新エリー都のお馬鹿達   作:富竹14号

6 / 7
 作者はエルデンリングのエレオノーラの双薙刀が好きです(唐突)


残光

 

 

「───ィッッ…!!」

 

「───…ッ…」

 

 

 互いに弾かれる、紅と青が残光を描きながらぶつかり合って、熱と共に弾けて混ざる。

 

 地面を擦り付ける足先の感覚、そこから指先に力を込めて目一杯に地面を踏みつけ飛び出していく…敢行された突撃に虚狩りは刀を鞘へ納め、抜刀の構えを取った。

 

 刹那、互いに振るわれる必殺に等しい一撃、振るわれた朱線を伴った二対の小太刀と青い炎を纏った星見家の妖刀が爆音を奏でながら一切の遠慮無く激突する。

 

 震え上がる空間、亀裂が奔り割れては砕けを一度二度と繰り返す彼等を支える大地、周囲に無数の破壊を撒き散らした両者の一撃は、しかし一片たりとも当の本人達には届いていない。

 

 弾かれる…空間そのものがその激突に耐えられないと悲鳴を上げるように、もうやめてくれと嘆願するように、激突した両者の身体は互いに打ち込んだ衝撃によって先程の焼き直しのように再び後方へとその身を翻らせる。

 

 

(…まただ)

 

 

 抜き身の刀が翻る、焼き直しはいらないと宣言せんと言わんばかりに今度は雅自信が紡目掛けての突撃を開始する…その速度たるや、最早人間と呼ぶのも怪しい限りである、見るものが見れば光が奔った程度にしか思わぬことだろう。

 

 何より恐ろしいのはそこにあるのが単純な速度だけではないことだろう、一目見ただけでは分からぬ程に速度に強弱を合わせて歩法の速度を一定に乱しているのだ。

 

 踏み出す一歩、そこにほんの少しの誤差を加えて感覚を乱す、時間にしてはコンマ数秒の事かもしれないが、それでもその誤差は星見雅という度を越した怪物相手には致命的だ。

 

 ほんの少しズレた、ほんの少し間合いを見誤った…たったそれだけ、ほんの小さな小さな取り零しが簡単に自らの首を刈り取ってくる…対峙した者からすれば、それは正しく死神と呼ぶに相応しい存在であったに違いない。

 

 …で、あるが故に───

 

 

「───チィッ…!」

 

 

 それを相手に応酬を繰り返すこの男は一体何なのだ…という話になってくる。

 

 漏れ出た舌打ちと共に放たれた斬撃を小太刀の十手部分で絡め取る、火花を散らしてあらぬ方向へとその行先を変更した刀を紡は無理矢理に地面へと突き立てた。

 

 刀が動かない、万力の力によって地面の奥底へと突き立てられた小太刀がそれの邪魔をする、引き抜けば抜けそうな絵面ではあるのにそれが出来ないほどに深く重く上から伸し掛かった圧力がそれを許さない。

 

 そんな雅へと紡が斬りかかる、押し込んだ小太刀から手を離して残ったもう一対を逆手に持ち替え、もう片方の手を柄尻へと当ててその心臓部目掛けて刺突を押し込もうとする。

 

 そんな紡の手を雅は掴み取り…瞬間、紡の視界が180度反転する。

 

 地面が上に、空が下に…踏み締めていた大地が足先から消えて、あったのは踏み締めるものが何も無い虚空の空間…投げられたのだと気がつくのに時間は掛からなかった。

 

 地面に激突する直前に身体を捻って着地する、足が先に地面に辿り着くように曲げてその衝撃に合わせて身体への負担を殺す、視線に僅かに捉えた雅の姿を見失わぬように常にソレから視界を動かさず、糸切紡は危なげなく大地を再び踏みしめた。

 

 それと共に星見雅が地面から刃を引き抜く…引き抜いたのは自身の扱う刀ではなく、それを縫い止めていた糸切紡…星見雅にとってはレイスと呼ばれた謎の男の持っていた朱線の入った十手小太刀。

 

 触れただけで分かるその洗練具合、刃と峰の丁度間を奔る一筋の紅い線とその上を悠々と泳ぐように現れている刃紋…見れば見るだけ業物であることが分かってしまうその名作とも呼ぶべき代物に雅の口元は思わずニヤけた。

 

 

 

───良い刀だ…こんな状況でなければ、素直に喜べたが。

 

 

 内心の言葉と共に小太刀を振るった、二対の小太刀が激突し火花を散らす、互いに刃を押し付けるように峰へと腕を差し当てた体勢で鍔迫り合いの状況に縺れ込んだ両者…ふと、紡が口を開く。

 

 

「なんだ、欲しいのかそれ?」

 

 軽い口調だった、現在の状況には到底見合っていないような言葉に雅もまた言葉を返す。

 

 

「あぁ…こんな状況でなければ、値段交渉でもしていたかもしれない」

 

 ぎりぎりと鍔迫り合う両者、僅かに擦れた刃が火花を生み出しそれが両者を照らす、そっかと呟いた紡は傍からは見えぬその口元を獰猛に吊り上げ───

 

 

「───じゃあ、勝ったら持っていきなよっ!!」

 

 そんな言葉と共に、峰へと差し当てていた腕を瞬時に動かし、雅の腕を一気に掴み取った。

 

 瞬間、星見雅の身体が浮く…まるで先程のやり返した言わんばかりに、意趣返しだと言わんばかりに糸切紡は星見雅へと投げ技を仕掛けた。

 

 形で言うなら背負投げ、柔道等で良く見られるような技ではあるがそれを行った速度とそこへと移行するまでのスムーズさが段違いと言わざるを得ない。

 

 何よりそれをこの身長差でやってのけている、明らかに自分よりも低いその体格でやってのけている、雅自身も思わず見事と言いたくなるような素晴らしい出来栄えの技であったことは確かだった。

 

 

「───ふんぬっ!!」

 

 気合いの入った声と共に雅の身体が投げ飛ばされる、風を切る感覚を身体全体で感じながらもその視界は紡から一切逸らされていなかった。

 

 コンっと側に落ちていた雅の刀を蹴り上げる、硬質な音と共に浮かび上がった星見家相伝の妖刀、その様々な逸話が残る曰く付きの代物を紡は───

 

 

「───よいしょぉぉっ!!!」

 

 何かを引き上げる現場の作業員のような掛け声と共に、全力で蹴り飛ばした。

 

 柄尻へとフルスイングで叩きつけられる万力の蹴り、大きく振り被った末に打ち込まれたソレはさながらサッカーに於けるシュートそのもの、なんと素晴らしきモーションかと諸手を上げたい。

 

 音を裂きながら猛スピードで迫る妖刀、それに対して雅は都合が良いと言わんばかりに手持ちの小太刀を投擲した。

 

 交差する小太刀と妖刀、青と紅、互いに横切り本来の持ち主の元へと刃を向けて飛び込んできたソレを前に、当の持ち主達は焦るでもなければ特に感慨らしい感慨を浮かべることもなく───

 

 

───パシンッ!

 

 そんな音と共に、当たり前のように飛んできた自身の獲物を何の躊躇も無く掴み取った。

 

 戻ってきた自身の獲物、長年使い続け手に馴染ませていたその感覚を握りを繰り返して確認し、やはりこうでなくてはと互いに意見を一致させる…やはりこれが一番、手に馴染むと。

 

 投げ飛ばされた姿勢から着地、それと同時に雅は斬撃の体勢へと移行、回転を加えながら今からやってくるだろう存在目掛けての斬撃を繰り出そうとする…そんな雅に応えるように、紡もまた攻撃の体勢へと移行する。

 

 ジャコンッ! という力強い音と共に両手に納めた二対の十手小太刀の柄尻を連結させ、更に連結させた柄の両側に引っ張り伸ばす。

 

 連結時と一風変わったカコンッという乾いた音を響かせながら伸びた柄、小太刀という刀身が比較的短い武器のリーチを補うように伸ばされたソレは最早長物と呼んでも差し支えのない代物と化していた。

 

 即ち、双薙刀である。

 

 

「───シィッ…!」

 

 鋭い呼吸音と共に紡が飛び出す、姿勢を低く獣のように屈めながら糸切紡は疾走を開始する。

 

 踏み割れる地面、どれほどの力で踏んでいるのか一度確かめてみたくもなる程の力と共に踏みしめられた地面から発生する速度による圧力、姿がブレる程の速度で以て真正面から雅に向かっていった紡…そこへと合流する星見雅の斬撃、待っていたと言わんばかりに振り抜かれた回転を加えた斬撃が紡の双薙刀と激突する。

 

 幾度目の激突であろうか互いの斬撃、刃物特有の高音を打ち鳴らしながら衝突した両者の一撃は、しかしその様相を以前とは違う形に収束させていく。

 

 雅の刀が紡の双薙刀の刃を滑る…姿勢を屈め、刃を僅かに斜めに反らしていた紡の双薙刀が星見雅の斬撃をいとも容易く反らしていく。

 

 擦れ違う両者、直ぐ様振り返り更なる一撃を放とうとする雅…そこへと、上方向への回転を加えられた双薙刀による一撃が雅を襲う。

 

 突如としての上からの奇襲、それを刀で防ぎならばも此方もとなる前に更に更に続けて回転を加えた攻撃が飛んでくる、今度は下方向からの逆上がりだ。

 

 後方にステップすることで斬撃を躱し、そうして斬撃を躱した雅の間合いへとまるで踊るように紡は入り込んでくる。

 

 右から、左から、上から、下から、右上斜めから、左下斜めから…無数に回転を加えて振り回す、本来扱うのが至難の業であるはずのその武具を糸切紡は平然と使いこなす。

 

 双薙刀という左右逆の刃が取り付けられているという特殊な形状をした武具、その特質を利用した使用法、回転を加えながら無数の方向から飛んでくるソレはあまりにも変幻と呼ぶに相応しい太刀筋だった。

 

 刀身に奔った紅い線が残光となって雅の視界に映り込む、次から次へと飛んでくる斬撃に次ぐ斬撃、次から次へと段々と速度と鋭さを増していくソレは最早一欠片の休息をも許さない。

 

 それは最早、一種の嵐だった。

 

 紅い残光と共に雅の頬を刃が傷付ける、紡の双薙刀が徐々に星見雅の身体を捉え出す…だが───

 

 

「───見切った」

 

 

 そんな言葉と共に、星見雅が振るった一刀が糸切紡の嵐を堰き止めた、今に至るまで振るわれ続けた紅い残光がいとも容易くその動きを止める。

 

 ならばと今度は身体ごと回転を加えた重さを乗せた斬撃を紡は繰り出す、大きく身体を捻りそこに生じた全てを双薙刀へと込め上げた一撃を紡は雅へと叩きつけんとする。

 

 そんな紡へと、雅もまた渾身の一撃を叩き込まんとする…何時の間に行っていたのか、刀身を鞘へと納め抜刀の体勢に移った雅…その指が、指紋認証システムへと伸びる。

 

 押し込まれたボタン、それに呼応するように彼女に付き従っていた一つ目の鬼火が刀の中へと吸い込まれていく。

 

 瞬間、放たれたるは今までとは比較にならぬ程の剣気…ここより先は死地であると、そう告げんばかりに放たれる色を伴った圧力が紡へと振り注ぐ。

 

 目に見えて映し出される絶対的な気配、挑む等と言う言葉が彼方に消えてしまいそうになる程の圧倒的なソレに、しかし紡はだからどうしたと歯を食い縛る。

 

 今更止まれるか、今更やめられるか…やったのならば、最後まで。

 

 振り被った双薙刀を振り下ろす、言葉も咆哮も何も無く、ただ一心にその一撃を虚狩りへと叩きつけんとする…そんな紡へと、星見雅はその内に納められた猛威を躊躇無く抜き放つ。

 

 

 

 

 

 瞬間、音が消えた。

 

 

 

 

 

 




  
 紡の戦闘スタイルのモデルは無限の住人の万次さんとFateのエミヤ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。