【悲報】目覚めたら巨人だった【敵じゃないよ】   作:佐東

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 調査兵団一行がエルミハ区に到着したのは既に日が落ちきった後だった。

 これより先は巨人がいると思われる場所だ。エルミハ区には多くの避難民が押し寄せてきていた。皆が一様に暗い表情を浮かべ、列を成している。

 

 「団長!巨人領域の夜間行軍は危険すぎます!」

 

 そう提言してくる兵士。しかしエルヴィンはそれを却下した。

 

 「事態は一刻を争うのだ。それに夜の巨人の動きは鈍い」

 

 そう言ってエルヴィンは団員達に隊列を組ませる。エルミハ区の正門から出ようとしたその時、こちらに向かってくる馬に乗った一人の兵士を見つけた。

 ボロボロになりながら、馬を降り、生気のない顔でよたよたとこちらに歩み寄ってくる。

 十分に近付き、その人物が灯りに照らされた時点でようやく分かった。

 

 「ミケ……!?」

 

 ミケはその場でよろめき、膝をついた。見ると片足があらぬ方向に折れ曲がり、出血している。酷い怪我だ。この状態で何時間も馬に乗りここまで来たというのか。

 脂汗を滲ませ、焦点の合わない目でエルヴィンを見つめながら、ミケは息も絶え絶えに言う。

 

 「エ、ルヴィン……」

 

 「よせ、喋るな。今衛生兵を……」

 

 「聞け……ライナーとベルトルトは巨人化していない……新たに獣のような知性を持つ巨人が現れたんだ……」

 

 「何……」

 

 「それと……イオリ、だ……イオリが戦ってくれている……」

 

 ミケはそう言うとがくんと項垂れ、動かなくなった。慌ててハンジが身体を支え、衛生兵のところに連れて行く。

 

 「よく報告してくれた、ミケ」

 

 エルヴィンはそう呟いた。

 

 トーマの言う通り、今回の事態の原因はあの二人ではない。新たに出現した知性を持つ『獣の巨人』……。

 いや、それも大事な情報だが、それよりも。

 

 やはりイオリは、人類(われわれ)を見限っていなかった……!

 

 ハンジの言う通り、この事態に対して戦ってくれていたのだ。恐らくミケのことも助けてくれたのだろう。

 

 イオリ、君はどこまで我々に……。

 

 エルヴィンは目頭を手で押さえ、そしてある可能性にふと思い至る。

 

 イオリは間違いなく味方だ。

 

 そうであるならば。

 

 近くに居たリヴァイに声をかける。リヴァイは女型の巨人との戦闘で負傷し、今は装備を身につけていない。

 

 「リヴァイ、この一ヶ月イオリに変わった様子は無かったか?」

 

 「……アイツはいつも変わってたが……特に思い当たることはねぇな」

 

 イオリは味方。

 ならば女型の巨人と協力する素振りをしていたのも、予め何らかの取引を行ったと考えられる。

 そしてそれが出来るのはリヴァイ班に居た一ヶ月の間のみ。

 その間に敵勢力と何らかのやり取りをした可能性がある。その痕跡が残っているかもしれない。

 それに、彼女は女型の巨人に連れ去られるつもりだった。彼女が味方ならば、去って終わりというのは考えにくい。彼女のことだ、我々に何らかの情報を残しているんじゃないのか?

 

 旧調査兵団本部に。

 

 ミケを送り届け戻ってきたハンジにエルヴィンは指示を出す。

 

 「ハンジ、部隊を二つに分ける。先遣班はハンジが指揮し、このままウトガルド城に急行してくれ。そして本隊は、道中の旧調査兵団本部に寄ってからトロスト区に向かう」

 

 「あ?何故だ」

 

 リヴァイが怪訝な顔で問う。

 

 「勘だ。旧調査兵団本部にイオリが何かしらの情報を残しているかもしれない、と判断した」

 

 リヴァイは眉を顰めたが、それ以上何も言うことなく指示に従った。

 

 

 

 

 

 

 そして数時間後、旧調査兵団本部にて。

 リヴァイ班主導で、本部内の調査が行われた。主にエレンとイオリが寝泊まりしていた地下室を重点的に調べる。

 やがて、ペトラが棚の引き出しの奥底から小さな書き置きを発見した。

 

 そこに書かれていたのは、自分が女型の巨人をストヘス区に誘導するから捕獲してくれという旨の内容。

 

 なるほど、これが彼女の計画。ここまでの危険を背負うつもりでいたのか。計画には多少粗が目立つものの、確かにこれならば上手くいく可能性も高かっただろう。何より、この計画は成功しようと失敗しようと我々に被害が出ない。彼女の犠牲を度外視するならばの話だが。

 

 書き置きには加えて、鎧の巨人と超大型巨人の正体、そして今起きているこの事態についても触れられていた。

 壁は破られておらず、『獣の巨人』の能力でラガコ村の住民が巨人に変えられたのだということも。他にも巨人についての情報がチラホラと記されていた。

 

 「しっかしイオリもイオリだぜ。さっさとこの情報を全部教えてくれりゃ良かったのによ」

 

 そうボヤくのはオルオだ。それに対してたしなめるようにエルヴィンが口を開いた。

 

 「そう言ってやるな。彼女も必死だったんだ」

 

 それにリヴァイも続く。

 

 「あぁ……こんな情報持ってりゃあ、拷問されたっておかしくねぇだろうからな」

 

 「ご、拷問!?」

 

 「当然俺達はそんなことしねえが……イオリのヤツからしてみればそうは思えなかったってことだろ」

 

 そう。イオリは我々のことを信じることが出来なかったのだ。いや、我々が彼女に信じさせることが出来なかった、というべきかもしれない。

 無理もない話なのだ。そもそもこんな事態になった今だからこそ、この情報を信じられるわけで、それ以前にこの情報を一気に開示されていたとして、信じることが出来たかは怪しいものだ。

 

 「ともかく、これですべきことは定まった。我々は予定通りトロスト区に行った後、壁上のレールを用いて捕獲装置と物資を運びながらウトガルド城の方へ向かう」

 

 もう壁を塞ぐための用意は必要ない。我々の目的は、超大型及び鎧の巨人の捕獲だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして本隊が現場に到着した今。

 鎧の巨人と巨人化したエレンが交戦していた。超大型巨人は壁の上で動かず、今は止んでいるが、壁の向こう側からまたいつ投石が始まるか分からない。

 

 本隊の兵士達が次々と立体機動に移る。狙いは鎧の巨人だ。

 ハンジから関節の裏側が弱点だという話は聞いている。エレンの援護は十分に可能なはずだ。

 本当は持ってきた捕獲装置を使用出来れば良かったのだが、壁上にあるそれはほとんど投石で破壊され、残ったものを使用しようにもいつ投石が来るか分からないこの状況では下手に壁上に登れない。

 

 鎧の巨人はイオリとの戦闘により、身体の至る所にヒビが入っており、エレンの関節技が非常に有効なようだ。単純な打撃ですら多少の効果があるようで、脆くなった鎧がみるみる砕かれていく。

 エレンは二度目の巨人化であり、膂力が低下しているとはいえ、調査兵の援護もあり、かなり優勢だ。

 関節の裏を立て続けに削がれ、鎧の巨人の機動力が低下する。

 

 「いける!」

 

 そう誰かが叫んだ。皆が同じ気持ちを共有していた。

 しかしそんな中、ハンジに抱き抱えられていたイオリが呻くように訴えかけてくる。

 

 「鎧が、叫んだら……超大型が落ちてきます。気を付けて……」

 

 ハッとエルヴィンは上を見上げる。壁上に登れば投石を受けるかもしれないので後回しにしていた超大型巨人は、最早ほとんど骨になっている。

 

 動く気配は無いが……

 

 「分かった」

 

 もうイオリを疑う選択肢など無い。エルヴィンは息を吸い、イオリの忠告を皆に伝達しようとして───

 

 

 「ウォオオオオオオオ!!!」

 

 

 鎧の巨人が叫んだ。ほぼ同時にエルヴィンも叫ぶ。

 

 「超大型が降ってくるぞ!!総員回避!!!」

 

 皆が立体機動で鎧の巨人とは反対方向に移動し、壁上の超大型巨人の身体が傾き始めた。

 鎧の巨人に三角絞めを極めていたエレンにもその声は聞こえたようで、上を見上げると慌てた様子でその場から離れようとする。

 しかし援護していた調査兵団も、エレンも完全な回避には僅かに間に合わない。

 あっという間にバキバキと肋を折りながら超大型巨人は傾き、そのまま下に自由落下する。

 

 

 そしてその場に巨大な質量が落下してきたことによる凄まじい衝撃波が皆を襲った。

 

 

 援護に向かっていた兵士達が勢い良く吹き飛ばされる。

 距離の離れたエルヴィン達がいるところにすら強烈な熱風が届いた。

 

 エルヴィンの後方で、フードを被った兵士がジャンを風圧から庇いながら苦しげに呻く。

 

 

 「ライナー、ベルトルト…………!」

 

 

 

 




トロスト区で捕獲していた二体の巨人の死亡に対して、ハンジさんがすぐに現場に行けたことから、旧調査兵団本部はトロスト区にかなり近いところにあると考えられます。
なのでエルミハ区からトロスト区に向かう道中で、そう迂回することもなく旧調査兵団本部に寄れるかな、と思いました。

書き置きにはジークの攻撃手段である投石についても書かれていたので、不意の投石にも即時対応し、被害を最小限に抑えることが出来ました。



ちなみにリヴァイは負傷しているので、トロスト区で待機です。彼が万全で今回の戦闘に参加した場合、戦士は一人残らず捕獲されて完全試合(パーフェクトゲーム)になります。
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