【悲報】目覚めたら巨人だった【敵じゃないよ】   作:佐東

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 リヴァイはイオリという女が苦手だった。

 

 掃除が壊滅的に出来ないところも、

 うるさいところも、

 自分を見ると怯えた表情を浮かべるところも。

 

 掃除は出来ない癖に淹れる紅茶は妙に美味いところも。

 困った時に笑う癖も。

 自分より、誰かを優先しようとするところも。

 

 全部苦手だった。

 

 似ていた。

 

 リヴァイの奥底にある、ほんのりと暖かくて、ぼんやりと明るい、灯火のような記憶。

 

 イオリはクシェルに、母に似ていた。

 

 母のように癖毛ではないが同じような黒髪で、立ち姿を見ると記憶の中の彼女と被った。そうはっきりと覚えている訳では無いが、誰かを元気づかせる為のその笑顔は、よく似ていたと思う。

 

 イオリはリヴァイを避けていたが、それでもリヴァイはここ一ヶ月のイオリの様子が少しおかしいことに気付いていた。いや、おかしいことに気付いたと言うよりは、その顔を知っていた。

 地下街で見たことがある顔だった。あのスラムでは長生きできずにすぐ死んでいく奴らの顔。危険を承知で家族の為に盗みを働き、店主に殴り殺されるような奴らの顔だ。

 

 だから嫌な予感がしていた。

 

また、エルヴィンからもイオリは注意して見ておけと指示を受けていた。

 

 壁外調査が始まり、イオリは体調不良を訴え荷馬車の中で休み始めた。既に一時間以上が経っている。荷馬車の中は静かだ。本当に酔っているのなら不自然なことではない。

 だから、これは勘だ。

 

 「エルド。荷馬車の中を確認しろ」

 

 「え?しかし兵長。イオリは静かに休ませてあげた方が……」

 

 「いいからしろ」

 

 渋々といった様子でエルドが馬を荷馬車に寄せていく。そして荷馬車の布を捲り中を確認した。途端にエルドの目の色が変わる。

 

 「兵長ッ!!」

 

 鋭い声で叫んだ。班員達が振り向く。

 

 「イオリが……いません……!!」

 

 リヴァイは眉を顰め、班員達は驚愕に目を見開きながら口々に言う。

 

 「ウソ……!落ちたって言うの!?」

 「一体いつの間に……」

 「急いで戻らないと!」

 「兵長!!」

 

 兵長は冷静に班員達に指示を出した。

 

 「グンタは中央前方のエルヴィンに事態を報告しに行け。他は全員俺についてこい。陣形を離脱し来た道を引き返す」

 

 壁外調査において広範囲索敵陣形から外れるというのは殆ど自殺に近い行為だ。皆の顔が強張る。

 

 「全隊を回れ右させてる時間はねえ。いいから行くぞ」

 

 リヴァイは既に方向転換し後方へ駆け出している。グンタを除くリヴァイ班の面々は気を引き締めながらそれについて行った。

 

 

 

 

 

 「兵長!アレ!」

 

 ペトラが指差した先には緑の煙弾が上がっていた。既に陣形は離脱している。ならアレは取り残された者の救難信号と考えるのが妥当。

 イオリだ。

 皆がそう思った。

 

 「急ぐぞ」

 

 兵長の言葉に皆が頷き、馬を懸命に走らせた。

 

 

 

 しばらく走り、小さな廃村を抜けて視界が開けた瞬間、リヴァイ班の面々は衝撃の光景を目にする。

 

 約14m級の金髪の巨人にイオリらしき人物が掴まれているのだ。

 

 ペトラは声にならない悲鳴を上げ、他の班員達も絶句しながらその光景を見つめている。エレンは呆気にとられたあと、顔を憤怒の色に染めた。

 兵長は静かに一人刃を抜き、逆手に構える。

 

 「兵長。ここは平地です。相手の力量が未知数の今、いくら兵長でも……!」

 

 「お前らの仕事は、そこのクソガキとあそこで捕まってるクソガキに傷一つつけないよう尽くすことだ。命の限り」

 

 皆がぐっと言葉に詰まる。しかし皆が覚悟を決めたようだ。

 

 もうすぐ立体機動装置の射程圏内に入る。

 

 「お前らは周囲を警戒してろ。俺が行く」

 

 リヴァイは単騎でのイオリ奪還を決めた。誰よりもリヴァイという人物の強さを信じている班員達は頷く。リヴァイを除いたリヴァイ班は迂回し、対象を囲むように馬を走らせていく。

 

 リヴァイはどうも女のような造形をしているその巨人に声をかけた。

 

 「オイ、そいつはウチの班員だ。連れてくんじゃねえよ」

 

 その巨人もイオリもこちらに気付いたようだ。イオリは青ざめた顔でこちらを見ている。

 

 助けに来てやったのに何だそのツラは。

 

 加えてイオリは何やらその巨人に向かって叫び始めた。

 

 「アニィイイイイ!!逃げて!超逃げて!!」

 

 ……その巨人はイオリの仲間なのか?まさかエルヴィンの嫌な予想が当たるとはな。

 だとすれば、イオリは裏切り者。

 

 「チッ……クソみてえな気分だ」

 

 リヴァイは悪態をつき立体機動に移った。エレンは「アニ……?」と訝しげに呟いている。

 

 イオリを掴んでいる右手首目掛け、リヴァイは勢い良く斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 イヤアアアアアアア!!!

 

 兵長がアンカーを打ち込み、凄まじい速度で突っ込んでくる。あっという間に俺を掴んでいるアニの右手が深く抉り取られるように削がれた。硬質化も間に合わない。

 兵長俺ごと削ごうとしてない!?大丈夫!?

 アニが目を見開き、反射的に左手を振りかぶり反撃を試みる。

 

 「待って!」

 

 手の中から止めるが、アニは俺を一瞥してから構わず左の拳を振り抜いた。当然兵長には当たらず、兵長は少し距離を取る。

 こいつッ!取引を忘れたのか!?

 アニを非難がましい目で睨め付けるが気にした様子もなく、アニは俺を左手に持ち替えた。

 

 ……そうか、アニは俺が自分を罠に嵌めたと思っているんだ。それでもう取引は無かったことにしてるのか。違うのにぃ〜……!

 

 しかしまずいぞ。このままだとアニが捕まるか、最悪殺されてしまう。見たところリヴァイ班の皆も来ている。アニが皆を殺してしまうかもしれない。

 アニが殺されるのはもちろん駄目だが、捕まるのもちょっと嫌だ。それだと俺が無駄死にというかなんというか。いや命を賭けるとは言ったけど、それは助かる可能性がありつつの賭けというか。

 今アニ捕まっちゃったら、俺完全に裏切り者のままじゃん!!賭けになってないよ!完全にクロ判定だもん!

 アニを捕まえる情報提供と誘導で何とか情状酌量の余地があるかなみたいな感じだったのに!!

 

 お願いアニ逃げてぇえええ!!

 

 兵長は既に何度もアニの身体を切りつけている。当然アニの攻撃は兵長に一度も当たっていない。硬質化で急所は守れているが、無力化されるのも時間の問題な気がする。

 平地なのに、なんでそんな強いんだ兵長!!……どうやらまだ俺は兵長を舐めていたらしい。

 

 「アニィ……逃げてぇ……」

 

 俺は手の中から弱々しく泣き言を言う。するとアニは俺の方をじっと見て考えるような素振りを見せた。

 

 え?何?

 

 兵長が再びアンカーを打ち込んでくる。そのままアニのうなじを目掛けて飛んでくる。

 殺す気か兵長!?

 しかし兵長の刃がアニのうなじを捉えるその瞬間。

 

 

 アニは左手で掴んでいた俺を素早くうなじと兵長の間に差し込んだ。

 

 

 ちょおッ!?!?

 

 

 「ッ!!」

 

 流石の兵長もこれには驚いたらしく、寸前で振るった刃の軌道をずらし、俺を掴む手を切り裂いてバランスを崩した。

 そしてその隙を見逃すアニではない。

 あちこちを切られ、絶えず蒸気を上げるほぼ動かない右腕を肩の力だけで振るい、兵長を殴り飛ばしたのだ。

 直前で何とか足とブレードでガードしたようだが、兵長は勢い良く吹き飛んでいく。

 俺は切られたアニの手から転がり落ちる。

 

 ……人質として使ったのか、俺を。

 

 バクバクと鼓動する心臓を押さえながら、転がって行った兵長を見る。まさか、兵長は俺のことを斬ることを躊躇った……?ごめんなさい、兵長。俺ごと殺すつもりじゃなかったんですね……。

 

 兵長は地面に倒れ伏したまま立ち上がらない。

 えっ、嘘、死んでないよね!?

 兵長はグググ、と体勢を起こし、こちらを睨む。

 ああ良くないけど良かった生きてた。結構強めにイったからな。足とか折れたんじゃ……。

 

 兵長には悪いがチャンスだ。アニにはこの隙に逃げてもらおう。

 

 「アニ!言ったはずだぞ調査兵団に手を出すなって」

 

 追撃を仕掛けようとしてるアニを地面から制止する。俺はアニを罠に嵌めたと思われているが、始祖の巨人でないとバレた訳じゃない。

 

 「今回は見逃すが、次やったら地鳴らし(コレ)だからな」

 

 雑に地鳴らしを脅しとして使っていく。アニは渋々と従って俺を拾おうと手を伸ばした。

 よしよし、これで……

 

 

 ドォーン

 

 

 後ろで雷鳴が轟く。

 まさか。原作でもリヴァイ班の皆に止められてその選択は出来なかったはず……

 振り返ると、そこにはエレン巨人が堂々とそこに立っていた。こちらに向かって走ってくる。

 

 

 

 …………ナンデ!?!?!?

 

 

 

  

 




兵長は優しい人だからね
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