「いや、やっぱ正面から全員で突っ込むのが一番だろ!」

 

 「2人共どうかしら、さっきの師から受けたアドバイスを活用できそう?」

 

 「あっ、エーデルガルト!お前も全員で突撃した方が良いと思わねぇか?」

 

 「だからそれではさっきの二の舞になると言った所だろうカスパル!エーデルガルト、君も私と同じ意見ではないかね?」

 

 

合流したエーデルガルトとヒューベルトへ、早速カスパルとフェルディナントがそれぞれ意見を求めて近づいてくる。

 

彼らの場合、反省点を教えてもらったはいいが互いの意見が対立したまま平行線になってしまったようだ。

 

 

 「どちらも意見を曲げられないなら、ひとまずは折衷案を選ぶしかないわ。ヒューベルト、あなたが全体の指揮を。」

 

 「かしこまりました。ではカスパル殿、フェルディナント殿。おふたりは相手の先陣目掛けて突撃を。エーデルガルト様が横から回り込み、挟み撃ちを狙うという策を。いかがですかな?」

 

 

まぁ、それであれば。という具合に頷くカスパルとフェルディナント。

 

こちらも少々我の強い面々が揃ってはいるが、頑固者という訳ではない。

調停役としてエーデルガルトとヒューベルトが挟まることによって上手く機能する事が出来ているようだ。

 

 

 「....どちらも策は練られたようだから、二戦目を始めるよ。」

 

 

 

頃合いを見計らって、ベレスが二組の距離を広げるよう指示する。

 

互いに反省点を踏まえて戦術を固めたのだろう。

嫌々参加しているベルナデッタも、リンハルトも顔つきは真剣そのものだ。

 

そして他の面々もまた、次こそは相手に完勝してやると言わんばかりの気配を纏って構えている。

 

 

 「それじゃあ、はじめ.....」

 

 

 「グオオオオオオオオオオオ........!!」

 

 

開始の合図を送ると同時に、周囲を響かせる程の咆哮が聞こえる。

 

思わず全員が足を止めて、音の出所を向いた。

 

 

 「なななな....なんですかぁ今の!?」

 

 「まるで魔物、雄叫び聞こえます。」

 

 「ねぇ今の大聖堂の方から聞こえてこなかった?」

 

 

と徐々に動揺が広がっていく。

 

 

 「師、様子を見に行った方がいいんじゃないかしら。」

 

 

というエーデルガルトからの進言を受け、訓練は一時中断。

 

黒鷲の学級の面々はベレスと共に大聖堂へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 「ここ、ほんがいっぱい。」

 

黒鷲の学級一同が大聖堂へ向かっている頃、メリクは腹部を真っ赤に染めながら。

 

謁見の間などのある大修道院の二階、図書室へとやって来ていた。

 

 

 「おや?初めまして、もしや新入生の方ですかな?」

 

 

キョロキョロと周囲を見回していたメリクに声をかける人物が。

 

物静かな書庫番、トマシュ老人だ。

 

 

 「はじめまして、メリクです。ここなに。」

 

 「図書室ですよメリクさん。ここはフォドラ各地から集めた様々な本がある部屋なのです。」

 

 「おもしろそう、みていいの。」

 

 「ええ、ご自由にどうぞ。出来ればお静かにご利用くださいな。」

 

 

では、と言い残してトマシュは近くの本の整理へと戻って行った。

 

ひとまず自由に見て良いようだが静かにと言われてしまったメリク。

 

彼はルールに大人しく従う褪せ人なので、お行儀良く行動する事にした。

 

 

 「これよんでみよ。.........読めない。」

 

 

だが、早速障害にぶつかってしまう。

 

彼の出身である狭間の地では、物に籠められたルーンから情報を読み取ったりするのが常であった。

もしくは、簡単な狭間の地での共用文字的なサムシングを用いて、なんとなく情報を理解していた。

 

しかし、このフォドラはどうやら物にルーンを宿らせる事もなく。

知っている文字とは異なる言語が使われている。

 

これでは読もうにも読めないのである。

 

脅威の知力99を誇るカンスト褪せ人であるメリクとて、事前情報ゼロから文字を解読することは不可能。

 

こうなるのであればベレスから予め文字も習っておくべきだったかと後悔した。

 

 

 「あら、あなたは。」

 

 「ん。だれ。」

 

 

四苦八苦するベレスの背後からふと少女の声がした。

 

振り返ってみるとそこには、緑髪のおとなしめドリルツインテールが特徴的な少女が立っている。

 

 

 「もしやメリクさん、ではありませんか?」

 

 「あってる。なんでなまえしってるの。」

 

 「申し遅れましたわ、わたくしセテスの妹の『フレン』と申しますわ。以後お見知り置きを。」

 

 「ふれん。なんでおれのなまえしってたの。」

 

 「随分と気になっていらっしゃいますのね。ふふ、ではお答え致しますわ。それは、こっそり謁見の間でお兄様やレア様が話していらっしゃるのを聞いたからですわ。」

 

 

少し胸を張りながら、驚いたかと言わんばかりの自慢げな表情を浮かべるフレン。

 

 

 「あのときのけはい、ふれんか。」

 

 「まっ!もしや、わたくしが近くにいるのに気づいていらっしゃったの?」

 

 「てきい、なかったからほっといただけ。」

 

 「びっくりですわ。メリクさんは不思議な力を使えるお方かもしれませんのね!」

 

 

フレンの解釈はどうやらメリクを超能力者か何かだと判断したらしい。

 

何か他にも能力がないのかと聞きたげに、キラキラした目線を送ってくる。

 

 

 「もともと。けはいにびんかん。そういうひと、ほかにいるとおもう。」

 

 「他にも?あぁ、そうでしたわ!騎士団には気配にとても敏感な方がいらっしゃると風の噂に聞いたことがありましたわ。もしや気配に気づくというのは、そんなに珍しいことではないのしょうか。」

 

 「しらない。でも、おれのいたところ、みんなびんかんだった。」

 

 

いつの間にか隣の席へ座っていたフレンと他愛ない話をしていたメリクだったが。

 

フレンがふと、メリクの手元にあった本へ目を留めた。

 

 

 「あら、その本は四聖人のお話をまとめた本...メリクさんは歴史の本がお好きなんですの?」

 

 「ふれん、ほんよめるの。」

 

 「ええ、勿論ですわ。わたくし大修道に置いている本でしたら大体は読んでいましてよ。」

 

 「もじ、おしえて。」

 

 

少しフレンの方へ身を乗り出しながら本を差し出すメリク。

 

軽く面食らった様子のフレンであったが、すぐに笑みを浮かべて。

 

 

 「いいですわよ。ふふっ、今日はわたくしがメリクさんの先生になって差し上げますわ。あっ、でもお兄様が来るまででもよろしくって?」

 

 「だいじょうぶ、はやく。おしえてフレンせんせい。」

 

 「フレン先生....ええ、ええ!しっかりと教えてあげますわ!それじゃあまず、最初から読んで差し上げますわね。」

 

 

こうして、フレン先生によるメリクへの個別指導が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 「これは一体...何が起こったというの?」

 

大聖堂へ到着した一同の中で、最初に口を開いたのはエーデルガルトであった。

 

彼女らの眼前には、盛大に割れたであろうステンドグラスを集めているセイロス騎士団。

そしてその陣頭指揮を取るセテスの姿であった。

 

 

 「セテスさん、何が起こったの。」

 

 「ベレス!それはこちらが聞きたい!君の補佐に任じられたメリクがこの事態を引き起こしたと聞き及んでいる。事の経緯を説明してもらいたい!」

 

 

ベレスの表情がほんの少し青ざめる。

それと共に脳内へおおよその理由が浮かんだ。

 

別行動、メリクは狭間の地出身、常識知らず。

 

加えて砕け散ったステンドグラスはセイロス教の総本山たる大聖堂に置かれた逸品。

まともな感性をしたフォドラの住人であればそもそも壊すなどという発想すら浮かぶかも怪しい。

 

あと、さっき聞こえた咆哮。ルミール村でも似たものを聞いた気がする。

 

つまり。十中八九、メリクがやらかしている。

 

 

 「.......。(監督不行き届きかな)」

 

 「ベレス、説明が出来ないというのか。これは重大な.....どうかしたか。」

 

 

混乱のあまりマナーモードになったベレスを問い詰めようとするセテスであったが、側にいた騎士から何か耳打ちされる。

 

すると今度はカッと目を見開いた。

 

 

 「ハンネマンが泡を吹いて倒れているッ!?どういう事だ、早く現場へ案内を!」

 

 「.....!(ついて行こう。)」

 

 「師、私たちも片付けを手伝った方が...師?どこに行くの?」

 

 

大聖堂の清掃に参加する生徒らを置いて、ベレスはセテスの後をついて行く。

 

そして、近くで唯一その動向に気づいたエーデルガルトも彼女を追いかけるのであった。

 

 

 

 

 

 「......(ブクブク)」

 

 「ハンネマン、ハンネマン!しっかりして!」

 

 

大修道院の2階、マヌエラの執務室兼医務室にて。

 

彼女が必死に呼びかけるも、白目を剥いて泡を吹いているハンネマンの姿があった。

 

 

 「何があったのだ、マヌエラ!」

 

 「セテスさん!?大変なの、ハンネマンの様子を見に行ったら部屋の中で倒れていて...急いで連れてきたのだけれど意識が戻らないのよ!」

 

 

などと言いつつセテスもハンネマンを一刻も早く治療すべく、マヌエラと共に介抱をする事になった。

 

 

 「......。(噴水みたい。)」

 

 

さて、こっそりと部屋の外で一連の騒動を聞いていたベレスだったのだがここで一つの事に気づく。

 

 

 「....?(メリクがいない?)」

 

 

てっきりハンネマン先生を気絶させる様なことをしでかして、慌てながらその場にいるものとばかり想像していたが当人はどこにもいない。

 

つまり彼はまだ野放しにされている。

 

 

 「......!(急いで捕まえないと!)」

 

 

一刻も早く騒動の原因を捕まえるべく、ベレスは同じ階にある図書室から調べるため駆け出した。

 

 

 

 「師?おかしいわね、追いついたと思ったのだけれど.....あれはセテス殿に、マヌエラ先生と、ハンネマン先生....!?泡を吹いて、痙攣してる。毒でも盛られた?いや、流石にありえないわね。」

 

 

ベレスについてきていたエーデルガルトも、気絶しているハンネマンを目撃。

 

取り込み中と判断した彼女はベレスを再び探し始めたのだが。

 

医務室の前でふと横を見たエーデルガルトは薄い光に気づいた。

 

 

 「これは....ハンネマン先生の部屋が光ってる?」

 

 

部屋の中央、紋章を調べるために置かれた器具が黄金の輝きを放っている。

 

恐る恐る、部屋の中へ足を踏み入れたエーデルガルトは器具を覗き込んだ。

 

 

 「黄金の輪と、小さいものが動いてる?これって一体....。」

 

 

器具の中で一際大きく光る巨大な金色の輪。

 

その中に何かを見つけたエーデルガルトは目を細めて何がいるの確かめようと試みた。

 

それがハンネマンを気絶させた原因であるとは知らず。

 

 

 「ッ!?な、なにこれっ!あああ...あああっ!!!」

 

 

エーデルガルトの恐怖に満ちた悲鳴が響く。

 

 

 

 

 

 「......!(みつけた!)」

 

 

図書室へ向かったベレスは、フレンと共に本を読むメリクを見つけた。

 

どうやらフレンのおかげか図書室では問題を起こしていなかったようだ。

 

ひとまずこれ以上酷い事が起きる前に彼を確保すべく近づく。

 

 

 「すると聖セスリーンはこう言いました『わたくしがこの戦場にいる全ての人々を癒してみせましょう。』 すると、傷つき倒れた兵士たちが立ち上がったではありませんか。」

 

 「せいせすりーんは....こう.....いいました。」

 

 「お上手ですわメリクさん。あら、そこの字は少し違っていますわ。正しくは....こうですわ。」

 

 「わかった。」

 

 

どうやらメリクは読み書きを習っていたようだ。

一心不乱に手元の羊皮紙へ文字を書いている。

 

それに、10歳そこらの少女にしか見えないフレンの先生役も板についている。

 

ここで邪魔をするのは野暮に感じられた。

 

 

 「.....。(終わるまで待とうかな。)」

 

 

静かに図書室へ入った彼女は、彼らに気づかれないよう部屋の隅へ移動して本を読む事にした。

 

だが彼らの平穏はそう長く続く事はない。

 

 

 「フレン!?一体何を....!!」

 

 

目を見開いたセテスが図書室の前へ立っていた。

 

 

 「お兄様、図書室ではお静かに!ですわ。いかがされましたの?」

 

 「んっ、すまない。だが、いかがも何も無いぞフレン!なぜメリクと並んで本を読んでいるのだ?」

 

 「わたくしメリクさんに文字を教えてあげていたのですわ。メリクさん、とっても覚えるのが早いんですのよ?」

 

 

とは言うものの、大事を起こした張本人であるメリクをこのままにする事はできない。

 

 

 「すまないフレン、私はメリクに急用があって来たのだ。少し彼を借りても良いだろうか?」

 

 「わかりましたわ...でもお兄様、あまりメリクさんを責めないであげてくださいまし。わたくし、まだメリクさんに教えてあげたい事がたくさんありますの。」

 

 「酷い事は何もしないとも、フレン。ただ少し話さないといけない事があるだけなのだ。すぐにでも彼に勉強を教えてあげられるようになるから。」

 

 

優しく微笑むセテスはフレンを安心させるように話した。

 

そして、語るべきことを終えたセテスはメリクへ外へついてくるように促すと階下へ向かうべく歩き出す。

 

 

 「.....。(話すタイミングなかった、急いでついていかないと。)」

 

 

完全に背景と同化してしまっていたベレスも後に続く。

 

 

 

 

 

 

 「さてメリク。まず最初にハンネマンについて、次に大聖堂。最後に、大広間での騒動。ひとつずつ説明をしてもらえるだろうか。」

 

 

お冠のセテスがメリクをハンネマンの近くで直立不動の状態にさせ、お説教を開始していた。

 

当の本人は思い当たる節はないのか目をぱちくりさせている。

 

 

 「ハンネマンはしらない。だいせいどうでうたって、おおひろまは、つくえといす、こわれないことにおどろいてた。」

 

 

それがどうした、と言わんばかりに説明もしてきた。

 

 

 「.....この際、理由については深く問わないでおこう。だが君の行動で周囲の者達やこの大修道院の施設が大きく傷ついている。それをしっかりと自覚したまえ。その上で、君が今取るべき行動は何か分かるか?」

 

 「ぜんぶ、なおすこと?」

 

 「その通りだ。が、人の傷は簡単には癒えない。壊れた物も同様だ。だからこそ、今回の一件は大司教に報告の上で判断を...待て、何をしようとしている?」

 

 

損害の規模からしてメリクは士官学校から除籍される。

 

そう暗に含んでいたつもりのセテスであったが、メリクは特に慌てる様子もなく何かを懐から取り出した。

 

それは倭刀、彼のいた狭間の地では「打刀」と呼ばれる武器だ。

 

 

 「祝福、つくるからちょっとまって。」

 

 

 ずぶり。

 

 とセテスの静止も聞かぬまま白刃を腹へ突き刺した。

 

そのまま刃を引き抜くと、勢いよく吹き出した鮮血が辺りへ飛び散る。

 

 

 「い....いやあぁぁぁぁっ!?」

 

 「メリク!?何もそこまでする事はないだろう!君が傷ついても何の解決にもならん!」

 

 

マヌエラが悲鳴をあげ、セテスが強引にメリクの刃を取り上げようとする。

 

が、しかしすぐに変化が起こった。

床にぶち撒けられた赤い血溜まりがみるみる内に金色の光を放ち始めたのだ。

 

そしてそれらの黄金は、一つへ収束するべく移動をはじめ。

あっという間に「祝福」と呼ばれる光の灯火が生まれた。

 

 

 「できたよ。これでぜんぶもどる。」

 

 

周囲の困惑と恐怖と驚愕をよそに、メリクはあぐらをかいて祝福へと触れる。

 

すると、辺り一帯が闇へと包まれ。

そして気づいた時には何事もなかったように視界が戻る。

 

その代償とでも言うのだろうか、既に祝福は消えてしまった。

 

 

 「これでだいじょうぶ、こっちきて。」

 

 

廊下に出たメリクの目指す先は大聖堂。

 

言われるままについて行くセテス、マヌエラ、ベレスの3人。

 

彼らは言葉を失った。

 

そこにはつい先刻前までの美しい姿をした大聖堂があったからだ。

 

 

 「せ、セテス様!先ほど急に暗くなったと思ったら大聖堂が元に!!」

 

 「こちらも、大広間に散乱した生徒らの私物が手元や机へ戻っています!」

 

 

そしてセテスの姿を見つけるや否や、報告しにやってくる騎士達。

 

彼らの担当していたそれぞれの場所、メリクが暴れて被害を被った場所が元に戻ったと主張するのである。

 

 

 「メリク......君は一体、何者なんだ....?」

 

 「あせびと。」

 

 

辛うじて一言搾り出したセテスへの返答は呆気ないものであった。

 

こうしてメリクが起こした初騒動は幕を閉じる。

 

その後、メリクが暴れた証拠となる物や場所が元に戻ってしまった一連の騒動は「研究中の魔法が暴走した」という事で片付けられたのだが。

 

真相を知るセテス、マヌエラ、ベレス。気絶してるハンネマン。

そして他に2人。

 

この一件を経て、少なくとも士官学校の教師陣には共通認識が生まれることになる。

 

 

 「メリクを絶対に単独行動させてはならない。」

 

 

この認識を捨てる時、それは学校が潰れる時か匙を投げた瞬間にしか訪れないだろう。

 

 

 

 

 

 

 後日。

 

大修道院2階、図書室にて。

 

ひとり本を読んでいたフレンがふと顔を上げるとそこには見知った人物がいた。

 

 

 「メリクさん、お久しぶりですわ!あの後お兄様に呼び出されていた一件は大丈夫でしたの?」

 

 「だいじょうぶ。たぶん。」

 

 

自信無さげな返事だが、どうやら大丈夫なようだ。

と判断したフレン。

 

 

 「でしたら、よかったですわ。では前の続きからお勉強を致しましょう。お時間よろしくって?」

 

 「おねがいします、フレンせんせい。」

 

 

こうしてメリクは再び言葉を覚えるべくフレンの個別指導を受けるのであった。




メリクくんの血は祝福で出来てたみたいです。

さて、教師陣以外にメリクの秘密を知ったのはエーデルガルトと...あと1人は誰でしょう。

続きはどこかでまた。
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