【悲報】目覚めたら巨人だった【敵じゃないよ】   作:佐東

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主人公くんはぐっすりです。


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 激しい爆発が辺り一帯を包む。

 

 エレンは必死に防御したが堪えきれず吹き飛ばされる。防御のために構えた腕の表面が焼け焦げていた。エレンの後ろには、先程まで援護をしてくれていたミカサとアルミンがいる。

 

 見るとエルヴィン団長達本隊も少なくない数が爆発に巻き込まれたらしい。退避が早かったからか死者はいなそうだが、戦闘不能になっている者も多いと思われる。

 

 鎧の巨人──いやライナーも、元々鎧にダメージが入っていたからか少なくない被害を受けたらしいが、流石の防御力で難なくその場から這い出てきた。

 おびただしい蒸気の中から、食った調査兵の装備を身につけたベルトルトが飛び出してきて、ライナーの肩の上に着地する。

 

 エレンはすぐさま体勢を整え、戦闘の構えをとるが、ライナー達はエレンを一瞥したあと、すぐ壁を登り始めた。

 

 オレ達を諦めて逃げるつもりか。

 

 エレンは急いで追い縋るが、間に合わない。ライナーは両手両足の爪を尖らせ、器用に壁を這い上って行く。既に手の届かない高さに達してしまった。

 硬質化の力を使えないエレンでは、壁を登ることが出来ない。

 

 逃げられる。

 

 その時、離れたところでエルヴィン団長が叫ぶ声が聞こえた。

 

 「絶対に逃がすな!奴等を逃がせば、我々人類に平穏は訪れない!!」

 

 そうだ。逃がしてしまえば次いつ壁が破られてもおかしくない。ここで仕留めるんだ。

 

 エレンの内側にはまだふつふつと怒りが沸いていた。

 しかし壁を登れないことにはどうしようもない。壁を見上げて考え込んでいると、ミカサとアルミンが団長の指示に従い、壁を登り始めた。

 

 「エレンはここで待ってて」

 

 ミカサはそう言い、アルミンもそれに同意して立体機動で軽やかに壁を越える。

 エレンはその様子を眺め、悔しげに歯を食いしばった。

 

 オレだけ蚊帳の外で待ってろっていうのか。お前らが命懸けで戦っているのに。

 

 それに、ライナー達を許せない。必ずこの場で引っ捕まえて問い質してやるのだ。

 

 エレンは少し考え、一度巨人化を解くことに決めた。うなじから蒸気が噴出し、そこからエレンが飛び出す。

 立体機動装置は破損していない。このまま壁を立体機動で越えて、再び巨人化するのだ。

 

 既にエレンは二度巨人化している。トロスト区でのことから考えるに、三度目の巨人化は可能ではあるものの、恐らく理性を失ってしまうだろう。

 しかしやるしかない。少なくとも、ここでじっと待っているなんてエレンには出来なかった。

 

 そもそも、人間のままでもオレは戦えるんだ。巨人化は最後の手段ってことにしておけば問題ない。

 

 そうエレンは考え、アンカーを刺しガスを噴かして壁上に登った。

 

 壁の上から見下ろすと、逃げるライナー達に対して、調査兵団が多数斬り掛かって妨害をしていた。

 投石は何故か止んでいる。見ると少し離れたところから身体中が毛むくじゃらの巨人がこちらに向かってきているのが見えた。

 アレが投石の犯人か。

 

 そうか。石を投げてきたアイツはライナー達の味方で、仲間に石を投げることは出来ないのだ。

 

 下にはライナー達と調査兵団、そしてこの騒ぎに集まってきた無数の巨人達。

 思ったより多くの巨人が集まってきていたようで、ライナー達と調査兵団のどちらも巨人への対応に苦戦している。

 

 毛むくじゃらの獣のような巨人と、奇妙な四つん這いの巨人が、調査兵団と戦闘を始めた。

 やはり奴等はライナー達の仲間で、逃亡を手助けしようとしているのだ。

 

 そして、ライナー達の目的は自分やイオリである。であるならば目的の一人である自分は今すぐ壁の内側に戻るべきだ。

 

 エレンはその結論に思い至り、自身の衝動よりも、そちらを優先するべきだと理解する。

 

『エレン……どんなに相手が悪くても憎らしくてもね。突っかかりゃいいってもんじゃないんだよ!』

 

 ふと母の言葉を思い出した。

 悔しいが、個人の私情より、人類の勝利を優先するべきだ。唇を血が出るほどに噛みしめながら、エレンは下の光景を眺める。

 

 ミカサが鎧の巨人の肩にいるベルトルトに斬り掛かった。しかしライナーに妨害され、ベルトルトの左腕を切り落としたようだが、体勢を崩して通り過ぎる。

 そして通り過ぎた先に、待ち構えるように巨人が手を広げて待っていた。

 

 「あぁッ!」

 

 がしりとミカサが両手で掴まれる。

 

 その瞬間、エレンの頭からあらゆる合理も理屈も消え去った。何かを考える暇もなく、落下するように突っ込んでいく。

 

 反射的に手を噛みちぎり、空中で巨人化。酷く不完全な巨人化だった。

 

 「ウォオオオオオオオ!!!」

 

 全力で叫びながら落下の勢いでミカサを掴んだ巨人を殴り潰し、その後すぐ横のライナーに思い切り蹴りを叩き込み吹き飛ばす。

 

 まずい、意識が飛びそうだ。

 このままでは理性を失ってしまう。

 暴走してしまえばそのままミカサまで───

 

 エレンは理性を失う直前、何とかうなじの部分から顔を出した。僅かな時間の巨人化だったにも関わらず、肉が癒着している。思い切り引きちぎり、転がるように地面に落下する。立体機動装置は破損してしまったようだ。

 

 近くに倒れ込むミカサに駆け寄る。

 目立った怪我は無いようだ。エレンは息を荒らげながらミカサに尋ねる。

 

 「はぁっ、……ミカサ、大丈夫か」

 

 「……うん、大丈夫」

 

 口ではそう言うものの、ミカサは立ち上がろうとしない。どこかを痛めたようだ。

 

 「先にベルトルトを捕獲しろ!」

 

 横から声が聞こえる。エレンがライナー達を蹴り飛ばした方向だ。

 ミカサに片腕を切られ、蹴られて体勢を崩したライナーから離れてしまったベルトルトが、調査兵団の面々に囲まれていた。

 

 「イオリによれば、『巨人化直後に身体の欠損が激しい場合は巨人化出来ない』とのことだ!全て切り落とせ!」

 

 ベルトルトは組み伏せられ、四肢をブレードで切断される。裏切り者として怒りがあったとはいえ、かつての仲間が切り刻まれ悲鳴をあげる光景にエレンは顔を顰める。

 

 しかし周りを気にしている場合ではない。エレンは巨人化も立体機動も出来ない状態だ。ミカサもどこかを痛めて戦うことは出来ない。

 辺りの兵士は皆、三体の知性を持った巨人と無数の巨人達への対応で手一杯だ。

 

 今二人は無防備。

 巨人達が蠢いている中でこれは危険すぎる。

 

 エレンはミカサに肩を貸し、壁の方に少しづつ歩みを進めた。巨人化の後遺症か、頭がクラクラするし、目も霞む。それでも、前へ。

 

 耳元で、ミカサの声が聞こえた。

 

 「……エレン。その、ありがとう」

 

 「……気にすんな」

 

 てっきり『お前を助けたんじゃなくてライナーを蹴り飛ばしてやりたかっただけだ』というような返事が返ってくると思っていたミカサは、ほんの少しだけ目を見開いた。

 それから後ろに目線だけを配った後、エレンに向けて薄く微笑んだ。

 

 「私を助けてくれてありがとう」

 

 「……だから、気にすんなって……」

 

 「ううん、今もだけど、昔も」

 

 「……あ?」

 

 私を強盗から助けてくれてありがとう。

 

 一人だった私を助けてくれてありがとう。

 

 私と一緒にいてくれてありがとう。

 

 私に生き方を教えてくれてありがとう。

 

 

 頭の中にいくつも言いたいこと、伝えたいことが浮かんで。

 

 

 「私に、マフラーを巻いてくれて、ありがとう」

 

 

 ミカサはそう言うと、エレンを突き飛ばした。

 

 「…………は」

 

 ただでさえ足元が覚束無かったエレンは呆気なく地面に転がった。

 エレンは呆然と倒れながら後ろを振り返る。

 

 

 そこにはこちらに向かって手を伸ばす巨人。

 

 その巨人には見覚えがあった。

 

 

 口が大きく裂け、まるで笑っているかのような表情を浮かべる金髪の巨人。

 

 

 五年前、母を食らった、憎むべき───

 

 

 そしてその仇は今、ミカサを片手で掴んだ。その動きは酷く遅く、スローモーションのように見えた。

 

 気付かなかった。

 度重なる巨人化直後で、五感が鈍かったから。

 

 ミカサは直前でそれに気付いて、エレンを庇ったのだ。

 

 「やめろ……」

 

 呆然と呟きながら手を伸ばす。

 ミカサはこちらをじっと見つめたまま微笑んでいる。

 

 同じだ。

 五年前と、同じ。

 俺は何も変わってないのか。

 

 

 「やめろぉおおおおお!!」

 

 

 エレンはあらん限りの力を振り絞り、立ち上がる。そして重い足を踏み出して、ミカサを連れ去ろうとするその巨大な手に向かって走る。

 

 五年前自分から母を奪ったその手。そして今ミカサを自分から奪おうとするその手に、エレンは腕を伸ばし。

 

 

 掠るように、その皮膚に()()()

 

 

 その刹那。

 

 巨人の力を有する全ての者に電流が走る。鮮烈に脳の奥を焼くかのような鋭い稲妻。

 あまりに強烈なその衝撃に、皆が一斉に動きを止め、エレンの方を向いた。

 

 一拍置いて、辺りの巨人が一斉に同じ方向に走り出す。

 エレンはこちらに向かってくる巨人に気付くこともなく、必死に持ち上げられるミカサに追い縋っていた。

 ミカサが大きく開いた口に吸い込まれる。絶望の表情を浮かべるエレン。

 

 

 しかし、その絶望を二つの影が切り裂いた。

 

 「ミカサ!!」

 

 アルミンがミカサを掴んでいた腕を斬りつけ、落下するミカサを抱き留めた。

 

 「うぉおおおおッ!!」

 

 そしてほぼ同時に、巨人のうなじが削がれる。

 削いだのは見知った顔だった。

 

 ハンネスである。

 

 二人はエレンの近くに着地する。

 その直後、その巨人の死体に無数の巨人が飛びかかって行った。

 

 「ハハハッ!見たかお前ら!お前らの母ちゃんの仇を!俺が!!ぶっ殺してやったぞ!!!」

 

 年甲斐もなく大声ではしゃぐハンネス。興奮冷めやらぬと言った様子だ。

 

 「ミカサ、無事か!?」

 

 アルミンは抱き抱えたミカサを地面に置きながら言う。ミカサは「ん……」と呟くように返事をした。

 エレンはそんなミカサの様子を見ながら、手を伸ばしてミカサの髪を梳くように触れた。

 アルミンが手伝ってミカサの上体を起こさせる。エレンとミカサは暫し見つめあっていたが、やがて痺れを切らしたようにエレンが口を開いた。

 

 

 「何度でも、やってやるから……」

 

 「……え」

 

 「マフラー、なんて……そんなもん、いくらでも俺が巻いてやるから……」

 

 「…………っ」

 

 「これからもずっと」

 

 「……うん」

 

 「俺が何度でも」

 

 「…………うん……!」

 

 

 エレンはミカサの手を無造作に掴み、項垂れた。

 

 

 「だから、もう二度とあんなことすんな」

 

 「わかった……ごめん」

 

 

 そう言ってミカサは掴まれた手でエレンの手を握り返した。

 

 ハンネスは先程のはしゃぎぶりはどこへやら、その様子を最早若干涙目になりながら見つめていた。

 

 「でも何で巨人が……」

 

 アルミンは二人の様子を尻目に、巨人が巨人に群がっていく状況に疑問を呈している。そして別の方向を見て焦ったように言った。

 

 「あっ、まずい……!何でだ、こっちに向かって来る!」

 

 その言葉にエレンも視線をアルミンと同じ方向に向けた。

 

 ライナー達が調査兵団の猛攻を掻い潜り、一斉にエレンの方に向かって来ている。

 何よりも優先して奪還すべき始祖の存在を確認したからだ。三体の巨人が必死の形相でこちらに走ってくる。

 

 エレンはその様子を見てすぐに全霊の怒りを込めて叫んだ。

 

 「クソ!!来るんじゃねえ!!ぶっ殺してやる!!」

 

 その瞬間再びライナー達に電流が走ったかと思えば、巨人達が今度は一斉にライナー達の方へ向かい駆け出した。

 調査兵団を無視し、知性を持つ巨人達だけに狙いが定められている。

 

 無垢の巨人など本来意に介さない程の力を持つ知性巨人達だが、今回はもう度重なる連戦で力も尽きかけている。それに数が数だ。手強い調査兵団に加え、無垢の巨人の大群もいるとなると、流石の戦士達でも分が悪い。

 

 「……ここまでだ。逃げようか」

 

 獣の巨人がそう言った。くるりと踵を返し、四つん這いの巨人と共に去って行く。

 

 ライナーは「せめてベルトルトを回収してから……!」と思い、何とか奪還に挑もうとするが、今まで調査兵団にも襲いかかっていた巨人達が完全にライナー達にだけに向かってくるようになったのが大きい。

 鎧もボロボロで、力も尽きかけた今のライナーでは、巨人達を押しのけ、調査兵団の攻撃を掻い潜りベルトルトを奪うのは至難の業だった。

 

 「ベルトルト……悪いがお前はここまでらしい」

 

 獣の巨人はそう言いながら撤退の足を止めることは無い。絶えず襲いかかってくる巨人達への対処で手一杯だからだ。

 ライナーもようやく理解したのか、何度も後ろを振り返りながら、巨人達を押し退け退却して行った。

 

 エレンは先程叫んだので力尽きたのか、今はハンネスに背負われている。昔よりずっと重くなったエレンの体重を感じながら、ハンネスは呟いた。

 

 

 「一件落着……ってことでいいのか?こりゃ……」

 

 

 

 

 




エレンの恋愛偏差値を上げるために、イオリという無防備な異性を配置する必要があったんですね。

嘘です。私の趣味です。


それにしても、やっぱエレミカですよね。
え?「エレンとイオリのえっちなやつ」?
何言ってるんです、頭がおかしいんじゃないですか?
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