【悲報】目覚めたら巨人だった【敵じゃないよ】   作:佐東

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 「なんっでだよ……!」

 

 ジャンは忌々しげに呻く。

 

 目の前には勢い良く蒸気を身体中から噴出し続ける超大型巨人。鎧の巨人は先程壁を降りていった。

 

 ライナーとベルトルトは、巨人だった。今でも信じられないが、目の前で巨人化するのを見たんだ。間違いない。

 

 どうして同期の中に巨人が三人も居るんだと心の中で悪態をつく。

 

 ずっとオレ達を裏切ってたってのか……!

 

 頭の中でぐるぐると何かが渦巻いている。胸がムカムカして思考が定まらない。

 エレンはあっさりと超大型巨人に捕まった。一度は巨人化して抜け出したものの、もう片方の手で呆気なく掴まれた。今は超大型の蒸気に焼かれることしか出来ない状況だ。

 

 「立体機動の攻撃が出来ません!」

 

 そうアルミンが叫ぶ。あの熱波によって誰も動けない状態だ。

 

 「何してんださっさと抜け出せこの死に急ぎ野郎!!」

 

 自分でも無茶なことを言っていると思いながらもジャンは口に出す。

 

 「クソッ、何か出来ることはねえのかよ……!」

 

 ジャンはそう言って辺りを見渡し、最初の超大型の爆発に巻き込まれた一人の調査兵を見つけた。

 命に別状は無さそうだが、至る所に火傷があり、身体を酷く打ったようだ。だが幸いなことに立体機動装置に破損は見られない。

 ジャンはその兵士に駆け寄った。

 

 「オイ、あんた。すまねえがその立体機動装置を貸してくれないか」

 

 兵士は呻きながらも、それに頷く。

 

 「う……あぁ。俺はもう戦えそうにない。使えるやつが使ってくれ。どうか……人類の仇を……」

 

 任せろ、とそう答えながら、ジャンは衛生兵を呼び、兵士の立体機動装置を自分に付け替え始めた。立体機動装置のベルトは複雑で、取り外しにも装着にもそこそこの時間がかかる。

 訓練で何度もやったことなのに、焦りで手元がおぼつかない。

 

 ふと壁の下を見ると、鎧の巨人とあの謎の巨人が戦っている最中だった。かなり善戦……どころかむしろ鎧の巨人を押しているように見える。

 あの巨人は落ちた壁の破片を投擲して対抗しているようだった。

 

 ……本当に何なんだ?あの巨人は。

 

 味方なのは間違いなさそうだが。

 そう考えているうちに、粗方立体機動装置が付け終わった。トリガーの重さを確認する。

 よし、これでいざと言う時に動ける。

 

 超大型は未だ熱波を放出し続けている。掴まれているエレンは既に丸焦げだ。身じろぎしてることから生きてはいるみたいだが。

 

 アルミンとハンジさんはいつか超大型は燃え尽きると言っていたが……本当か?

 

 しかし今どうこう出来るわけでも無いので再び下に視線を戻す。

 

 「なっ……!?」

 

 するとそこには鎧の巨人に組み伏せられるあの巨人の姿。

 目を離した隙に、いつの間にか形勢が逆転してしまっていたのだ。何が起きたのか分からないが、しかしまずい状況だということは分かっていた。

 

 あの巨人は四肢を折られ、うなじを食われようとしている。助けに行くべきか。

 

 そう思って壁を半分ほど降りたところで、トロスト区の方から壁上を馬で駆けて来る集団を見つけた。先頭はエルヴィン団長。

 

本隊の到着だ。

 

 そしてジャンがどうすべきか迷っているうちに、とうとう下ではあの巨人のうなじが食い破られ、中身が露出した。

 

 「…………え」

 

 遠目だが、それでもはっきりと分かる。うなじの中に居たのは、イオリだった。

 思考が追いつかないが、ともかく本隊が来たのだ。皆で鎧の巨人を打ち倒せば───

 

 

 そう思ったその時、壁の上が連続して爆発し弾け飛んだ。

 

 

 「うわああああっ!!」

 

 悲鳴がこだまする。

 

 いや、急に壁が弾け飛んだんじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 「投石だ!」

 

 誰かが叫び、本隊は少し離れたところでたたらを踏む。

 ジャンは壁の内側の方にぶら下がっていたので無事だが、上はどうなっているか分からない。

 

 見ると調査兵団が皆混乱しているその隙を突いて、超大型が熱波の放出を止め、動き出している。

 

 掴んでいたエレンを口の方へ持っていき、首の部分をバコンと勢い良く口を閉じて噛みちぎる。

 

 「あぁッ!?」

 

 驚きと絶望の声が出る。しかしよく見ればエレンは寸前でうなじから飛び出し、立体機動装置で退ったようだ。

 

 ホッと一息つき、再び下を見る。

 鎧の巨人がイオリを手に掴んでこちらの壁の方に向かっていた。

 

 

 ここで鎧の巨人を行かせてはならない。

 

 

 ジャンは正しく現状を認識していた。

 

 もし鎧の巨人に壁を越えられ、壁外に逃げられたら追い付けない。馬を向こうに運べないからだ。

 

 本隊はよく分からないが向こうからの投石で動けずにいる。壁の下に待機していた兵士は、壁の方へ向かって走り去る鎧の巨人に追い付けていない。というより皆、この混沌とした状況に理解が追い付かず動けていない。

 

 今鎧の巨人を止められるのは、壁の内側にぶら下がっているジャンだけ。ジャンは意を決して壁の下まで降り、横から鎧の巨人に斬り掛かる。

 

 「ライナァアアアア!!」

 

 この恐怖も苛立ちも全て綯い交ぜにして叫ぶ。

 

 俺がこの鎧の巨人に勝てるわけねえ。死ぬに決まってる。

 それでも俺がやるべきだと思ったし、それにだ。

 

 イオリさんは俺の恩人なんだ。トロスト区で本部までの道を作ってくれたし、何より親友のマルコの命を救ってくれた大恩人。

 

 その恩に報いたい。

 

 それがジャンを突き動かした動機だった。そこに年頃の男の子らしい私情が全く混ざっていないといえば嘘になるが。

 

 鎧の巨人が壁を登るのを中止してこちらを向いた。振りかぶる手を間一髪で回避し、背後に回る。

 

 クソ、硬い!刃が通らねえ……!!

 

 その瞬間、ハンジさんが少し離れたところからジャンに叫んだ。

 

 

 「膝の後ろだ!!」

 

 

 ジャンはその声を即座に信じ、そのまま膝裏の関節を削ぐ。

 

 浅い。

 

 が、確かに機動力を奪った。

 ジャンはそのまま一旦離脱しようとするが、再び鎧の巨人の拳が振るわれる。

 

 「ぅ、おっ……」

 

 掠ったものの、拳はジャンを素通りした。狙いはそこではなかったからだ。

 

 通り過ぎた拳は、ぴんと張ったジャンのアンカーを引っ掛け、そしてそのまま振り抜かれた。

 ジャンの身体は持っていかれたアンカーに勢い良く引っ張られ、地面に叩きつけられる。

 

 「がはっ……!」

 

 地面に転がり、立体機動装置もガシャガシャと外れた。

 

 息が詰まって上手く肺に空気が入ってこない。不思議とどこも痛くは無いが、感覚もない。この勢いで叩きつけられたのだから、無傷なわけは無いだろう。ジンジンとして手も足も力が入らない。

 

 必死に息を吸うことしか出来ない。トドメを刺されることを覚悟したジャンだったが、しかし鎧の巨人は急いで逃げることを優先したらしく、ジャンには見向きもしなかった。鎧の巨人は指の先を尖った形に変形させ、壁を登ろうとしている。

 

 ジャンの中では安堵と、情けなさが胸の中で渦巻いていた。このままではイオリさんが連れ去られてしまう、と何とか起き上がろうと四苦八苦するが身体は動かない。頭を打ったのか、意識も朦朧とする。

 鎧の巨人は片足の関節を削がれ、上手く壁を登れないようだったが治るのも時間の問題だ。

 

 もう無理かと諦めかけるが──

 

 「このッ裏切りもんがぁあああ」

 

 突然上から声が聞こえたかと思えば、落雷音と共に、エレンが巨人となって落ちてくるのが見えた。雄叫びを上げ、振りかぶった拳を鎧の巨人に叩き込む。

 

 

 遅せぇんだよ、この死に急ぎ野郎が。

 

 

 「──ン!ジャン!」

 

 幻聴まで聞こえてきやがった。しかも居るはずのない親友の声に聞こえてくる。

 

 ジャンは自身の時間稼ぎが無駄ではなかったことを悟りながら、ゆっくりと意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エレンとライナーが取っ組み合いを始める。

 

 俺の身体はライナーの手から離れ、地面に転がった。意識はあるが、身体はどうも思うように動いてくれない。

 近くにジャンが倒れている。彼が命懸けで時間を稼いでくれたから、エレンが間に合ったのだ。しかしそのジャンも、鎧の巨人により地面に叩き付けられ、恐らくは重症だ。いや、死んでいたっておかしくない。

 ジャンの近くにはフードを目深に被った兵士が居て、呼びかけながら応急手当をしているようだった。

 

 俺は何とか這ってジャンの元へ向かう。

 呼吸音と、胸の上下運動が確認出来た。

 良かった。命に別状は無いらしい。気を失っているだけだ。

 

 ところでこの兵士は誰だろう。そう思ってフードの中を覗き込もうとした時。

 

 「イオリ!」

 

 立体機動でやって来たのはハンジさん。

 

 「いや驚いた、一体何で……いや今はそんな場合じゃないか。とりあえず離れよう」

 

 ハンジさんはそう言って俺を抱え、立体機動で格闘戦を繰り広げるエレン達から距離をとる。モブリットさんとフードを被った兵士がジャンを担いで連れて行った。

 

 「壁の上には……逃げれなそうだね」

 

 ハンジさんが見上げる先には、飛来する岩が壁の上部を削り取っている様子があった。先程から間隔こそ長めだが、絶えずに投石が続けられている。

 

 恐らくはジークの仕業だが、何でだ。

 原作ではとっくにこの場から去っていたはずなのに……。

 

 「ハンジ!現状は」

 

 向こうからエルヴィン団長率いる本隊が壁の内側に降りてこちらに向かってきていた。馬は壁の上に放棄せざるを得なかったみたいだ。

 

 「ライナーとベルトルトが巨人化。あとはまぁ……見ての通りだよ」

 

 ハンジさんは俺と向こうで戦っているエレンを指差す。そして「あと謎の投石ね」と上を指した。

 「あぁ」と団長は頷き、そして俺に話しかけてきた。

 

 「イオリ、本当によく頑張ってくれた。君の残してくれたメッセージも確認した。あとは我々に任せてくれ」

 

 …………んぇ?あ、そういえば書き置き、してましたね。

 読んでくれたのか。それは、良かった。

 

 あ、まずい安心したら急に眠気が……。

 いやダメだ、まだ意識を飛ばすな。まだ伝えないといけないことが。

 

 団長は「ゆっくり休んでくれ」と言い残し、団員達に向かって叫ぶ。

 

 

 「総員傾注!!我々はこれより超大型及び鎧の巨人を捕獲する!!立体機動に移れ!!」

 

 

 




一応現状を整理しますと、

敵側
・鎧の巨人、超大型巨人は健在だが、かなり消耗。
・壁の外側からの獣の巨人による投石(壁の内側にいれば壁が遮蔽になるのでそこまで被害は大きくない)

味方側
・エレン二度目の巨人化
・原作では間に合わなかった本隊の到着
・超大型巨人、投石による損害は軽微


シガンシナ区決戦の模擬演習みたいな状況ですね。



ちなみに主人公くんは鎧の巨人を著しく消耗させ、本隊到着までの時間を稼いだので、主人公くんにしては大金星です。
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