夢を見た。
一面に広がる砂の平原。
眩く光る樹木がそびえ立っている。
空全てを覆うかのように枝は張り巡らされ、地面を照らしていた。
向こうに小さな女の子が立っている。
顔が見えない。
君は、一体…………。
途端に女の子と光る樹木が離れていく。遠く、遠く、それはどんどん小さくなっていき、光る小さな点のように……
目が覚めた。
ゆっくり、ゆっくりと瞼を開く。薄暗い場所だ。ここは、どこだ。
「知らない天井だ……」
お決まりのセリフを口に出してみる。
………ん?声?
一瞬俺と全く同じ思考の人が喋ったのかと思ったが、当然そんなことはなく、その声は俺の口から出たものだ。
……喋れる。なんで。
数ヶ月ぶりの発音に得も言われぬ感動を覚えながら、段々と意識が覚醒してきた。
待て。俺はリコさんにうなじを削がれたはず。
なんで生きてる!?
バッと勢い良く上半身を起こす。身体が軽い。あ、痛。両手が鎖で拘束されている。
ん?痛い?拘束?
まとまらない思考のまま、俺はとりあえず妙な違和感のある自分の身体を見下ろし、
豊かな谷間が一番に目に入った。
…………。
…………たにま?谷間。主に、胸が豊満な女性の胸部に形成されるモノ。
…………んん………?(困惑)
…………俺女の巨人になったってこと?
あれ、よく見たら服着てる。てか前髪邪魔だな。前髪を適当により分けクリアな視界を確保する。
自分の谷間を見下ろしたまま、フリーズした。かなりの時間そうしていた気がする。
少しずつ、本当に少しずつ俺は現状を把握していく。
えっと……まずなんで死んでない?
なんで俺は……
人間に、それも女の子になってる?
服も着てるし、よく見たらベッドに寝かされている。巨人では有り得ないだろう。
しかしわっかんねぇ……。何がどうなってる?
俺はここ数ヶ月で最大の混乱の最中にいた。
なんで、女の子?いや、愛すべき息子との別れは数ヶ月前巨人になった時とっくに済ませてるんだけどさ。女の子になるのはまた違うじゃん。
いやもう性別は後回しだ。そういうこともあるだろ(ない)。それより、なんで俺はうなじを削がれて生きてて、人間になってる?
多分うなじの中に俺の本体が居たってことだよな。え?俺九つの巨人だったの?いや誰も食ってないよ。大体九つの巨人なら人間状態で目覚めるはずだし、数ヶ月ぶっ通しで巨人化なんて不可能だ。
……あぁいや、車力の巨人なら可能か?ハッ、俺自身がピークちゃんの可能性……!?
…………無いな。俺は15m級の巨人だったし、ピークがパラディ島に来てる訳ない。少なくとも、車力の巨人単体で来ることなんて有り得ない。
じゃあやっぱり俺はただの無垢の巨人のはずだよなあ。十体目の巨人?うーん、その場合俺は「再生の巨人」とでもなるのか?……ダセェ。
むむ……と俺が呻いて俯きながら悩んでいると、
「あの……」
横から声がかけられた。
!?!?!?
すっかり自分の世界に没頭していた俺は、肩をビクリと跳ねさせる。そこで初めて天井と自分の身体以外を見た俺は、自分が地下牢の中のベッドに寝ていて、
エレンと同部屋だということに気付く。
もしかしてしばらく俺の奇行を見てた?恥ずいな。俺の方が少々お寝坊さんだったみたいだ。
エレンは困惑した様子で俺の方を見ていたが、身体を跳ねさせた俺を見て表情を変えた。
「あっ、すまん、すみません。驚かせちゃって……」
「…………だいじょう、ぶ」
テンパりすぎて言葉が中々出てこない。というか声も高くて変な感じだ。自分が喋ってるはずなのに、慣れ親しんだ自分の声じゃないのが落ち着かない。
「えと、オレはエレン、エレン・イェーガー。……です。あなたは?」
エレン君はタメ口が敬語か悩んでいるようだ。俺は自分の顔見れないから分からないけど、年上にも見えるのかな?
……しかし、「あなたは?」と来たか。俺は、俺は……何だろうな。自分でもよく分かってないんだよな。
「……口調、楽な方でいいよぉ」
一旦話を逸らしてみる。
「わ、わかりました。それで、あなたは……」
駄目だった。というか敬語を選ぶのか。そんなに歳上に見えるの?エレン、多分根は真面目なんだなぁ。
えーと、それで、質問に答えなきゃか。
……うーん、俺は、俺はねえ。
「俺は、
「……えっ?いや、……てか『俺』?」
あっやべ。今俺女の子だから一人称変えとくか。無難に『私』とかでいいかな。
エレンは戸惑っている。
「えっと、それも気になりますけど、オレはまず名前が聞きたくて」
…………あっ、名前!?そっか、そうだよね!普通「あなたは?」って聞かれたら名前答えるよね!さっきまで自分の正体について考察してたから勘違いしちゃった!いやー恥ずかしいな!
「ごめんごめん……!えーっと、名前ね?
名前、名前?うーん、前世(?)の名前でいいのかな。でもこの世界の住人っぽくないか。
折角だしかっこいい名前とか付けちゃおうかな。ハンジさんも巨人に『ソニー』とか『ビーン』とか洒落た名前付けてたもんね。あれの元ネタは『ソニー・ビーン』という伝説のシリアルキラー。ふふん、任せて欲しい。オタクはそういう逸話とかに詳しいんだ。
そうだなぁ……。
…………。
いや自分で自分にそういうのつけるの恥ずかしすぎるな?危ない、厨二病溢れる名前をつけるところだった。これから先その黒歴史ネームで呼ばれ続けるなんて耐えられない。
「えっと……
普通に本名でいかせていただきます、中性的な名前で良かった。ありがとうお母さん!
「よろしくお願いします、イオリさん」
「うん、よろしく」
そう答えてにっこりと微笑む。印象は大事だからな。あぁ、微笑んでも怖がられないって素晴らしい……!
「イオリさんはここはどこか分かりますか?」
エレンが尋ねてくる。が、当然俺も知らない。地下牢ってことしか分からない。
「わ、わかんないッピ……」
タ●ピーよりも頼りない声で俺は答えた。
「……そう、ですか」
エレンのその一言を最後に、地下牢は静寂に包まれる。
気まずいなぁ……。
沈黙に耐えきれず天井を仰ぎ見る。
すると、柵の向こうの扉がガチャリと開いた。誰かがずかずかと入ってきて、俺達の前の椅子に座る。
あっ団長!エルヴィン団長じゃないか!
後ろにはリヴァイ兵長も控えている。
団長は俺達にこの3日間の事情をかいつまんで説明してくれた。
ふむふむ、なるほど。やっぱり俺はリコさんにうなじを削がれ、中からこの人間の身体が取り出されたんだな。その後の流れは原作と同じ、と。
なるほどねぇ〜?うん、いや人間に戻れたっぽいのは嬉しいよ?けどさぁ!
ホンッッット、なんで女の子なの……!?
俺の相棒と再会出来るチャンスだったのに……!よりにもよって女……!!何故……!
一度は流した女体化だが、やはり受け入れ難い事実であり、俺は「…………えぇ……?」と不満気に呻くしか無かった。
エレンが団長に色々と質問をしている。内容は大体原作で言っていた通り、だと思う。
ここは憲兵団管轄の地下牢で、俺達二人の身柄は憲兵団が受け持っているらしい。「先程ようやく我々に接触の許可が下りた」とか言ってるけど、多分無理矢理許可もぎ取ったんだろうなあ。
「あ……その鍵は……」
あ、エレン家の鍵だ。実際見ると特に変わったところもない何の変哲もない鍵だね。なんだっけ、実際は地下室の扉の鍵ではないんだっけ。
「そこに巨人の謎がある。そうだね?」
「はい……おそらく……父がそう言ってました」
「そうか、分かった。まだまだ分からないことだらけだが……今すべきことは意志を聞くことだと思う。君と……
そして、君のだ」
確か、引き出しの二重底を開ける為の……え?俺?俺は間抜け面で自分を指差す。
「ああ、君だ。まずは謝罪を。
君を無断で捕獲しようとしたこと。
君の命懸けの忠告を無駄にしてしまったこと。
本当にすまなかった」
エルヴィン団長が頭を下げる。さらに団長の弁解は続く。
「言い訳をさせてもらうと捕獲の件は、君に酷いことをする気は無かったんだ。上にも報告する気はなかった。現に、第55回壁外調査での君との接触は調査兵団内で秘匿している」
そうなんだ……っていやいや、そんな!気にしなくていいですよぅ……あ、今の俺喋れるんだった。
「……いいですよ、気にしなくて」
「そう言ってくれると気が楽になるが……とにかく、すまなかった。
そして君が人類の為に大きく貢献してくれたことも聞いている。人類を代表し、多大なる感謝を」
もちろん君にもだ、とエルヴィン団長はエレンの方も見ながら再び頭を下げた。
数秒かけて頭を上げ、こちらを見据えてくる。
「エレンの生家を調べるためにはシガンシナ区ウォール・マリアの奪還が必要となる。破壊された
あの……俺今巨人の力無い可能性が高いんですけど。
「やはり我々の運命を左右するのは巨人だ。『超大型巨人』も『鎧の巨人』もおそらくは君と同じ原理だろう」
エレンはそうですけど俺は多分違います。ただの巨人ですごめんなさい。
「君達の意志が『鍵』だ。この絶望から人類を救い出す『鍵』なんだ」
エレンがすごい思い詰めた顔でググググしてる。俺はあまりの過大評価になんとも言えない曖昧な表情を浮かべるしかない。
「オイ……さっさと答えろグズ二人。お前らがしたいことは何だ?」
兵長が急かしてくる。口悪いなホント。仮にも今人類の感謝を受け取った二人ですよ!?
そしてエレンはその言葉を受けて、すげえ顔で言い放った。
「調査兵団に入って……とにかく巨人をぶっ殺したいです」
迫力が凄い。兵長が悪くない、とか言って近寄ってきた。ガシと鉄格子を掴む。
ヒッ!まだ俺はリヴァイ兵長がトラウマだ。怖いからこっち来ないで欲しい。
「認めてやるよ。お前の調査兵団入団を……」
あなたその感じで人事部なんですか?
リヴァイ兵長が鉄格子を掴んだままこちらの方をちらと見る。
あっ、これ俺も何か言う感じ?もうエレンが凄いの言っちゃったんだけど。もう俺何言ってもエレンに及ばないよ。集団面接で自分の前の人が凄い模範解答してきた時の気まずさってこういう感じなんだろうな……。流石にこれに「わかんないッピ」する訳にもいかないか……。
「……えっと、皆さんの助けに、なりたい、です」
「……そうか」
ほらもうリヴァイ兵長ですらコメントに困っている。俺は調査兵団不採用みたいだ。
「そういえばまだ名前を聞いていなかった。君の名前は?」
気まずい空気を断ち切ってくれたのはエルヴィン団長。さっきエレンにも名乗ったイオリという名を伝える。
「そうか、イオリ。君の話を是非とも聞きたいところなのだが……」
「オイ、いつまで話してる。もう面会時間は終わりだ」
横で控えていた憲兵がエルヴィン団長の言葉を遮った。リヴァイが殺気を飛ばしながら睨む。
流石に少し怯んだが、立派なもので、その憲兵は引くつもりは無いらしい。兵長の殺気に耐えられてるだけでアンタすげえよ。
「我々は無理を言って君達に接触しているから、これ以上の長居は無理そうだ」
団長は椅子から立ち上がった。
「もう少しの間だけここで辛抱してくれ。我々が何とか話をつけてみる」
「はーい」
「……はい」
俺達二人が返事をすると、団長と兵長の二人は部屋から出て行った。
俺は長い長い息を吐き、ベッドに倒れ込む。知らない天井を見上げ、これからどうしたもんかと思考を巡らせた。
オレは……この女の人としばらく相部屋なのか……?
隣のベッドに横たわる女性は見た目は同世代か年下に見えるが、どうも纏う雰囲気が歳上のようである。ゆったりとしたエレンが着ているものと似たスウェットを着用している。
ちなみにエレンも本人も気にしてない、というか気づいてないが、下着は着けていない。
いくら朴念仁とは言え、思春期の少年であるエレンは流石に少しドギマギしていた。