どうして……なんでこうなってしまうん……?
俺はアニがエレンにボコボコにされ、うなじから取り出されかけ、そして結晶化するのを呆然と眺めていた。
うなじから取り出されそうになったアニは原作と同じように、透明なクリスタルに包まれた。エレンがその結晶を手に掴む。
どうしよう。
アニが捕まってしまった。
いや、誰も死ななかったのだから、良かったのはそうなのだけれど。
これじゃあ俺はこの後拷問からの処刑コースじゃありませんこと?
心臓を捧げたいと言った手前情けないことだが、やっぱりそれは嫌だ。当たり前じゃん!怖いよ!!
最悪の場合の覚悟を決めていただけで、それが必要性もない避けれるものなら避けたいよ!!
てか今アニが捕まったら、ライナー達がそれに気付いて巨人化して大暴れみたいなことになるんじゃ……!?あばばばばばば…………。
地面に転がっていた兵長はペトラさんに介抱されながらも何事も無いように立ち上がっていた。重心が偏っている。原作と同じように足を怪我したのかな。
気付けば結晶化したアニを握るエレンと俺はリヴァイ班の皆に取り囲まれていた。
「エレン!意識はあるか!あるなら巨人化を解いて出てこい!」
エルドさんの声を聞いたエレンは、しばらくオロオロとうなじの辺りをまさぐっていたが、やがてうなじから蒸気と共に顔を出した。癒着した肉を引き剥がすのに苦戦しているようだ。
あれ、もう結構巨人の力マスターしてない?原作では巨人化の度に食われたり削がれたりしてたから分からなかったけど、もう結構出来てたのか。
そしてエレンはうなじから転がり落ちてくる。マントと立体機動装置は持ってかれてしまったようだ。
「エレン、大丈夫か?」
「はい……」
「それがあの巨人の中身か?」
「何それ……結晶?」
「分かりません、急にこんなんなっちまって……」
皆結晶化したアニに興味津々みたいだ。今のうちに逃げたりしよっかな。そうコソコソしてる俺に低い声がかけられた。
「オイ、イオリ。どういうつもりだったんだ」
兵長だ。
俺を刺すような鋭い目線で睨んでいる。
ひぃ〜。怒ってる、すごい怒ってるよ。そりゃそうだ。兵長は俺のせいで怪我したんだし……なんでその程度の怪我で済んでるんですかねこの人。
「イオリさん……アニとどういう関係だったんですか」
「そいつを知ってるのか、エレン?」
「はい……同期で」
「同期!?」
場が混沌としてきた。
うーん、どうしたもんかなぁ。
俺が綺麗な空を仰いだ時、
「リヴァイ、現状は」
後方から一個分隊と荷馬車を引き連れたエルヴィン団長が現れた。質問に対し兵長が淡々と答える。
「イオリが脱走。その協力者らしき巨人をエレンが捕獲した」
「兵長!イオリは偶然荷馬車から落ちて連れ去られかけただけかも……」
「こいつの発言や態度からも裏切りは明らかだ」
皆からの視線が俺に刺さる。いやもうほんと、弁解の仕様もございません……。
「その協力者の巨人の中身は、あの結晶か?」
エルヴィン団長が結晶化したアニを指差す。
「そうです」
エレンが肯定すると、エルヴィンはその結晶を一瞥し、こう言い放った。
「では、
「……え」
……え?なんで、なんで知っている?
唖然とするエレンと俺を気にもかけず、団長は結晶化したアニを荷馬車に乗せるように指示している。
兵長が苛立ったように話しかける。
「オイ、どういうことだ。そもそもてめぇ、何故全隊を引き返さずに一個分隊だけを寄越してる」
「全隊の指揮はハンジに任せた。今頃引き返し戻ってきている途中だろう」
「そういうことを聞いてるんじゃねえ」
「……今回の壁外調査の直前、
…………どういうことだ?何が起きてる?
兵長も納得がいかないらしく、不機嫌な表情をしている。団長が改めて確認した。
「それで、それがアニ・レオンハートで間違いないか?」
「は、はい。そうです」
エレンが戸惑いながら肯定する。団長は「ふむ」
と思案顔だったが、パッと俺の方を振り返った。
「イオリ。すまないが今回の君の行動は擁護出来ない。拘束させてもらうが、構わないな?」
構う!が、言い訳が思い浮かばない。
「はい……」
渋々頷いて、甘んじて拘束を受ける。そして俺とエレン、そして結晶化したアニは同じ荷馬車に乗せられ、布で覆われた。周りから見えないために、か?何故……
「もうすぐ全隊が戻ってくるはずだ。各員、何事も無かったかのようにスムーズに合流せよ」
「……了解だ」
そんな団長と兵長の会話を薄暗い荷馬車の中で聞きながら、俺は目を閉じた。
どうしようホント……。
「今回起きたことは皆に伝達するな。特に104期の者達にはな」
全隊に合流した後、エルヴィンは団長として絶えず指示を出していた。
「我々は帰還後、今回の成果報告の為に王都に向かわなければならない。幹部達はほとんど召集されるはずだ。我々の不在の間、104期を隔離し、軟禁しろ。この任務はミケ、お前に任せる」
誰も、団長以外はこの状況を理解出来ていない。しかし皆は団長を信じていた。与えられた指示に不満を抱くこともなく、粛々と従う。
「しかし、もう裏切り者は分かっているんだろ?」
「あぁ、アニ・レオンハートが巨人であったことから、情報提供者の情報は正しかった可能性が高い」
「ならば……」
「しかし、そうならば相手は超大型と鎧だ。地下だろうと拘束できるか分からない。我々が王都から戻り、作戦を練るまで奴らに一切の情報を与えず軟禁していてくれ。我々が奴らの正体に気付いている、いや疑っているとさえ思われてはならない。その為に104期全員を隔離するんだ」
「了解だ」
カラネス区の正門が見えてきた。
リヴァイは不機嫌にエルヴィンを問い詰める。
「テメェ……全部分かってやがったのか?」
それにエルヴィンは苦笑しながら答えた。
「いや、予想外だらけさ。敵はエレンを狙うとばかり思っていたし、イオリが自ら連れ去られに行くのも予想外だった」
「……イオリはどうなる」
「今回の成果で、エレンの身柄は安泰だろう。しかしイオリは……今回の行動でアニと共に憲兵団に引き渡されるはずだ。我々としても、身内の問題が済むまでは拘束されていて欲しい」
「あいつは……本当に裏切ったのか」
「分からないさ。彼女はまだ私達に多くのことを隠している。……安心しろ、リヴァイ。私は彼女を敵だとは思っていない。また憲兵団から身柄を取り戻してみせるさ」
「……ならいい」
「そしたら、存分に叱ってやれ」
そう会話をしているうちに、壁内に到着した。鐘が鳴り響き、カラネス区の住民達が帰還した調査兵団を見学に家から出てくる。道がザワザワと騒がしくなった。
「調査兵団様のお帰りだぞ」
「今回は随分と早いな」
「人数も減ってねえぞ」
「本当に仕事してきたのか?」
野次を飛ばしてくる民衆をリヴァイが軽く睨んでいると、中年の男がリヴァイに駆け寄り、話しかけてきた。
「リヴァイ兵士長殿!!娘が世話になってます!ペトラの父です!娘に見つかる前に話してぇことが……」
呆気にとられるリヴァイを置いて、男は小走りのままペラペラと捲し立てる。
「あなたにすべてを捧げるつもりだとか……」
「うわああああ!?お父さん!?何言ってるの!!」
「ペッ、ペトラ!」
後ろからやって来たペトラが顔を真っ赤に染めながら必死に男の話を遮る。
「ペトラ!この際だから言うぞ、父親としてはお前を嫁に出すにはまだ早えって……」
「ちょぉッ!?やめてよ本当にさぁ!!」
目の前で繰り広げられる親子喧嘩にリヴァイは目を細め、口を開いた。
「オイ」
「はいっ、何でしょう」
「兵長!聞かなくていいですからこんな話!」
「あんたの娘は、俺の自慢の部下だ」
嫁とかじゃないから安心しろ、という意味が込められた発言であったが、二人にそれが伝わったかは定かではない。
今回の壁外調査で調査兵団が得た成果は絶大なものであり、加えて損害もほぼゼロであった。
これを受け、王政はエルヴィンを含む調査兵団の責任者を成果報告の為、王都に召集することを決定する。
エレンとイオリもまた、重要参考人としての王都召還が決まった。