【悲報】目覚めたら巨人だった【敵じゃないよ】   作:佐東

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 だんだん慣れてきた。常に火事場の馬鹿力を出す感覚。巨人だからか今のところ疲れはない。精神的な疲れは凄まじいが。

 バコン、バコンと巨大樹を殴る。樹皮が剥がれ、幹が軋む。右足を上げ、中段回し蹴りを放つ。巨大樹がミシミシと軋み、傾き、倒れ……はしなかった。

 

 流石に無理かぁ。アニとかは蹴りで容易く巨大樹を倒してたから、やっぱり俺の力は知性巨人達に遠く及ばないな。よーし、もういっちょ……。

 

 む?なんか、眠いな?なんで……

 

 その時になって俺はやっと気付いた。とっくに日が暮れていたのだ。集中しすぎていて気が付かなかった。ただでさえ薄暗い巨大樹の森の中だし。巨人は日光によって動き、夜は動きが鈍くなる。

 

 なるほど、こういう感覚か。眠いような、怠い様な感覚だ。動こうと思えば動けるが……。

 まぁ今日は色々とありすぎた。身体はともかく、頭と精神は疲弊しきっている。大人しく寝るとしよう。俺は身体を横たえて目を閉じた。

 

 寝ると言うよりは気絶、シャットダウンに近い感覚だった。夢は見なかった。

 

 

 

 

 森の天井から射す木漏れ日で目が覚めた。

 おはよう世界、グッドモーニングワールドってやつだ。現代日本の文明社会から一転して、素っ裸で火もなく道具もなく、森の中で無警戒にすやすやと眠るという原始人にも劣る生活だ。うん、まぁ貴重な経験だ。悪くない。そう自分に言い聞かせて身を起こし、今日の予定について思考を巡らせる。

 

 とりあえず北を目指そうかな。多分最初にトロスト区に着くはずだし、一旦壁を確認しておきたい。壁の状態で今がどの時期か大体分かるはずだ。壁が大岩で塞がれてるか、とか。壁が硬質化で塞がれててでっかい大槌があるかとか。

 

 うん、そうと決まれば早速出発だ。この巨人の身には朝食も身支度も必要ない。そうして巨大樹の森を出ようとしたその時、僅かにドドドと何かが駆ける音が聞こえた。意外にもこの身体は耳が良いらしい。

 

 数が多い。すわ巨人の大群かと身構えた俺だったが、どうにも音が軽い。軽い何かが集団で走る音。

 小型の巨人?いや、走り方が規則的だ。動物か。そしてさらによく耳をすましてみると、

 

 

 人の声……!?

 

 

 まさか、まさか!

 

 慌てて巨大樹の隙間から平原の方を覗くと、遠くの方に駆ける馬とそれに乗る緑の人々の集団が見えた。こちらの巨大樹の森の方へ向かって来る。上がっている緑の信煙弾から見るに、どうもこの巨大樹の森のすぐ側を通るコースみたいだ。

 

 突如降って湧いた接触のチャンス。

 まずいぞ、何の準備も出来ていない。発声練習も不十分でまだ流暢に喋れるとは言えない。

 でも!この機会を逃したくはない。壁外調査の頻度はそこまで高くない。確か月一とかその程度だ。

 

 

 1ヶ月は、長い!!(魂の叫び)

 

 

 まだ一日かそこらだけど、この生活はそう長く続けたいようなものじゃない。家族や友人とも突如離れ離れになり、愛する恋人……はいなかったけど、とにかく寂しいし不安でいっぱいだ。なのに周りにいるのは人の形をしてるだけの化け物共。しょーじき、人と話したい。人と触れ合いたい。僕は悪い巨人じゃないよ!

 

 でも、どう接触する?速度的にあと数分で彼らはここに来る。とりあえず敵意がないことを証明しなくては。筆談は時間が必要だ。その時間を稼ぐためにもまずは身振り手振りで何とか……。

 

 焦っている間にもどんどん彼らは近付いてくる。どうしよう、どうしよう。

 巨大樹の裏に身を隠し、考える。しかし、焦れば焦るほど思考は巡らなくなる。どうしよう、何も思いつかない。やばい。

 

 

 もうすぐそこに来ている。えーと、えーと。なんだ?ナカーマのやつ。敵じゃないですよー、降伏しますよー……降伏?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の壁外調査はここまで大きな損害無く来れた。兵士の士気も十分。

 

 順調だ。

 

 エルヴィンはそう思った。

 もうすぐ巨大樹の森のすぐ側を通過する。見通しが悪く巨人の接近に気付きにくいため近くを通りたくはないのだが、先程右翼索敵が巨人の群れを発見してしまった。それを避け、出来るだけ左の方を通らなくてはならない。当然巨大樹の森の中に入るのはナシだ。陣形が機能しなくなる。必然、巨大樹スレスレを通過していくしかない。

 左翼の索敵範囲を縮めて巨大樹の右を通過する。

 

 「各員、左の巨大樹からの接敵に注意せよ!」

 

 兵士達に指示を飛ばし、巨大樹の森が左前方直前に迫った。

 

 その時である。

 

 巨大樹の陰から、のそりと大型の巨人が姿を現したのだ。

 

 両手を挙げ、バンザイの姿勢をとった間抜けな姿の約15m級の巨人。歯が露出し、黒髪を後ろに撫で付けている。「ア゙ッ、ア゙……」と声を出し、こちらをじっと見つめていた。

 足音はしなかった。エルヴィンも、他の兵士達も接近に気付かなかった。つまり奴は巨大樹の裏に潜み、我々の接近に合わせて出てきたのだ。

 

 

 馬鹿な、巨人が()()()()だと?

 

 

 そう僅かに動揺しながらも、エルヴィンは冷静に指示を飛ばした。

 

 「赤の信煙弾を」

 

 指示を受けた班員は「了解」と答え、手早く赤の煙が立ち上った。

 

 「団長、右に進路変更しますか」

 「いや、そうするとあの巨人に左翼と中央を分断される恐れがある。ここで迎撃する」

 

 エルヴィンがとった選択は迎撃。すぐさま精鋭班が前に出る。

 

 「気を付けろ。15m級だ、手強いぞ」

 「分かってます」

 「ふざけたポーズしやがって」

 

 巨人はいまだ間抜けなお手上げポーズをとっており、こちらに襲いかかってくる様子はない。

 

 奇行種か。

 

 精鋭班が巨人に近付き、次々に立体機動に移った。幸い巨大樹の森が近く、立体物は充分だ。

 

 「巨人と交戦中と後方に伝えろ」

 「了解です」

 

 伝令が後方に向かったのを見届け、エルヴィンは巨人に目を向けた。

 巨人はポーズをとき、両手を振り回している。めちゃくちゃな動きだが、精鋭班も近付くのに苦戦しているようだ。巨大樹を活用し、取り囲むように立体機動をしている。ところが巨人は自身を取り囲んでいる精鋭班ではなく、エルヴィンに視線を向けているように見えた。

 

 本隊に注目しているのか。やはり奇行種だな。

 

 そう結論付けたエルヴィンが班員に指示を出そうとした時、横から声がかけられた。

 

 「オイ。真正面に赤の信煙弾が見えたから何かと思えば、クソ巨人一体に何を手こずってやがる」

 

 黒髪で目つきの悪い兵士、リヴァイがそこにいた。

 

 「リヴァイ。どうも奇行種のようでな。動きが奇妙で、精鋭班もあの有様だ」

 「チッ、めんどくせえ。俺がやる」

 

 人類最強が、刃を抜いた。

 

 馬の上に器用に立ち、アンカーを発射する。巨大樹に命中し、そのまま人類最強は宙を舞った。

 

 「兵長だ!お前ら、下がれ!」

 

 班長がいち早くリヴァイに気付き、班員を下がらせる。足手まといになるからだ。

 ところがその言葉に反応したのは班員だけではない。巨人もだ。何故かその巨人はその言葉を聞いた瞬間、即座にリヴァイを捕捉した。流石に言葉に反応したように見えたのは偶然だろうが、しかしリヴァイに興味を移したのは確かである。

 リヴァイは少し眉を顰めながら素早く巨人の後ろに回り、うなじに狙いを定めた。

 

 終わりだ。

 

 リヴァイも、班員達も、エルヴィンもそう思った。

 

 しかし次の瞬間、巨人は全力で身を翻し、全速での逃亡を図ったのである。

 

 突然の今迄とは比にならない速度での逃亡により、リヴァイの狙いはズレる。彼は舌打ちをしてアンカーを刺し直し、腰と左のアキレス腱を切り裂いた。巨人はあえなく転倒。しかし腰の傷は浅かったらしく、椎骨まで届かなかったようだ。

 巨人は必死に藻掻き、片足と両の手を使い撤退しようとする。その様はあまりに無様で、あまりにも命懸けだった。

 

 

 ()()()()()()

 

 

 その異常行動にエルヴィンも困惑を隠せない。しかしそんなことで止まるリヴァイではなく、容赦のない追撃を試みた。四つん這いで足掻く巨人に直接アンカーを打ち込み、うなじを狙う。

 

 

 その刹那。巨人が咆哮した。

 

 

 大地を揺らし、却って無音に錯覚するほどの轟音。あの人類最強ですら一瞬怯み、狙いがブレた。立体機動のブレにより人類最強の刃は巨人の肩甲骨の辺りを削ぐに留まる。地面に転がるように着地したリヴァイは「チッ、うるっせぇな……」とぼやきながらも、少し立ち上がるのに手間取る。

 

 アキレス腱の再生が進んだのか、幾分か動きが良くなった巨人が這う這うの体で逃げ出す。巨大樹の森ではなく平原の方へ。立体物が無くては追うことが出来ない。

 ついに巨人は立体機動装置の射程圏外に出た。巨人は振り返ることもなく、全力で逃げている。

 

 「待て、リヴァイ。追わなくていい」

 「……チッ、了解だ」

 

 リヴァイは不満気ながらも指示に従った。深追いして陣形から離れてしまったり、全隊が足止めを食らうのはまずいと理解しているからだ。

 

 「……一体何だ。あれは」

 「さあな。人を目の前に逃げる巨人など見たことがない」

 「力の差が分かる少しは賢いクソがあのクソどもの中にもいるってことか」

 「そうかもな」

 

 エルヴィンは精鋭班とリヴァイが馬に乗るのを確認し、全隊を進行させた。馬を走らせながら、調査兵団団長は考え続けていた。

 

 こちらが巨人を警戒していることを理解し、隠れて待ち伏せ?こちらに襲いかかる様子がなく、まるで真っ当な生き物のように自らの命を惜しんで勝てない相手からは逃亡?

 

 考えすぎかもしれない。巨人は理解不能なことだらけだ。そういう奇行種もいるだろう。しかしそれでも、エルヴィンの中にあの巨人の存在は引っかかったままだった。

 

 

 「一体何だったんだ、あの巨人は……」

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