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聞き慣れない鳥の鳴き声と、瞼を貫通する眩い朝日の光で目が覚めた。
目を開き、世界の光に目が慣れるまで数秒。
その後目に映ったのはどこまでも広がる草原だった。ところどころにミニチュアのような小さな木が生えているだけで、地平線の彼方まで緑が広がっている。右の方に手のひらからちょっと溢れるサイズの小屋も見える。
……んん?これは……どういうことだ?俺は昨日自室で眠ったはずだ。こんなだだっ広いジオラマの上で眠った覚えは無い。
誘拐?だとしてもこれはあんまりだろう。
怪奇!ジオラマ誘拐男!ネットニュースの一面を飾ること間違いなしだ。
そんなことを考えながら、俺はゆっくりと起き上がり、ふと身体を見下ろした。
服着てねえや。
えぇ?ジオラマに俺を誘拐するだけじゃ飽き足らず服をひん剥いたと?まずいぞ、犯人は男色家だ。俺の貞操の危機。ジオラマで男を抱く趣味のある変態が犯人です、助けてくださいおまわりさん。
寝てる間に襲われてないかと己の貞操を確認するため下を見ると。
ちんこねえや。
まっさらだった。毛もナニもない。酷い違和感だ。しばし半身を捥がれたような喪失感に苦しんだ後、少し落ち着くと色々な違和感に気付き始める。
俺ってこんなに良いカラダしてたか?腕は丸太のように太く、腹筋も見事に割れている。ボディビルダーとまではとてもいかないが、一般人にしてはそこそこ鍛えた身体といったところか。
俺はもう少しヒョロヒョロガリガリのもやしのような男だったと思うのだが。
変態の犯人の好みがマッチョマンだったから寝てる間に肉体改造されたのだろうか。そんな超技術はもっと人類の役に立てて欲しいものだ。
なんか髪もちょっと伸びてない?短く切り揃えられていた黒髪は少し伸びていて鬱陶しい。前髪を後ろに流しオールバックにしておく。
とにかく、こんな所でいくら推論を考えようとも結論など出ないと思った俺は重い腰を上げ、歩き出した。度重なる異常事態で俺の頭はとっくに限界だ。何かしてないと気が狂いそうだった。己の息子が消え失せたのが一番でかい。マッドサイエンティストの実験体にでもなったのか俺は。あぁなんかそれが一番有り得る気がしてきたな。もしくは宇宙人の実験動物にされたか。
心做しか足も重く感じるし、ズシンズシンと音が鳴る。まぁジオラマの上に人が乗ってりゃ軋みもするよな。
そんな風に混乱しながら歩き続ける。地平線の彼方まで草原だ。まぁ正確には森とかも見えてる訳だが、流石におかしいだろう。地球の丸さ的に、確か地平線までの距離って4、5kmとかじゃなかったか?そんなでかいジオラマなんて作れるわけがない。いやもう既に有り得ない改造が俺の身体に施されているわけで、そんなこと考えても意味は無いのは分かってる。
とりあえず、何か、何か解決の糸口を。
悪い夢なら覚めてくれ。
そう願いながら歩き続けること数分。
森に辿り着いた。
大きな木が生え揃っている。これはジオラマサイズじゃねえんだ。軽く見積っても俺の5倍のサイズ。
んー、まぁ一般的な木のサイズではあるか?えーっと8mくらいか。少し小さいかも。
リアルだなぁと思いながら木の質感を確かめていると、ガサガサと足元の方から音がした。
目覚めてから初の俺以外の動くものの登場の予感に慄く。これまで意味わからんことしか起きてない。何が出てくるか分かったもんじゃない。
そう思い身構えていると、出てきたのは小さいおっさんだった。
あの、いやほんとに、俺の腰くらいまでの大きさの、ちっこいおっさん。裸の。
え、気持ち悪。俺と同じでちんこねえし。てかなんか顔が気持ち悪い。生気を感じ取れないのに、どこか崩れた顔でにちゃにちゃと笑っている。怖すぎる気持ち悪。人に見えるけど話しかける気にもならない。
え、気持ち悪!(n回目)
俺の時間は止まっていたが、おっさんは俺に一瞥もくれずそのまま草原に駆けて行った。
……これさぁ。いや認めたくないんだけど、これさぁ。
……進撃の巨人じゃね?
あのおっさんと、あと俺。
……巨人じゃね?
拝啓。父上、母上。親不孝者の息子でごめんなさい。あなたたちの息子は今、なんかすっごいでっかい人喰いの化け物になってます。
……どーすんの、これ。
思わず顔を両手で覆い、天を仰ぐ。顔に触れた手に違和感。よく自分の顔を手探りで確かめてみると、
くちびるがなぁい。
なんてこった、歯が剥き出しだ。口裂け女みたいになってると思われる。あまりにも化け物。鏡も何も無いので自分の顔は見れないが、もう見たくもない。あまりにも酷い現状に情けなく「うわぁ〜」と声を出して嘆こうとする。
ボァー
あまりにもよく響く、詰まった排気口から出るガスみてえな重低音が俺の口から出た。
あっ……(察し)
これ喋れないやつだ。そういえば巨人って喋れないわ。エレンとかも結局喋れんかったし。
「……お゙ぉ、ん、い゙じゔぁ(こんにちは)」
……うーん、駄目そうですね、コレは。とてもじゃないがコレで人類と意思疎通は出来なそうだ。でもジークとかピークとかは流暢に喋れてたから、俺にも可能性はあるはず!諦めず発声練習は続けていこう。
どうも俺は巨人の捕食対象には入ってないとはいえ、流石にずっとこの平原で巨人と一緒に暮らして最後には調査兵団に殺されるなんてのはごめんだ。なんとかして人類サイドに入りたい。そのためにも意思疎通の手段は必須だ。会話によってなんとか俺が無害な巨人だと分かってもらえれば……。
あれ、そういえば言語ってどうなんだ?通じるのか?俺の言語は。
クソッ、まずいぞ!良く考えれば俺の日本語が当たり前に通じる方がおかしい、気がする!普通に通じる可能性も全然あると思うが、それに全ベットはリスキーというものだ。
何か、何か別のコミュニケーション手段は……。身振り手振り……いや奇行種扱いか。うーん、筆談?いや、だから日本語が通じるのかって……。
あ!そうじゃん!壁内の文字は俺知ってるぞ!進撃の巨人を読んでる人なら知ってる人も多い小ネタ。
『進撃世界の文字はカタカナを反転させたものである』
確か文字を180度反転し、左から右へ読むのがマーレの文字で、壁内では右から左に読む、とかそんな感じだった気がする!
行ける!行けるぞ!むしろ筆談においては反転なのが有難い!俺目線で普通にカタカナで文字を書けば、それを向こうから見る人にとっては反転した壁内文字に見えるから!
というかまぁ文字が日本語ベースなのだからまず間違いなく日本語も通じるのだろう。杞憂だったな。
とは言え、話せるようになるか分からないし、とりあえずは筆談で行く方針にしよう。
俺は地面に座り込み、ちょうど良いサイズの枝を拾って文字を書く練習をし始めたのだった。
多分力尽きるので誰かこういうの書いてください。