黄金樹から出禁くらったので、フォドラで生きていきます。 作:エクストラ・バージニアオイル
「ベレスよ。ここまでに聞いた限りでは、あの阿呆が捕まる原因となったのは訓練場のようじゃぞ。」
「......。(誰か現場を見た人が訓練場にいたら良いけど。)」
ひとり足早に士官学校の中を歩き、訓練場へ向かおうとしているベレス。
時刻は既に夕暮れを通り越し、微かに地平の向こうへ太陽の光が見える時間。空には一番星が輝き始めている。
いつもであれば夕食を済ませて、蒸し風呂か水浴びをしている筈の彼女が訓練場へ向かう訳はただ一つ。”褪せ人“メリクについてだ。
「ねぇ、あの黒鷲の学級(アドラークラッセ)にいた転入生、さっき騎士の人たちに連れてかれてたよ...。」
「やっぱりか、いつかこうなるんじゃないかと思ってたぜ。前だってさ...。」
途中ですれ違った生徒がヒソヒソと話している。これまで、セイロス騎士に学内で連行されるなどという愚行を犯した生徒など前代未聞ゆえ、既に騒動が広まっているのだろう。
しかし、このままではメリクの学内での立場が危うい。もしも大司教が彼を解放してくれたとしても他学級や関わりの少ない人達からの風当たりが大きくなってしまう。
「.......?(今までのやらかしのせいかな?)」
「この機会に厄介者は追い出すに限る、と思われとるかもしれんの。身から出た錆なのは否定できんじゃろ。」
「.......。(最近は大人しかったよ。)」
「一番最初の印象は消えないものじゃ、親しい間柄でなければ尚の事よ。それを不憫に思うなら疾くあやつを弁護できる材料を揃えねばの。」
「...。(急がないと。)」
「そうじゃの、ん?おぬし。訓練場の前に何やら大声を上げとる童がおるぞ。」
「?」
ソティスに言われ、目を細めるベレス。
薄闇に隠れて見えづらいが確かに。誰かが訓練場に続く扉の前でセイロス騎士相手に何か話している、それにこの声は...。
「....カスパル。」
「だから、アイツは何も知らねぇんだって!悪い奴らの手先なんかじゃねぇよ!!...あっ、先生!いい所に来てくれたぜ!」
「何かあったの?」
「俺、メリクがカトリーヌさんに雷霆見せてもらった時、一緒だったんだけどさ。誰かの体で雷霆が出来てる〜ってメリクが言って驚いちまってさ。でも、そんだけで悪い奴らの仲間かもしれないなんて間違ってるだろ!!」
幸運にもメリク捕獲現場に居合わせた一人であるカスパルの話を聞くことができた。
どうやら雷霆というのは教団の所有する英雄の遺産の一振りみたいだ。これを誰かの体で出来てるなんて言ってしまったメリクは捕縛されても致し方あるまい。
だが、悪い奴らの手先などと言うのはあまりにも話が飛躍しているのではないか。
と、無言のうちに考えついたベレス。
「...........大体、理解できた。」
「ホントか!?それで俺、このセイロス騎士のおっちゃんにメリクをすぐ解放してあげてくれって言ってんだけどダメだって言われてんだよ!先生からも何か言ってくれよ!」
「......。(無言の圧力)」
「見つめられても困ります、先生。自分は巡回しているだけの騎士です。レア様の御意向に反する訳には参りません。」
「待って、大司教が何か言っていたの?」
「流石に敬称は付けられた方が...。ええ、レア様が先ほどメリク氏の処分について協議をする為、彼を保護している区画には立ち入りを制限する、と仰っていました。」
「保護.....。」
やはり、直談判した甲斐はあったのだろう。
名目上でも「保護」と巡回の騎士にも伝えているならば、万一に彼へ暴力的な事をする場合、協議の結果を待ってからでないと周囲の不信感を招きかねない。
ひとまず彼の身の安全は確保できた。
が、それでも時間が迫っている事には変わりない。
「お主、早速そこの童とこの騎士に聞いてみるがよかろう。証言をまとめて大司教を丸め込む材料を整えるのじゃ。」
「.......。(この場合、何を聞くべきか。)」
【→・カスパルが見たメリク確保までの流れを聞く】
【 ・騎士にメリクの所在について問い詰める 】
【 ・雷霆を売ればどれくらいの価値になるか聞く】
【 ・大司教が何歳くらいに見えるか調査してみる】
「カスパル、メリクが騎士に連行されるまでの流れを詳しく説明して。」
「ええっと...英雄の遺産が誰かの体で出来ているって言い始めて、それでカトリーヌさんとフェリクスがすっげぇ驚いてさ、その後に紋章石が心臓で刀身が骨ってメリクが説明し始めたら、騎士の人達が慌てた様子になりながら連れて行ったと思う!」
「騎士のおじさん、カスパルが言った内容は正しい?」
「はい、概ねその通りだと聞いています。あと先生...出来れば騎士の後ろにおじさんを付けないで頂けるとありがたいです...。」
「じゃあ、おじさん。」
「そちらではなく、せめて騎士と...。」
「......。(話の中でカトリーヌさんと、フェリクスが出て来た。彼らからも話を聞いた方がいいかもしれない。)」
【 ・闇雲に校舎内を探してみる 】
【→・カスパルとおじさんに知ってるか聞く】
【 ・今夜の食堂のメニューを聞いてみる 】
【 ・イエリッツァ先生の居所を尋ねる 】
「カスパル、おじさん。カトリーヌさんとフェリクスが何処にいるか知らない?」
「ええと.....確かカトリーヌ殿は確認したい事があると言い残されてから騎士団の本部へ。フラルダリウス氏は『気分が悪い』と言い残されて自室へ戻られた筈です。」
「ありがとう。おじさんは人の呼び方が丁寧だね。」
「ありがとうございます.....あの、そろそろおじさん呼びは辞めていただけると...。」
頑なにおじさん呼びを続けるベレスを嗜めようとした中年騎士がため息まじりに顔上げると。
「速いなぁ先生!もうあんな遠くまで行っちまった!」
「......ジェラルト団長に報告した方がいいかなぁ。」
ベレスは既に米粒ほどの大きさになりながら遠くの角を曲がって行く所であった。
一度彼女に父親であるジェラルト直々にマナーを教えてあげた方がいいんじゃないか?いや、自分が舐められてるだけなのかなぁ。と考えて、少し傷ついてしまう騎士。
誰かに巡回を交代してもらって早く帰りたい気分になるのであった。
だが、今日の彼は本当にツイてないようで。
「...なぁおっちゃん。」
「カスパル君、いい加減におじさんとか、おっちゃん呼びは辞めておくれ。.....どうかしたのかい?」
眉を顰めて遠くを見つめるカスパルが指をさす先。
もはや太陽の光はなく、緩やかに天へ登り始めた三日月が照らす士官学校。
その校内の片隅にある豪奢な石造りで出来た階段と、その上にある浴室から伸びる影の先。
カスパル達から見て丁度死角になる奥へ折れ曲がる角に、違和感を覚える。
「あそこの建物さ、あんなに影が大きかったっけ?」
「ん....?言われてみれば確かに...あぶないッ!!」
「おわっ!?おっちゃん、急に覆い被さってどうし...え?」
咄嗟にカスパルを庇う様に前へ躍り出た中年騎士。
驚くカスパルだったが、その理由を否が応でも知る事になる。
騎士の背中に深々と突き刺さった矢。
それが放たれた影の奥から、いくつもの視線と殺気が向けられている。
だがいつまでも隠れているつもりはないのか、殺気の主はゆっくりと月光の下へと現れる。
その出で立ちは真っ黒なケープに、光を吸い込むほどに黒々とした軽装の鎧。そして月の光に照らされてより異様に見える病的なほどに「青白い肌」をした“ 集団 ”がカスパルを見下ろすように現れた。
その数、およそ10人。一斉に襲いかかってくるかと思われたが、無言のまま校舎内へ散開していく刺客たち。
残ったのは矢を放った人物と、もう1人。合わせて2人。
カスパルをいたぶる様にゆっくりとした動きで矢を、片方はナイフを遊ぶように手の中でクルクルと回す。
「か、カスパル君.....逃げ、るんだ...!」
「バカな事言うなよ、おっちゃんも一緒に逃げるんだよ!」
「毒が....仕込まれていた、みたいだ....体が痺れて、動けない...。」
「毒!?嘘だろ、おわッ!!」
ひゅん、と風切り音がカスパルの耳のすぐ横を通過する。
騎士の体を支えていたカスパルの頭部を狙ったようだ、これを辛うじて首を捩り避ける。が、その矢に乗じて姿を消した刺客が1人。
ぐったりとした中年騎士の体に隠れるように、カスパルの脇腹へとナイフを突き立てるべく回り込んでいた。
「.....。」
「あっ、しまっ!?」
微かな刺客の足音を聞き分け、目線だけそちらへ向けられたカスパルだったが目線だけで止まる程優しい相手ではない。
無情な毒付きナイフがカスパルの臓腑を抉り出すべく振り抜かれた。
「伏せてーっ!!!」
「ッ!!」 「おおおっ!?」
夜の校内へ響き渡る少女の声に身体を強張らせた刺客。その一瞬、中年騎士を力任せに引き寄せて地面へ倒れたカスパルの頭上を、青い輝きを放つ風の魔法「ウィンド」が通り過ぎる。
その狙いは、ナイフを構えて固まっていた刺客。
攻撃にワンテンポ遅れて気づいたようで、防御する間も無く吹き飛ばされる。
「や、やった!カスパル、今のうちに逃げないと!」
「お前は...アネット!助かったぜ!!おっさんが矢を受けちまったんだ、肩を貸してくれねぇか!」
「う、うん!医務室まで運ばなくっちゃ!」
魔法を放った人物は『青獅子の学級(ルーヴェンクラッセ)』のアネット。
刺客が立ち上がる前にこの場から撤退すべく、カスパルと共に騎士を支える。
されどそれをただじっと見ている敵でもなく。
タンッ、タタタッ。ぴゅんっ。
軽快なステップで弓を使っていた刺客が素早く段差を飛び降り、駆け出す。そしてその勢いのまま、毒の矢が放たれた。
狙いは、魔法を扱えるアネット。
騎士を運ぶために神経を割いている所への無慈悲な一撃。
少女の柔肌を突き破り、心臓へ...。
「させるか、よ!!」
物陰から伸びた槍が「きぃん」と小気味よい金属音を上げて矢を弾く。
「えっ、シルヴァン!?」
「怪我はないかいアネット?さっき慌てて走る姿が見えたから何事かと思ったんだが...あの弓を射った人はお知り合い?」
「そんな訳ないでしょ!ねぇシルヴァン、アタシとカスパルで騎士のおじさんを医務室に運ばないといけないの。背中を任せてもいい?」
「おうともさ!誰が相手でもレディの背中は傷つけさせやしない!あ。でも...カスパルくんだっけ?黒鷲(アドラー)の。君の方に敵が行ったらごめんね?」
「おう、体力には自信あんだ!何発だって耐えてやるぜ!」
「ははっ。そいつは頼もしいね。そんじゃ...いっちょやりますか!」
強気に槍を構え直したシルヴァンだったが、すぐにその表情は青ざめるだろう。
「あれ?あのー、アネットさん。敵さんって2人?」
「えっ?さっき魔法で1人吹き飛ばした筈なんだけど...。」
「あぁ、どおりで。とんでもないスピードで追いかけてくるわけだ。二人とも、もう少し早く動けるかー?」
「「これで全力!!」」
「だよなー!ははっ!!....スゥー、フェリクス〜!イングリット〜!殿下ぁ〜!誰か助けに来てくれェ〜!!」
そんな悲痛な叫びを上げるシルヴァンへ一切の慈悲なく、弓使いが幾度もカスパルとアネットへ矢を射かけてくる。
「ちぃっ、はぁっ!」
気合いと共にそれら全てを叩き落とすシルヴァンだったが、それも時間の問題。
気づいた時には魔法を喰らって怒り心頭といった様子のもう一人が2、3歩飛び込めばナイフが届く間合いまで迫ってきていた。
「.....。」
一人はシルヴァンの側面に回り、頭部を狙った鋭い一矢を。
「......。」
もう一人は懐からもう一本ナイフを取り出し、心臓への投擲。それを躱わされた時に備えて、身を屈めた突進の構えを。
「ここまでかっ...!?」
無言のままタイミングを合わせたかのように、シルヴァンめがけて2人の刺客が畳み掛けてくる。これを捌き切るのは今のシルヴァンでは不可能だった。
だが、この必殺の連携が彼に届くことはない。
「当たれっ!」
「っ...!!」
突如。視界外から飛来した矢が、投げられたナイフを弾き飛ばし、そのままシルヴァンの横を狙う弓使いの肩へと突き刺さった。
この奇襲にまた驚いた様子を見せたものの、二度目の援軍に怯む様な刺客たちではない。シルヴァンの懐へ潜り込み間合いを潰し、致命の一撃を与えるべく猛然と突っ込んで来た。
「はあっ!!」
「ぐおっ...。」
今まさにシルヴァンを刺し貫こうとした刺客の脳天へ、すらりと伸びた褐色の足が叩き込まれた。体勢を崩された刺客が石畳を転がっていく。
蹴りを放ったあと空中で回転、ポニーテールを靡かせてシルヴァンの前へ着地した少女。そして弓を構えながら近づいてくる少年が一人。
援軍の正体は。
「ペトラ!?」 「アッシュ!来てくれたの!?」
「助け、間に合う。良かった、です。」
「うん、さっきシルヴァンの悲鳴が聞こえたから。」
「おぉ〜!!恥を捨てて叫んでみた甲斐があったなぁ!」
驚くカスパルとアネット、そしてさっきまでの情けない姿が嘘の様にガッツポーズをするシルヴァン。
彼らを助けに来てくれたのは黒鷲の学級のペトラ。そして青獅子の学級のアッシュ。彼らの援軍によって形成が逆転した。
「なんとなく話は聞こえてました、その騎士さんを運ばないといけないんですよね?」
「私達、ここで追手倒す、します。あなた、カスパルとアネット、ついて行く、してください。」
「これは失礼、自己紹介がまだだったね。俺はシルヴァン!ペトラちゃんの様な美しい女性に危険な役割を任せるわけには....と思ったが、ここはお言葉に甘えるとするよ。カスパル、アネット、とっとと医務室まで行くぞ!って、重っ!?」
「だよな?おっさん太りすぎだぜ!あとペトラ、あんまり無茶すんなよ!ヤバい時は逃げろよ!」
「もー、二人とも失礼だよ!アッシュも気をつけてね!」
3人がかりで中年騎士を押し始めた事であっという間に、大修道院の中にある階段を曲がって上へと登り始めた。
その様子を最後まで警護するように立ちはだかる二人。
刺客らも、手傷を負ったからか無理に攻めようとしてこない。
「ペトラさん。あの人達また攻撃してくるでしょうか...。」
「アッシュ。油断大敵、です。私が前衛、貴方が後衛。構え、崩さないように、集中です。」
「....はいっ!」
警戒を解かず、敵をまっすぐに見つめる二人。
互いに軽く話す事こそあれど連携などした事はないペアだったからか、少し緊張した面持ちをしている。
そのため単純な連携力の勝負であれば、今のアッシュとペトラでは刺客らに太刀打ち出来そうにない。おまけに幾度か攻撃を与えたはずなのに、足取りがフラつく様子も、息が上がっている仕草すらない。相手の体力の底が見えないのも厄介だ。
おまけに相手の武器は毒の矢に、懐にまだ仕舞い込まれているだろうナイフや暗器のストック。これらも警戒しないとならない為、ここは撤退しつつ本丸となるであろう大修道院の上層階に逃げるのが得策。
この戦力差を感じ取っていたか、アッシュとペトラはゆっくりと後ずさりを始める。
「.....。」「.....。」
タンッ、ダダッ。
「「ッ!!」」
二人が逃げようとした仕草に応えるように刺客が、動いた。
既に警戒はしていた為、意識をすぐに攻撃できるよう切り替えたが、相手の方が早かった。
両サイドから二人を挟撃するように走り出し、そして。
「なっ!?」「急に...逃げた...?」
二人に目もくれず、横を通過。そのまま、近くの茂みや建物の段差を利用して素早く逃走していった。どうやら背を射られる事も想定済みだったか、射線の通らない遮蔽物や建造物の裏を潜り抜けてあっという間に姿をくらませた。
「どうにか、なった...?」
「そうみたい、です。アッシュ、カスパル達を追いかける、しましょう。」
「あっ、そうか!警護してるのがシルヴァン一人だけなのを狙って...!?急がなくっちゃ!」
狙いは騎士と避難している彼らかもしれないと踏んだ二人は、すぐさま大修道院の階段を駆け上がり始めた。
その大修道院の周囲、士官学校のあちこちから緩やかに。怪しげな煙が狼煙のように立ち上り始めていたのであった。
ボヤ騒ぎでもなければ、何かの合図でもないその煙が、嫌に静まり返った大修道院を覆い始めていた。
一方、少し前に遡り...。
「カトリーヌさん、いる?」
「ベレス先生、どうかされたのですか?」
カスパルと中年騎士の元を離れたベレスは、職員用の宿舎がある隣、騎士団の詰め所へとやって来ていた。
中では騎士らが各々の巡回路を確かめたり、兜を脱いで休憩する者や、武器を研ぐ者など各々が普段通りに時間を過ごしている。
そんな詰め所の奥、大きなテーブルと本棚があるスペースに難しそうな顔をしたカトリーヌと、古株と思しきシワの深い顔つきの老騎士数人が雷霆を囲んで何やら話し込んでいた。
「お邪魔します、カトリーヌさん。」
「ん?ああ、先生か。今少し手が離せなくてね。」
「うん、皆さんが囲んでる雷霆の事で少し聞きたい事が。」
『雷霆』という単語を耳にした騎士らはベレスの方へ首を向ける。向けられた視線からは、何か新しい情報でもないかといった雰囲気を感じる。
「メリクが言った件についてなんだけど、詳しく聞きたくて。」
「アイツが言ってた事を聞きたいってことは...大体何があったかとかは分かってるって事でいいか?先生。」
「うん、メリクが捕まったからその弁明をしたくて。証拠集めをしているの。」
「証拠集めね.....だったら一つこっちからも聞かせてくれよ。」
「?」
彼の証言と交換だと言いたげに、カトリーヌが真剣な顔つきになって聞いてくる。
「メリク、アイツは英雄の遺産について何を知っているんだ?」
「.....。」
相当に気になっているらしい。雷霆ではなく英雄の遺産そのものをどれ位メリクが知ってるか聞かれてしまった。
恐らくだが、メリクは狭間の地で身につけた力なんかで英雄の遺産が持つ特性なんかを見抜いているのではないか。いや...だとしても確証がない。
それに生半可な事を言えば自分の立場も危うい...何と言うべきだろうか。
【 ・何でも知ってるんじゃない? 】
【 ・狭間の地じゃ常識なんだよ。 】
【 ・この前大司教の部屋で本読んだって。】
【→・...あれはメリクがまだ幼い頃(大嘘) 】
神妙な顔つき(真顔)でベレスが語り始めた。
「前にメリクが一度話してくれた昔話なんだけれど。(大嘘)」
「へぇ、聞かせてもらおうか。」
「彼の故郷、狭間の地では英雄の遺産に似た武器があったんだって。神様が作ったその武器は世界各地に存在して “デミゴット” と呼ばれる英雄達が使っていたらしい。(知ったかぶり)」
「デミゴット...それで?」
しばしの沈黙。
「......その武器。それを動かすには ”大ルーン“ と呼ばれる紋章の力が必要になっていた。(苦肉の策)」
「ッ!!紋章....大ルーン....!」
どうやら何か引っかかる部分があったみたいだ、話半分に聞いてたカトリーヌの目つきが変わる。
「......大ルーンはデミゴットの血に宿っていたけれど、ある時。デミゴットを倒す反逆者が現れた。(新設定) そしてデミゴットを殺して大ルーンを奪った。」
「紋章を、殺して...奪った!?」
「そう。(迫真).....そして大ルーンを奪った反逆者は英雄の遺産(仮称)を手に入れ、その力を振るおうとしたんだけれど...。」
「.....どうなったんだ?」
必死に作り話を考えるベレス、本人としては必死に今までメリクと話している中で登場した狭間の地に関する知識を寄せ集めているだけなので、次の瞬間には話が破綻しかねないと戦々恐々。
そんな気持ちとは裏腹に周囲の騎士達も気付くと話に聞き入っている。
もう引くに引けないうえ「多分ね。」なんてお茶濁しも通用しなくなってしまった。
ごくり。と喉を鳴らして、ベレスは話を続ける。
「暴走してしまった。」
「暴走....!?」
「そう。我を忘れて暴れ狂う戦士になってしまった。」
「それじゃまるで....。」
魔獣に...?いやその前の段階か...?
などと周囲にいた幾人の騎士から何か知ってるような反応が漏れる。
「そして反逆者の仲間達がどうにか倒す事に成功したけれど、何故そうなったか調べる事にした。すると....。」
「「「すると....!?」」」
「なんと、デミゴットの祖先が武器の素材だった事が分かった。詳しい事はメリクも説明してくれなかったけれど、デミゴットの遺体に武器を近づけると共鳴したのだとかで...。(大嘘)」
「「「そんな事が!?」」」
「それで...こんな事を知ってるのは......メリクが反逆者の末裔だったからなんだよ。(自己解決)」
「「「な、なんだってーッ!?」」」
「うん。(現実逃避)...メリクは狭間の地からこっちへ来た時、向こうの世界と似た武器が無いか探してた。(多分) そしてようやく見つけた英雄の遺産が、これ以上悲劇を生まないために全ては語れなくとも...どんな物なのか知って欲しかったんだよ。(暴論)」
もうここまで来ればヤケクソだった、後でメリクと口裏を合わせなければどうなるかなど考えたくもない。
「アイツの生い立ちがそんな大変なものだったなんて...。」
「うん。(遠い目)......だからきっと、特に英雄の遺産を振るうカトリーヌさんには少しでも知って欲しかったんじゃないのかな。武器の由来と、その代償を.....。(適当)」
「口下手なヤツだったとは思ってたが、そんな大事な事を伝えようとしてたのかよ...なぁ先生。」
「?」
一通り良さげな話をでっち上げられて一安心したベレスにカトリーヌが語りかける。
「そんなに知ってたんなら、アンタの口からレア様に今の話を伝えればアタシらに何があったかなんてどうでも良かったんじゃねぇのか?」
「..................,..私一人だけじゃ不十分。皆に知ってもらって、皆から見たメリクの印象があって、初めて大司教にご報告できると思ったから。」
「全く、アンタもつくづく真面目でお人好しなんだな。分かった、アタシが覚えてる限りの事を全部話すよ。」
こうしてカトリーヌから一通り訓練場で何があったかを聞いたベレスは礼を言って騎士団の詰め所を出た。話を聞く限り、フェリクスは最初こそ興味ありげだったようだが遺産に使われている体の部位を説明しだしてから気分が悪そうにしていたらしく「そっとしてあげた方が良い。」のだそうだ。
結局、メリクは最初から捕まるまで一貫して「英雄の遺産が誰かの体をベースにして作られている事と詳細な部位の解説&効果」を説明していただけだったようで、ベレスが補完したカバーストーリー(嘘)との齟齬もなかった。今のところは。
これ以上メリクが余計なことを話す前に口裏を合わせるべく、大司教がメリクを捕まえているであろう大修道院の上層階へ向かって歩きだす事にした。
「のうお主、ふふ...あそこまで弁が立つなら作家として物書きとなる方が、ぷっ....教師より向いておるのではないかのぉ?」
「......。(もうこりごり。)」
先程まで黙っていたソティスが笑いながら茶化してくる。
いつ法螺話がバレるか分からない状況でげんなりした(真顔)様子のベレスには既に幼女を怒る気力など残っていなかった。
だが、このまま大修道院の建物内に入るならば巡回や警備をしている騎士達に止められるのは想像に難くない。また何か言い訳を考えておかなくてはならない事にため息が出た。
「ベレスよ、気づいておるか。」
「....!(校舎のあちこちから煙...!)」
「うむ、じゃが火事などではあるまい。疾く向かうのじゃ!」
詰め所から中庭を通った時に見えたいくつかの煙が、月光に照らされて一際不気味に揺らめいている。
恐らく最も近いものは、この大修道院の入り口にある市場。
本来ならまだ警備を受け持っている騎士達や商人、ガルグ=マク周辺の住人達が行き来する声や音が聞こえるはずだが、不気味な程に静かだ。その違和感を感じ取った時には既にソティスが言うが早いか、剣を抜いて走り出していた。
中庭から食堂と隣接している玄関ホールを駆け抜け、少し開いている門をすり抜けた先に市場の光景が飛び込んでくる。
「これは.....なんという事じゃ!!」
「.......。(眠らされてるみたい。)」
市場にはまだ何人もの人達がいるのだが、全員が眠っているという異様な状況が広がっていた。
原因はどうやら床に散らばっている見た事のない紫色に光る鉱石。
その石が音もなく煙を放出しているみたいだ。
「ッ!ベレスよ、門の外から何か近づいておるぞ!」
「......?(一台の、馬車...?)」
そんな、誰も彼も寝息を立てている市場へ向かってくる荷馬車が一つ。
布で覆われているので積荷は見えないが、かなり大きい。もしもアレがこの事態を引き起こした奴らの増援ならば.....最悪の状況になる。
少なくとも1人ではこの窮地を乗り切れない。
どうにか、今の状況を誰かに伝えなくては。
「......!(これだ!)」
「むにゃあ....本日もぉ、異常ありませぇ....すぴぃ。」
ギュッ、ブオンッ。
「ガァンッ!!!!!」
手近なところに眠ってたガルグ=マク大修道院名物の門番。
彼の兜を少し持ち上げて力強く剣の柄でぶっ叩くと、大きく身体を震わせ飛び起きた。
「ほえぁっ!?え、えっ!先生、あれ自分は....あ、寝てしまって!?」
「大きい音出る物、使って。早く。」
「あっハイ。」
雑に起こし、雑に指示を与えたベレス。だが門番もただの門番ではない。素早く腰の辺りから真鍮で出来たラッパを取り出すと、勢いよく息を吹き込んだ。
プワァァァァァン!!!
「...な、なんだぁ...?」「ふわああ....アタシ寝てた...?」
頭の芯までよく響く音色が市場へ響くと、眠っていた人々の幾人かはムクリと起き上がった。まだ寝起きで状況が読み込めていないものの、これで人手は確保できる。
素早く寝ていた人達に駆け寄ると、近くにいる眠ったままの人達を抱き起こしていく。門番も手伝いつつ、起きたばかりの周囲にいる人達も何か大変な事が起きていると察知してか手伝い始めた。
「門番さん、起きた人達と一緒に眠ってる人達を連れて市場から避難。玄関ホールの門も閉じて籠城しておいて。」
「え、ですがそれでは先生がお一人だけに...?」
「さっきの音で多分騎士団が来てくれる。少し時間を稼ぐだけ。」
「しかし!!」
頑なに一人で戦おうとするベレスを留めようとする門番。だが既に先程の門番が出したラッパに反応してか荷馬車が速度を上げている。本当に敵の増援だったらしい。
あと1分とかからない内に市場へと入り込んでくるだろう、既に迷っている時間は残されていない。
「先生、あなたを犠牲にする事など門番として出来ません!」
「いいから、言う通りに...!」
「ベレス、問答は終いじゃ!来るぞ!!」
市場にいたほぼ全ての人達をどうにか玄関ホール内へと退避させられたが、眠ったままの者が想像より多い。幾人かセイロス騎士も居るがまだ意識がはっきりとしないまま戦うのは無謀だ。多少なりと回復してからでなければ、むしろ余計な犠牲が増えてしまう。
今戦えるのは、ベレス一人を置いて他にはいない。
話を切り上げて強く門番を突き飛ばすと、市場へとやって来る馬車へ駆け出した。
「先生ッ!!」
「.....。(ごめんね門番さん、後で幾らでも謝るから。)」
「先生ーっ!!」
「.....?(声が違う、誰?)」
後ろを振り向くと、そこには数人の生徒らが走ってきていた。
「師(せんせい)。私達を頼らないなんて、どういうつもりかしら!」
斧を担いでやって来る、エーデルガルト。
「ククク...私としても心外ですな。」
いつも以上に胡散臭い笑みを浮かべる、ヒューベルト。
「皆の力を合わせて戦おう、先生!」
誰の血か分からないが紅い槍を構えている、ディミトリ。
「あまりご無理なさらぬよう...殿下。」
頬に誰のか分からない返り血がついている、ドゥドゥー。
「あの...私は足手まといになるんじゃ...。」
オドオドした様子で周囲を伺っている、マリアンヌ。
「ぼ、僕も足手まといになると思います...。」
マリアンヌに負けず劣らずといった様子の、イグナーツ。
たった一人で戦おうとしていたベレスの下へ、気づくと6人もの生徒が馳せ参じてくれた。
これならば。
「皆、身の安全は保証できない。それでも、私を信じてくれる?」
「「勿論よ(だ!)。」」
「「我が主(殿下)の仰せのままに。」」
「「は...はい。」」
それぞれ、熱量こそ違えど意思は確かにある。
それをしかと受け取ったベレスは緊張の解けた目線で、荷馬車へ向き直り。
改めて剣を構えた。
「いくよ、皆。」
夜の大修道院を守るべく、7人の防衛戦が始まる。
かなり更新遅れて申し訳ないです、私事が色々ございまして(弁明)
また頑張って頻度上げてくのでよろしくお願いします。