「ねえねえねえ!君はどっから来たの?喋れる!?」
俺は壁の下に座り込み、ハンジさんの猛攻を受けていた。最初はまた新たな巨人の出現に対して困惑が勝っていたようだったが、すっかり調子を取り戻したらしい。
俺はちらっと壁の上を見上げる。
うーん、今はライナー達も居ないし、話しちゃってもいいかなぁ。
原作だとそろそろとち狂ったライナーが巨人化するけど、今回は俺頑張ったし、ワンチャン何事もなく終わるんじゃないかな。巨人化されたら、エレンが連れ去られないように頑張って援護しよう。
俺はそんなことを考え、ふるふると首を横に振ってハンジさんの問いに答えた。
ハンジさんは「そっかぁ……」と項垂れた。
「うぉっ、巨人じゃねえか……」
駐屯兵団らしき一団がこちらにやってくる。壁の穴を探してた人達かな。あっやっぱり先頭の人はハンネスさんだ。
「大丈夫、味方だから!」
「はぁ……?味方ぁ?」
俺を遠巻きに見ながらハンジさんの言葉に怪訝そうにしているハンネスさん。俺はふりふりと手を振ってみた。
「お?おぉ……」
ハンネスさんは遠慮がちに手を上げる。このおっさん、さてはノリが良いな?
そんなふうに人々と戯れていると、壁の上が俄に騒がしくなる。
あれ、まさか原作通り……
そして次の瞬間には一瞬無音と錯覚するほどの轟音が壁上から放たれた。暴風が吹き荒れ、皆はもちろん、巨人である俺すらも吹き飛ばされそうになる。
この威力……超大型!ちゃんと原作通りに巨人化しやがったな……!!
俺は急いで体勢を立て直し、上を見上げる。おびただしい量の蒸気の中から、上半身だけの赤く皮膚のない巨大な人型が姿を現す。
エレンが鎧に連れ去られるはずだ。壁の向こう側に応援に行かなくては。
俺が壁の方に走り出したその瞬間、壁上から蒸気を突き破って何かがこちらに飛び出してきた。
両足と肘で壁を削り、減速しながら落下してくる。鎧の巨人だ。
……え、何でこっち来んの?エレンは?
壁の上を見ると、超大型が何やら握り拳を二つ作っている。それから一方の握り拳を口に持って行き、中に入っていた一人の調査兵を食った。
「食った!!」
悲鳴に近い叫び声が上がる。
人を捕まえていたのか。じゃあもう一方の手には……。
その瞬間、超大型のもう一方の握り拳が吹き飛ぶ。まるで中から爆弾で爆破されたかのように手は千切れ飛び、中から巨人が現れる。
エレンだ。
超大型に捕まっていたらしい。
しかし、巨人化して拘束を逃れたはいいものの、すぐにもう片方の手に捕まってしまう。巨人になろうとも、超大型は60mはあるのだ。精々15mのエレンでは、手で掴まれるとそう容易には抜け出せない。人で言うなら、6m級の巨人に掴まれるようなもの、と言えば分かりやすいだろうか。
やがて破られたもう片方の手も再生し、エレンは両手でがっしりと確保された。エレンの巨人としての膂力は凄まじいが、それでもあの拘束を解く方法はない。
他の調査兵団が立体機動に移るが、その瞬間凄まじい熱波が、超大型の身体から放出される。
立体機動装置は無力化され、エレンも身体を焼かれ続け、再生に手一杯で動けない。
上手いな。
俺は思わず心の中で感嘆してしまう。あの熱波により、エレンは一度巨人化を解除して逃げるという手段を失った。
完全な膠着状態だ。
当然超大型も動けないが、恐らく狙いは時間稼ぎ。
俺は目の前の鎧の巨人を見据える。
調査兵団の皆は今現在、超大型にも鎧にも、有効打を与えることが出来ない。
今、全ては俺に懸かっている。俺が要だ。
鎧の巨人がじりじりとこちらに近付いてくる。
さて、どうするか。
超大型が時間稼ぎをしているように、俺がするべきも時間稼ぎだ。
ベルトルトの身体が燃え尽きるのが先か、俺が鎧の巨人に負けるのが先か。そういう耐久レース。
俺は鎧の巨人に恐らく勝てない。だから時間稼ぎに徹する。
俺は硬質化を習得していない。というか無垢の巨人だからまず出来ない。俺は、鎧の巨人に有効打を与えられない。
そう思ってるだろ?ライナー。
俺はエレンのように関節技を使うことも出来ない。空手でそんなん習わんかったし。
俺は考えたさ。ジークによって巨人にされてから、原作通りならライナーと戦うことも有り得たから、対抗策を考え続けた。
そう、ヒントはジークだ。原作において、ライナーはジークに対し手も足も出ずに敗北した。状況から見るに、アレは投石によって打ち倒されたはずだ。ならば俺もそれに倣おう。
しかし、ただの岩で鎧を砕けるか?ジークほどの投擲力があるなら別なのかもしれないが、答えは否だろう。ライナーの鎧は砲弾すらも弾くんだぞ。ボール投げの成績がすこぶる悪かった俺の投石が有効かと言われれば首を傾げざるを得ない。
問題は何を投げるか。
そんなもの、決まっているだろう。
硬質化には硬質化だ。
俺は、落ちていた
結果は的中。ライナーの顔右半分に当たり、ライナーは仰け反る。思わぬ攻撃に怯んだ後、体勢を立て直したライナーの右の顔はひび割れていた。
効いた。
お前らが壁の上で派手に巨人化してくれたおかげで、そこら中に壁の破片が落ちている。
壁は硬質化した巨人で出来ている。
つまり壁の破片はライナーの鎧と同素材だ。だから、この攻撃は、通る。
俺は壁の破片を次々とライナーに投げる。当たったり当たらなかったりするが、少なくない数が命中し、ライナーの身体に罅を入れる。
「いいぞ!」
「効いてる!」
周りから歓声が上がる。
来るんじゃねえ!
俺はヒステリックババアのように手当たり次第に破片を投げつけた。ジークの脊髄液バフがかかっているからか、前世よりエイムと威力が良い。
おーい、ライナー。野球しようぜ!デッドボールアリな!
一際大きな破片を砲丸投げの様に投げ、それがライナーの足に当たり、歪に折れ曲げた。ライナーはその場に膝をつく。
っしゃあ!どんなもんじゃい!!
ベルトルトォ!てめぇが燃え尽きんのが先だぜ!
なんだか気分がハイになってきた。いける。
俺はひたすら破片を投げつける。ライナーは蹲り防御体勢だ。
……らしくないな。もう音を上げるのか?
一抹の違和感を覚えながらも投石を続ける。
するとその刹那。
ライナーの姿がブレた。
いや、残像が残る程のスピードでの動き出し。
速い。
さっきまでの動きが嘘のような俊敏さだ。構える時間もなく、あっという間に距離を詰められる。
クッソ、足、折れてはなかったのか!ただ鎧が僅かに割れてズレただけ。蹲ったのはブラフか!
腕を前に十字で構え、投石を防ぎながら突っ込んでくる。胸から下にタックルで組み付かれ、引き倒された。
ライナーの背中が見える。そこで気付いた。
コイツッ……!
関節どころか裏側の全てを剥がす暴挙。動きの阻害がなくなり、重量が大幅に軽くなったことによる超加速。
多少防御をかなぐり捨ててでも、俺を一刻でも早く仕留めることを選んだのか。
そして俺を無事に押し倒せたので、ライナーは背面の鎧を再生させている。抜け目がない。
ミカサァ!原作みたいにライナーの関節削いで!
あっ駄目だ!捕まってるエレンに夢中だ!
じゃあ仕方ないね、クソッタレ!
俺の投石に巻き込まれないように他の調査兵団の皆も離れていたので、誰も援護に間に合わなそうだ。ライナーの鎧が再生する方が先。
俺は必死にライナーを引き離そうとするが、この距離で勝てるわけが無い。既にマウントポジションを取られているのだ。
俺は殴られ、まずは両の足を折られた。
クソ、クソッ!
苦し紛れに持っていた破片でライナーの頭を殴るが、僅かにひび割れるだけ。
すぐにその腕も叩き潰された。
「アアアアアアッッ!!!」
残った手で必死に抵抗する。まだ超大型は熱波を放ち続けているのだ。
まだ、まだだ。もう少しでいい、時間を稼がなくては。
しかし俺はあえなく四肢を全て潰され、再生も間に合わずうつ伏せにされる。これでも再生は早い方なんだが、ライナーも急いでいるから、その時間すらも与えてくれない。
俺は呆気なくうなじの表面の肉を食い千切られた。
視界が巨人のものから、うなじの人としてのものに移る。
前回俺はうなじから引き離された瞬間意識を失ったが、今回は巨人になっていた期間が短かったからか意識を保っている。多少朦朧とするが。
ライナーは俺の姿を見て一瞬固まったが、すぐに俺の身体を掴んで巨人の身体から引き離した。
「本隊が来たぞ!!」
微かに誰かの叫び声が聞こえた。
本隊?まさかエルヴィン団長が?なんで。
いや、しかし団長が来たならもう大丈夫なはずだ。俺の時間稼ぎは無駄ではなかった。
そう肩の荷がおりたような気分になったのも束の間、
「うわああああっ」
「何だ!?砲撃!?」
「いやっ違う!
その俺の希望は、壁の向こうから鳴り響く無慈悲な砲撃音に打ち砕かれた。
ジーク「ずっと、スタンバってました」