【悲報】目覚めたら巨人だった【敵じゃないよ】   作:佐東

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 時は1ヶ月前に遡る。

 

 

 

 「変なお願いしていい?」

 

 そう言ってイオリはジャンに告げた。

 

 

 「君の同期に、ライナーって子とベルトルトって子がいるでしょ?彼らに『()()()()()()』って伝えてくれない?」

 

 

 「……?は、はい……『戦士』、ですか?」

 

 「うん!もしかしたら彼らは私と同郷かもしれなくてね。その合言葉みたいなものだよ」

 

 ジャンは納得し、任せてくれと言わんばかりに胸を叩いて了承した。

 

 「任せてください!」

 

 

 

 

 ジャンは戻ってすぐにライナー達を見つけた。

 

 「あ、オイ。ライナー、ベルトルト!」

 

 声を聞いたライナー達はすぐに振り返り、ジャンの元に寄る。

 

 「おぉジャン。どこ行ってたんだ?」

 「どうしたの?ジャン」

 

 まぁちょっとな、と誤魔化しながらジャンは二人に問いかけた。

 

 「なぁ、お前ら。イオリさんに見覚えないか?」

 

 瞬間、空気がピリつく。ライナーもベルトルトも厳しい表情だ。ジャンはたじろいだ。

 

 「見覚え?無いが」

 「ジャン、それはどういう意味?」

 

 訳が分からないジャンは何かまずいことを聞いたのかと取り繕いながら言った。

 

 「ど、どうしたんだよ。いや、あの人がな?お前らと同郷かもなんて言っててよ。昔の知り合いかなんかなんじゃねえかと……」

 

 「……()()だと?」

 

 ライナーの眉間に皺が寄る。続けてジャンは言い放った。

 

 

 「あっ、そうだ。『()()()()』なんだってよ!」

 

 

 「「…………は?」」

 

 二人は絶句した。

 

 

 

 

 

 

 次の日の昼。

 ライナーとベルトルトは馬の厩舎の裏でイオリと対峙していた。ライナーとベルトルトが訓練中のイオリに声をかけ人目のないところに連れ出した状況だ。ライナー達はこの上なく警戒し厳しい表情だが、イオリは余裕綽々といった様子だ。

 

 「いやーごめんね、私はあんまり自由な身じゃなくて。時間もないから手早く済ませようか」

 

 今はトイレってことにしててね、とイオリはまるで世間話のような軽さで話す。ライナー達の首筋には汗が伝っている。

 

 「アンタは、戦士なのか?」

 

 分かっている。この女が戦士の訳は無い。戦士候補生にこんな女は居なかった。

 

 「あー、それ嘘。ホントのこと言ったら暴れられちゃうかなと思ったから『戦士』って言っちゃった」

 

 やはりか。

 ライナーはすぐにでも自傷出来るよう構える。ベルトルトも同様に構えながら、イオリに尋ねる。

 

 「『ホントのこと』って何だ?」

 

 それに対しイオリはあっけらかんと答えた。

 

 

 

 「()()()()()()()ってこと」

 

 

 

「「…………ッッ!!!」」

 

 目を見開き息を飲む。

 始祖。始祖だと!?この女が……『座標』!!

 

 「おっと、妙な真似するなよ」

 

 イオリがうってかわって底冷えするような声で釘を刺す。

 

 「いつでも『地鳴らし』を起こせるんだぞ?それに君たちは私を殺す訳にはいかない、そうだろ?」

 

 ごくり、と唾を飲む。

 イオリは急に無表情になり、まるで別人だ。

 二人は混乱していた。しかし、それでも二人は戦士だった。冷静さを保ち、質問を投げかける。

 

 「さぁどうかな。アンタが本当に始祖か分からんしな」

 

 ライナーはニヤリと不敵に笑ってみせる。

 それに対しイオリもまたニヤリと笑って見せた。

 

 「随分強気じゃないか、ライナー・ブラウン。収容区にいる母親の命は惜しくないのか?」

 

 「ッ!?」

 

 「私は始祖の巨人として全てのエルディア人の記憶を見ることができる。こんなので、どうかな?」

 

 ライナーは冷や汗をダラダラと流しながら固まってしまった。ベルトルトが問う。

 

 「あなたはトロスト区で捕まったと聞いた。あの場に巨人としていたのか」

 

 「あぁ君達とも会ってる。マルコ・ボットとは随分仲が悪かったらしいな」

 

 こいつ……!!

 やはりあの時の奇行種か!!

 いや、待て。

 

 「無垢の巨人はあの巨人に興味を示していなかったぞ。九つの巨人は無垢の巨人の捕食対象のはずだ」

 

 これにイオリはほんの少し黙ったが、すぐ流暢に喋りだした。

 

 「……おいおい。始祖の巨人が他の巨人を操れないとでも思うのか?むしろそれが私が始祖である証拠だろう」

 

 ……確かにその通りだ。

 ベルトルトはこの女が始祖であることは信じ始めていた。しかし疑問は多く残っている。

 

 「じゃあエレンは何だ」

 「……さぁな」

 

 何となく予想はつく。始祖でもなく、マルセルを食った巨人でもないのなら、残るは恐らく『進撃』。噂程度にしか聞いていなかったが、まさかパラディ島にあったとは。

 ……しかし始祖であるこいつがそれに気付かないわけが無い。()()()()()()()()?エレンについて何か隠したいことがあるのか……?

 

 「もういいだろ。本題に入ろう」

 

 本題。

 始祖ともあろう者が何故僕達の正体を知っておきながら何もしてこない?何が目的なんだ……。

 

 

 「君達と取引がしたい」

 

 

 「……取引?」

 

 ライナーがようやく落ち着いたらしい。

 

 「君達はアニを使い、壁外調査でエレンを奪取する予定だろ?」

 

 ……そこまで知っているのか。

 

 「取引はこうだ。エレン及び調査兵団に一切の危害を加えないで欲しい。その代わり……

 

 始祖であるこの身を差し出そう」

 

 「なにっ……!?」

 

 いや、僕達にとっても願ったり叶ったりだが……理由が分からない!

 

 「何故……君の力があれば何でも思い通りのはずだ」

 

 さっきまで調子の良かったイオリの表情が固くなった。途端に黙り込み、目を泳がせている。

 

 「……事情があるんだ」

 

 「事情って……」

 

 「事情が、あるんだ」

 

 「…………いや」

 

 「うるさい、『地鳴らし』するぞ」

 

 「え」

 

 「『地鳴らし』、するぞ」

 

 ……あまりに力業の脅迫に、ベルトルトは口を閉じるしかない。

 始祖の力は未知数だ。何か制限があるのかもしれない。とにかく、この取引は僕達に損がない。理由はさっぱり分からないが、脅されてもいることだし、乗るべきだ。

 ベルトルトとライナーはアイコンタクトをとり、頷いてイオリの取引を承諾する。

 

 「よし。第57回壁外調査で私は陣形から離脱し、合図の信煙弾をあげる。アニに回収に来てもらうが、その際調査兵団に危害を少しでも加えたならこの取引は無しだ」

 

 「……分かったよ。アニに伝えておく」

 

 遠くからイオリを呼ぶグンタの声が聞こえる。時間だ、と言ってイオリはその場から去って行った。

 

 「また何かあったら今日みたいに声をかけてくれよー!」

 

 取り残された二人は何も言えないまま顔を見合わせるしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……よし。よしよしよし!!

 悪くなかったんじゃないか!?ところどころ怪しかったような気がしないでもないが、取引は受け入れてくれた!

 あと結構黒幕ムーブは楽しかった。一回やってみたかったんだよな、ああいう全知ムーブ。

 

 そう、これが俺の考えた計画。

 

 要は始祖の巨人を騙り、アニにエレンの代わりに俺を捕まえさせるというものだ。そのままあっさり連れ去ってもらえれば、犠牲ゼロで第57回壁外調査は終了。右翼索敵の人達や足止めを担当した多くの兵士達、そして何よりリヴァイ班が誰も欠けずにすむ。

 連れ去られた後、少なくとも殺されることはまずないから、俺は機を見計らってアニに情報を開示する。

 

 『始祖は俺ではなくエレンだ。エレンは今王都に召還され、王政に殺されようとしている。その前に奪還しないといけない。俺を生かして連れて行けばエレンを奪還出来る』

 

とかなんとか。ネタばらしをした時点で殺されるかもしれないが、そこは何とか必死に命乞いしよう。エレンの場所とか教えれますし、エレンの説得とか出来ますよって言ったら流石にすぐ殺しはしないでしょ。

 あとは書き置きか何かでストヘス区に女型の巨人であるアニが来ますよと伝えておけば、エルヴィン団長なら必ず手を打ってくれる。裏切り者(推定)の住んでたとこなんか徹底的に洗われるだろうから書き置きが見つからないことはないだろう。

 あ、指輪のことも教えておこ。原作でも、待ち伏せで指輪さえ無ければ無傷で制圧できそうだったんだ。そこまで教えておけば、ストヘス区の住民の虐殺もなく、人間の姿で捕獲出来るだろう。他のことももう粗方ぶっちゃけちゃおうかな。

 俺はアニと一緒に裏切り者として捕まるかもしれないけど、書き置きで情報提供はしたから、仕方なく裏切り者のフリをしたことを分かってくれるだろう。前の審議所での時みたいにまたエルヴィン団長が連れ出してくれる、ハズだ。

 正直このあとの展開で俺が出来ることはほぼ無かった。なんかどう考えてもエレンが干渉してきそう。序盤のこの女型戦くらいまでじゃないかなぁ、終盤に影響をあまり与えずに人助け出来るのって。そろそろエレンがダイナ巨人と接触するとか、不可避のイベントが多くなってくる。だから命の賭け所はきっとここで良いはずだ。

 もし連れ去られる際に妨害が入った場合でも、少なくとも平地でアニがやられることはないだろ。

リヴァイ兵長でも来ない限り。

いや、原作では兵長ですらアニを仕留めるのを諦めていた。それも巨大樹の森の中でだ。いくら兵長でも平地でアニは仕留められないだろう。懸念点はエレンの巨人の力だが、エレンは原作通りリヴァイ班の説得で巨人化を躊躇うはず。よって妨害が入っても、アニは俺を無事連れ去ってくれることだろう。

 

 これで完璧。誰も死なない。

 俺が信頼か命を失うかもしれないだけだ。

 殺されるかもしれないし、アニと一緒に捕まった後、疑いが晴れずに拷問でもされるかもしれない。最悪それでも、元々俺はこの世界にいない存在だ。いなくなっても特に困らんだろ。いなくなる前に何人か救えただけで上出来だ。まぁもちろんできる限りの抵抗はするつもりだけどさ。

 それにこれでエレンのストヘス区での住民の虐殺も止められる。

 エレンは俺と違ってまだ人を殺してないんだ。この後人類の八割を殺してしまうのだろうけど、それでも俺は漫画のキャラとしてのエレンじゃなくて、会って話した人としてのエレンに人殺しをさせたくない。本当は地鳴らしだって止めたい。でもきっと無理だ。俺に出来るのはこれくらいが精々さ。

 

 俺がたったこれだけのものを賭けるだけで、これだけのものが変えられるんだ。悪くないだろ。

 

 計画は完璧。

 

 

 

 

 

 ……そう思っていたのに。

 

 「オイ、そいつはウチの班員だ。連れてくんじゃねえよ」

 

 なんで居るんですか、兵長。

 

 

 

 




完璧な作戦(自称)
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