チュンチュンと鳥が鳴き、窓から朝日が差し込んでいる。
「エレンも知ってたよね?」
「はい……全部知ってました……」
エレンは死んだ目でつぶやく。そっか、エレンは訓練兵時代に習ってたんだっけ。俺からしてみれば興味深かったんだけど、悪いことしちゃったかな。
そしてハンジさんの話は二周目が始まろうとしていた。
「気になる事例がある。イルゼ・ラングナーという……あっそうだイオリに聞きたかったんだ。もしかしてこの手記に載ってる巨人ってイオ……」
「ハンジ分隊長はいますか!?」
勢いよく扉から調査兵が入ってきて報告をする。
「被検体が……巨人が……二体共殺されました!!」
ハンジさんがガタッと椅子から立ち上がる。
原作と変わらずアニ達が動いたか。マルコの立体機動装置を使い……あれ?そういえばマルコどうなったんだろう。流石に兵団の目のある中で殺されたりはしないよね?無事だと思うんだけど……。
変わらずアニ達が巨人を殺したんなら、マルコは何も話してないのか。なんで?
てか結構俺ヤバいことしてたな。本当に駄目だったら未来エレンが止めてくれるやろって思ってたけど。
うーん、分からんがとにかく原作と同じ流れだ。特に問題ないだろ。
ハンジさんやエレン達は出て行ったが、俺はお留守番をした。残った他の調査兵団の人達と交流を深めてみる。巨人だった頃はみんな怖そうな人達にしか見えなかったけど、話してみると案外気さくな人達ばかりだ。まだ俺を巨人だと思っているのか睨んでくる人もいるけれど、まあ仕方の無いことだろう。
あと地味にしていなかった自分の容姿の確認をしてみた。
鏡に映るのは長い黒髪の美少女。目も黒だな。ちょっと薄くて、青みがかってるかな?
何だか色味は前世とあまり変わらないな。ヒィズル辺りとのハーフとかなのかと思ったが、顔立ちはとても東洋のそれでは無い。まあリヴァイ兵長も黒いしな。外国人だって全員が全員金髪とかの派手な髪って訳じゃないだろう。
顔立ちはそれなりに整っている、と思う。絶世の美女とまではいかないが、日本での感覚で考えるとそれなりに良い顔面偏差値だと思う。
あと知ってたけど胸はしっかりあった。
夜になってエレン達は帰ってきた。今日は被検体殺しの騒動と、あと新兵勧誘式があったらしい。原作通りのメンバーは残ってくれたのだろうか。
俺はエレンと一緒に地下室で眠る。ベッドに横たわり、隣のエレンに話しかけてみた。
「また地下室かぁ。地下牢に戻っちゃった気分だよね」
「ははっ、そうですね……」
何だかエレンの元気がないような気がする。ここ数日これだけ色々あって元気な方がおかしいか。ん?じゃあ俺はおかしいのか?
「そういえば、今日は新兵勧誘式があったって言ってたよね。どう?仲良い子達は調査兵団入ってくれた?」
「……それが、俺は今日誰が残ったかまでは見てないんです」
ありゃ、そうだっけ。うーん、原作通りなら皆入ってくれるはずだけど……。
「大丈夫だよ、皆入ってくれるって!あの、君の幼馴染の子とかさ!」
「ミカサのことですか?たしかに、あいつは入ると思います。今回の襲撃で分からなくなっちまったけど、他の皆ももしかしたら……」
「……入って欲しくないの?」
「……分かりません。信頼できる仲間達だから、入ってくれれば嬉しいし、心強いです。でも……皆、死んでしまうかもしれない」
「……難しいね」
「……はい」
エレンは寝返りをうって向こうを向いた。ゴソゴソと布団の中に潜る。
……そういえばエレンってずっと俺と相部屋だよな。思春期の少年としては一人の空間が無いのって結構ストレスなんじゃない?下世話な話になっちゃうけど、ほら、発散とか出来ないし。
しょうがない。ここは男の先輩として気を遣ってやりますか。
「エレン。エロいことしたくなったら言ってね」
エレンが激しく咳き込む。
「はっ………え!?なっ……」
何をそんなに焦って……あ。
「あっ違うよ!?シたくなったら言ってくれれば
しまった。慌てて訂正する。
まだ俺の身体が女性である自覚が足りていなかった。普通に男同士のコミュニケーションしちゃった……。
「えと、ごめん、『
「……言わないでください……」
「……ごめん」
結局その妙な空気のまま俺は眠ることになった。エレンはなかなか寝れないようでしばらく寝返りをうち続けていた。ホントごめん。
次の日の昼。ハンジさん主導の実験が行われた。俺とエレンの巨人化に関しての実験だ。
そう、巨人化の実験だ。
……俺出来ないよ!?
そんな俺の思いとは裏腹に実験は始まってしまった。まずはエレンからだ。
涸れ井戸の中に入れられ、合図の煙弾が上がる。しかし巨人は現れない。
結局、エレンは手を血だらけにしただけで、そのまま巨人になれなかった。
うん、これは覚えてるぞ。確か強い目的意識が無いと駄目なんだったか。まあ俺には関係の無い話なんですけどね。
俺の番になり、俺も涸れ井戸に入れられる。手を噛むのは嫌なので、小さなナイフを手渡してもらった。うーん、これでも怖いな。俺やっぱリスカとか絶対出来ないわ。
実際俺自身も少し気になるところでもあったので自分の掌をナイフで軽く切り裂く。
い、痛い……!
案の定切ったその傷は治ることもなく、目的意識を強く持ってみても巨人化はしなかった。
まぁでしょうな。ともかくこれで俺が知性巨人である可能性は完全に無くなった。
諦めて上に呼びかけ、涸れ井戸の中から出してもらう。
リヴァイ兵長は俺達二人ともが巨人化できなかったことにご立腹で「何とかしろ」と急かしてくる。
ほんとに無理なんですよぉ。しかし大丈夫かな俺。このまま巨人化出来ずに役立たず決定だぞ。なーんか役立つ方法考えないとなぁ。
リヴァイ班の先輩方は皆優しい。エレンのことも俺のことも責める素振りすらない。
そうですよねぇ、巨人になんてならない方がいいに決まって…………
バゴォーン
ぐええええええ!?
横からの凄まじい爆風に俺の身体が軽く10mは吹き飛ばされる。ゴロゴロと勢いよく転がり何事だ、とその方向を見ると、そこには中途半端に巨人化したエレン。
……あれ、なんかデジャブ。前も俺エレンに吹き飛ばされなかった?
見ると上半身だけの小さな巨人の体からエレンが手を引き抜こうと悪戦苦闘してる。あー、そんなのもあったねえ。なんだっけ、スプーン拾おうとしたんだっけ?
いてて、と頭を押さえているとあっという間にエレンがリヴァイ班のみんなに取り囲まれていた。さっきまで優しかったのが嘘のような気迫だ。皆が口々にエレンに説明を求める。気持ちは分かるけどさあ……やめたげてよぉ!
エレンはかなりテンパっている。
「エレン!」
俺は起き上がってエレンの方に駆け寄った。巨人の体をよじ登ってエレンの横まで行く。皮膚が触れるためにじゅー、と焼ける音がする。熱っついなぁ、もう!
「い、イオリさん、手が……」
「離れろイオリ!」
「オイエレン、さっさと説明しろ!」
「どういうことだ!」
「イオリ、お願い離れて!」
皆が口々に叫ぶ。あぁもう……
「ちょっと!黙っててくださいよ!!」
俺が言う前にエレンが叫んだ。皆が一瞬押し黙る。
「エレン、落ち着いて」
「でっでも……」
「大丈夫。言いたいことを、落ち着いて言って」
言いたいことがあるなら、言わなくちゃ。
「お、俺は……」
「みんなも、聞いて」
リヴァイ班の面々が固唾を飲んでこちらを見つめている。刃は構えられたままだ。
「わざとじゃ、ありません。オレも、分かんないんですけど……勝手に巨人に……」
皆は納得行かない表情だ。
「敵対の意思はありません。今からエレンの手を引き抜きます。巨人の体は一切動かしません」
俺は皆に説明し、エレンが手を引き抜くのを手伝った。ブチブチと肉が離れ、俺はエレンと一緒に巨人の体から転がり落ちた。
巨人の体から出る蒸気の量が増す。そのタイミングで大興奮のハンジさんがやって来た。少し遅かったね。
「うおおおおおおお!!熱くないの!?それ!」
「熱っついですよー、触ってみます?」
「アッチィ!!」
ハンジさん大喜びだ。緊迫していた現場がお陰で少し弛緩した。皆呆れてるだけとも言う。
「アレ!?消えてってない!?」
「あぁ、手引き抜いたので」
「えええええええ!?」
ハンジさんは消える前に何かを得ようと必死に観察している。あ、掴んでるスプーンに気付いたっぽいな。
エレンは尻もちをついて息を切らし、呆然と自分の作り出した巨人の体を見つめていた。
「兵長……」
「気分はどうだ?」
「あまり……良くありません」
「実際に敵意を向けられるまで……気付きませんでした。あそこまで自分は信用されてなかったとは……」
「当然だ。俺はそういう奴らだから選んだ」
エレンとリヴァイ兵長が階段の踊り場で話している。俺は便所に行こうとしただけなのに階段の前で話してるから行けずにいる。早く話し終わって退いてくんないかな。そう思いながらエレンとリヴァイ兵長の話を階段の下で聞く。盗み聞きしてるみたい(正解)で気が引けるなあ。
エレンは結構気が滅入っているらしい。
分かるよ。信頼されてないってのは辛いよな。あんまり分かるとか気軽に言っちゃいけないことだと思うんだけど、こればっかりはよく分かる。
俺だって信じてもらえなかった。多分今も。ま、それでも俺達は信じて貰えるように進み続けるしかないのさ。少なくとも、俺はエレンを信じてるよ。まあ俺のは原作知識から来るやつだからアレかもしんないけど……。
「オイ、何してる」
おっと、考え事に耽ってたらハンジさんに呼ばれたリヴァイ兵長とエレンが階段を下りてきていた。当然俺と鉢合わせる。俺は「えへへぇ……」と曖昧に笑って誤魔化しながら一緒に下に降りた。
「イオリさん……聞いてました、か」
「うん。ごめんね」
コツコツと三人が階段を降っていく音だけが響く。ややあって俺は言った。
「ね、エレン。確かに信用されてないのかもしれないけど、それでもきっと皆信じようとはしてくれてるよ」
「そう、ですかね」
エレンは困ったように後頭部を搔いた。
「うん、それにね。皆が疑ってくれるなら、エレンは自分自身を安心して信じればいいんだよ」
「……え?」
「疑うのは他の皆がやってくれるから、エレンがすべきことは自分を信じることだけって意味!」
何事も考え方次第だからね、と笑って見せた。
階段を下り、ハンジさんを始め皆が集まっている場所に向かう。俺達が席につくと早速ハンジさんの巨人化メカニズム講座が始まった。
エレンが拾ったスプーンが取り出され、エレンの巨人化には目的が必要であることが結論付けられる。エレンは「何なんだこれは……」と困惑していたが、ふと気付いたように俺に耳打ちしてきた。
「イオリさん、『目的』らしいです。それさえ意識すれば、きっとイオリさんも巨人化できますよ!(小声)」
……励ましてくれてるんだろうなぁ。今はエレンのその気遣いが痛い。ごめんね、俺はどうやっても巨人化出来ないんだ。
「つまり、お前は意図的に許可を破った訳じゃないんだな?」
グンタさんが尋ねる。おっ、これは……。
エレンが肯定すると、リヴァイ班の面々は一斉にエレンと同じように手を噛み始めた。
「私たちを、信じて」
ペトラさんがエレンに言う。
うーん、良いシーンだ。よーし、俺も……。
と俺も一緒に手を噛もうとしたところ、
「は?おいおいおい!」
「何してんだバカ!バーカ!おい止めろ!」
「何してるんだお前!!」
「イオリ!?」
めちゃくちゃに止められた。なんで……俺も一緒にそれやりたい……
「ここで巨人化されてたまるか!」
「何してるの本当に!!」
俺巨人化できないんだってばぁ〜……!
「イオリさん……今日はありがとうございました」
「んー?うん、言いたいことは言わなくちゃね」
「……地下牢の時も、審議の時も、それよく言いますよね」
「……まぁ、ね。私は巨人の時言いたいことがあっても言えなかったから。せっかく話せるんだし、やっぱ話し合いって大事だと思うんだよね」
「話し合い……」
「それが出来なくて、人を殺しちゃったから」
「…………え?」
「なんでもないよー。まあとにかく、これからもエレンは言いたいことは言ってった方が良いよ」
「…………はい、じゃああの……」
「え、なんか言いたいことあるの?」
「……水浴び後にほぼ全裸でうろつくのはやめてください……」
「……ごめんなさい」
焦ると一人称が素に戻るTS娘は可愛い
あと一応言っておくと私は原作カップリングを大事にしたい派です。