新エリー都のお馬鹿達   作:富竹14号

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 サブタイトル=小人の心中です。



お前が逃げてくれないと俺が逃げられねぇんだよ!!

 

 

火花が弾ける、鉄の音を金切り出して激突した互いの刃が虚空にオレンジ色の灯火を作り出す。

 

 

 交差、交差、交差、交差…何度目か、何度目であったか、互いに獲物を振るい振るわれを繰り返した両者は次の瞬間には更なる一手を繰り出している。

 

 

 頬を掠める青い炎を纏った刃、肩口を掠める大振りの大鉈…繰り出される斬撃を防ぎ、流し、躱し、そこから一息一歩踏み込みながら反撃を行う…それを超速度で繰り返す。

 

 衝突する度に響く高い鉄の音、それが数え切れない程の数と速度で以て応酬を繰り返す…星見雅の冷たい眼差しが小人を捉え、その瞳に小人は小さく舌を打った。

 

 顔面スレスレを刀が通過する、掠るか掠らないかのギリギリを通り過ぎていったその刃…それが、突如としてのその腹を返し、刃を己の方向へと向けてくる。

 

 刀を大鉈で受け止める、ガツンッと響いてくる衝撃と重さ、その細い物体の何処からそんな重さが出てくるんだと問い質したくなるが、割と良くあることなので聞かないでおくことにする。

 

 

 大鉈の峰に腕を据え置き衝撃を受け止める、僅かに受けた方向と逆の方向へと引き摺られた足の感覚がそれがどれほどの一撃であったのかを示していた。

 

 

 

 一撃を受け止めて、はいそれで終わりです…とはならない、目を休めることも一息を付くことも許されない、次の瞬間に別方向からの斬撃が迫り来ている。

 

 

 

 上からの大上段の一撃、それを横から弾き逸らしたそのまた次の瞬間に更に斜め上からの斬撃が襲来する、止まることなく自身を襲う斬撃の嵐とでも呼ぶべき連撃に知らずの内に小人は…シザーマン(仮)こと『糸切(いときり)(つむぎ)』は息を呑んだ。

 

 

───聞いてはいた、聞いてはいたけどッ…!!

 

 

 刀が腕を掠める、振るった大鉈を紙一重の領域で躱されたと思えば気がつけば刀が振るわれている、認識した時点で間近に迫る刃を必死の形相で躱しながらなんとか反撃の隙を見つけて差し込みこそするが…それも何時まで持つやらという話である。

 

 

───星見雅…これほどかっ!!?

 

 

  最年少の虚狩り、歴代星見家最強の剣士、作中通して常に最強の座に位置する正真正銘のバランスブレイカー…仲間内に聞いていたその話に少し話を盛っているのではないかと思いこそしたが…それが間違いであったことが思い知らされる。

 

 振るった大鉈が弾かれる…どころか、真っ直ぐと切断される…青い痕跡を残して綺麗な断面と共に二つに分かれた大鉈が紡の横目の視界を通り過ぎていく。

 

 そこへと振り抜かれる星見雅の居合斬り…刀を鞘に収め、そこから自身目掛けて抜刀と共に振り抜く…それら一連の動作を瞬きすら億劫になる程の速度にて済ませたその一撃が紡目指して襲い掛かってくる。

 

 

 視界に広がる青色、青い軌跡を描き残しながら美しいまでの流動を以て振るわれる居合斬り…その一種、死の象徴とも言えるような一撃を前にして、紡は───

 

 

 

「───ッッッ!!!」

 

 

 

 歯を思い切り噛み締めながら、その袖口から紅い何かを取り出し、振るわれた刀目掛けて広げ、突き出した…ソレは、糸だった。

 

 

 さしもの星見雅もそればかりは予想の外にあったのだろう、真っ赤な糸を無数に束ねた糸の塊とも言うべきものが自身の斬撃へとまるで盾のように広げられている…その事実に雅の瞳は見開かれ───

 

 

───斬る

 

 

 

 しかし知ったことかと、躊躇無くその刃は振るわれた。

 

 ガギィンッと響く鉄音、糸から鳴ったにしてはあまりに硬質に過ぎるその音はしかし、次の瞬間にはプツンプツン、バリバリバリバリとまるで張り詰めた糸のように容易く切れていく。

 

 

 

 最初は軽かったその音は次第に重く、ブチブチッと布を千切るような音へと変わっていく、突き出した糸の塊…否、糸の盾が紡の目の前で次へ次へと言わんばかりに此方へ此方へと突き進んで来る。

 

 

「ィィッッ!!」

 

 

 歯を食い縛る、これが防げなきゃ死ぬ…ことは無いにしても捕まる、捕まったら世話になってる人達に迷惑が掛かる…それは困る、だから必死になる。

 

 

 

 秒数に直すならきっと数秒にも満たない、振り抜かれた斬撃が糸の盾に振るわれたのもそれが次から次へと削り取られてゆくのも、そこまでの時間は掛けていないのだ。

 

 

 

 だから、これは一瞬の出来事なのだ。

 

 

 

 

 

───ガンッ!!

 

 

 

 

 

 瞬間、紡の頭に何かが叩きつけられた。

 

 

 頭痛、横側から響いてくる鈍痛音、頭の中が揺れてとキーンっと耳元にノイズが響いてくる…半ば本能的に痛みの発生した方向へと視線を向けた紡は即座に何があったのかを理解する。

 

 

 そこにあったのは黒塗りの鞘、無数の改造が施されているのだろう星見雅の刀、その鞘の姿…それが、星見雅の片手に握られ、振り抜いたような体勢で維持されていた。

 

 

 即ち…紡は、雅に鞘で殴打されていたのだ。

 

 

 

 

───してくるのか、この人そういうことっ…!?

 

 

 

 内心で驚愕を発露する…あり得るかあり得ないかで言えば断然あり得ることではあるのだが、仲間内から星見雅の事を聞かされた際に純粋な剣術で細切れにしてくるという話ばかりを聞かされてきた紡は無意識の内に、星見雅は小手先を使わないと思い込んでしまっていた。

 

 その結果がこれだ、モノの見事に食らってしまった、体勢が崩れて盾が緩む、強く張ることで辛うじて盾としての機能を保っていた糸の盾が…そして、その瞬間を星見雅は見逃さない。

 

 

 拮抗が崩れた、押し込みやすくなった…そう認識したその瞬間、未だ盾によって堰き止められていた刀を雅は一気に振り抜いた。

 

 

 最早そこには音が存在しない、在るのはただただ斬られたという現実だけ…星見雅の刃を辛うじて堰き止めていた糸の盾は音も無くその役目を終え、そしてその防いでいたモノは真っ直ぐと行先目掛けて突き進む。

 

 

 

 刀が紡の肉体へと届く…咄嗟に背後へと跳びはしたがそれも正直微妙であった。

 

 

 

 斬られた…鮮血が宙を舞う、原初の紅が視界の中に映り込む。

 

 

 

 たたらを踏んで背後へと下がる、ビチャビチャッと地面へと落ちていく紅い液体、胸付近を斬られたことによる激痛と糸の盾を破られた際についでと言わんばかりに斬りつけられた左手の掌の感覚が妙にしっくりこない気がしてならなかった。

 

 

 致命傷か、致命傷でないかで言えばまず間違いなく致命傷ではない…致命傷にならないように配慮したのか、それとも背後に跳んだことで狙いがズレたのか…恐らく前者であろうその中で、糸切紡は思い切り歯を食い縛った。

 

 

 

 痛みに耐える為…違う、そんなのではない……では、何故なのか……それは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

56:黒犬監督

 

 

 

 うっひょぉぉぉっ!!! 雅さんのリアルバトルすっげぇぇぇっ!! これはキチンと録画しておかねばっ!!

 

 

 

57:白猫治安官

 

 

 

 ねぇもう止めなって!! ニキが時間稼いでくれてるんだから早く逃げなって!!! これじゃあニキ達が来た意味無くなっちゃうよっ!!?

 

 

 

58:黒犬監督

 

 

 嫌だっ!! ニネヴェが取れなかったんだからせめてこれだけは取っていくもんね、ロボモノには要らないかもしれないけど、次のアクションモノにはコレは使えるはずだ!!

 

 

 

59:白猫治安官

 

 

 いやそういう問題じゃなくて…ねぇ、今LIVEで観てるけどニキ危なそうだよっ? このまま続いたら捕まっちゃうかもよ? 良いの? そうなったら君も捕まっちゃうかもよっ?

 

 

 

 

 

60:一般通過アイドルオタク

 

 

 言っても無駄だって猫ネキ…そんなマトモな意見を顧みるような奴ならもうとっくに逃げてたんだから…というかこうしてその場に留まってる時点でおじさんの説得もガン無視してるのが目に見えてる……やっぱこいつ助けない方が良かったのでは?

 

 

 

61:兎伯爵(笑)

 

 映画が関わると人の心無くなるもんねクロちゃん…部下とか俳優…というかゼンゼロ世界の住人には優しいけど、あたし達に対してはそもそも人間と思っているか怪しいもんねぇ〜……さっきまで泣きながら助け求めて来てた奴とは思えないような態度だぜぃ。

 

 

 

62:便利屋おじさん

 

 

 …ねぇみんな…これ、どうすれば良い? 殴り倒して無理矢理連れて帰れば良いのかな?

 

 

63:一般通過アイドルオタク

 

 

 それだと反省しないから両腕へし折ればいいんじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 頭の中で繰り広げられるそんな茶番劇、何時まで経っても逃げる気配が感じられないなと思えば、まさかまさかの理由に呆れてモノも言えない…否、寧ろそれを通り越していっそ思考が冷めきってしまう類の代物だった。

 

 

 アレから随分とあの場所から離れた…あの一撃を防いだ後に、なんとか距離を離そうと四苦八苦しながら戦闘を続け、どうにかこうにか雅が勘付かないギリギリのレベルの距離にまで持って来れた……それに対する仕打ちがよりにもよってこれである。

 

 

 ため息が漏れ出た…冷たく、重く、流れる血液のことも忘れて静かに、ただ静かに天を仰いだ。

 

 

 

 ジャキンッと袖口から武器が降りる…二刀の小太刀、十手のような形状をして紅い線の入った刀身が特徴的な小太刀…まだあるのかと刀を構えた雅に対して、しかしまるでそこにいる事を忘れたかのように紡は明後日の方向へと歩き出し、数歩進んだ所で止まった。

 

 

 

 息を吸う…吐かずに、吸い上げ吸い上げ吸い上げて、それを肺いっぱいに取り込んで、まるでその心中を示し出すように小太刀を思い切り握りしめながら…吐き出した。

 

 

 

 

 

「───さっっさと行けよぉぉぉこのクソ犬がぁぁぁぁぁぉッッッ!!!!! まずはお前からバラバラにしてやろうかぁぁぁぁぁぁっッッッ!!!!!?」

 

 

 

 

 

 吐き出されたのは裂帛の叫び、雅が咄嗟に耳を塞いでしまう程の轟音とそれに乗せられたありったけの怒気と殺意がそれをワクテカと観察していたイリースの元に届く。

 

 ピンっと一瞬張り詰めた耳が次の瞬間にはしなりと恐怖に竦む、声にならない怯え声をあげながらゼクスの背部座席へと乗り込んだイリースに、ゼクスは呆れたようにため息を吐き出しながらスロットルを回した。

 

 エンジン音が響く、ようやく駆け出した漆黒の鉄馬の音に苛立ちを吐き出すように大きく舌打ちを漏らした紡は、ガリガリと頭を引っ掻いた。

 

 

 奇妙な静寂がそこにはあった…雅をして躊躇いがちに成らざるを得ないような雰囲気、何処か苦労人のような気配を醸し出す紡の存在に何かを感じ取ったのかもしれない…しかし、だがしかし…それとこれとは話が別である。

 

 

 

「───降伏するか?」

 

 

 

 見逃すことなどあり得ない、最後通告と言わんばかりに告げられたその言葉に紡はあぁ〜っと間延びした声と共に何かを考えるように頭に手をやり…答えた。

 

 

 

「───もう無理だな、やり過ぎてる」

 

 

「…そうか、ならば───」

 

 

 

 

 

 答えは至極シンプルであった…やり過ぎてるから無理、最初の段階で名乗り出るならまだしも今やこうして切っ先を交わし、その仕事の邪魔をしてしまっている…逮捕案件である。

 

 それが分かっているが故の言葉、雅自身も頷くとは思っていなかったのだろう、分かりきっていたと言わんばかりにサクッと言葉を受け取り、ならばならばと再び刀を握りしめて駆ける───

 

 

 

「───悪い、ちょっと待った」

 

 

 

 

 

 それは、紡の手で遮られた。

 

 掌を向けて放たれた言葉に雅が止まる、降伏勧告を出した手前として相手の言葉はキチンと聞いておかねばならない…というより、聞かなかったせいで面倒事になったことが雅にはあった。

 

 失踪を中断、待ちに入った雅を横目に紡は何かに悩むように頭に再び手をやる、掲示板の仲間内にまで声を掛けて何やら問いかけていた…それがなんであるのか、ここでは明記しないが。

 

 

 ほんの一分二分、うんうんと悩んでいた紡は何かに思い至ったようにポンッと手を叩いて雅の方を向く。

 

 

 

 

 

「───レイスだ」

 

 

 突然のその言葉に雅の思考が疑問に埋まる…どういう意味だ、何の意味を持った単語だ…そんな雅の心境を察するように紡は言葉を紡いでいく。

 

 

 

 

「レイス…俺の名前だ……偽名だけど、とりあえずそれで覚えておいてくれ、虚狩り」

 

 

 

 

 

 それが、名乗りであることに雅が気付くのに時間は掛からなかった…恐らく、本人なりの誠意のようなものだろうと。

 

 ならば、此方も返さねば無作法というもの。

 

 

 「───虚狩りの星見雅…推して参る」

 

 

 

 

 

 

 

 踏み出した一歩と共に、紡と雅が激突する…何時終わるとも知れぬ戦いが、再び幕をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





糸切紡/レイス  

 名前の元ネタは縁切りと縁結びの神様、もう一つはDead by Daylight。
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