はーい!お手上げ!白旗!全面降伏でーす!敵じゃないよー!!
俺は完全にテンパっていた。焦りに焦った結果、ただ両手を挙げて調査兵団の正面に出ていくという暴挙。申し訳程度に笑って見せたのだが、きっと不気味だったろうな。ごめんなさい。声も上手く出せなくて、汚いカオナシみたいな声を出した。
あぁほらすごい顔してんじゃん、みんな。特にあの金髪の……
アレ?エルヴィンじゃね?えっ、団長じゃん!
間違いないよ!だって先頭にいるし!
団長ー!お願いわかって!敵じゃないよ!
ほらほらー、コワクナイヨー。
……あれ、待って。なんでそんな強面のおじさんたちが前に出てくるの。まって、立体機動しそう。
うわあああああああああ!!!
来たあああああああああああああ!!!!!
うわ思ったより立体機動って速い!怖い!大きさとか俺の方が圧倒的に有利だけど、なんて言うか、危険な虫、蜂とかに抱く恐怖感と同じ!絶対物理的には勝てるのに、どうしても逃げたくなっちゃうあの感じ!削がれる!うなじ削がれる!
来るなああああああ!!!
うっかり殺さないように気を付けながら腕をぶんぶん振り回してみる。意外に効果的だ。おじさんたちも怖がって近付いてこない。
よし、このまま時間を稼ぎ続けて筆談を……
できるかぁ!!
たすけて!団長!エルヴィン団長!聡明なあなたならわかってくれるはずだ!おねがい!!
必死に団長にアイコンタクトを送ってみるも、無惨に無視。なんか横の人と話してるし。
ん?なんか横の人も立体機動しようとしてない?増援やめてよー!
「兵長だ!お前ら、下がれ!」
え?
兵長って……リヴァイ?
ゑ?
……いやいやいや!
やばいやばい!ヤバイリヴァイヤバイ!
人類最強に今の俺は逆立ちしても勝てない!てか勝っちゃ駄目だよ!リヴァイ死んだら詰む!いや万が一にも勝てないんだけど!!
うわあの髪にあの目つき、そしてあの身長。絶対リヴァイじゃーん!勘弁してよね。
この機会は惜しいが、命には代えられない。
俺がするべきは……
全身全霊での逃亡!!
そう思い全力で走り出した瞬間、いつの間にか後ろにいたリヴァイに一瞬で腰と足首を切られた。
マジか!今走り出してなかったらこれじゃすまなかったのでは!?(大正解)
まじやばい、逃げなきゃ、逃げなきゃ!!
足首が片方やられたせいで上手く動けない。そこそこ速い四つん這い移動ができてるとは思うが、後ろにいる人類最強が怖すぎて全然速く感じない。遅い。遅すぎる。だって、こんなことしてる間にリヴァイ兵長なら三回は俺のうなじを削げる。
治れ!早く、足治れ!
そら来た。自分にアンカーが刺さったのが分かる。
来る。死が、来る。
あっけなく俺はうなじを削がれて死ぬのだ。
死、死、死。
死ぬ?え?死ぬのか、俺。
いやだ。
気付けば、自分の声だとは一瞬分からない程の凄まじい咆哮が俺の口から発せられていた。
もはや声ではない。獣か何かの決死の叫びだ。
肩をなにかに削がれた。兵長が俺のすぐ横の地面に転がる。俺はそんな兵長に目もくれず命懸けで走った。いつの間にか足首は治りかけている。
一瞬元いた巨大樹の森に身を隠したいと思ったが、すぐに思い直す。
ダメだ。
立体物が多すぎる。兵長から逃げるなら、平地しかない。逃げるんだ。平原に。
振り返るな。
走れ。
俺は振り返りもせず必死に走り続けた。
追っ手は来なかった。少し走り過ぎたみたいだ。はるか遠くに僅かに馬で駆ける集団の土煙が見える。
俺はようやくほっと一息ついた。
あっ
あっぶねええええ~~~!!!
マッジで危なかった!兵長やばすぎだろ!
『原作キャラに会えて嬉しー』とかねえよ!今もう!こんなに呆気なくゲームオーバーなんて冗談じゃない。逃げきれたのは本当に運が良かっただけだ。兵長が本気なら俺は気付く間もなくうなじを削がれて死んでいた。あと必死すぎて何も思わなかったけど、なんか足首の治り早くなかった?十秒経ってなかったよね。アニがしてたみたいな優先的に傷を治すやつかな。それとも俺の生存意欲が巨人の再生能力を底上げしたのかも。考えても仕方ないか。後で暇な時検証しよ。
いやぁ……当たり前っちゃ当たり前だけど、全っ然殺しに来たなぁ。奇行種って思われただけかぁ……。もっとアプローチの仕方考えないとな。
てかもう巨人より人間の方が怖えかも。正直しばらく会いたくない。
ほーら、今俺の横にいる巨人くんも、よく見たら可愛いかもじゃないか。俺のうなじ削ぎに来ないし。顔と体型はちょーっと気持ち悪いかもだけど、そんなのは些細なことだよね。だって俺のうなじ削ぎに来ないし。
ねー、巨人くん?
にっこり笑って巨人くんに目を合わせると、向こうも俺ににっこり笑いかけてくれた。ような気がした。
もういいんじゃないかな。俺に優しい巨人たちと平和に壁外で暮らそうかな。壁内と違って俺のうなじ削ぎに来ないし。
そうしてしばらく巨人くんと並び、座って「綺麗な空じゃないか」と空を眺めていた俺だったが、巨人くんはふと思い立ったようにどこかへ歩いて行ってしまった。
あぁ、あっちは調査兵団が行った方角……。
あぶないあぶない。思考が
やっぱり人類へのアプローチを諦めるべきじゃない。根気強く行こう。いのちだいじにね。
よし、当初の目的だった壁への到達を目指そう。方角はあっちかな。
……まぁ、もちろん明日ね!
今行くと調査兵団と鉢合わせちゃうからね!
おやすみ!!
俺はふて寝した。
次の日。
俺は駆け足で北上していた。昨日見た調査兵団の馬と同じか少し速いくらいだ。うーん、馬で追われても俺にはスタミナ切れ無いし、多分逃げ切れるかな?時々すれ違う巨人たちと挨拶したり、時には並走したりしながら俺は走った。体力切れの無いランニングというのは存外心地良い。
時間感覚がないので確かでは無いが2時間程走ると壁が見えてきた。
おぉ〜かなりまだ遠いが、壮観だなあ。これ以上近付くと見張りの人に気付かれちゃうかもだし、このくらいで見とこ。
あれがウォールローゼか。方角を間違えて別の区に来てる可能性もあるが、びっしりと正門に砲台が整備されてるし、あれがトロスト区で間違いないだろう。
そう、正門が、無傷で、砲台で武装しているのだ。
つまり、
ま、何となく分かってましたけどね。エルヴィンが生きてて、リヴァイがいて、巨大樹の森に入る訳でもなく、普通の壁外調査をしている。そんなタイミングはウォールマリア陥落後で考えるともう消去法的にトロスト区襲撃前しかない。
ふーむ、しかし細かい時期は分からないな。ウォールマリア陥落からトロスト区襲撃までの五年間のどこか。エレンたちはもう訓練兵だろうか。
とにかく、大体の時期は分かった。今俺は人類へのアプローチを考えるべきだ。
やはり仕掛けるなら壁外調査中の調査兵団しかないか。壁に向かって延々とジェスチャーを繰り返すというのもありかもしれないが、まぁまず大砲で追っ払われるだろうな。奇行種としか思われない。
調査兵団に近付き、何とか筆談まで持っていく必要がある。しかし、エルヴィン団長考案の長距離索敵陣形により、普通にはそもそも近付くことすら出来ない。昨日のように工夫して近付いたとしても、話を聞いて貰えずに討伐対象だ。
うーむ、前途多難。
まぁ少なくとも次の壁外調査まで1ヶ月程あるだろう。時間はあるのだからゆっくり考えよう。殺されるよりマシだからとにかく慎重に。慎重に行こう。