ゼンゼロのストーリーをやったけど、シーシィア思ってたより良いキャラしてた。
「───うひゃぁぁぁぁぁあぁっっ!!?」
どうして…こんなことになったんだろう……コテハン名『黒犬監督』こと、イリース・ホワイトはふとしたようにそんなことを考えた。
いや、確かに零号ホロウに入ったのは悪いと思っている…完全無欠の超絶危険地帯、法的機関やら何やらがこぞって入ることを禁じた前人未到の災害のド真ん中、入ろうものなら命の保証なぞ明後日のその場所に無断で入り込んだ…まぁ、知られようものなら手錠からの連行は筋というものだろう。
イリース・ホワイトはコテハン名が示す通りの監督である、より正確に言うのならば映画監督…犬のシリオンで黒いモフモフ尻尾がトレードマークの正しく黒犬監督そのままの存在なのである。
普段は部屋に引きこもって映画の構成を練り込むか、現場に出て俳優の演技やら周辺の環境やらに口を出すのが仕事である、本人はその仕事が好きである為かそれら文句を持ったことは殆ど無い…なお、トラブルやら何やらに関しては例外とする。
そんな彼女が何故にこのような場所に訪れたか…これは先の掲示板の内容にもあったように映画の為である、具体的に言うならロボットVS怪物の類を作るためのインスペレーションの為と言っても良い。
怪物を作るのであれば、実際にその手のモノを観察してアイディアを捻り出した方が良い…そんなふとした思考から即決でこんな場所へと彼女は飛び出してきていた…行動力の化身とはこの事である、その迅速な対応を何故自分の思考を顧みる事に当てなかったのか甚だ疑問である。
実力にはそれなりに自身があった…掲示板の仲間でも特に実力の高い二人に指導を付けてもらって、実際何度かホロウにも出入りした末に脱出にも成功している…正直に言おう、イリース・ホワイトはイケると思っていた…というより、実際イケた。
行ってただ帰る…これくらいなら出来ただろう、それくらいの実力はある…ただ、問題だったのは───
『初めまして、私達は対ホロウ特別行動部第六課です…その場から動かないで、こちらの質問に速やかに答えてください』
よりにもよって、偶然零号ホロウ内にて任務に就いていたらしいホロウ六課と鉢合わせてしまったことである。
イリースは驚いた、それはもう驚いた、人生で一番驚いたと言っても良い程に驚いた…具体的には、声を掛けられた瞬間に奇声を上げてしまうくらいには。
ホロウ六課の名前は新エリー都内では有名だ、世情に疎いイレースでもその名前は耳に入ってきていたし、顔だって知っていた…ただし、詳しい活躍は知らないものとする。
まぁ、兎にも角にもそのような経由でバッタリと遭遇してしまったイリースはそれはもう混乱した…ホロウ六課の月城柳の質問にはまともに答えられず、あぁでもないこうでもない言い訳にもなっていない言葉の羅列をただひたすらに早口で並び立てるということを大凡五分ほど繰り返した…結果───
『───なるほど……ひとまず、本部までご同行願いましょう』
ご同行…その言葉が聞こえたその時点で、イリースは回れ右で逃走を選択していた。
理屈なんて無かった、捕まったらインスピレーションどころか映画すら作れなくなる…そんな傍から見たらアホなんじゃないかと言わんばかりの優先順位を脳内で組み立てた末にイリース・ホワイトは逃げの一手を選択したのだ。
幸いなことに顔は見られていなかった…フードを被っていたし、そもそも覗かれても問題無いように作られた代物だったからだ…XIII機関をモチーフにするなら顔が見えちゃいけないでしょ…とは、誰の言葉であっただろうか。
そうして、逃げの一手を選択したイレースは現在───
「───ちょぉっ!? 死んじゃう!? 死んじゃうってぇぇっ!!? 生身の人間にそんな物騒なモノを振り回していいと思ってるのぉぉッッ!!?」
悲鳴を上げながら、全身全霊で逃げ回っていた。
刀を振り被る狐耳の女性…星見雅の一撃を飛び跳ねるように躱したイレースは悲鳴にも近い文句を垂れ流しながら必死に形相で足を動かしていた。
光が駆ける、残光が瞬く…そう認識したその瞬間には、既に星見雅はその刃を振るっている。
振り抜かれる斬撃を咄嗟に身体を屈めてやり過ごす、頭の上を通り過ぎていく斬撃がチリっと犬の耳を掠めたような感覚に声にならない悲鳴が漏れた。
帰す刀でそこから振り下ろされる斬撃、振り抜いたと思ったらもう既に振り下ろされているという意味の分からない立て直しの速度に最早イリースは泣きたい気分だった。
バンッと地面を叩いて回転しながら飛び跳ねる、曲芸のような動きを見せながら地面へと着地した彼女はそこから直ぐ様方向を転換、あからさまな逃げに再び突入する。
地面を踏み締め走り出す、地面に罅が入るほどの踏み込みと共に駆け出したその初速は星見雅を以ってしても感嘆に値する程の代物だった。
───…速いな……反応も良い。
雅自身も駆け出す、踏み出すと同時に青い残影が奔り、ほんの一瞬の空白の後に星見雅はイリース・ホワイトの眼前へとその見を晒す。
ヒッ…と、イリースの喉から掠れ出た微かな音、最早同じ人間とは到底思えぬ程の圧倒的なまでの格差を前にイリースの本能が悲鳴を金切りあげた。
イリース・ホワイトは臆した、ならばここで茶番は終わり───
「───…やはり」
そうはならないから、星見雅は眼前の存在に感嘆を抱いたのだ。
振るわれた斬撃、放たれた至高の一閃…それを、その格差を前に臆したイリースは、ズガンッと足を踏み鳴らした。
目の前を通過する青白い刃、炎のようなモノを纏っているように見えたソレに流れ出る冷や汗は、正に死を目前にした人間のソレだった。
躱された…足を踏み鳴らすと共にブレるように二歩から三歩分背後に下がった眼前の黒尽くめ、意識を刈り取るつもりで放った一撃を再び躱された雅は、内にて構築した目の前の不審者への評価を絶対のものとする。
───反応速度が良いことに加えて、見切りの精度も高い…全力でいかねば初速に任せて逃げられるか。
純粋な速度は完全に此方側が上、見切りの精度も恐らく此方側が上…だがしかし初速に限っては向こう側に分がある。
このまま逃げに徹されれば最終的に逃げ切られる可能性がある…僅かな時間での鬼ごっこではあったが、雅は目の前の黒尽くめにそのような評価を下した。
イリースは気付いているのだろうか…今この場にいるのは雅とイリースのみで、他三名は遥か後方に存在することを…イリースを追跡するに当たって、最早雅以外では追いつけていない事実に。
───うぇぇぇぇッ!! 誰か助けてよぉぉぉっ!!!?
気づいているわけがない、そもそもこうして逃げ回ることも戦闘によるゴタゴタによる経験も少ないイレースがそんなことを知覚出来るわけがない。
忘れないでほしい、イレース・ホワイトは映画監督である、断じて今こうしてやっているようなことが本業ではない、なんだったら副業ですらないのだ。
内心で泣き言をあげながら掲示板に必死に助けを求める文章を送りつけるイレースと、改めて本腰入れてイレースの捕縛しようとする雅…逃げと追いが再び始まろうとしていたその中で…ふと、その音は響く。
「───えっ…?」
呟いた疑問の声、イレースの口から漏れ出たソレに雅の耳がピクリッと反応する…その直後、獣が如き咆哮が…そうと勘違いしてししまいそうな程のエンジン音がけたましく鳴り響く。
宙へと飛び出す漆黒の車体、太陽を真上から浴びて大地に影を落とす一つの車両…鳴り響くエンジン音を靡かせて、落下と共に大地を擦り付けた漆黒の鉄馬が火花と共に現れる。
援軍の到着…その瞬間のことだった。
黒犬監督について
兎に角逃げの性能が尋常じゃないタイプのキャラクター、逃げに徹せられたら雅さんでも手こずるし、苦戦する。
ただし、戦闘に入ったらそこら辺の特筆点が消える。