はてさて、ひょんなこと(?)から進撃の巨人の世界に巨人として(!?)転生(?)してしまった俺だが、地面に文字の練習をしているうちに冷静になってきて考えることが増えてきた。
いや普通に俺の現状トチ狂ってんな。何がきっかけかも分からんし、そもそも死んだのかも分からんから転生かもわからん。
なんで転生先が巨人?そもそもなんでよりにもよって進撃の巨人の世界?進撃の巨人は好きだったけど、読んだの数年前だからそんなに詳しく覚えてないよー(泣)。
まぁ考えても仕方がないことは考えないことにしよう。考えてどうにかなることを考えよう。
とりあえず考えるべきは今がいつなのかということだ。無垢の巨人である俺がいることから、可能性は大きく分けて三つ。
1.ウォールマリア陥落前
2.ウォールマリア奪還戦前
3.ウォールマリア奪還戦後
3が一番楽かなぁ。3なら今はあのでっかい大槌で巨人を叩き潰してる頃だろうし、そこに近付かなきゃ殺されない。そんで俺以外の巨人も居なくなって、調査兵団の皆もピリピリしてないから、俺を見つけても何がなんでも殺そうとはしないだろ。巨人の正体も分かってることだし、交渉の余地がありそうだ。
キャラ達を助けてあげたいという気持ちも無いわけでも無いんだけどなぁ。正直戦闘能力もそこまで高くないし、何より人間じゃないから大して助けてあげられなそう。あと変に動くと異分子として未来のエレンに殺されたりしそうで怖い。今の俺って始祖の巨人の支配下なんかなぁ。うーん、分からん。そもそも未来とか、タイムリープ系の話は頭がこんがらがるから苦手だ。
あと嫌なのは1で原作開始まで何十年もありますパターンかな。そんなに待ちたくない。
今の俺の目的は、まず身の安全と、あと進撃の巨人ファンとして原作キャラに会うことと、最終回のエレンが巨人の力を消し去るとこまで生き残って人間に戻ることだ。原作の流れを変えようとかはあんまり考えてない。エレンがそれを許すとは思えないし、流れから外れると俺の大きな武器である原作知識が機能しなくなってくるからだ
薄情だって?うるさいやい。お前も巨人になってから言えや。もう正直メンタル限界です。
リアルで見る巨人気持ち悪いよー。さっきから文字の練習してる俺の周りを色んな巨人が通り過ぎてくんだよー。こんな気持ち悪い奴らに囲まれて独りで数十年なんて耐えられない。頼む、1以外であってくれ。
あぁほら巨人が小屋を踏み潰してる……ん?
小屋?そういえば目覚めた時も近くにいくつかの小屋があった。
巨人が支配する壁外に、人が住むための小屋?調査兵団の拠点とか、考えられるかもしれないが、可能性は低い。
と、なると……
ウォールマリア陥落後だぁ!俺は今ウォールマリア内のどこかにいるんだ!
おっと、喜ぶのはなんか不謹慎かもしれない。しかし、ともかく1は無くなった。つまり待つとしても精々数年。
ふーむ、今はどのタイミングなんだ?トロスト区の襲撃もまだなのか?見た感じ巨人の数もそれなりに多いし、2が一番可能性が高いな。
いつまでもここに居る訳にもいかないし、少し動こう。待っててもしょうがないし、行くか、ウォールローゼの方に。
巨人達は目的もなく彷徨ってるように見えるが、数時間の観察で皆が少しづつ同じ方向に進んでいることが分かった。巨人は南から来て、壁を目指すらしいし、恐らくそっちが北だろう。正確な方角は分からないが、大体進むべき方は見定まった。この身体がどれくらい動けるかを確かめるためにも小走りで北に駆け出す。
どしん、どしんと地面を揺らしながら走る。とても速く、疲れる気配も一切ない。
うーん、なんだか変な感じだ。元々俺は運動神経が悪く、体力も無かったから、こんなに走れて爽快なはずなのに、なんだか身体がスローモーションのように感じてもどかしい。夢の中で走る感覚に似ている。
立ち止まって腕を振り回してみる。問題なく動くが、人間だった頃の感覚に比べると速さが足りないような気がする。人間の感覚で巨人の身体を動かすとこんな気分なのか。
なんだかもどかしくって思い切り力を入れて振るとボッ!と風を切る音がした。
む?速さが足りないと言うより、速さを出すのに必要な力が多いということか。巨人の身体は軽いらしいし、体積が多いことも相まって空気抵抗を受けやすいんだろうな。それが違和感だったということか。
しかし巨人の力は人間のそれを大きく上回るため、その空気抵抗も問題なく無視できる。俺が人間の感覚だったから、巨人の力を出し切れていなかったのだ。人間の時の力の出し方では、巨人の力を出し切れない。巨人は多分常に火事場の馬鹿力で、それが行動するためのデフォルトの力なのだ。慣れるまでもう少しかかりそうだな。
ふと横を見ると、俺の半分ほどのサイズの巨人がぼーっと立っている。良からぬ考えが俺の頭に浮かぶ。
……力の練習にぶん殴ってみようかな。
どうだろう。今はなんの興味も示されてないけど、敵対行動をとったら捕食対象になるとかあるかな。いや、俺の半分しかないし、近くにほかの巨人はいない。勝てる、はずだ。
人類との友好を示すのに、巨人と戦うのは分かりやすいアピールになる。巨人との戦闘には慣れておかないと。
意を決して俺は横の巨人に対し構えを取る。これでも中高の時は空手をやっていたのだ。まぁ弱かったけど。大体一回戦敗退だったけど。
繰り出すは中段の正拳突き。このサイズなら中段の突きで丁度うなじの部分をぶち抜ける筈だ。
ふしゅー、と歯の隙間から息を吐き出す。
腰を落とし、右の拳を腰に、左の掌を巨人に向ける。巨人は相変わらず明後日の方向を向きぼーっとしている。
フッ!!
右の拳を真っ直ぐ突き出す。
バゴォンと鈍い音がした。
拳は狙い通り巨人の首に命中。しかし漫画でのエレンのようにぶち抜くことはできなかった。バキバキと首の頚椎を砕く感触が拳に伝わり、ありえない方に首が曲がった巨人は吹き飛んで行った。2m、あぁいや俺は巨人だから20mってとこか。そこそこ吹き飛んだ巨人は大して時間も置かずにむくりと起き上がった。首はほぼ直角に折れ曲がり、裂けた肉の隙間から白い骨が覗いている。顎も外れており、ダラダラと血を零していた。口と首からおびただしい量の煙を上げながらぎょろりとその目がこちらを向いた。
ひゅっ、と間抜けな音を零した俺は半狂乱になり、尻餅をついて情けなく後ずさった。
怖い。
怖すぎる。
出来るだけ遠くに逃げたい一心で、腰が抜けながらも必死に下がる。
しかし巨人はこちらを見たあと何でもないように明後日の方向を向き、のそのそと歩き始めた。首も治り始め、元の向きに戻っていく。
俺はその背をただ眺めることしか出来なかった。
しばし経って落ち着きを取り戻した俺は深く息をついた。
えぇ、巨人怖ぁ。
あと俺弱ぁ。
ま、まぁまだ力に慣れてないからな。いつかはエレンみたいにうなじぶち抜くくらいできるでしょ。俺の正拳突きも、効いてはいたし。大丈夫、恐怖心さえ克服すれば全然戦える。大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせ、俺は立ち上がった。
あと、俺が巨人を攻撃しても、巨人は俺に攻撃してこないことが分かった。とにかく俺が無垢の巨人に殺されることは有り得ない。一安心だ。九つの巨人達にはとても勝てそうにないが、まぁそれは仕方が無い。ただの無垢の巨人である俺は特殊な能力もないし、硬質化もきっと習得できないだろう。逃げれるように、ギリ勝負になるくらいには鍛えないとな。
しかし、こうなると俺の脅威は巨人と言うよりかは人間、調査兵団の方々だな。俺は人を殺すつもりはないし、
いやほんと、どうやって人類の仲間になろうかなぁ。